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パリピ探偵ポア  作者: 吉良 瞳
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蝋人形奇祭8




 ──雑然とした山林の中。満身創痍で聖を担ぐ狩谷に阿笠が追い付く事は容易であった。彼の胴に絡み付き先へ行かせまいとする。狩谷が振り解こうともがく。阿笠はその隙を突いて、俵担ぎにされていた聖が狩谷から逃れようと膝で鳩尾を落とした。


「ぐっ!?」


 衝撃に耐えきれず、バランスを崩す。聖を抱える事が出来ずに地面へと落としてしまう。しかし彼女はそうなる事を認識して居たため、辛うじて衝撃を抑えて着地する事が出来た。それでも体術に心得がある訳では無いため苦痛は免れ得ない。


「い、痛……!!」


「大丈夫ですか!?」


「え、ええ……。なんとか」


 彼女に視線を泳がせる狩谷に、再び連れ攫われるまいとして阿笠とポアが間に立ち塞がった。


「これ以上はさせないよ」


 息を切らせて、ポアが睨みをきかせた。まだ逃れる望みを捨てていない彼に、手を差し出した。


「その親指、俺達に渡してくんない?あんたの事情は警察で取り調べてもらう」


「……………チッ」


 聖を連れて行く事は叶わない。そう悟った狩谷は、ポアの問いには答えず舌を打った。そして視線を探偵と彼女から逸らし、向かっていた先を直視した。


「行かなくては………」


 蹌踉(よろ)めき乍ら、立ち上がる。親指の入った箱を大事そうに抱えて突き動かされるように足を踏み出した。それを再び阿笠が腕を掴んで阻んだ。


「何処へ向かう気だ」


「……お前には関係無い。俺は、俺はこの腐り切った世界から解き放たれるんだ。その為に、彼の方に会いに行かなければならないんだ……!」


「はあ?」


 血走らせた眼は嘘をついていない。狂っているとしか言いようの無い言動に、言葉を失う。


「彼の方っていうのは一体──」





「…………やあやあ、随分険悪な状況じゃないか」


 ──緊張感の無い、間の抜けた声。澄み切った、穏やかな声とも言えた。狩谷が向かおうとしていた方向に人影が揺れた。


「…………まさか、貴方様が…………」


「待ち合わせの時間になっても誰も来ないから、迎えに来てしまったよ。探偵さん達もご一緒とは、聞いていなかったけれど……」


 つい先刻──阿笠とポアの窮地を救ってくれた男であった。

 予期せぬ邂逅、という訳でも無いのか微笑を浮かべて首を傾げていた。彼が何を感じているのか、汲み取る事が出来ない。


「──君は、」


「貴方様が、救世主様ですねっ!?わざわざのお出向き、感激で御座います!!あの、これが御所望の物です!!!これで、これで私をお救い頂けるのですよねっ!?」


 阿笠の手を振り解き、男に縋り付く。手放そうとしなかった親指の箱を、彼に半ば無理矢理受け取らせていた。案の定、少し困ったように──本当に困っているのかは分からない──眉を顰めた。


「困ったな。確かに集めているとは言ったけれど、だからって君を救う事が出来るかどうかは断言しかねるね。僕は未だ道半ば。一介の求道者(ぐどうしゃ)でしかない」


「ご謙遜を!!多くの命が、貴方様の糧となる。大願が成就した暁には、我々は解き放たれるのです!!私も、この親指を捧げた者達も!!きっと正覚(しょうがく)なさると信じております」


