【914:し】シュタインズ・レセプション
芝崎眞理…腐女子な女刑事。独り言が口に出るタイプ。
山田太郎…芝崎の上司で厨二病。頭脳明晰だが馬鹿。
殺戮のアリスティア…山田がSNSで知り合ったオタク。
ぽよぽよジーニスト…同上
「あ」
「おや、マリエンヌじゃないか」
長い長い任務を終えて、やっと掴んだ休暇。家でごろごろと過ごすのも魅力的であったが、今日発売の『うたの騎士さまっ♪』のニューアルバムを買わなければならない事を思い出し、アニマートというオタク御用達のお店へやって来ていた。判沢のアニマートは古いビルの二階にあり、外から二階まで直通のエスカレーターに乗って店内へ入れるようになっている。余談だがビルの一階は洋服屋なので、洋服が欲しい人は重いガラスの扉を開いて中へ入り、アニメやゲームのグッズが欲しい人はエスカレーターに乗る。判沢のオタク達はお洒落な人達にじろじろと見られ乍ら、のんびりとエスカレーターを上がる苦行を課せられている。…というのは、卑屈なオタク、即ち私の妄想である。
未だ限定特典残っているだろうか、と心配になりつつもエスカレーターを上がり切る。すると、職務中嫌程見た顔がそこにはあった。
「奇遇だな、君もアニマートに用事か」
「お疲れ様です。奇遇というか、悲しい事に行動範囲が同じなんでしょう」
休日にお疲れも何も無いのだが、お疲れと言ってしまうのは社会人の性か。判沢に二次元のお店は此処しか無いので、地元のオタク仲間が鉢合わせになる事がままある。特に、刑事はコンビを組まされている同士は同じ日に休みを取らなければならないので、実は今日この山田先輩と会ってしまう可能性がかなり高かったといえよう。
それにしとも、と私は一つだけ安堵の溜息をついた。何故かと言えば、先輩の私服が至って普通だったからである。厨二病全開の黒のロングコートにグローブなんて嵌めて現れた日には、どうやって他人の振りをすべきか考えていた。流石に、その辺は弁えているらしかった。当然と言えば当然なのだが、やりかねない危うさが彼にはあった。
グレーの格子模様のカジュアルシャツに、ネイビーブルーのジレ。黒のスリムパンツ。クラシカルな雰囲気だが黒のスニーカーを合わせて遊び心を持たせている。普通というか、なかなかにお洒落上級者らしい出で立ちである。
「ギル氏ギル氏。この女性は、どちら様ですかな?ま、まさか…」
先程まで先輩と会話をしていたらしい男性が、慌てた様子で私を指差した。珠州宮ナツミのTシャツに商店街のタオルを首にぶら下げた、ぽっちゃりとした男性。黒のウエストポーチには同じく珠州宮ナツミのラバーストラップがぶら下がっていた。
「ククク。紹介しよう。我が同胞にして運命共同体の聖女、マァァーリウェンヌである。跪くがいい」
「ハハァー、聖女様〜〜!!!」
「………で、本当は?」
もう一人の先輩の仲間が、ずり落ちた眼鏡を直しつつ冷静にツッコミを入れた。額に赤のペイズリー柄のバンダナを巻き、デニムのジャケットにジーンズを合わせた細身の男性。…今となっては珍しい、古式ゆかしきスタイルの同胞だな、と思った。
…しまった、先輩に釣られて同胞などと。
「…職場の後輩だ。芝崎君、此方は私の友人の殺戮のアリスティアさんとぽよぽよジーニストさん」
なんつう名前だ。ハンドルネームで紹介という事は、SNSで知り合った人だろう。多分友人では無い。因みに珠州宮ナツミの方が殺戮のアリスティアさんで、細身の眼鏡の方がぽよぽよジーニストさんである。
「初めまして、マリエンヌさん。まさかギル氏におにゃのこの知り合いが居るとは…」
「というか、本当に働いていたんですな。てっきり、有閑貴族のお人かと」
言われてますよ。
「ククク、そう思われても仕方がないな。私達は秘密結社のラウンダーとして活動する者…余り人に言いふらす訳にはいかんのだ。すまんな」
この人はどこに行ってもこうなのだろうか。確かに無闇に警察官ですなどと名乗ると壁を作られる事がままある。その為普段初めての人には公務員だと答えるのがベターだ。嘘でも秘密結社のラウンダーは無い。
ところで、マリエンヌと紹介されたのだからマリエンヌだと名乗った方が良いのだろうか?
