蝋人形奇祭1
丸井ポア…大学生探偵。面白そうな事に敏感なミーハーな若者。口には出さないが皆の事を心配している。
阿笠図書…探偵助手。ポアの元担任教師。彼の世話を焼く事で、精神的不安を抑えている。
山田太郎…捜査一課の刑事。いつも朗らかでハイテンションだが、皆に隠している事がある。
芝崎眞理…山田の相棒。刑事としての地位確立の為に凡ゆる事を妥協しているが、いつか訊ねなければならないと思っている。
西聖…芝崎の友人。ロリィタファッションの愛好家で、納棺師をしている。今回の依頼者。
狩谷尚志…侶湧村の村人。快活でノリの良い性格の男性。
宿の女将…高齢の女性。足が悪いが、現役で働いている。西と仲が良い。
石山悟…侶湧村の村長。畑仕事をしながらも、村の運営や行事を取り仕切っている。
and more
「へぇ〜〜、探偵事務所ってこんな感じなのね。知らなかったわ」
「……どちら様で」
──『丸井探偵事務所』。犬猫探しや身辺調査、迷宮入りの難事件まで何でもござれ。丸井ポア名探偵のお気の召すまま。やりたい放題。そんな杜撰な運営体制でなんとかやっていけているのは、単に阿笠助手のお陰であった。阿笠は、突然連絡も無しにやってきたお客に青筋を立てていた。
さて、このお嬢さんを如何にして追い出そうか。
「失礼、挨拶が遅れましたわね。西聖と申します。芝崎眞理ちゃんとはお友達ですわ」
「へえ、眞理ちゃんってこんなお友達が居たんだねえ」
スカートの裾を摘んで、優雅に会釈をする少女──否、女性。ふんわりと全円形に広がる赤いスカートには幾重にもフリルが施され、胸元には大きなグランリボン、そして頭にもスカートと同じ生地で作られたヘッドドレスが鎮座していた。華奢で小柄な見た目は、童話に出てくる女の子そのものだ。しかし、その声の高さや滑舌、失礼にもその顔立ちは成人女性のものであった。
「こんにちはー!ってあれ?聖さん、どうしてこんな所に」
名探偵と助手が知り合いの意外な友好関係に目を丸くしていると、タイミングよく話題の張本人がやって来た。きつく結んだポニーテールをゆらし、ビジネススタイルのスーツにスニーカー。
芝崎眞理。新人女刑事。彼女の上司と探偵助手は友人で、お互いに協力関係を築いていた。今日の所は彼女一人のようである。
「ご機嫌よう、眞理ちゃん。この間、眞理ちゃんから探偵さんのお話を聞いて興味を持ってね。それで、私も依頼してみようって思ってね」
「聖さんが依頼??」
冷やかしならお帰り頂きたいのだが…という助手の視線に、芝崎が気付く。気不味そうに乾いた笑いを漏らし、問い質し始めた。
「え、えーと。確かに話しましたけど…。一体どういうお話なんでしょうか?」
「勿論冷やかしじゃなくてよ、」
ちら、と阿笠に視線を送る聖。気付いてますよ、という視線に彼は僅かに動揺した。
「私、こう見えて普段は納棺師として働いているんですの」
ロリィタファッションの今の彼女の姿とはまるで想像も付かない職業だ。名探偵が「ノーカンシ?」と首を捻った。
「命を全うした方のご遺体の管理や、死化粧をするのが、私の主な仕事なんですけれど…最近、不自然な仏様に会いましたね、何か良くない事があるような気がして、不安なんです。それを是非、眞理ちゃんのお知り合いの探偵さんに突き止めて欲しいと思いましたの」
「……詳しく、聞きましょう」
丸井探偵事務所・署長兼探偵助手──阿笠図書。
先程は失礼を、と言って名刺を差し出した。聖はご丁寧にどうも、とおもちゃのようなファンシーな名刺入れから白黒で質素な自身の名刺を返す
西葬儀社・社長秘書・納棺師──西聖。
