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先程まで何も感じなかったはずなのに、急に鳥肌がたった。
鳥肌が立つと同時に、冷や汗が出てきて心臓がバクバクいっている。
今の状況が頭では理解できていないが、本能的にこの女はやばい人間であると警告を鳴らしている。
「先程キスしていた相手ですが、私一人でここの道を歩いていたら声をかけられたんです」
「……………っ……」
女が急にこちらへ声をかけてきた。
何か答えようにも言葉がうまく出てこない。
この場から一刻も早く逃げ出したいが、足が思うように動かない。
「あの方酔っていましたが、まぁ声をかけられて少し嬉しかったんですよ。人に声かけられることなんかないのに……」
ギィィ…ギィィ…と不気味な音を周囲に響かせながら女は大きな鎌を引きずり、俺のいる方向へゆっくりと歩いてくる。
血を纏っているので臭いがだんだんきつくなり、咄嗟に自分の右手を口に塞ぐ。
「だから思わず嬉しくなったのでキスをして、心臓いただいたのです」
女は俺の目の前に立ち、ニヤリと笑った。
ぞわぞわと鳥肌が再び立つ。
気持ち悪い、この女から離れたい、そう思っても金縛りにあったかのように未だに俺の身体が動こうとしない。
「な、んで…心臓………」
無意識のうちにその言葉を口にしていたが、恐怖心のあまり声は掠れて思うように発することができていない。
それでも口にしたのは女から自分に向けられている目を少しでも逸らしたかった。
「あぁ…これですか?何に使うかは教えられませんが、このままにしておくと腐ってしまいますね。保管庫にしまっておきます」
そう言って女は少し手首をぐいっとあげると手元にあった心臓が急に目の前から消えた。
『え…?』
流石に今起きたことが理解ができなかった。
目の前に持ってるものが消えたが、これは手品か何かなのだろうか?
そもそも物が消えるとかそんな事が普通起きるわけがない。
この女は一体今ここで何をした?
「あらあら、私ったらうっかりしていました。こちら側の人間に魔法を見せてはいけない法律でしたわね。でも、もう7人も心臓を抜いてしまったので今更法律違反の事言っても仕方がないのですが」
女がそう言った途端、聞きなれない単語に反応して一瞬顔を上げてしまった。
そして…
「貴方で8人目です」
先程まで心臓を持っていた手を俺の左頬へ添え、うっとりとした顔で俺を見つめてきた。