「ええと、味噌煮込みうどんです。先輩がお世話になってます」
「………味噌煮込みうどん?」
山田先輩が不思議そうに首を傾げた。
「Tbutterのハンドルネームですよ。初めて言いましたけど」
「そうなのか。フォローして良いか?」
「嫌です」
「エッ…」
なんとなく『マリエンヌ』と答えるのは先輩の設定に敗北した気がするので、実際に使っている名前で答える事にした。名前の由来は、特に無い。適当である。因みに、うどんより蕎麦派だ。
「ところで、皆さんはオフ会か何かですか?」
「良くぞ聞いてくれたな。実は私達は機動戦士ガンタムの繋がりで時々会合を開いては情報収集をする仲でな。今回でその三回目なのだ。芝崎君も興味あったりするかい?」
そういえば先輩の車の音楽のレパートリーの中にガンタムの曲があった気がする。私は生憎とロボット系には興味が無かったので、首を振った。
「そういうのは余り。情報収集って、あれですか。プラモとかですか?」
「そうそう、新作のプラモの話から、塗装や施工の仕方など、お互いの技術の研磨も兼ねてな」
そういう話ならますます私はお呼びでないだろう。メカメカしいものよりイケメンに興味があるし、作るより完成された美を楽しむ方が私には向いている。
「…ギル氏。先程申した通り、拙者はアニマートを覗いてから行こうと思うのだが」
「ああ、そうだったな」
私達の会話に痺れを切らしたぽよぽよジーニストさんが、アニマートの看板を指した。元々彼の提案で此処へやって来たというのに、私が彼等に声をかけた事で足止めしてしまったらしい。
「芝崎君も此処に用事があったのだろう?一緒に行こう」
「で、でも」
お邪魔じゃないだろうか。辞退しようと思ったが、いいからいいからと先輩が背中を押して来た。お仲間の方々も特に何も言わないので、私は不承不承一緒に入店する事にした。まぁ、狭い店内なので一緒も別行動も無いか。
「おおっ、アリスティア殿、まだにこにんのクリアファイルが残っておるぞ!流石田舎」
「ギル氏の嫁のまっきーもあるぞい」
私達の会話の最中は居心地悪そうに明後日の方向ばかり向いていた彼等が、水を得た魚の様にはしゃぎ始めた。
先輩の推しはまっきーなのか、と見上げると何故か複雑そうな顔で「う、うん…」と歯切れの悪い返事をしていた。
「どうしたん、ギル氏……ハッ!まさか、おにゃのこの前だからって恥じらっているのか!?お主、我等の同志なら堂々とせんか!!」
「私は別にまっきーが好きでも良いと思いますけど…」
ラブミュの曲も散々かけてるじゃないですか、と言うと「そうじゃなくて…」とまっきーのクリアファイルをチラ見する。クリアファイルのまっきーはビキニ姿でアイスを舐め乍ら、何故か頬を染めて此方を見ていた。
「きょ、今日はラブミュはいいの!芝崎君も何か見に来たんでしょ、そっちに行こう」
ははあ、成る程。エッチな雰囲気が問題なんだな。こういうのが好きなのだと部下に思われるのは恥ずかしいらしい。私にしてみればいつもの病気の方が恥ずかしいのだが。
「私は、うたナイのCDを買いに来たんです。新作のコーナーにあると思うんですけど」
新作のコーナーに目を向けると、人気ジャンルだけあって目立つ様に陳列されていた。『特典付き』のシールがまだ貼ってあったので、一先ず安堵する。
「確か君はうたナイのジンくんが好きだと言っていたね」
「そうなんです。アニマートのCD特典、ジン様のだったんで欲しかったんですよ。間に合って良かった」
後は、普段なら商業BL漫画をリサーチしてからレジへ行くのだが、と思って先輩を見る。山田先輩はにこりと微笑んで「ジンくんのグッズも見るの?」などと言っている。
「んー、今は欲しいグッズ出てないので、BL本漁りに行こうかと。先輩も好きな所見て来たらいいんじゃないですか?」
「ううん、今は良い。あれこれ見てると棚買いしそうになるからな。一緒にBL本の見物をしよう」