「西…葬儀社ですか」
判沢市内の者なら耳にした事があるであろう、そこそこ大きな会社だ。
「ええ、お父様がその社長ですの。私は、秘書というのは殆ど肩書きで…。申し上げましたように、普段は西葬儀社から納棺師として依頼を受けてお勤めさせて頂いております。そういう訳で、今まで様々な仏様を拝見してきたのですけれど…」
少々言い淀む。どういう言葉を使えば良いのか、迷っているようにも見えた。
「………探偵さんは、侶湧村をご存知ですか?」
「侶湧村?」
長い睫毛に縁取られた瞳が、阿笠の目と合った。唐突に話題を変えた訳ではなく、順を追って説明するつもりらしい。
「そこって確か、温泉で有名な所だよね?行った事無いけど」
ポアがそれがどうかしたの?と問うた。
「侶湧村は山々に閉ざされた、住民全員がほぼ知り合いの小さな村です。その村から出た仏様は、皆うちの葬儀社で弔っているのですが…腑に落ちないのです」
「というと?」
「その村から出たご遺体の親指が皆無いのです。ご親族に訊ねても要領を得ないと言いますか…。体の一部分のお骨が欲しいと仰られる方はたまにいらっしゃるので、そういう事なら此方も配慮致しております。でも、必ず私共に頼む前に生身の親指を切り取られ無くなっているのです。」
「…何か、村の伝承や風習なのでしょうか?」
不気味な話に、芝崎が頭を捻り乍ら口にした。
「それは私も聞きましたわ。でもどうやら違うようなんです。それに、数年前までは親指を切り取る行為は誰もしていなかったみたいで…。そもそも、誰が指を切ったのか知らないと仰られるんです。死人の指一本無くなった所で困る事もありませんから、誰も問題にはしませんが。村人達自身が不思議そうになさっています」
「マジか…それって、誰かが死んだ人の指をこっそり集めてるって事…?」
やだやだポアちんこわーい!と名探偵が助手の腕に縋り付き、その手を握った。しかしその表情は面白がっているようにしか見えなかった。
「それで、西さんは我々に親指を盗んだ犯人を見つけ出して欲しい、と?」
「そう取って頂いて構いませんわ。勝手に仏様の体を切り取るだなんて罰当たりな事。それをどのような事に使おうと言うのか…考えただけでも悍ましいですわ。死者を冒涜する人間は、この私が許しません!」
メルヘンなファッションをしていようとも、一人の人間。彼女の目には高潔な志に燃えていた。
「聖さんの仰る通り、放ってはおけませんね。現状では罪に問えませんが、何らかの犯罪に関与している可能性が高いです。」
それは警察としても見逃せません、と芝崎が答えた。
死人の体の一部分のを持って行く人間が正常な筈が無い。聖の不安も当然と言えた。
「しかし、良いんですか?」
「何がでしょう?阿笠さま」
「…我々も仕事です。依頼という事は、金銭を要求する事になります。しかし、解決した所で貴女には何の利益も無い」
「…ふふ。私は納棺師で、葬儀社の一員ですのよ」
「それは先程聞きましたが」
「つまるところ、仏教を自身の道とし学ぶ者。お釈迦様の教えを尊ぶ者ですわ。己の損得で頼んでいる訳ではありません。」
「聖ちゃんは信心深いんだねえ」
ポアは阿笠に握り返された手をぺっと打ち捨てるように離してにやりと不敵な笑みを浮かべた。「なんで握って来たんだ」と阿笠がポアを睨む。
「いいじゃん。親指探し。いいよ、俺が見つけて来てあげる。──付いてくるなら、自分の指を持って行かれないようにね?」
格好付けたその後に「ヤッバ!もうすぐお祭りがあるんじゃん!この日に合わせて行こうよ」と駄々をこねて、保護者こと阿笠の頭痛が深刻してしまったのだった。
