正体不明の無害な何か
恐ろしい夜が明け、朝がやってきました。
今日の犠牲者は出ませんでした。平和な朝です。
……まぁ、そもそも人狼じゃないみたいだしな。顔つきは近かったみたいだが。
俺そこまで詳しくないんだけどさ、頭全体がシベリアンハスキー? って犬種に似てたらしい。犬の方の画像見たが、確かに狼っぽさはあったし、誤解招くのもしょーがねーのかなぁとは思ったよ。
明るくなってきてよくよく観察してみても、身に着けてんのはボロ布と傷口の包帯。そんで全身毛だらけで、手と足も人の四肢じゃない。『ケモミミや尻尾だけで後は人間っぽい』ってのじゃなくて、もっとこう……『狼男』みたいな?
んで朝が来たら、することがあるよな。
そうだね、朝ごはんだね。
何せ夜遅くずっと、緊迫した空気が続いてたからなぁ……日の光が出て、二人とも気が緩んじまったみたいだ。まずは獣人めいたソイツの腹がなって、目が合った瞬間、大馬鹿もグゥ~ッ……貴重なホッコリ場面でございます。誰得だよ。
しょーがない朝飯にするかーってなったが、ここで意外なところから助け舟が出たんだと。
病院の中から一人、看護師のオバチャンが出てきてな。朝飯にサンドイッチ作った~って、他にもミルクとフランスパンと紅茶もセットで、持ってきてくれたんだと。
人狼は月夜にしか変身できない伝承だからな。少なくとも昼間は人間に化けてたり、力を発揮できないってのが定番の話らしい。だから朝まで待ってからオバチャンが「もう大丈夫でしょ」って病院側を説得してくれたんだってさ。
結局病院入りは却下されちまったが、朝なら襲われないってトコは理解してもらえたみたいで、なんとか朝ごはん持ってこれたんだとよ。いやはや、人間捨てたもんじゃねぇなぁ。
で、物置小屋で大馬鹿と人外とオバチャンの三人で、物置をちょっときれいにしてから朝食タイム。中々すごい絵面だが、ここでまたちょっと意外なことが起きた。
人外が最初に手に取ったのは、なんとフランスパンだったのさ。サンドイッチにゃ、卵サンド、ローストビーフとレタスサンド、サラダサンド、スモークチキンサンドの四つが用意されれたらしいが……狼めいた顔つきなのに、肉類無視して普通のパンから手を付けたらしい。
後々他のサンドイッチも食べてたが、別に我慢してたように見えなかったんだってさ。ミルクも好んでよく飲んでたみたいだし、見た目アレだが慣れると、オバチャンと大馬鹿から怖さは消えてった。
しかしまぁ、空き腹満たして恐怖も消えると、コイツは一体何なんだろうな? って話になる。最初の印象こそ衝撃的で、会話できないがメシの好み、治療後の反応見ても人を襲う化け物って感じじゃない。銃で撃たれた跡を考えると、むしろ人間に襲われてる側? ってことにもなる。それだとやっぱ、人食いの魔物なのが分かりやすいが、オバチャンも大馬鹿にはそうは思えない。人外側もイヌっころみたいにじゃれてきて……なんつーんだ? 悪意とか敵意とかは、まるで感じられなかったんだとよ。
そうさ、人外側にゃ悪意はなかったんだ。
これから三人は、それを嫌って程思い知ることになっちまった。