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パリピ探偵ポア  作者: 吉良 瞳
21/50

【913:あ】無垢2

 



 ーー遺体が病院に運ばれ無人となった事件現場。現場の入居者達は空いている他の部屋へと移り、眠れぬ夜を過ごしている頃だった。


「……こんな夜遅くに何の用だ。未成年が外出していい時間じゃない」


「煩いなー。俺これでも成人男子だよ?」


「これは失敬」


 検証が済んで去った沼谷を「事件の全容が分かった」と呼び戻し、不本意だが説明してやろうと胸をそらした。沼谷は不快げに腕を組んでポアを見下ろし、小林がそれをおろおろとし乍ら二人の間を取り持っていた。



「僕も忙しいんだ。飯事(ままごと)に付き合ってやる義理は無いんだが…。これで的外れだと分かったら、もう二度と君の探偵事務所には事件に関わらせない。…元々可笑しかったんだ、探偵だとか言ってガキが捜査に加わっているのは」


「それでいいよ。…ただし、もし俺がこの事件を解明出来たなら、もう口出ししないでよね」


「ふん…それで?何が分かったっていうんだ?」


「えー、性急だなぁ」


 両者顔は笑みを浮かべているものの、目が笑っていない。


「……まずは、確認させてよ。田代さんに突き刺さっていた包丁。あれには田代さん本人以外の指紋は無かった。包丁を持ち出したのも、被害者本人。司法解剖の結果は……数日かかるからまだだよね」


「…ああ。ガイシャの指紋だけがべったりだった。自分で包丁を持ち出したかどうかはまだカメラの映像の確認中で知らんが、指紋の付き方から見てまず、自らの手で喉を刺したのだと判明した。

 司法解剖してからの結論になるが、他殺の線は非常に薄い。自殺という事で決着が付くだろう。…まさか、その通りだと言わないよな、小さな探偵くん」


「勿論だよ明智くん。田代さんは自殺じゃない。警察の判断を正してあげる為に、君達を呼んだんだからさ。……司法解剖の結果は、恐らく刺されたのが原因じゃない。体内から毒物的な何かが検出される筈だよ」


「な、なんだって!?」


 小林が驚いて声を上げた。が、二人が落ち着いているのを見て慌てて口を塞いだ。


「……はぁ。そんなこったろーと思ったよ」


「沼谷さん、気付いてたの?」


「なんとなくな。他殺にしろ自殺にしろ、あの刺し方は無ぇだろ。普通は心臓を狙うか…自ら首をってなら、包丁を寝かせて頸動脈を掻っ切る。間違っても今回の様に垂直に突き立てる事は有り得ない。状況を推測するなら…喉に何かを詰まらせたか、君が言うように毒でも飲んだか」


「そう。では何故田代さんは毒物を飲んだのか。何処でそんな物を手に入れたのか?…この部屋をよく見てご覧よ。」


「…昼間に調べた筈だが、何も出なかったぞ」


「じゃあ、これは?」


 ポアが手に取ったのは、ベッドの側にあるサイドテーブルの上に飾られた消臭剤。色取り取りのジェル状のビーズが透明な容器に納められている。デザイン性が高く、施設の備品だとは考え難い。入居者の家族が持ち込んだものだろうか。


「…まさか、ボケて消臭剤を食ったとか言わないよな?」


「普通は食べないよねぇ。でも、親密な人間にこれはお菓子だと言われたとしたら?」


「ハ…これはとんだお門違い野郎だな」


 ポアは穴が無数に空いた蓋を取り外す。そして紫色の一粒を摘み、ぱくりーーと口に含んだ。


「な、何してるの君!?」


「ふん…やっぱりこれグミだよ。ぶどう味のグミ。おいしーよ」


「お前今、毒とかどうって話してなかったか!?」


 事件現場に置いてあったものを口に含む行為がどれだけ愚かな事か。流石の沼谷も動揺の声を漏らしたが、ポアはだいじょぶだいじょぶとからから笑い乍ら彼等を制した。


「この容器、蓋に穴が空いてるから俺達はお洒落な消臭剤って思うけどさ。耄碌(もうろく)しちゃったおじいちゃんや小さな子供には分からないんじゃない?実際、認知症には異食行動が見られる事があるし、あり得ないことではないよ。これなら転がってても成分を調べもしない。よく考えられてる」


「…つまり何が言いたい?」


「田代さんは、お孫さんにすすめられて食べてしまったんだ。」


「孫ーーって、確かまだ保育園の女の子じゃ……」


「なんとも残酷な話さ」


 ポアは天を仰いだ。

 田代の孫ーー沙耶香は未だ幼い子供。彼女は、普段は両親と共に彼の様子を見に来ていた。

 だがある時、彼女は両親とでは無くたった一人でこの施設にやって来た。祖父と約束した日だというのに、両親が行けなくなってしまったからである。いつも母親がそうしているように見様見真似で受付カウンターで名前を記帳する。新しいページでも母親の名前の側でもなく、他の者の名前を挟んだ誤った場所に書かれていたという事が、誰にも気付かれずに一人でやって来ていたという証明になるだろう。

 幼い少女の身長がカウンターから頭が出るか出ないかくらいの小さな背丈であったならーー受付に座っていたならまだしも、遠くから受付を伺っていた程度では気が付かなくても無理はない。剰えその日施設内が爆音に包まれていたのなら、扉が開く音も聞こえなかっただろう。

