第十三話 踏破者の凱旋
ーー夢を、見ていた。
「どんな時でも相手から目ぇ離すなっつてんだろうが! あぁ!?」
「あぐ……ッ」
右を見た瞬間に左頬を殴られ、ジークは水切り石のように吹き飛んだ。
が、ど、づん、と岩にぶつかって身体が止まる。
大量の血反吐を吐きながら、焼けつくような熱に支配された彼は顔を上げた。
「とう、さ……!?」
目の前に足があった。
腹の底から震えが走る。迫る足裏、風切り音。
ーードォンッ!!
轟音が響いた時、ジークは自分が避けている事に気付いた。
続けて逃げるように地面を転がり、起き上がってから呼吸を思い出す。
見れば、ジークが背中をぶつけた岩は粉々に砕け散っていた。
「ハーッ、ハーッ、ハーッ……!」
(い、今、避けなきゃ死んでた……絶対に、死んでた……!)
身体が、魂が理解する。
目の前に居る存在は、本気で自分を殺しに来ているのだと。
「ーー何べん同じこと言わせんだ、オイ」
「……ッ!」
再びみぞおちに衝撃。続けて後頭部を殴られた。
地面に倒れようとした顎を、トドメとばかりに拳で打ち付けられる。
〇.〇一秒にも満たない刹那の三連撃。
圧倒的な暴力にさらされ、ジークは無様に地面に倒れ伏した。
「が、ぁ……」
「立て、ジーク」
「ぅ、ぅう。無理、無理だよ。父さん……僕には、無理だよぉ」
「無理でもなんでもやらなきゃなんねぇ。弱けりゃ死ぬ。それだけだ」
震える顔を動かして視線を持ち上げる。
逆立つ黒い髪をなびかせる、獅子のような男がそこに居た。
黄金色の瞳が怒りに染まり、
「ーー立てッ!」
獅子が吠える。
「ぅ、うう」
それでも、ジークは立ち上がれない。
全身をかけまわる痛みは凄まじく、骨が軋み、心が震えている。
指一本動かすだけで神経が悲鳴をあげ、頭に痺れが走っていた。
(無理だよ……父さんに、勝てるわけ、ないよぉ……)
恐怖に支配されたジークに、しかし、父は容赦がない。
がんッ!とジークの頭を足で踏みつけ、馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「諦めんのか負け犬。なら、セレスは無駄死にっつー事だな」
「……!」
ジークは目を見開き、
「アイツはお前みたいなビビり野郎を生かすために……」
がしッ、とジークは父の足を掴んだ。
「……い」
「……あ? 何だよ。声が小さくて聞こえねぇよ」
「母さんの死は、無駄なんかじゃ、ないッ!!」
ばね仕掛けのように飛び起き、ジークは回し蹴りを放った。
無論、死にかけの子供の蹴りを避けるなど父にとって造作もない。
ひょい、と避けられたジークは、しかし、射殺すように父を見た。
「フーッ、フーッ、例え、父さんでも、母さんを馬鹿にすることは、許さない……!」
「カカッ! 許さなかったらどうするっつーんだ? 殺すか?」
「ぶん殴ってやる!」
震える足を叱咤し、痛みを忘れてジークは飛び出した。
その瞬間、父が口元を緩めたことには、ジークは気付かなかった。
懐に飛び込み、脇に溜めた拳を振りかぶる。
「フ……!」
「馬鹿正直に突っ込むんじゃねぇ。いつも言ってんだろーー」
「やぁあ!」
次の瞬間、ジークは拳に握っていた砂を投げつけた。
「!?」
父の目が塞がった一瞬。
油断していた父の足を、ジークは勢いよく蹴りつけーー
「やってくれやがったな、このクソガキッ!!」
「あがッ」
豪風を纏う蹴りが、ジークの足を蹴りぬいた!