***
「おお!ここが侶湧村か!得体の知れない何かが這い寄って来そうだな。皆、SAN値は大丈夫か?」
「どこぞのTRPGじゃないんですから…」
石河県警捜査一課・山田太郎。芝崎の上司で相棒であり、阿笠の友人。
山田は観光マップを広げて「温泉に入った後の予定なんだが…」と意気揚々である。芝崎は大きな溜息を吐いて「遊びじゃないんですよ」と嗜めた。これではどちらが上司か分からない。
「えっ!?遊びじゃないの!?」
「私の話聞いてました!?私達は、この村で遺体が指が切り取られて無くなる謎を調査しに来たんですよ!!」
「だから、クトゥルー的なイベントがここであるんじゃ」
「ありませんから!!」
あっては困る。同行してきた聖さんは面白い方ねとクスクス笑っている。恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「でも、眞理ちゃんに先輩の山田さま、探偵さんの皆さんが来てくださって心強いですわ」
「そうとも。罪深き人間を断罪する為に舞い降りたこのギルヴァアーート・シュッヴァルツ様が来たからにはまるっと全てお見通し、一件落着だぞ。アーッハッハッハ」
「駄目だこいつ早く何とかしないと」
いつもの五割り増しでテンションが高くなっている厨二病おじさんに、芝崎は頭を抱えた。阿笠もうんざりとした様子で、この小芝居を傍観していた。
「まあ、お噂はかねがね。山田さまは堕天使でいらっしゃるとの事。その偉大なるお力を是非お貸し下さい」
「ギルバート・シュヴァルツとお呼び下さい。聖女マリエンヌの友人となれば協力は惜しまない。任せられよ」
「光栄ですわ。ギルバート・シュヴァルツ様」
「………!話が分かるではないか!!!」
思わぬ伏兵──でもないかもしれない。が、聖と山田は意気投合したらしい。
聖は先日とはまた別のロリィタなお洋服に身を包んでいた。山中に入る事を意識した、少々カジュアルなベビードール型のジャンパースカート。それでもケミカルレースが端々に施されている。頭には麦藁の真っ白なボンネット。足元は歩き易いよう踵のないパンプスだ。その姿に山田は「国外逃亡中の御令嬢──或いは傾国の姫なのだろうか」と真面目腐って呟いている。
「ふふ…本当に面白い方。
では、本日のお宿をご案内しますわ。私は明日仕事があるので、日帰りでお暇しますけれど…、お友達に観光に来たいと言われたから案内に来た、という事になっています。くれぐれも、調査は内密に」
葬儀社の仕事は人のプライベートとも密接に関わるものだ。べらべらと他人に喋って調べ回っていると知れるのは不味いらしい。
「わーってるわーってる。綺麗なお姉さんとの約束は守る派だから安心して」
ポアも小旅行気分で浮き足立っている。そわそわと周囲を見回し、甘味の暖簾にいちいち反応してはふらふらと寄り道をしようとしていた。
「こら。宿に荷物を預けたらすぐに調査開始だからな。遊んでいる時間は無いぞ」
「ええっ!?そんなぁ…」
阿笠の叱責にポアはしょんぼりと肩を落とした。本当に何をしに来たのだろうか。同様に山田もすまなさそうにしている。精神年齢が同じらしい。
──ここまで山田の車に皆で同乗して来たが、村の入り口に駐車場がありそこに停めなければならなかった。と言うのも先の道が細く進んでいく事が不可能であったからだ。この村は景観が重要文化財になっているという事もあり、道の整備が余りされていない。殆どの建物は平家か二階までで高い建物が無く、温泉街へ繋がる歩行者天国のみ土産物屋で賑わいを見せていた。
