そして無難な、めでたしめでたし
そうして、人外は去っていき、日常が戻ってきた。
後々オバチャンと大馬鹿の二人で、渡された鉱石を調べてもらうと……純度が異常に高いコバルト鉱石なことが分かった。
このコバルトってのは、中世ヨーロッパのころに見つかった石ころでな……当時色々と鉱山掘り進めて採掘していたんだが、使い道のないクズ鉱石として扱われた。そして……それを生み出すのは『コボルト』って伝承上の生き物だったらしい。
鉱山周りに出てくる妖精、あるいは手伝い小人って感じか? いじわるすればイタズラしてくるし、パンとミルクを渡せば手伝ってくれたり、幸運をもたらしてくれる。だが、何かの拍子に家から出ていくと途端に貧しくなったり……なんて言い伝えもあるそうな。座敷童みたいだな?
所謂『ゴブリン』と混同されたりする場合もあるらしいが、それと比べ穴掘りが得意な種族として扱われる。イヌっぽい見た目で描かれることは少なかったが、全くないわけでもないし……接触した時の特徴考えると、あの人外はコボルトだったんだろうなと、二人は結論を出した。
だがそれだと、なんで追われてたって話になる。妖精なんだから仮に監禁しても逃げられちまうだろうに……ってな具合に最初は考えたんだが、コバルトの価値の高さを知って、納得しながら呆れ果てたよ。
さっきコバルトはクズ石っつったが、これは中世の話だ。現代だと、ジェットエンジンの合金としての価値がある。昔はボロボロ捨ててた石ころだが、今コバルトは産出量の少ない希少金属として扱われるらしい。
つまりさ、古くはボロクソに叩いて悪態吐いてた石の価値を理解した人間どもが、妖精さんとっ捕まえて錬金術を企んでいた……そういう身も蓋もない、浅ましい話だったのよ。
一度捕まえて、いくつかコバルト作らせた後なら、逃げられちまっても問題ないって発想だったんだろうな。だけどまぁ、この考え方だと『いじわるするとイタズラされる』って伝承が抜けちまってる。都合のいい部分だけ見ちまってるんだろうな。
――そうだ。不審者どもが引き上げたあの時な……なんか都市部の立派なお役人の建物が、派手な地盤沈下でえらいことになったらしい。
しかもな? そういうご立派な建物だからさ、立地とか安全には最大限配慮はされてた。建築業者にも不手際はなく、どう考えても起こるはずがない。偉い学者さん方も必死に考察するんだが、さっぱり原因が分からなかったんだとさ。いやーなんでだろーなー不思議だなー
それと、不思議なことがまだある。オバチャンと大馬鹿に関する話なんだが……地盤沈下の翌日ぐらいに、黒塗りの高級車がやってきたらしい。その後も普通に出勤してたみたいだから、別段それ自体は違和感ないんだが……その後二人とも、妙に羽振りが良くなったとか。
あぁあと一つ、大馬鹿が家を留守にすることが多くなったらしいな。でも出かけてるかって言われればなんか違う。一軒家の車庫には車が止まりっぱなしだし、留守の頻度の割には、外で姿を見かけることは少ない。何より……地面の下から、揺れのようなものを感じたと証言する人もいる。まるで誰かと、どんちゃん騒いでいるようだって。
大馬鹿は一人暮らしで、出かけている筈なのに不思議だな? ま、真相をグダグダ掘り返すのは無粋だろうさ。
これで話は終わり。暇つぶしにはなったか? あぁでも最後に一つ。これはたまたま上手い事いったが、この話聞いたからって、下心で異形を助けるもんじゃないぜ? 最初のほうの場面だって、本当に人狼だったら……大馬鹿は死んでただろうからな?