真正面から蹴りを殺され、骨を折られたジークは悲鳴を上げて倒れていく。
「ハァ、ぜ、ぜ……ひゅー……ひゅー……」
全身から血を流し、まさに満身創痍といった様子のジーク。
実の息子を足で転がし、父は仰向けの腹を踏みつけた。
「……チッ。この程度で倒れやがって」
「とう、さ……」
「やめだ。飽きた」
ぶっきらぼうにそう言って、父は舌打ちと共に足を離す。
意識が朦朧としていたジークは、彼が遠ざかっていくのを他人事のように感じていた。
(痛い、痛いよ……母さん……辛いよ……怖いよぉ……)
ーー母が自分を庇って死んでから、一か月が経とうとしていた頃だ。
元々母がいた時も父と組手は行っていたが、母が死んでからは苛烈さを増した。
自分のせいで母が死んだことは父も分かっているのだろう。
八つ当たりのように殴られ、蹴られ、何度も叩きのめされる日々。
半魔として生まれ持った治癒能力がなければ、十回は死んでいる。
他人から見れば虐待以外の何ものでもない環境に、ジークは居た。
(……父さん、僕のこと、嫌いに、なったのかな……)
父が自分を恨んでいるとしても、仕方ない事だ。
自分は、彼が愛する妻を死においやってしまったのだから。
(ごめんね……父さん……ごめんね、母さん……)
悔恨と、悲しみと。
まだ母が居ないことに慣れないジークは、人知れず涙を流した。
ーーだから、周囲を魔獣に囲まれている事に気付かなかった。
「ぁ……」
ひゅっ、とジークは息を呑む。
唾液を滴らせた魔獣は、満身創痍のジークを喰らおうと包囲網を狭めている。
指一本動かす事も出来ないジークは、彼らの餌食になるしかない。
周りに誰も居ないことを確かめた魔獣が示し合わせたように飛び掛かり、
『グォオオオオオオオオオオオオ!!』
ーーやられる!
ジークが目を閉じたその瞬間だった。
「ったく。世話が焼けるぜ」
数十匹の魔獣が、一斉に吹き飛んだ。
『!?』
獅子がジークの横に立つ。
逆立つ黒髪をなびかせた彼は、ギンッ!と黄金色の瞳をギラつかせた。
「失せろ。ぶっ殺すぞ」
『……ッ!』
空気が粘つくような殺気に当てられ、魔獣たちは脱兎のごとく逃げ出していく。
瞬く間に静寂が戻った世界で、父はため息をついて膝をついた。
彼の手には、濡れたタオルが握られている。
「全く……魔獣の気配ぐれぇ分かるだろうよ、オイ」
「とう、さ……」
「おら、立て」
「……」
無理、とジークは首を横に振る。
嘘だ。本当は立てる。けど、今は父に甘えたかった。
「……ったく」
そんな息子の内心を知ってか知らずか、父はジークを背中におぶさった。
広い背中。世界中の誰よりも頼りになる父の背に、ジークは頭を預ける。
「……とうさん」
「んだよ」
「……ごめんね」
「あぁ?」
父は怪訝そうに眉を顰め、鼻を鳴らした。
「フン。全くだ」
(やっぱり、父さんは僕を……)
心臓が鷲掴みにされたような思いだった。
不安と懸念が確信に変わり、ジークは自己嫌悪で胸の中でいっぱいになった。
「父さん、僕……」
「さっさと強くなりやがれ。オメェ、俺様のガキだろうが」
「え」
ジークは目を見開いた。
父はこちらを見向きもせず、吐き捨てるように言った。
「魔獣程度にやられる男に育てた覚えはねぇぞ。オイ」
「……っ」
「せめて俺様ぐれぇ強くなってもらわねぇと俺様が困るんだよ、分かってんのか」
「……」
黙りこくるジーク。
父は目だけで振り返り、僅かに目を丸くした。
「……なに泣いてんだよ、クソガキ」
「泣いてないもん」