先輩が「此処から此処まで下さい」と言っている様子が目に浮かぶ。しかし、それよりも問題は先輩がBLに興味がある雰囲気なのである。これは、布教して良い流れなのだろうか。
「……先輩の前で私の性癖暴露して良いんですか?」
喋り出したら止まらない自信がある。早口一気で気持ち悪いくらいに布教してしまう。
「何時も色々と口走ってるじゃないか。今更何か問題あるのかい?」
…恥じらっている先輩よりも私の方が汚れている気がして来た。そりゃあ山田先輩と阿笠さんのホモや同僚のホモを口走った記憶はある。だがあれは不可抗力だ。唐突に美味しい展開を提供して来る方が悪い。私は本来隠れ腐女子なのだ。誰が何と言おうと私は隠れ腐女子なのだ。大事なことなので二度言う。
「………ギル氏の裏切り者………」
──背後で何か言う声が聞こえて来る。殺戮のアリスティアさんとぽよぽよジーニストさんである。
「ギル氏の恋人は二次元の嫁では無かったのか!?」
「へ!?いや、彼女はただの後輩で、」
二人の呪詛に、先輩は驚いて声を裏返らせていた。
「女性と会話の出来ない拙者達への当て付けか!?」
──私達の会話に入って来ないのも、意見をしないのもどうやら私に人見知りをしていた為だったらしい。確かに出会い頭から一切目があっていない。
「成る程、聖女──最愛の人に対してだから聖女と冠していた、と。随分と、まあ、羨ましい限りで!!!」
「ち、ちが」
「会社でオタバレと厨二がバレたのに仲良くしてくれるおにゃのこなぞ居る筈が無い。居るとしたらそれでも愛してるから以外の何物でもない」
とんでもない勘違いである。私と先輩は常に共に行動しなくてはならないコンビであり、何が何でも息を合わせなければならない境遇にあるというだけだ。その組み合わせも私の預かり知らぬ所で決定されてしまっており、好き好んで一緒に居る訳ではない。──あまり言い過ぎると先輩が不憫なので一つ言っておくと、彼は性格以外は有能な刑事である。貧乏籤を引いたとはもう思っていない。他の先輩達と居るよりも気楽で話易く、良い上司だと思う。そう、飽くまで上司としてである。何をどう間違っても恋人同士ではない。
「あの、私からも言いますけど本当にただの先輩と後輩なんです。先輩はもっと巨乳で、強い系の女がタイプですから」
これは阿笠さんからの情報と私の統計によるものである。
「な、何を言うんだ芝崎君ッ!?」
図星を突かれた先輩がカッと顔を赤くした。いつも気取った先輩ばかり見ているだけに、こういう顔をされるとなかなかに気分が良い。
アリスティアさんとジーニストさんは雷に撃たれたかのような驚愕の表情を浮かべていたが、意識を取り戻した二人は声を潜ませて頷きあっていた。
「た、確かに言われてみれば…」
「ギル氏が好きになるキャラも勝気系女子ですな」
「納得するんかーーいッッ!!!!!」
先輩のツッコミが炸裂する。もう少し疑ってくれても良かっただとか、好みと実際に付き合う女は違うものだと語り出したが馬の耳に念仏であった。疑って悪かったという謝ってくれる二人は、悪い人では無いのだろう。
「…さて、少し長居してしまいましたな。そろそろレジを済ませて行きましょうぞ」
下らぬ茶番をしていた所為で、結構入り浸ってしまっていたらしい。アリスティアさんが時計を気にして提案した。
「そうで御座るな。ではちょっくらレジに行ってくるで御座る。暫し待たれよ」
ジーニストさんが同意を示していそいそと青色のレジカウンターへと向かった。先程のにこにんのクリアファイルと、同じくにこにんのクッションカバーを買うようだ。私もレジを済ませてしまおうと行こうとすると、先輩から悪意なき提案をされた。
「折角だ、君もこの後のオフ会に来るかい?」
後輩だという理由だけでガンタムに興味の無い女を勧誘をするだなんて、良くない気がする。先程の一悶着をもう忘れてしまったのだろうか。アリスティアさんが気まずそうな顔で私を見ている。直接女は誘うなとは言えず、言葉を詰まらせているようだった。
