第十二話 人か、悪魔か。
街の明かりが届かない月夜。森の静けさがあたりに満ちている。
リエッタ村の住人たちが言っていた滝は、すぐに見つかった。
うっそうと生い茂る草木の裂け目。綺麗な清流が流れている場所だ。
「あそこか……確かに、悪魔の気配が多いね」
「ぜぇ、ぜぇ、さすが、ジーク殿、ですな……何キロも離れた山の中を感知するとは」
「大まかな場所が分かれば難しい事じゃないよ。ていうかなんで息切れてるの?」
悪魔教団の大司教なんでしょ、と呟くと、
ヤタロウは膝に手を突きながら「いやぁ」と額の汗を拭く。
「拙者、加護にかまけて体力訓練をしていなかったでござるからな」
「そっか。じゃあ今なら楽に殺せるかな」
「はっはっは! 冗談がきついですなぁジーク殿は! そんな台詞はルージュ殿だけにしてくだされ!」
「……あんたに名前を呼ばれたくないんだけど」
むすっとした表情でルージュは言う。
先ほど暴走気味だったが、今は落ち着いているようだ。
「ルージュ。分かっていると思うけど……」
「分かってる。お兄ちゃんが言うまで殺さないよ。ていうか、殺すのめんどくさいし」
同じ悪魔であるルージュは、悪魔たちを葬魂する祈祷が使えない。
悪魔を殺せないわけではないのだが、魔力を減らして祈祷をする葬送官と違い、
悪魔が存在を維持できなくなるまで魔力を減らし尽くす必要があるのだ。
そんな面倒な事はしたくないとルージュは語る。
「……じゃあ良いけど。行こっか。ここではフードも取っていいよ」
「ん。りょーかい」
「ヤタロウ・オウカ。お前も付いて来るの?」
「無論。悪魔教団の紋章を見せれば彼らも分かってくれるはずでござるからな」
ジークは葬送官のものから普通の服に着替えることにした。
吸血衝動が出始めてから以前よりも耳が長くなっているし、エルダーと見分けがつかないだろう。最も、肌の色は普通なので『真なる悪魔』とでも誤魔化さなければならないか……。
「よいしょっと」
「お兄ちゃん」
「うん。手出しは無用ね」
滝の中腹。その裏には暗い洞窟が広がっていた。
大量の水を雷で防ぎつつ、中に入る。
一メートルも先も見通せない闇が広がっていた。
「さて……いこうか」
滑る地面から一歩踏み出した、その瞬間だ。
「何者だ」
暗がりの向こうから、武装した悪魔たちが姿を見せた。
蒼い肌をした者が一人、灰色の肌をした者が一人だ。
ジークが目配せすると、ヤタロウが進み出た。
「我は悪魔教団大司教、ヤタロウ・オウカ。お主たちの保護を仰せつかったものだ」
「悪魔教団……本物か?」
「うむ。ここにイガール殿から預かった『血盟石』がある」
悪魔の連絡係がエルダーたちを暗黒大陸へ逃がす手筈を整えると、連絡係に万が一があった場合に備え、手形のようなものが発行される。エルダーの連絡係に一つ、それから悪魔教団に一つだ。人に紛れる彼らならば、万が一の事になりにくいためである。
それは連絡係と通じている彼らにとっては周知の事実であった。
ヤタロウが赤い石を取り出すと、彼らが纏う空気は一気に弛緩した。
「良かった……来てくれたんだな」
「このまま隠れて暮らすしかないのかと思ったよ」
「悪魔教団は決してあなた達を見捨てません。ご安心くだされ」
「分かった。それで、そっちは……」
彼らの視線がジークたちに向けられる。
ぼろを着たジークは進み出て、
「僕はジーク。こちらは妹のルージュです」
「こんな子供までエルダーに……」
「兄妹か……運がいいな。しっかりしてるじゃないか。男の子の方は耳さえ隠せば人間と見分けがつかないし」
エルダーたちが感心したように呟きを漏らす。
ちゃんと誤魔化せているようで、ジークはほっと息を吐く。
ーー彼らが言う通り、兄妹が二人とも死んで、二人ともエルダーになるのは極稀だ。
死んだ人間がエルダーになるには、死の記憶に打ち勝つ必要がある。
この死の記憶に負けた者が自我を喪い、一般的な悪魔となるのだが、どんな人間が死の記憶に打ち勝つのか、その法則は未だに分かっていない。エルダーになった当人たちも、その時の記憶はないのだ。
(僕たちは顔も似てるし、髪の色も同じだから信じやすいみたいだね)
(ふふ。お兄ちゃんとあたしの愛の絆ってやつだね。いっそこの人たちの前でチューしてみる?)
