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始まりは恐怖を伴って

 これは、俺の同僚の知人の知人……まぁともかく、縁遠い医者が体験したらしい話だ。

 俺は日本生まれなんだが、そいつは確かヨーロッパのどっかだったかな。そこで人間の医者やりながら、獣医の知識も勉強してるヤツでさ。日本のホラ、マンガの大先生の代表作の、黒服の医者に憧れちまったような……まぁそういうオメデタイやつ。

 務めてた病院は、所謂駆け込み寺にもなっててな。地元じゃちょっと有名だったんだが、これからコイツが治療したやつは、果たして知っててやったのかね?

 そいつが駆けこんできたのは、満月の夜だったそうだ。

 都会にゃ程遠い、田舎町のちっせー病院だからな。月明かりの有難みも、良く分かるような所らしい。それもあって、真夜中にやってきたソイツのシルエットも、はっきりと浮かび上がっていた。

 窓越しに浮かぶ影は小さく、それでいて所どころ、深い体毛が伺えた。

 耳も頭の上についていて、鼻が高く伸びていて……ともかく、明らかに人間じゃなかった。

 大騒ぎさ。何せヨーロッパの田舎だからな?『人狼ウェアウルフだ! 人狼がでたぞ!!』って。震えたり神様に祈ったり、銃の代わりに銀のフォーク構えてるやつもいたとかなんとか。

 どんどんどん、どんどんどんって、扉じゃなくて窓だったが、何度も何度も叩くんだ。患者含めて、みんなみんな恐ろしかったろうさ。何せ伝説上の人を襲う化け物だからな。とあるTRPGと違って、一人ずつ吊り縄で処刑も出来なきゃ、占い師も狩人も、霊能者も共有者もいやしない。

 銀の弾丸も銀の杭もとっくに製造中止で、辛うじて効果がありそうなのは銀製食器と、熱心なキリスト信者がもってるロザリオぐらい。もし窓が壊れて侵入を許したら、この場にいる人間全員皆殺しにされちまう。本気でそう思っていたらしい。

 やがてな、叩く音も回数も弱く少なくなってった。ああ、何とか助かるんだ……って緩んだ空気の中、一人の大馬鹿野郎が治療器具片手に持って、扉に手をかけた。

「おい何やってんだ!!」って、これまた大騒ぎ。ようやくやり過ごせそうなのに、なんでわざわざドア開けるんだ!? って。

 その大馬鹿はこう返した。「助けを求めに来てるんじゃないですか?」って。

 全員「何言ってんだコイツ!?」って反応だった。いやまぁ、それが当然さ。俺も多分近い事言って止めたと思うぜ? この馬鹿野郎はそれでも諦めなかった。

 いわく「これが狼だったら、稚拙すぎる」って言ったんだと。

「赤ずきん」とか「狼と七匹の子やぎ」が分かりやすいか? アレに出てくる悪い狼は、人を言葉巧みに騙す狼だ。で、こいつらは窓じゃなくて扉を叩くし、色々言って住人に扉を開けさせようとする。

 こいつはそれをしてないから、狼とは違う。そこまで賢くないか必死なだけだって。弱ってく音の調子は体力を失って、危険な状態になってるんじゃないかってな。

 ただ、悲しいがな人の性。説明してるうちに、誰かがその大馬鹿指差してこう言った。「お前も外のやつの仲間じゃねぇの!?」って。

 いやー……ハハハ、人間追い込まれるとホントアレだよな~……流石にオレでもそこまでは言わねーわ。甘ちゃんだとは思うけどさ。

 んで、この大馬鹿はブチ切れて「一人でやります!」ってヤケクソめいて扉開けて飛び出してった。止める間もなかったつーか、何人かは疑心の目つきだったみたいだ。『追い出しちまえ』みたいな心情だったんじゃねーかな。

 この後、悲鳴が上がって善意で動いた一人の医者が死んで、見殺しにした連中は震えたまま夜を開けた……

 ――そういう話なら、分かりやすかったんだけどな? 

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