…安心して欲しい、邪魔をする気は毛頭無い。
「いえ、皆さんのお邪魔になるでしょうし、私もガンタムを勧められても困りますから。三人で楽しんできて下さい」
「そうか?…残念だな」
私のその言葉を聞いて、安心したようにアリスティアさんが破顔した。私だって仲良くも無い他ジャンルの人を自分達のオフ会に連れて行きたくない。気まず過ぎる。だが、その顔はあからさま過ぎやしないか?…と思ったが黙って見送る事にする。SNS上で会った人とはいえ、先輩と仲良くしてくれる人が居るというのは、良い事である。可哀想な人なのだ。
ジーニストさんがレジから戻って来たので、今度こそ私もレジへ並ぶ。この人達とは此処で解散だ。
「…ククク、ではゆこうか、同志達よ。我等は終末の為の兵器開発を急がねばならない。待っていろマリエンヌ──必ずや君に勝利を贈ろう」
この人は一体何と戦っているんだ。
「はいはい。神の御加護があらんことを」
そう答えてあげると、先輩は満足そうに「うむ!」と頷いた。二人の仲間を引き連れて聖戦の準備──基いガンタムオフに興じに行ったのだった。
***
先輩と別れた私は、お目当てのCDを手にレジへ並んでいた。平日なのでお客は少なめだが、夕方という事もあり学校帰りの学生やスーツ姿の会社員が増え始める時間帯だった。
「さて…本屋に寄ってゲーセン覗いてから帰ろうかな」
目的のものがある訳では無いが、本屋とアーケードの景品のチェックをしてから帰る事にした。アーケード系はSNS上だと見逃しているグッズがある事が多いので、なるべく現場で確認する事にしている。現場100回、推しとの出会いは一期一会なのである。
アニマートから歩いて五分程度だろうか。一時間程漫画や小説を物色して数冊購入した。買い忘れていた漫画の新刊が出ていたのと、好みの絵のライトノベルを衝動買いしてしまった。帰ったら読もう、とほくほくでゲームセンターへ向かう。
雑多な機械音と賑やかなアナウンスに笑い声。ぬいぐるみの詰まった機械に大量の小銭を投入している大人気ない大人達、身の丈に合わないメイクをした女子学生達がこぞってプリクラの撮影をしにやって来ていた。私は前者の方で、小さくキュートな姿になったジン様を見つけるや否や、手持ちの小銭を投入した。
「っし!!久しぶりに腕がなるぜっ!!」
苦節十年。昔は数少ないお小遣いをこの娯楽に投入し泣きを見てきた。しかし今や社会人。財力にモノを言わせて弱々しいアームで数ミリずつジン様を出口へ誘う。遊びじゃねえんだ。
「ジン様、あと少し……!!」
「なな何をしているんだね!!チミは!!!!」
雑音を突き抜ける大きな吃り声。しん、とゲームセンターが静まり返った気がした。その声の後にはまたけたたましい雑音に支配されたいつもの空気。変な人には関わらないのが一番、と思いつつも何気なく視線をやると、見た事のある人物だったので二度見してしまった。
「………アリスティアさん?」
「言いがかりはやめてくださいよ〜おっさん」
「言いがかりでは御座らん!!我々は見ておりましたぞ、それは、ははは、犯罪で御座る!!」
ジーニストさんも居る。二人は何故か、男子学生達に絡まれているようだった。否、二人が男子学生に絡んでいるのだろうか?どちらにせよ、犯罪という単語が聞こえてしまったので、無視する訳にはいかない。兎に角、状況が分かるまで少し様子を見ようと聞き耳を立てる事にした、
「おぬし達、台を揺らして景品を落とそうとしておりましたな?お金を払わず取ろうとするのは立派な犯罪!!二度とこんな事をしてはなりませぬぞ」
「なりませぬぞ、だって!このおっさんウケるんですけどー!!」