 年下であろう青年に頭を垂れる。異様な光景だ。彼は狩谷に立ってくれと手を差し伸べて、それを畏れ多いとでも言いたげに恭しく従った。


「……君達とも、話がしたいと思っていたからね。ちょうど良い。少し歩こうか」


 男が先導して来た道を指す。阿笠とポアは顔を見合わせた。


「西さん、来た道を戻れますか?」


 阿笠の問いに頷く。この状況を警察に説明する人間が必要だ。もしも戻らない事があれば、更に彼等に助けて貰う必要がある。何しろ、この男が一連の事件の主犯格だ。わざわざそれを伝えに来たと取れる。この先何があるのか分かったものではない。ろくな事で無いのは、確かだ。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。他の人に話の邪魔をされたくないから、場所を移したいだけさ。誓って、危険な目に合わせたりしない。」


 村からそれ程離れた訳ではない。狩谷を追う二人の姿を多くの村人達が目撃している。警官がやってくるのは時間の問題だった。


「勿論、お嬢さんが村に戻るのも止めはしないさ」


「それは助かるな。西さん、行ってくれ」


「…………くれぐれも、お気を付けて」


 聖は何か言いたげに口澱んだが、彼等の身を案じる言葉をかけて戻っていった。彼女も負傷し体調が優れなさそうだが、今は未だ我慢してもらうしかない。狩谷はその姿を大人しく見送った。


「…………彼女も私達の仲間に足り得ると思ったのですが………」


 少し名残惜しげに漏らした。


「無理強いをしてはいけないよ。僕達には御縁が無かったのだろうね。」


 さあ、行こう。と、四人は反対の方向へと進む。彼は負傷した狩谷を気遣い、ゆったりとした速度で歩いていた。その後ろを阿笠とポアは着いて行く。


「……一体あんたは何者なの?あんたが、この人に親指を集めるよう指示したんだよね。救世主様って、どういう事?そういう遊びって訳じゃあ無いんだよね」


 胡散臭そうに男に質問する。十中八九、彼が一連の騒ぎの首謀者だ。ポア達が踊らされているその様子を外から見学して楽しんでいたのだろう。醜悪な蝋人形の祭りを隠蓑として、親指を回収する計画を立てていた。それを阻まれないように、何らかの方法で通信手段を遮断した。


「お前は一体なんなんだ。何が目的だ」


「── そうだね、僕は皆にロロと呼ばれている。

 さっきも言ったのだけれど、僕はただの求道者。好きに呼んでくれると嬉しい。この穢れの多い世界で、多くの苦しみから人々を解放するその術を探究しているんだ。

 この村で、殺された人があったのだと君達は突き止めてくれたね。僕はその弔いをしてあげたい。それから、この親指の持ち主達の最後の願いに耳を澄ませたい。今やりたいことといえばそんなところかな。


 アングリマーラの首飾り、という話を知っているかい?大昔のインドの話なんだけどね。彼は大変優秀なバラモン、バラモン教を学ぶ貴族だった。

 その教えの師の妻に、浮気を持ちかけられてしまう。彼は彼女に肉体関係を迫られたが、当然拒絶した。しかし拒絶された事に激怒した彼女は、あろう事かアングリマーラに暴力を振るわれたという虚言を師匠に伝えてしまうんだ。これを信じてしまった師匠は当然ショックを受ける。そしてある日師匠はアングリマーラに『千人の人間を殺してこい。そしてその者の指で首飾りを作るのだ。さすれば悟りを得る事が出来る』と言うんだ。勿論彼は戸惑った。しかし、師匠に逆らえば修行僧としての道は絶たれ悟りを得られなくなると思い、そして殺人鬼と化す──という内容でね。

 人を殺して悟りを得るなんて有り得ない、師匠は復讐心から嘘を吐いたのだと思うだろう?