「泣いてんだろうが」
「泣いて、ない……し」
父の背中に顔を押し付け、ジークは嗚咽を漏らす。
涙を隠そうとするが、無理だ。どうやっても涙が止まらなかった。
「……ったく。いつまで経っても泣き虫だな、オメェは」
ーー本当は、分かっているのだ。
父は、自分を憎んでも、嫌ってもいない。
誰よりも自分の事を心配してくれて、愛情を注いでくれている。
母を馬鹿にしたのも、ジークに発破をかけるためのものだ。
普段の稽古は殺す気でやってくるし、死にそうにもなるけど。
魔獣の巣に放り込まれた時は恨みそうにもなったけど。
それは、不器用な父の愛情なのだ。
だって父は、いつだってジークを助けてくれる。
こんな面倒な半魔なんて捨てたっていいのに、
自分だけならいくらでも人の街に住めるのに、一緒に居てくれる。
それだけで、ジークが父を信じるには十分すぎた。
「……父さん」
「んだよ」
「僕のこと、嫌い?」
「あぁ、大嫌いだよ」
間髪入れず、父は答えた。
めんどくさそうに続ける。
「弱ぇし、泣き虫だし、寝坊しやがるし、ネチっこいし、いつまで経っても強くなりやがらねぇ。オメェみたいなクソガキ、俺様じゃなかったら捨ててるぜ。この前なんか、俺様の一張羅にションベン漏らしやがったし……」
「お、おねしょなんてしてないもん! あれは涎が……」
「涎であんなデケェ染みが出来るかよ。バーカ」
「ば……っ、バカって言ったほうがバカなんだよ、父さんのバカ!」
「カカッ! じゃあオメェもバカじゃねぇか、バーカ、泣き虫!」
「~~~~~っ!」
ぽかぽかと、ジークは父の背中を殴る。
カカッ!と父は笑った。呆気にとられ、続いてジークも笑った。
自分でも驚くほど胸が弾んで、痛みも疲労も吹き飛んでいた。
大嫌いだと言いながら、ジークが落ちないよう支えて背中におぶさってくれる。
嫌いなところをあげつらいながら、それでも一緒に居てくれる。
そんな父が、ジークは大好きだった。
◆
「--ク」
「ん、んん……父さん……あと、五十分……」
「長いです!? いいから起きてください、着きましたよ、ジーク!」
「ほえ?」
身体を揺さぶられ、ジークはまどろみから浮上する。
目の前に呆れたような顔をした天使の顔があった。
「もう、ようやく起きましたか。お寝坊さんですね」
「リリア……」
寝ぼけ眼をこすったジークは起き上がる。
既に乗っていた魔導装甲車は停止し、異端討滅機構の本部前に居るようだった。
朝焼けの光が、車両の窓から差し込んでいる。
(そっか……十ヵ所の未踏破領域の探索全部終わって、帰ってたところだっけ)
欠伸をすると、後部座席にいた小柄な少女が身を乗り出してきた。
「お兄ちゃん、おはよ」
「ルージュ、おはよ……」
「あたしのちゅーの味はどうだった? 美味しかった?」
「はえ!?」
またたくまに意識が覚醒した。
慌ててルージュを見れば、彼女は嗜虐的な笑みを浮かべて両頬に手を当てる。
「お兄ちゃんがなかなか起きないから、お姫様のちゅーしちゃった。きゃ♡」
「え、いやいやいや、ほんとに? 嘘だよね?」
誰か見ていないのか、と振り返れば、リリアが困ったように微笑んだ。
「頬っぺたにだけですよ。安心してください」
「そ、そうなんだ」
(頬っぺたにはしたんだ……)
まぁいいかとジークは呟く。
リリアも許してくれているようだし、妹のやんちゃを気にしても無駄だだろう。
それよりも、と周りを見渡して、
「オズとカレンさんは?」
「アレク様に呼ばれて行きました。補助官から葬送官に昇進するそうです」