後は田舎への憧憬が詰まった、ほのぼのとした風景が広がっている。
阿笠、ポア、山田、芝崎、そして西聖の一行は土産物屋の通りを抜けて宿に向かう。ソフトクリームや温泉卵、村の特産品の店が並んでいた。
「しっかし、変な村だよね」
ポアはアイスクリームを象ったピアスを弄った。
「何がだ」
「ソフトクリーム、温泉卵に瓶の牛乳にジュース。ここまでは分かるよ。でも特産品が”蝋燭”だけって…。普通はどんなに鄙びた温泉地でも、乾き物や佃煮のひとつやふたつあるもんじゃない?」
並び立つ店の八割が蝋燭の店である。仏壇用や日用、インテリア用など取扱う種類は豊富そうではある。
「あっ!見て眞理ちゃん!あのキャンドル可愛い」
「ちょっと聖さんまで…。…でも、本当ですね」
美しく彩色された蝋燭が店頭に並べられている。中には芸術品と言っても差し支えのない、精緻な絵画が描かれた物もあった。
「蝋燭って意識して見た事無かったんですが、色んなものがあるんですね。あれなんか、炎が虹色になるって書いてありますよ。一体どうやって作ってるんですかね〜?」
「うちは蝋燭造り体験もやってるよ!やってかない?」
さっさと通り過ぎる予定だったのだが、店の店員に声をかけられる。芝崎が断ろうとするよりも前に、聖が返事をした。
「あら、狩谷さん。ご機嫌よう。精が出ますこと」
「お?なんだぁ、西のお嬢様じゃないですか。今日はお仕事じゃないですよね?どうしたんですかい?」
「お友達と温泉に入りに来たの。たまには良いでしょ、美活よ美活」
「これ以上お綺麗になってどうするんですか〜!!」
戯けて笑う蝋燭屋の店員。三十代後半くらいだろうか、明るく染めた髪とアロハシャツのお陰で若作りな印象を受ける。快活な接客トークで人懐っこい笑顔の人物であった。
聖は狩谷にお友達よ、と名演技で皆を紹介した。彼は特に疑う様子も無く戯けてみせた。
「こんにちは…」
「美人のお友達は美人ってか!かーっ!羨ましいね旦那方!お姉さんどう?縁結びの蝋燭もあるよ。このハート形の蝋燭の火を灯すと、なんと桃色の火が灯る。火をつける所が二箇所あるでしょう、最後にこの火がうまいこと一つにくっつくと、両思い、恋愛成就、夫婦円満間違いなしってね!」
男の人って女は皆そういうのが好きだと思っているんだろうか。芝崎は興味が持てず愛想笑いを返した。
「面白いじゃない。一つ頂いて行こうかしら」
「やや、お嬢様が心を寄せるお相手が気になりますねえ!!毎度ありっ!!」
気前良く、聖が財布を開いた。様子を伺っていた阿笠も流石に依頼人の行動を咎める事は出来ず所在なくしている。
「はい、どうぞ眞理ちゃん」
「えっ!?」
狩谷が蝋燭を白い不織布で巾着包みにし、その口を桜を模した飾りで留めてくれている。ハートの蝋燭が透けて見えて愛らしい。聖は購入したそれをそのまま芝崎に渡した。
「恋愛成就。……眞理ちゃんの本命が誰なのか、気になる所ねえ」
芝崎にだけ聞こえるよう、声を潜める。阿笠、山田、ポアに品定めする様な視線を送り、最後にしっかと彼女の目を見つめた。
「な!何を言い出すんですか!!!」
「阿笠さまは、ちょっと融通が利かなそうだけれど、真面目で一途そう。山田さまは、眞理ちゃんと趣味も合うしユニークで楽しい方で──」
「だーから!違いますって!!」
「おいおい。先を急ぐんじゃないのか」
顔を真っ赤にして怒り出す芝崎に、山田が声をかける。長引きそうな空気を感じ取ったらしい。
「そうですわ。ほら、早く行きましょう眞理ちゃん。狩谷さんありがとう、またね」
「明日の祭りも頼んで行ってくれよな!」
「げ、解せない…」