 けれど殺人鬼と化した彼は、仏陀と出会う。そして仏陀の教えで改心し本当に悟りを得てしまう。師匠の言う通りになったという事だ。

 悪人でも救われる、悪人だから人を殺すのでは無く、人の縁がそうさせるものなのだから、全ての人は救われるべきという事を教える為の話だね。

 幾らかは作られた話なんだろう。でも、仏陀は一応実在の人物だ。真実の部分もあるのだろうと思う。」


「……つまり、その話を体現しようとしている、という事か?」


 阿笠はその話の内容をなんとなく知っていた。百人、千人の人間を殺す。殺した数だけの指で首飾りを作る。余りにも酷い(むごい)猟奇的な話だ。しかし、アングリマーラは殺人を犯した事を悔いた筈だ。だからこそ、悟りを得る事が出来た筈だ。


「一面的にはね。実はこの話に似たような話が、日本にもある。親鸞(しんらん)という徳の高い僧侶が弟子に言うんだ。『私の言う事なら何でも信じると言ったな?ならば千人殺してこい』と。弟子は勿論、無理だという。人に命じられたから、殺すのでは無い。殺さなければならないという縁が、そうさせてしまうもの。善人だから人を殺さないという道理は無いのだと。

 親鸞はアングリマーラの話を知っていて、引用したのかもしれない。


 そして、弁慶の千本の刀狩りの話。最後の千本が義経の刀で、敗北を期し軍門に下る。出会うべき主君に出会うんだ。


 殺すというのは野蛮にしてもね。”百、千の死に出会う“というのはかなり意義深い事だと思う。


 僕の目的と、その意味はご理解頂けたかな?」


 なかなかに長い供述であった。しかし、此方を気遣うような視線、歩調。水を打ったような静かさの中に流れる優しい旋律のような声。語られた内容は兎も角、不思議と居心地は悪くはなかった。

 彼は死に出会う事こそが目的だと答えた。それはつまり、殺人を犯したい訳では無いという事だ。事実として、自身の手は汚していない。殺せと命じた訳でもない。狩谷が勝手に親指を集め、村人達が勝手に悪しき伝統を築いていた。何らかの干渉はあったにせよ、殺しそのものが目的ではない事は嘘では無さそうだ。必要とあれば、そうするのかもしれないが。阿笠とポアに理解は出来たが、その心中を推察する事は出来そうもなかった。彼の心を知る事で、窺い知れる真実は多いのだろうが──。


 彼は言葉を切って、立ち止まった。道の先に、コンクリートの壁が見える。その壁にはぽっかりと穴が空いていて──古い、トンネルのようだった。暗い闇が広がるばかりで何も見えない。どうやら此処が目的地らしい。


「──なんだよ」


 ポアが警戒心を露わに凄む。しかし意に介した様子はなく、穏やかに微笑んでいる。彼は振り返って、阿笠の目を見て答えた。


「探偵さん。貴方は、此方側の人間だ。僕と一緒に来る気はないかい?」


 阿笠の瞳がピクリと痙攣したように震える。阿笠が答えるより先に、ポアが激昂した。


「ハァ!?意味わかんねー事言ってんじゃねーよ。“俺”が、アンタ側?サイコパスカルト野郎と一緒にすんなッ!!つか、行くわけねぇだろ!!」


 今時の男子にしては汚い言葉をあまり使わない──不快感を露わにしても、本気で怒る事は無かったかもしれない。そんなポアが、珍しく感情を露わにした。


「……意味が分からないな。会ったばかりの、名前も知らない奴にそんな誘いを受ける理由も、何もかも」


 不愉快だ、と眉を顰める。食ってかかろうとするポアの腕を掴み、阿笠が冷静に断じる。

 男は更に言葉を続けた。


「……人は、死ぬと何処へ行くと思う?天国?地獄?それとも輪廻転生して、同じ世、または違う世界で新たな生を受けるのか?宗教や、宗派によって異なる回答をしてくる。面白いよね。死後の事なんて誰に分かるはずも無い。なのに、こんなに答えの出ない問いを人々は何百年、何千年もしてきた訳だ。」


 一体何を語り始めるのか。先程と比べても突飛な演説に面食らう。男──ロロという青年は、静かにトンネルの向こう側へ視線を戻した。

 ゆったりとした歩調で、更に先へ進む。


「僕はね、肉体が滅び、人間の言う死を迎えたとしてもその魂は朽ちず、僕達と共にあるのだと考える。梵我一如(ぼんがいちにょ)って言葉がある。探偵さんに言の葉の説明をするだなんて野暮だけれど。