(兄妹でチューはしないでしょ)
妹の言葉に呆れるジークだが、一方で、いつもの態度に安心もしていた。
何があったか知らないが、落ち着いてくれたようで何よりだ。
これが終わったら、何があったか詳しく訊いておかなければならない。
「あ、あの、ここに集落があるって、この人が言ってたんですけど……」
「あぁ。連絡係が来る前の滞在村だ。ゆっくりしていくといい。もうすぐ出発するがな」
「やったー! お兄ちゃん、やったよ! あたしたち、助かるんだ!」
「そ、そうだね。良かった」
思いっきり抱き着いてきたルージュにジークは苦笑する。
芝居もさることながら、どさくさに紛れて甘えてきているところは流石だ。
「では、案内してくださるかな」
「おう。じゃあ俺が案内するわ」
灰色の身体をしたエルダー、名をアヒムと言うらしい。
彼は大陸北方の村に住んでいたが、妻共々殺され、自分だけエルダーになった。
そして未踏破領域にいる連絡係に接触し、ここまで逃げてきたのだとか。
「俺なんかは運がいい方だよ」
アヒムは言った。
「エルダーになった瞬間、人類からすれば敵以外の何物でもないからな。俺と一緒にここに逃げてきた奴も居たんだが……殆ど葬魂されちまった。葬送官たちが守ってくれなかったから俺たちはこうなったのに。俺たちだって、普通の人間として生きていけたらどれだけいいか……」
「……そうですね。人は身勝手だから」
「まぁ、俺もそうなんだけどよ。俺も人間の時は、悪魔たちを憎んでたさ。早く死ねって思ってた。でも……」
虚空を見つめ、彼はつぶやく。
「どうしてこうなっちまったんだろうな。俺もお前らみたいに、妻と一緒なら……」
ハッ、と彼は顔を上げ、慌てて首を振る。
「悪い。子供のお前らにこんな話して。
お前らを責めてるとか、皮肉ってるわけじゃないんだ」
「大丈夫、分かってますよ。大変だったんですね」
ジークが微笑むと、アヒムは頭を掻いた。
「不思議な空気だな、お前。お前の側にいると、なんか口が軽くなっちまう」
「兄ちゃんは世界一だから! あたし、だーい好きなんだよ! えっへん!」
ルージュはジークの腕を抱いて、頬にキスをする。
ちゅ、ちゅ、と口づけを繰り返すルージュの頭を、ジークは半目で押しのけた。
いくら兄妹でも仲睦まじすぎる。頼むからやめてほしい。
「や、やけに仲がいいな……お前ら、もしかして、兄妹でそういう関係なのか?」
「いえ、違いま
「うん! そうだよ!」
アヒムは引き気味に、
「そうか……まぁ、この世でたった一人の肉親だ。大事にしろよ」
あと集落でそういう事は禁止な、とアヒム。
ジークはげんなりと肩を落とした。
(ほんとにこの子は……)
ルージュはご満悦なようだが、ジークはこれから近親性愛の兄として見られるのだ。
正直言って勘弁してくれといった心境である。
「あ、あのー……このことは集落の人には……」
「……分かってる。俺は口の堅い男だ」
「……そうですか」
(口の堅い男っていう人に口の堅い人は居ないんだよなぁ……)
何年か前に半魔として人の村に潜伏して密告されたことを思い出す。
あの時も最初に見つけた人は「黙っておく。私は口の堅い女だからね」と言ってたような。しかもそのあとすぐに通報されたような。
(まぁまぁいいじゃない。ほら、今は恋人同士だよ。もっとちゅーしよ、ちゅー!)