ギャハハ、と唾を飛ばし乍ら二人を指差した。成る程、犯罪とは語調が強いが彼等の言う通りである。学生達に反省の様子が無くニヤニヤと笑っている。…此方まで、気分が悪くなってきた。何故だか先輩が見当たらないし、店員も基本的に在中していない。仕方が無い、私から指導を──と思い足を向かわせる。
「君たち──」
「あんましつけーと、俺達怒っちゃうんすけど?」
「ひ、ヒィ!?」
どん、と壁を叩く音。アリスティアさんに向かられた拳が逸れて隣を打ち付けたのだ。その様子を見たお客達が、関わらないようにしようと散開してゆく。
「つーか、何その服。美少女の絵のTシャツとかダッッサ。気持ち悪いオタクかよ」
「あ、アリスティアどの」
「おめーもだよヒョロいおっさん!眼鏡割られたく無かったら土下座しな?ヒャハハ!!」
胴体をジーニストさんにどん、とぶつけて蹌踉めいた所を足を掬う。均衡を保てなくなったジーニストさんは尻餅を打ってしまった。正論を放ったばかりに足気にされ震える二人。
「…ちょっと、何してるの!!君達!!」
カッとなってはいけない。そうは思っても、厳しい声が自分の口から出てしまった。一瞬驚いた学生達だが、私が女だと分かるとまた嫌らしい笑みを浮かべて侮ってくる。
「ま、マリエンヌどの…!?どうして此処に!?」
「女にはカンケーねーだろ」
「んだよ、ブスかよ」
「つか、マリエンヌ??どこのお嬢様だよ!?ないわー」
阿笠さんもこういう生徒に病まされたのだろうか。毎日こういう種類の人間の教育をしなければならないなど、私には到底無理だ。
「聞いてましたよ、台を揺らして景品を取る…。それはマナー違反です。悪質だと、本当に逮捕される事だってあるんですよ。君達学生でしょう?学校に通報されたくなかったら、もう二度としないと約束して下さい」
怒りを堪えてなるべく丁寧に警告する。相手は未成年だ。大人相手より慎重を期さなければならない。間違っても取っ組み合いをして怪我をされては困るのだ。
「良い大人ズラしてんじゃねーよ。つか、おばさんは俺達が何かしてたとか見てねえんだろ?おっさん達が言いがかりつけてんのかもしれねーだろうが」
「ち、違いますぞ!我らの言っている事は本当ですぞ!!」
「だからうっせーんだって…」
ああもう!拉致があかない!以前ナンパに合った時の様に手帳で脅してやろうか…と懐に手を遣る。
「待ち給え!!!!」
──天を貫く高らかな声。
ピンチの時に駆けつける、まるで遅れてやってくるヒーローのような。
「ファーッハッハッハ!!お困りのようだな諸君!!!」
「や、山田先輩!!!」
…救世主の両脇にはまっきーの大きな抱き枕と、反対側にはガンタムと思しきものが入った箱三つ。背中にはピンク色でまんまるの生物が『ぽよ』という顔をしてくっついていた。
「…………どうしたんですか、それ」
聞くと、嬉しそうな顔をしておおマリエンヌじゃないか!聞いてくれ!と叫んだ。声がクソでかい。
「千円で取った!!!!」
「千円で!?その量を!?」
完全に才能の無駄遣いである。何せこの男、超の付くエリートなのだ。
驚いていたのは私だけではなく、学生達も同じだったようで「まじかよ…」と声を漏らしていた。
「で?なんだって?台を揺らして取る?…そんな事して取っても嬉しくないじゃないか」
「…あんだよ、あんたも俺達に説教すんのかよ!」
「いやいや、もっと上手く取れる方法があるから。お兄さんが教えてあげようか」
ドサドサッ、と壁際に戦利品を置く。よく見ると抱き枕、プラモ、『ぽよ』の他にズボンのポケットに大量のキーホルダーやお菓子が詰まっている事に気が付いた。
男子学生達は、それを見てごくりと喉を鳴らした。
「あの量を……千円で………?」
「俺たちも……出来る………??」
「できるできる!まずは初心者にはこれかなーお菓子のやつ。運が良ければ100円でも山崩せるし」
手近にあったお菓子の台を先輩が操作すると、魔法的な力でも働いているのか、チョコレートのタワーがザラーッと崩れ、取り出し口に流れ落ちた。