何故か寄り道をしたのは芝崎という事になり、手にはハート形のキャンドルが収まっている。余計な荷物が増えたと思ったが、貰い物を捨てるのは良心が痛む。何度目かになる大きな溜息を吐き、皆の背中を追いかけた。
***
「わあ、ザ・田舎の旅館、純和風って感じだわー。早速撮っちゃお。
#温泉 #観光 #湯けむり美女を追いかけて #心霊写真になってたら教えて #お祭り楽しみ
な〜んてね!」
宿屋の外観は如何にもと言いたくなる様な木造建築で、かなりの築年数が経っていそうな所であった。玄関には立派な木目の看板に『灯火荘』と達筆で書かれている。よく見ると大昔の政治家による筆らしく、由緒正しいお宿である事が伺えた。ポアはSNSに投稿する為の写真をすかさず撮っていた。
「お婆ちゃま、こんにちは」
「まあまあ、遠路はるばるいらっしゃい。…聖ちゃんは久しぶり、かしら。どうぞ、お上がり下さいませ」
中に入り、聖が土間から声をかける。すると奥から小さな背丈の女将がよちよちと覚束無い足取りで出迎えに来た。かなりの高齢と見える。
「わーい!おっじゃまっしまーす。すごい、ここ囲炉裏があるよ。公衆電話がダイヤル式!ヤバ!!」
「はしゃぐなはしゃぐな」
「だって!まるでタイムスリップしたみたいじゃん。ウケる。かっけぇ!」
聖が女将と話をしている間に、ポアは目をきらきらさせて旅館の中を勝手にうろうろし始めた。とはいえ左程広い敷地では無いので阿笠の目が届く範囲内だ。
怪しげな依頼に、おあつらえ向きの小さな旅館。阿笠にはそれだけで彼が何を考えているのか大方察しが付いた。だが女将の孫を見守る視線に耐えかねて「大人しくしていなさい」と厳しい口調で諭した。私は父親か、と独言ちる。
「本日は有難い事に満室。館内が混雑する事もあるかもしれませんがご容赦下さいましね。皆さんは二階にご案内致しますねえ」
高齢の割に、話し方ははきはきとしている。聖が介助をし乍ら、ゆっくりと案内して貰った。
一番奥にあって、見晴らしの良い部屋。襖を挟んだふた部屋になっており、その内一部屋が前室で、その奥が主室となっている。更に奥はちょっとした縁側になっていた。基本的な客室の間取りと同じだ。床の間には水墨画の掛け軸がかけられ、その前には小さな花が花瓶に活けてあった。
「此方のお部屋はお殿様方のお部屋。聖ちゃんとお嬢ちゃんは隣のお部屋ですよ」
「あ、男女別々なんですね」
芝崎がそう言えば何も考えて居なかった、と声を漏らした。職務上泊まり込みや張り込みなどで山田と夜を明かす事がある為、同じでも余り気にしていなかったとも言える。
「…出張でポカする前で良かったな」
「すみません、そうですよね…」
そんな話をしつつ、女将にお茶を淹れてもらい暫し休憩を摂る。女将が下がった所で、漸く今後の行動の相談をし始めた。
捜索の方法について、山田が皆に訊ねる。
「観光客という体の私達が死体の親指の在処・犯人を探していると言っても不自然なだけだろう。ましてや私と芝崎君が警察関係者だと露見して事が複雑になっても困るのだろう」
これに阿笠が答える。
「結果を急いだ聞き取りを行うより、近年この村へ出入りする人間に変化があったのか。変わった事が無かったかという点について聞き出した方が良い。それだけでも村人の間での問題なのか、外部の人間が関わっているのか絞り込めるだろう」
滞在期間は限られている。調査期間は一泊二日。結果が伴わなくてもかかった費用は聖が支払うと申し出てくれているが、成功報酬は当然含まれない。金銭面の事もあるが、謎が謎のままというのも気持ちが悪い。阿笠の提案は尤もだが余り悠長な事はしていられない。