(ルージュ、頼むから落ち着いてくれないかな……)
(分かった。お兄ちゃんがそこまで言うならしょうがない。
恥ずかしいけど……あたし、脱ぐよ。覚悟、決めるから)
(どこをどう聞けばそういう話になるのかなっ?)
滝の奥の洞窟はかなり長く、曲がりくねった道が続いていた。
何度か下り坂や穴を降り、歩くこと数十分。
やがて辿り着いたのは、石造りの小さな街だった。
「わ、意外とすごい……」
天井は真ん中が吹き抜けになっており、月の光が見えている。
街は武骨で色合いがないが、住む事に限っては不便がなさそうだ。
「ここは山の中腹にある渓谷に位置している。ほとんど森の中に隠れてるから、見つかる事もないぞ」
街の中には大勢のエルダーたちが住んでいた。
角を持った者、手足が何本も生えた者、翼が生えた者、
まるで獣人のようだが、獣人よりも異形度合いが進み、魔力も禍々しい。
エルダーの中でも異形化が進んだ、いわば弱い者たちなのだろう。
『真なる悪魔』のように、人の姿に近いほどエルダーは強い傾向にある。
街に入ったジークたちは奇異の目で見られたが、葬送官だと疑われる事はなかった。
アヒムが「逃げてきた新人だ」と言うと、みんな納得したように頷いていく。
やがて、
「アヒムのおじちゃーーーん! また新人さんーー!?」
「おー、お前らと同じくらいの見た目だぞ。年も近いんじゃないか?」
街の周辺で遊んでいた子供たちが、ジークたちを見て走ってきた。
すぐに軽い自己紹介が始まり、
「なんか頼りなさそーな奴が来たなぁ」
「兄妹? え、すご! 良かったね、一緒にえるだーになれて!」
「ルージュちゃんっていうんだ。可愛いね! ねぇねぇ、友達になってよ!」
エルダーは子供を産めない。彼らは両親を悪魔に殺された子供たちだという。
不躾な視線を向ける彼らに対し、ジークは苦笑。対して、ルージュは。
「友達? あたしがあんたたちと? やだよ、そんなの」
「え」
でも、と。
嗜虐的に口元を歪ませ、彼女は胸を張る。
「どうしてもって言うなら子分にしてあげる。
もう嫌だって泣いて縋りついてくるまで、苛め抜いてあげるよ?」
(ちょ、ルージュ……!)
焦るジーク、子供たちは困惑の表情を浮かべた。
「えぇ……なんかルージュちゃん変……それに、ウチらの方が強いよ?
こう見えてウチら、えるだーになって三年もたってるんだから!」
「いいよ。じゃあ村の人たちみんな集めてあたしと戦お? あたしが勝つからさ」
「お前ふざけんなよ! ミーネを泣かしたらタダじゃおかねぇぞ!」
「じゃああんたからかかってきなよ。その立派な四本の手は何のためについてるの?
