助けに入った大馬鹿野郎
ソイツは、全身毛むくじゃらだった。
腰と上着にボロ布を着てて、いかにも『人狼』あるいは『獣人』の身体つきだったらしい。身長は確か100センチより大きいっぽかったそうだ。え、ちゃんと記録に残してないのかって? 慌ただしくなったからか、測る時間はなかったんだと。だから話しツテで聞いた、目測の数字しか出せねーのよ。
人外は窓を叩くのに必死だったからか、しばらく放り出された馬鹿野郎には気が付かなかったみてーだ。ああ、でもこの時に限ってはそれでよかったんだろう。
――背中に、刃物で一文字に斬られた傷と、脇腹に銃弾が掠めた後が見えたそうだ。怪我してるのをはっきり理解した大馬鹿は、素早く駆け寄って治療を始めたそうだ。
いやぁ、ぶっちゃけまだ人狼かどうかの判定してねーし、治した途端「ありがとう、いただきます」なんてのもあり得たと思うがな~……よーやるわ。
出血こそ酷かったが、幸いな事に応急処置で塞げる傷だった。人間の身体もそうなんだが、何か所かあるんだよ『傷が浅くても派手に出血する』部位ってのは。まぁ、逆にうまい具合に空洞になってて『頭にナイフ刺さっても、抜かずに正しく処置して助かった』なんて事例もあるんだけどな、ハハ。
っと、話が逸れちまった。ともかくまぁ、その人狼めいた謎生物は助かり、大馬鹿は襲われなかった。しかし外に突っ立ったままいる訳にもいかない。閉じこもった奴らに「もう大丈夫だ、入れてくれ」頼んだそうだが、これまた塩対応でなぁ。
「そうやって扉を開けさせて、皆殺しにするつもりだろう!」
これはひどい。疑心暗鬼ってやだよなー……
渋々、近場の物置小屋を勝手に拝借して、そこにかくまうような形で一夜を明かすことにしたそうな。
この物置小屋ってのは、日本じゃ馴染みないタイプかもなぁ。敷き藁と飼い葉とか、ああいう畜産系のをイメージして欲しい。使われなくなった家畜小屋って言い回しの方が、日本暮らしにゃわかりやすいのかもな。
意外なことに、人外の何かはすんなり古い藁の上で横になったそうだ。治療の甲斐あって、大馬鹿に対してもそんなに警戒はしてない。ただ、言語での意思疎通ができなかったらしい。
言う事は多少判別ついてるみたいだが、向こうは人間の言葉を喋れない。「ウーっ」だの「フーゥゥッ」だの、連中特有の言語っぽい何かで話しかけられたそうだが、わかるワケねーよな。あ、でも最後のだけは分かったらしい。悲しげなトーンで「クゥーン……」って鳴いたんだと。
……犬系好きなならわかるよな。『落ち込んだ』時特有の鳴き方だって。