 宇宙を支配する原理と個人を支配する原理は同一であるという思想のものでね。輪廻転生の起源になる考え方なんだけど、僕の考えはそれとは少しずれる。


 僕達は、自分とそれ以外の人を個人と他人なんて表現するだろう。でも、真実は僕達は他人なんかじゃない、この世の全てのものは個人なんだ。僕は探偵さん、貴方でもあり、狩谷さん、貴方でもある。草も、木も、この世の生きとし生けるものすべて。だから、隣人が亡くなったところで、それは悲しい事じゃない。僕達の一部に還っただけなんだ。


 例えば往相回向(おうそうえこう)還相回向(げんそうえこう)という言葉をご存知かな。人は死ぬと、極楽や天国、浄土という場所へ行くと言われているだろう。例えば浄土へ行った者は皆、苦楽のない美しい世界に入り浸るのではなく真っ先に親しい者達の所へ帰ってくるのだという。

 遺った人々達も同じ浄土へ辿り着けるよう、その手助けをしてくれているんだ。つまり浄土へ往く事を往相回向、帰ってくる事を還相回向と表現しているんだ。

 安っぽいドラマなんかで、死んでも自分の心の中にあの人は生きている、って言うだろう?あれはこうした仏教の教えを、気付かぬ内に享受しているのさ。


 だから、何が言いたいのかと言うと──全ての生きとし生ける者と死者達は、皆輪のように道続きで繋がっているんだ。

 生と死──この二つに違いなんてない。人は死に向かって生きている。そして生に向かって死んでいく。循環しているんだ。体の中の動脈と静脈が巡っているように。血液が流れ混ざり合い存在しているように。

 だから心で念じれば、彼はいつでもそこに居るし、姿形が見えないだけでいつだって傍に居る。


 探偵さん──阿笠先生。貴方はきっと今まで多くの人間に彼の存在を否定されてきただろう。でも、僕なら理解してあげられる。


 丸井歩愛(ポア)は此処に居る、と──」



 ロロはポア──ではなく、阿笠の事を『探偵さん』と呼んだ。


「…………ッッ、」


 酷く頭が痛む。難しい話を聞かされた為、という訳では無さそうだ。


「阿笠さん!!……こいつの言葉を鵜呑みにしちゃ駄目だ。俺達を困らせようとしてるだけだよ。訳の分からない事を言って丸め込もうとしているだけだ」


 ポアは頭を抱える阿笠を、ロロから庇う様に自分の後ろに庇った。


「……そうさ、俺は此処に居る。それが何?話が見えない。アンタの思想と俺達に何の関わりがある?支離滅裂過ぎて理解不能だわ」


 トンネルの暗闇。互いの表情がギリギリ判別出来るくらいの、仄かな闇だ。ロロはポアに批判されても尚口元に笑みを浮かべていた。


「阿笠先生の事、少し調べさせて貰ったよ。随分と面白い経歴だ。僕の元でなら、貴方はきっと心の安寧を得られる筈だ。愛しき少年の魂を共に守っていける」


「……知った口を効くな……」


 呼吸が乱れる。立っている事が億劫になり膝を折った。視界がぼやけて、世界の輪郭が曖昧になっていく。皮膚を伝う脂汗が気持ちが悪い。この湿った空気も、暗闇も、何もかもが心地悪く与えられる全てに不快感を覚えた。