自分で自分を慰めるため? 四本もあったら気持ちイイこといっぱいできそうだね」
「てめぇ!」
ルージュに殴りかかった少年が、一瞬で仰向けに倒された。
何が起こったか理解出来ない少年から目を外し、ルージュは告げる。
「ほら次。早くしないと日が暮れちゃうよ?」
「も、もうっ! ルージュちゃん、後悔しても知らないからねっ!」
ルージュが倒した少年はガキ大将だったらしく、子供たちが集まり始めた。
全部で十人ほどだろうか。
「かたき討ちだ!」「やっちゃえ!」「ぶっ潰せー!」など不穏な様子だ。
「あのぅ……あれ、止めなくていいんですか? うちのルージュ、結構強いですけど……」
「はは。まぁ新人が入ったらいつもの事さ。ここにいる奴らは仲間だからな。どんな能力を持ってるのかも知っておかないと、万が一の時に連携が取れないし。子供たちも娯楽に飢えてるからちょうどいいかもしれない。人間だったころには考えられないが……エルダーでは普通なんだぜ? なんせ、魔力がある限り傷が治るからなぁ」
「はぁ……そうですか」
そう言うものだろうか、とジークは首をひねる。
集団の中にルージュのような個性が強いのが来たら、拒絶しそうなものだが。
「自分たちの辛い状況を忘れようと必死なのですよ」
ヤタロウがジークの耳元で囁いた。
「子供たちはただでさえ両親を殺されておりますからな。今も暗黒大陸に行けない状況ですし、ここに居たらいつ葬送官たちがやってくるかもわからない。そんな辛い状況で蹲っていたら、余計に暗い気持ちになると彼らは知っているのです」
「……そう」
当たり前の話だが、ルージュは子供たち全員を圧倒した。
吸血鬼としての異能も重力の力も使わずにだ。
「ルージュちゃんすごい!」「つ、強ぇ……なんだこいつ」
「ねぇねぇどこから来たの!?」「めちゃくちゃ強いじゃん!」
などと、子供たちの人気の的になっている。
「あんたたち、みんなあたしの子分にしてあげる! 誇りに思っていいよ?」
「やったー!」「ルージュちゃんが居れば人間が来ても平気だね!」
「ッチ……しょうがねぇな」「頼りにしてるよ、ルージュちゃん!」
既にボス扱いだ。
ものの数分で子供たちを掌握した手腕に、ジークは舌を巻くしかない。
(すごいねルージュ、いきなりこんな……)
(まぁね。子供は力の差を見せつけるのが一番だよ。でも、これで情報網は整った)
ルージュは思念を飛ばし、
(あたしは子供から情報を聞いておくから、お兄ちゃんはソイツと一緒に話してきて)
(……いいの?)
(いいの。せっかくあたしが自由に動けるんだし、こういうところは役割分担しないとね♪)
せっかくの言葉なので、ジークは大人しく従う事にした。
ヤタロウの付き添いとしてアヒムと共にこの街の管理者の所へ行く。
向こうはヤタロウの事を知っていたようで、彼の顔を見ると飛び上がっていた。
「ヤタロウ殿! ようやく来てくださったか!」
「うむ。遅くなってすまない」
「全くだ。イガールがやられたと聞いて、今に七聖将が攻めてくるのではと思うと気が気でなくて……」
大鬼のように大柄な体躯の管理者ーー名をフルードという。
イガールと共に暗黒大陸との橋渡しを任じられた連絡係の一人である。
彼はジークを見て眉を顰めた。
「ヤタロウ殿、この子は?」
「あぁ、私の護衛のようなものだ。こんな見た目だが、強いぞ?」
「おぉ、そうか。いやはや、エルダーは見た目では年が分からぬからな」
フルードはぽりぽりと頭を掻いた。
「全く、あの『神殺しの雷霆』のせいでとんだ災難ですわ。この街が始まって以来のピンチだ」
「確かに、今に噂の七聖将が攻めてくるんじゃないかって、みんな戦々恐々としてるもんな……」
フルードの言葉に同意するアヒム。
「あはは」とジークは顔を引きつらせるしかできない。
(言えない。その七聖将がここにいるなんて、絶対に言えない……)
最も、彼ら全員が襲い掛かってきてもジークは難なく殲滅できる。
別に命の心配をしているわけではないが、居心地が悪いのは確かだ。
彼らを見極めるために此処に来ているので、こちらから手出しはしないが。
「それで、いつ暗黒大陸へ行く予定なんですか?」
ジークの問いに、フリードはヤタロウへ視線を送る。
「準備は?」
「北の出口に車を用意してある。船は既に停泊済みだ」
「分かった。なら二時間後には発とうと思う」
アヒムが顔色を変え、
「随分急だな何かあったのか」
フリードは渋面を浮かべた。
「最近、人間たちがここら辺をうろついてるからな、見つかったかもしれん」
「……そうですか。なら、妹にもそう伝えておきます」
残り二時間。それがジークの制限時間だ。
本来なら、ここにいるエルダーたちを容赦なく殲滅するのがジークの任務。
この魔剣を一振りすれば、それは達成されるだろう。
ーーだが……。
「そう言えば、フェリンがロンと婚姻の儀をあげたいみたいなんだ。
アヒム、手間をかけて悪いが、立会人になってやってくれ」
「あぁ、ついにくっついたのか。まぁ時間の問題だと思ってたけど」
「エルダーになっても心からは逃れられんと言う事だ。
ま、子供は産めないからままごとのようなものだが、頼む」
「了解だ。俺たちも他人事じゃないからな」
まるで人間のように会話するエルダーの会話を、ジークは眺めていた。
いや、「まるで」どころではない。それは人間の会話そのものだ。
彼らに戦う気概はなく、人を襲う意思も持たない。
ーー半魔として蔑まれた自分と彼らに、何の違いがある?