「え、すごいじゃん!」
「えぇ、本当に。今回の未踏破領域踏破の功績が認められたようですね」
「ま、ゴリラもカレンさんも頑張ってたしね」
そう言って頷くルージュはどこか寂しげだ。
彼女は獣人でも天使でもない、葬送官と敵対する悪魔である。
どれだけ頑張っても、
例え神霊やヌシを倒そうとも、
世界中の誰も、決して彼女を認める事はない。
「……ルージュ、おいで」
「お兄ちゃん?」
ジークはルージュの身体を抱き上げ、思いっきり抱きしめた。
吸血鬼の冷たい身体に、ありったけの温もりを伝えられるように。
「今回もルージュのおかげで助かった。期待以上の大活躍だったよ。ありがとね」
「ぁ」
ルージュは頬が赤く染まった。
「……あたし、役に立てた?」
「ルージュはいつも役に立ってるよ。僕の自慢の妹だ」
「……っ」
ルージュは涙目になり、ジークの胸に顔を押し付けた。
ぐりぐり、ぐりぐりと。
「え、えへへ。当然だよ。あたし、天才なんだから」
「うん、知ってる。ルージュは偉いね」
ゆっくりと、ルージュの頭を撫でていく。
母がしてくれたように、父が背中を貸してくれたように。
「全く……わたしの妹は甘えん坊さんですね」
リリアが仕方なさそうに、ジークとリリアを翼で包み隠した。
夜が明け、そろそろ人々が集まってくる頃合いだったからだ。
「もうちょっとだけですよ。本当はすぐに行かなきゃなんですから」
「……うん、ありがと。お姉ちゃん」
ルージュはうっとりとした表情で言った。
「……あたし、今、世界で一番幸せ」
「……そっか」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん……大好きだよ」
ジークとリリアの背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめたルージュは身体を離した。既に涙を引っ込めた彼女は、けろりと笑って二人に指を突きつける。
「じゃああたしは影の中で休むから。二人とも、公衆の面前でイチャついたらダメだよ?」
「し、しないよ!?」
「どーかなー。案外、お姉ちゃんのほうが大胆だったりするからなー」
ジト目で、けれど楽しそうに言ってルージュは影に沈んだ。
姿が見えなくなった妹に、ジークとリリアは顔を見合わせて苦笑する。
「じゃあ行こっか」
「そうですね」
二人で装甲車を降りる。
朝の涼気に包まれ、ジークは「うーん」と手を伸ばした。
本部の広い中庭を歩きながら、彼は呟きを漏らす。
「なんか、久しぶりにゆっくり寝られた気がする」
「すごく熟睡してましたからね。起こすのが憚られましたよ」
リリアは微笑んでから、気遣わしげな表情になって、
「少しうなされてたようですが、どんな夢を見てたんですか?」
「昔の……父さんの夢見てた」
「ジークのお父さん……以前言っていた虐待の……」
「虐待じゃないってば、もう」
ジークが苦笑すると、そうでしたね、とリリアは頷き、
「どんなお父さんだったんですか?」
「強い人」
ジークは即答する。
「どんな時も動じないし絶対に負けない。世界で一番頼りになる人……だった」
「……」
「父さんの稽古はめちゃくちゃきつくてさ。何度も死にそうになった。でもおかげで僕、すっごく打たれ強くなったよ。まぁ、父さんが望んでたみたいな強い人にはなれた気がしないけどね」
話しながら、そういえばとジークは思い出した。
(《魂の泉》で父さんを見たけど……あれは結局、なんだったのかな?)