「あっ、ちょっと失敗した」
「そんなに取っておいて!?」
これが決まり手になったのか、学生達は目の色を変えて「俺達にも教えて下さい!!」「師匠!!!」と先輩に詰め寄った。
「ははは戯れるな戯れるな、悩める仔羊ども」
「さっきは失礼な態度ですみませんっした!!」
「……………」
何故か和気藹々。
ジーニストさんが「コミュ力の鬼か…?」と独言ちた。同感である。
「あっ、お二人共大丈夫ですか?怪我などは…」
「無い無い。牽制されていただけですからな」
「マリエンヌ殿、助けに入って下さって有り難う御座いました。さぞ恐ろしかったでしょうに、嬉しかったで御座る。某達の為に…」
二人は何も出来なかった私に感謝してくれているらしい。女性に苦手意識がある様子であったが、幾分か和らいだ気がする。こそばゆいが、御礼を言われるのはとても嬉しい。
「いえ、当然の事をしたまでですから」
「さては、本当に貴女が聖女…!?」
「なんと!?」
「いや、それは違いますから!!!」
──気がつけば、ゲームセンターの活気が戻りつつあった。子供の様に顔を輝かせた大人がおもちゃを手に入れようと必死になり、大人びた女子学生がプリクラを撮る。自分が自分に還る為の楽園が姿を見せていた。
「マリエンヌ、戦利品だ」
アリスティアさん、ジーニストさんと話していると、先輩がまた山の様なお菓子を抱えて戻ってきた。それを私達に等分してくれる。
「こんなにあっても食べ切れないからな」
「さっきの子達は?」
気が付けばあの柄の悪い学生達の姿が無い。最後に見た彼等は山田先輩と実に子供らしい笑顔を浮かべていたが。
「家に帰したよ。もう台バンはやらないって言っていたから大丈夫だとは思うが」
「そうでしたか…有難う御座います、先輩」
権力を傘に、未成年の少年を黙らせてしまう所だった。私はもう少し、自分だけの力で解決させる力をつけなければならない──と痛感してしまった。
「うん?何がだ?」
「…いえ、別に」
「いや、此方こそ友人達を庇ってくれていて有難う。久々のゲーセンについ熱中してしまってなあ」
無邪気にからからと笑う先輩に、釣られて笑みが溢れる。
「さて、我々も帰ろうか。アリスティアにジーニストよ、今日の語らいは有意義であった。トラブルもまた一興。次回の会合も期待しているぞ」
「ギル氏、今日はマジおつ。てか後でDMするから返事クレメンス」
「ん?ああ…」
「でわでわ、ギル氏にマリエンヌ殿、またなで御座る〜」
二人はそれぞれ帰路に着いた。濃い二人であったが、若い子に注意出来る辺り良い人達だ。
「折角だ。家まで送ろうか?」
「いえ、今日は自分で帰りますよ。その大荷物じゃ車に乗れませんよ」
「ああ、そうか…」
まるで祭りの後の様な。明日からはいつも通りの仕事だ。今度の休みは、先輩の出かけららたらいいななどと一瞬思ってしまった──無い。絶対無い。
「あのう…」
さて帰らん、という時に今頃の様に店の奥から店員が出てきた。さては不良を追い払った御礼を言いに来たのだな。
「お客さん達、もう二度と来ないで頂けませんか」
店員の目に映る景品の山。
詰まる言うところの、出禁宣告であった。
これが、私と小さいジン様との永遠の別れとなった──
Tbutter 殺戮のアリスティアさんからDMメッセージ:
先程のオフ会有難う御座いました!
質問なのですが、マリエンヌ殿って彼氏はいるんですかな?
→ギルバード・シュヴァルツ
(・∀・)?
→殺戮のアリスティア
実は恥ずかしいのだが、普通に惚れた
駆けつけてくれたマリエンヌたんマジ天使
→ギルバード・シュヴァルツ
マリエンヌは聖女だぞ間違えるな
→殺戮のアリスティア
会社の部下なら何か情報知りませんかな?
マリエンヌたん( ´・ω・`)
【ギルバード・シュヴァルツさんが殺戮のアリスティアさんをブロックしました】