「いかがですか、ジーク殿」
「……」
「変わらないでしょう」
こちらの心を読んだかのように、ヤタロウが言う。
「意思を持ち、感情を持ち、言葉を話す。我ら人間とどこが違いましょう?」
苦し紛れに、ジークは言った。
「……悪魔は人を襲うよ。この人たちも、人間を前にしたら……」
「人も悪魔を襲います」
「それは、悪魔が襲ってくるからっ」
「違いますな。それはあなたがよく分かっているでしょう」
ひゅっとジークは息を呑んだ。
ヤタロウの目はかつてないほど真剣で、こちらの心を射抜いてくる。
「例え悪魔が人を襲わなくても、人は悪魔を襲います。
人は本質的に、違うものを排斥したがる生き物だからです。
あなたが半魔として蔑まれてきたように。獣人が蔑まれるように」
「……でも」
「もちろん、人と同じように、悪魔の中でも差別はあります。
より具体的に言えば、弱い者は虐げられ、強い者は優遇される。
弱肉強食の世界……それが嫌なら己を鍛え上げ、強くなるしかない」
「……」
七聖将としての任務と、半魔の自分、目の前の光景。
これまで築いてきた価値観が、ぐらぐらと揺らいでいく。
「少し、急ぎすぎましたな」
ヤタロウは苦笑し、ジークの背中をそっと押した。
「あなたには考える時間が必要だ。少し休まれよ」
彼らから離れたジークは、子供たちを掌握したルージュと合流した。
街の外れにある洞窟の壁に背を預けながら、二人は言葉を交わす。
「子供から話を聞いたけど、アイツと話は違わないみたい」
「……そう、じゃあここにいる人たちは」
「うん、人間から追われてきたってことで間違いないね」
「……そっか」
ならば、自分と同じだ。
自分は偶然、半魔として生き、彼らは悪魔として生まれ直した。
それだけの違いなのだろう。
「ねぇ、ルージュ」
「ん?」
「………………ごめん、やっぱり、いい」
ルージュは心を読んだように、
「あたしは、お兄ちゃんの選択を尊重するよ」
「……僕は」
人か、悪魔か。
七聖将としての自分か、半魔として生きてきた自分か。
揺らいで、
迷って、
悩んで、
ジークが結論を出そうとした、その時だった。
カンカンカン! とけたたましい鐘の音が鳴り響く。
弾かれるように振り返れば、青色の門番が血相を変えて走っていた。
「ーー敵襲だぁあああああ! 葬送官たちが来たぎゃ」
ジークは目を見開く。
視線の先、そこに居たのはーー
「あのガキは来てねぇみたいだな。間に合ったか」
リエッタ村で門番をしていた男がそこに居た。
五人の葬送官を引き連れた彼は、大剣の切っ先をエルダーたちに向ける。
「一人残らずぶち殺す。覚悟しろ、悪魔ども」