あれがきっかけで冥王と出会い、戦う事になったのだ。
ルージュにもそれとなく聞いて見たが、彼女は見ていないという。
あれはジークが作り出した幻だったのか、それともーー
「ジークは充分強いですよ。今ならきっと、お父さんも認めてくれます」
答えの出ない思考に沈むジークの意識を、リリアが引っ張り上げた。
ジークは顔を上げて苦笑する。
「そうかなぁ」
「そうですよ。だって、」
リリアは周りを見るように促した。
「ジークはみんなから尊敬される、すごい葬送官なんですから」
「そんなこと……んん?」
否定しかけたジークは、おかしな違和感に気付く。
異端討滅機構本部を歩いていると、すれ違う葬送官たちが立ち止まって頭を下げてきたのだ。もちろん、会ったことも名前も知らないような人たちである。
「えっと……どういうこと?」
頭の中が疑問で埋め尽くされるジークに、リリアがくすくすと笑う。
「見た通りです。みんな、ジークを尊敬しているんですよ」
「えぇ……なんで?」
「ーーそりゃあ、たった一か月で十ヵ所の未踏破領域を踏破したからに決まってるにゃん♪」
空から女の子が降ってきた。
屋根の上でジークたちを待ち受けていた、猫耳の女性だ。
彼女はピンと指を立てて、
「未踏破領域の踏破って、ジっくんが考えてるよりずっと影響が大きいんだよ。大量の魔晶石の流通は魔導工学の発展を促進させるし、魔道具が流通しやすくなってみんなの暮らしが楽になる。普段は魔道具なんて買えない人も、魔道具を買えて暮らしが豊かになっていく。ぶっちゃけ悪魔を倒すより暮らしに直結するのさ♪」
「それと葬送官の人たちが尊敬するのってどう関係があるんですか?」
屋根の上で待ってたことには突っ込まないジークである。
イズナは「それこそ簡単だよ?」と笑って見せる。
「Aランク以上の未踏破領域踏破は才能だけじゃ絶対に出来ない。経験、努力、知恵、才能、運、仲間、全てを備えた人じゃないとね」
ましてや一か月以内に十ヶ所を攻略するのは普通は不可能だ。
つまり、
「ジっくんは認められたのにゃん。七聖将の資格がある人として」
「そういう事です」
イズナの解説に、リリアが頷いた。
「まぁジークの実力からしたら当然の結果ですね」
「ふっふふーん。そだねぇ。イズナちゃんも姉弟子として鼻が高いよ!」
「七聖将、かぁ……」
本当になるのだ。自分が、人の上に立つ男に。
自覚もなければ覚悟もないけれど、こんな自分でいいのだろうか。
「ジークはそのままで良いんです。胸を張っていきましょう」
「リリア……」
いつだって自分に自信をくれる少女。
今や天使となった彼女の微笑みを受け、ジークは頷いた。
イズナは満足げに、
「いいバディだね。これはババ……テレサ様が目をかけるだけあるよ。うんうん」
「そういえば、僕が七聖将になるって事は、イズナさんは僕の部下になるってことですか?」
「はにゃ!? そ、それは立場的にはそうなるけどイズナちゃんはあくまでお姉ちゃんとして」
「冗談です。それに、僕にはレギオンの仲間がいますから」
ジークはくすりと笑い、再び歩き出した。
「これからも頼りにしていますね、姉弟子さん」
「お、お手柔らかにお願いしますにゃん……」
深淵領域で荷物持ちをさせたことを思い出したのだろう。
イズナはピンと尻尾を立てて引きつった表情で頷いた。
(アレは勝手に後をつけてた仕返しだから、これ以上コキ使うつもりはないけど)
そんな事を考えながら、ジークは異端討滅機構本部のロビーへ足を踏み入れる。
その瞬間、ロビーに居た葬送官全員が一斉に敬礼した。
揃って胸に手を当てた彼らに目を丸くしながらも、ジークは苦笑と共に敬礼を返す。
すると、彼らの間を割って一人の獣人が現れた。
「よぉジーク、遅かったじゃねぇか、オイ」
「ジーク様。おはようございます」
「オズ、カレンさん、おはよ」
補助官からの昇進手続きを終えたのだろう。
獣人の姉弟は真新しい葬送官の制服に身を包んでいた。
オズワンは着心地が悪いのか、胸元を開けて着崩した形だ。
「二人とも、似合ってるね。昇進おめでとう」
「ありがとうございます。ですがわたくしはともかく、愚弟の方は……」
「うん。なんかオズっぽい感じがするよね」
「どういう意味だ!?」