「待ってよ。指を切り取られた時の状況、それぞれに符合する点を洗うのが先だよ。こんな小さな村なら、葬儀場じゃなくて自宅にお坊さんを呼んでお葬式をしてるんじゃない?その際、誰でもお線香を上げられるよう家の施錠もしていない可能性が高い。こんな顔見知りしかいない村なら尚更防犯意識も低い筈。
誰でも出入り出来る状況か否かは重要だ。
だから調べるべきは家屋のセキュリティ状況。聞き出す事も、死人を出した家を調べるまでもなく、見回ればすぐに分かる。
そして、外部の犯行なら、村への出入りは車では不可能だった。村の入り口に駐車して歩いてくるか、運行バスに乗って来てやはり徒歩しかない。バス会社なら村とは無関係だし、事件前後のドライブレコーダーくらい頼んで見せてもらっても問題無いでしょ。
後は、聖ちゃんのようにこの事件に憤りを感じている人間。無差別に聞いて回るよりは協力も得られるし悪いようにはならないでしょ?…そういう人をどう見つけるかが問題なんだけど。
今すぐにやれる事と言えばこの位じゃないかな?」
今回は隠れて行動しなければならない分、動きづらい。ポアが歯痒そうに今後の方針を提案した。
聖が、参考になれば….と手を挙げた。
「いつもの仕事の流れですが…まず病院でご遺体の状況を確認して、ご自宅へ運び出します。訳あって状態が酷いなど特別な事が無い限りは家へ移った後、そこでお手入れを開始します。…私がお手入れをした段階では、いつも指はついたままでした。お通夜の段階では私はノータッチなので…お葬式を行うという段階になって、そこで初めて気が付きます。この間、ご親族から指が無いとお話が出た事はありません。
指を切り取るタイミングがあったとすれ納棺を終えた通夜から翌日のお葬式の一晩の間。火葬場が混んでいる場合はお葬式そのものを二、三日遅らせる場合もありますが、この村の方でそういう事は暫くありませんね。
しかし、こうも誰も気付かないというのも…ひょっとしたら、村ぐるみの可能性もあるのかもしれませんわ。それに、村の方々はこの件について余り話をしたがらないように見受けられます」
それじゃあ協力者は得られないのかもしれないのか…とポアはガックリ肩を落とした。
「…となると、どうやら聞き込みは余り有効な手段では無さそうだな。現場──この土地を確認して回るのが先だろう。不審な事があれば、それを大義名分に後日いくらでも防犯カメラなり、なんなり開示して貰えば良い。後は、切り取られた指の在処。この村の者の仕業なら、何処かに隠してある筈だ。」
人・足跡から調査を行う所謂興信所と、場所・プロファイルから犯人を突き止める人間の差だろうか、こういったケースでは刑事の言うことの方が的を得ている。ポアもそう、それだ!と手を叩いて山田を指差した。
「よし!じゃあ山田さんと眞理ちゃんは家屋に土地の調査、俺と阿笠さんは親指探し。聖ちゃんは依頼者だし…知り合いの人に世間話程度に、念の為に話を聞いてきてもらう…でどうかな?」
「異論無い。早速行動に出よう」
温泉村の怪事件。ポアはサスペンスとか、ホラーな予感がしちゃってわくわくするねぇ!と胸を躍らせた。阿笠は聖の依頼があってから楽しげな名探偵の姿に、不意に不穏な気配が心中に芽生えた。
「何も起こらなければ良いが…」
毎度更新をお待たせしております。
今までオムニバスのような形式でしたが、今回から形式や雰囲気がすこーし変わります。物語的には折り返し地点かな、と思っております。
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