「阿笠さん、もうこいつと喋るな、」


「ポア…………私は、」


「だから、黙ってろって」


 ロロは黙ってその様子を伺っていた。そして何か言いたげな視線──狩谷の存在を思い出す。


「狩谷さん、だっけ。貴方を救って欲しいと言って居たけれど、何か聞いて欲しい事があるなら聞くよ。上手く答えられるか、自信は無いけどね」


 僕の為にこんなに頑張ってくれたのだものね、と続ける。狩谷は感激とばかりに地面に頭を擦り付けた。


「はい──はい。私は、私の家族は実は、旅先で交通事故で亡くなりました。私も旅行に誘われていたのですが、仕事で忙しい、家族旅行へ行く歳なんかじゃないと言って……。仕事なんて嘘でした。始めた仕事はすぐに立ち行かなくなって、ぶらぶらして。

 その報いが来たのだと、死んだ知らせが来た時に思いました。両親も、妹も、いっぺんに無くして。長いこと実家へ帰っていませんでしたから、かなりの親不孝だったと思います。私は空っぽでした。

 その後は親が経営していたこの村の蝋燭屋を継いで罪滅ぼしをして過ごしていました。そんな時に、貴方様の話を聞いたのです。この時代において、悟りの道を歩む方がいらっしゃると。その悟りを成就させる為には、多くの命が必要であると。このゴミのような人生を終えて、この苦しみから解放されたい──その為には、救世主様の行の完成に協力すべきだと、思い至りました」


 狩谷は擦り付けていた頭を起こして、ロロを見上げた。そして、懐から大きなナイフを取り出した。


「………なんのつもりかな」


 穏やかで落ち着いた声。彼は動揺することなく、素直に疑問を口にしたようだった。


「私の、命を預けます。どうか、どうか大願を成就させ報われなかった“我々”をお救いください。救世主様に、幸多からん事を──」


 狩谷は、躊躇いなくその喉にナイフを突き刺した。彼の表情は歓喜に震え、爛々と瞳を輝かせただ一点、ロロだけを見つめていた。

 定まらぬ焦点の中、阿笠はその光景を見届けていた。


「────」


 狩谷が絶命する直前。一瞬。

 時間にして一秒も無かっただろう──阿笠の方を、見た。


(お前も、後に続くといい──)





 そう、言われた気がした。




「────ウッ、、」


 吐瀉物を地に撒き散らす。気持ちが悪い。気持ちが悪い。気持ちが悪い。


「阿笠さん、しっかりしてよ。大丈夫!?」


 ポアが阿笠の背中を摩る。


 気持ちが悪い。気持ちが悪い。気持ちが悪い。




「……ううん、参ったな、彼の言葉に答える前に死んじゃった」


 ぽりぽりと頬を掻くロロ。まるで、コップの水を溢してしまったかのような。積み木をうっかり崩してしまったかのような、ささやかな懊悩。彼の表情からは、やはり何物も読み取れない。


「…………なあ、ポア、」


 掠れた声で、阿笠はポアに問いかけた。


「なに?阿笠さん」


 ポアが不安げに側に侍っている。


「お前は、此処に居るよな?」





「居るとも──貴方が、それを望む限り」





「ウッ、ああ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」




「阿笠さん!!阿笠先生!!先生!!!!」




 ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう。




 そんな筈は無い。

 ずっと一緒だった。ずっと共にあった。

 そうだろう、そうだろう




 世界が回る。視界がぐにゃりと歪む。壊れたテレビの液晶様にドットが抜けてゆく。だんだんと、色が無くなっていく。



「────」


 少年の声が聞こえなくなる。

 否、最初から聞こえてなど居なかった。聞こえているふりをしているだけだったのだから。




「ポア────」






 この寂れたトンネルには、サイレンの音も、人々が生活を営む音も、何もかも聞こえては来ない。忘れ去られたような、時間が止まってしまった事を否応無しに意識させる静寂。

 誰も気が付く事はなかったそのトンネルの入り口には、季節外れの黄菖蒲が咲いていた。







 黄菖蒲

「消息」 「友情」 「音信」 「復讐」 「幸せを掴む」 「信じる者の幸福」 「私は燃えている」

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