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見ているだけでも

 四月も終わりに近づき始め、いよいよ仮入部ではなく、本入部期間が始まった。

 表ではまだ仮入部期間なのだが、実のところ、先生も生徒も早く本入部してほしいと思っているのだという。

 部活なんて面倒くさい。嫌だな。初等部の方がよかったよ。毎日六時半まで残る部活が殆どなんでしょ?

 楽しみにしていたテレビも見れないし、それに何より疲れる。私は疲れることが大の苦手のずぼら人間なので、小学校の時の「科学クラブ」だけでも非常に面倒くさい思いをしている。

 私は表に出たくないし、だからと言って文化部に入ってぬるぬると過ごす三年間も、憧れと言っては憧れだが、親友達が運動系部活に入るので、少々肩身の狭い思いをするのだ。

 だからと言って、表に出て走ったりサッカーしたりなどと汗を流して運動するのでは、少々違う気がする。私は持久力が何よりないし、五十メートルのタイムも心許ない。何たって私は自他ともに認める運動音痴。運動なんてしたらチームに迷惑がかかる。チームプレーなんて論外だ。

 でも運動系部活の、あの爽やかな雰囲気は好きだ。


 どうすればいいのかと容量の少ない頭を捻っていると。



「先輩達ぃ、待ってくださいよー」



 可愛らしい声が、廊下に響く。

 森尾姫ちゃんだ。

 とてとてとて、と音がしそうな走り方をしている。男子じゃなくても超可愛いと思えちゃうほどだ。きっと男子はメロメロなんだろうな。


「あ、来た来た姫ちゃん」

「相変わらず可愛いねー」


 姫ちゃんに話しかけるは、体格の良い男子の先輩方。

「姫ちゃん、マネージャーになってくれて、ありがとうねー」

「ウチら、超助かってる。自然ヶ丘にマネージャー出来て良かったね」

 続いて、女子の先輩方。


「頑張ってる先輩達を助けたくて、マネージャーになったんです」

「ヤバい、超可愛いんだけど姫ちゃん!」


 ふわふわのオーラが先輩達を包み込んで、その場が一気に和やかになってしまう。

 そのの時、私の頭の中に、一つの考えが浮かんだ。



 そうだ、マネージャー!



 ◆◇


「わ、わたしゅ、私の名前は……、えぇと、あの……進藤真理って言います……。これから、マネージャーとして頑張っていこうと思うので、よ、宜しくお願いします!」


 噛んだ。

 自然ヶ丘男子バスケ部、通称、「最強バスケットチーム」略して「最バス」の先輩達は誰も私を責めなかったけれど、一人、ぶーぶーと文句垂れている奴がいた。


 竜成。


 こいつ、最バス入部したのか。けっ、モテたいからって。

 私がせっかく恥ずかしさの中挨拶したって言うのに、こいつは何たるか。全校生徒の前で自分の書いた作文を読まれているかのような恥ずかしさだというのに。



 そう、私は、最バスのマネージャーになったのです。

 運動音痴の私が、爽やかな運動部の気分を味わい、なおかつあまり運動音痴を露呈しないで済む方法。

 それはマネージャーなのです!


 と自信満々に言ったのだが、正直かなり不安。

 何たって男子部のマネージャー。男子狙ってるって絶対言われる。絶対言われる。

 被害妄想激しいとか言われるかもしれないけれど、女子マネってそれほど危険な立ち位置なんだ。

 それに加えて私のことだから、最バスの男子に好きになられないわ、女子にいじめられるわで、かなり辛い経験をすることは確かだ。


 だけど、そんな逆境にも立ち向かえる勇気が、私にはある。


 何たって、中等部の隣で練習している、高等部の最バスの中には。



 黒瀬先輩が、いるんだから。



 もちろん、私だって知っている。

 黒瀬先輩の彼女、白瀬先輩と、白瀬先輩の親友、蒼葉(あおば)先輩が、二人で高等部の最バスのマネージャーをしているんだということ。

 蒼葉先輩だって、既に何人かの最バスメイトから告白されたらしいし、何より自然ヶ丘一大金持ちだと言われている睦月(むつき)先輩と付き合っているというのだから。

 あの二人は、私達、なりたての中学生からしてみれば、憧れの存在なのだから。


「いいなぁ、白瀬先輩」


 最近私は、少しだけ、白瀬先輩に嫉妬しつつある。

 格好良い黒瀬先輩の彼女が、羨ましいのだ。


 もちろんそんなこと、思っては駄目だと分かっている。

 だけど、アイゼリサで黒瀬先輩の笑顔を見てしまった時。




 ()()()()()()()()()()()()()




 最バスのマネージャーになったのも、そのせいだ。

 私が高等部に上がる前に、先輩達は卒業してしまうけれど。

 それでもこの二年間だけは、黒瀬先輩を見ていたいのだ。


「おーい、進藤」


 呼びかけてくるのは、中学三年生の先輩だ。上履きの色が青なので、すぐ分かる。ちなみに一年生は深緑、二年生は水色だ。

「はい」

「倉庫に行って、ボールが何個あるか確認してくれるか? 個数は五十個なんだ。今俺らが使っているのが二十個だから、三十個あるか、確認してってくれ」

「分かりました」

 先輩は、「自然ヶ丘バスケ部」と胸元に描かれているユニフォームを着て、私にリストを渡してくれた。

 ボードに簡素な紙一枚。けれどそれが私の初仕事なんだと思うと、何だかわくわくして、急いで体育倉庫に向かった。


 ◆◇


「散々……だったなぁ」

 帰り道。親友二人と歩く午後六時半。

 思いっきり伸びをしたかったけれど、重いリュックを背負っているから、中々そんなことは出来ない。

「マネージャー、大変でしょ」

「男目当てとか言われちゃうよ」

「ですよねー」

 のどかちゃんと真優ちゃんが猫背になってやつれた顔をする私を慰めてくれる。

「白瀬先輩とか蒼葉先輩と、真理は、違うんだからさ」

 のどかちゃんは人差し指を立てて言う。

 うーん。確かに白瀬先輩とか蒼葉先輩達は、可愛かったり美人だったりするよね。

 それに比べて私ときたら……。もう神様は平等だなんて迷信絶対信じない。


「でも私、男目当てじゃないからね!? 何か、スポーツの爽やかな雰囲気を味わっていたいけど、何か、緩い感じでいたいなって!」

「マネージャーは全然緩くないからね?」

「むしろ並大抵の部活より大変だと思うよ」

 うっ、のどかちゃんと真優ちゃんからのきつい一手が!


「兄ちゃんが言ってたんだけど、白瀬先輩も蒼葉先輩も、かなりひーひー言いながら最バスのマネやってたらしいよ」


 ううぅっ。

 流石、古田華千聖先輩。ちゃんとマネージャーのことも見ているんだね。

 ……しかし、私ったら、とんでもないことしてしまったかもしれないぞ。

 自然ヶ丘の誇る最大の部活、「最バス」。そんな部活のマネージャーとして三年間勤めることになるなんて、私、早々諦めるかもしれない。

 元々お世話は好きだが得意ではないし、小学生の時の保育体験も「お姉ちゃんの遊びつまんない」と言われ、開始早々ショックを受けリタイアした。帰った後、私はかなりショックを受け、給食も中々喉を通らなかった。


「大変な部活に入ってしまったね、真理」

「うん」


 涙混じりの声になってしまったのも、しょうがないよね。

 しょうがない……よね。

 うぅ。

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