 多目的ホールでは皆ステージを注視していた。立ち見をしている人もそれなりに居た。小さな存在は、観客の高い人壁に阻まれステージからもその姿を認める事が出来ない。他殺だとするなら大人だろうという固定概念が密室空間を作り上げていたに過ぎない。子供なら、この建物への侵入は容易に可能だったのである。


「おじいちゃん、遊びに来たよ」


「おやぁ、沙耶香。いらっしゃい。パパとママは?」


「あのね、今日は一人で来たの!偉いでしょ。ねぇねぇ約束のおやつ、一緒に食べよう」


 少女はリュックサックの中から色取り取りの粒が入った小瓶を取り出した。


「さやかちゃんのお気に入り。ママが可愛い瓶に入れてくれたの!分けてあげるね」




 ハ ヤ ク シ ネ バ イ イ ノ 二 。




 ーー田代の口にしたお菓子は、彼の喉を焼いた。早く、吐き出さねば死んでしまう。

 しかし、飲み込んだソレを出す術が分からない。吐けないと分かった田代は、枕の下に隠し持っていた包丁で自身の喉から抉り出そうとーー。




「………おじい、ちゃん………?」




 呆然と佇む少女。彼女には彼を助ける術が無い。これを目撃した第三者ーー中村は、瞬時に何があったのか理解した。

 中村は知っていた。

 耄碌した老人とは思えない目を、夫婦に向けていた事を。窪んだ優しげな瞳が、ぎらぎらと光るその瞬間を。


 彼は、夫婦を殺める為に用意した包丁で、自らの首を貫いた。




「ーー被害者の家族が自分の子供を使って、殺させたという事なんですか!?」


「痛ましいね。こんなの一生のトラウマだよ」


 小林はショックを受けて表情を強張らせた。沼谷はそんな彼に「落ち着け」と肩を叩き、冷静を取り戻させる。しかし彼もまた予想外の内容を聞かされ落ち着いているとは言い難い。


「いやーーその話を信じるには、確証が足りない」


「そうだね、一つずつ補完していこう」


「そもそもの話がだ。その孫が防犯カメラに映って居なかったのは何故だ。幾ら誰の目にも留まらなかったからってカメラには映っている筈だろう。何度も確認したが、それらしいものは映って居なかった」


「本当に、そもそもの話だよねぇ。出なけりゃ密室殺人だーなんて盛り上がらない」


「おい…」


「うそうそ。沼谷さんは提出されたカメラの映像を信じて疑わなかったみたいだけど…その映像自体に細工があったとしたら?」


「……映像を偽装した、と?だとすれば職員の中に田代夫妻の共犯が居るという事になるが」


「そうじゃない。よく考えてもみなよ。実の両親に唆され、自身の祖父を殺した…なんて、さっきも言ったけど相当酷なトラウマだよ。…ううん、小さな女の子が殺しをしたとは思わなかったかも。ただ、酷い現場を目の当たりにした、とだけ…。そして、幼い女の子が事の自体を分かっていないとしたら、トラウマを無かった事に出来る。警察に問い詰められ苦しい思いをするより先に、悪い夢を見たと宥め賺す事が可能なんじゃない?」


「ええと…つまるところ」


「…介護職員が、少女を庇っている、という事か?」


「御名答」


 子供なら或いは介護施設に潜り込み、怪しまれず対象者に毒物を与える事が出来る。誰かに見つかったとしても、家族思いの子供の行動という事で不法侵入も問われない。まさか誰も子供の持ち物の中に毒物があったとは思わない。要らぬ疑いの目も及ばない。

 そして、事の全貌を知られたとしても職員達が“勝手に無かった事にしてくれる”。小さな少女は守られるべき対象だ。実際殺人犯を捕まえる事より、一人の少女の人生の方が彼等は重要だと判断した。


 だからこそ中村は死亡した田代と、呆然とする少女の姿を見て、考えるよりも先に少女を隠した。そして、少女の居た痕跡を消した後に態と悲鳴を上げて、発見のタイミングを僅かに遅らせたのだ。


「今思えば、田代さんの叫び声が聞こえないのに中村さんの悲鳴が聞こえたのは余りに不自然だった。態とであったと考えざるを得ない」



「成る程、第一発見者の中村さんが女の子の為に証拠隠滅を…」


「隠滅と言ってもその子を隠すだけだっただろうし。死因も包丁だと思い込んだ筈だ。だから見覚えの無い消臭剤にも気が回らなかった。其処の掃除道具入れだとか、隣のベッドの下にだって良い。一時的に人の目を誤魔化して、警察が来る前に彼女を安全な場所に移す。

 映像のすり替えは田代さんが死んだと皆に伝えた後でも出来る。…補足するなら多目的スペースの映像だけは俺達が映っている必要があったから当日のものだね。人垣のお陰でその子も映って無かったろうし…ま、細かく確認すれば映ってるのかもしれないけどさ。俺達の存在が、当日の映像ではないと疑わせない材料になっちゃってたかな」


「それで、彼女は今何処に居る?その中村とかいう女の所か?」


「否ーー」


 タイミングを見計らったかの様に、扉をノックする音が響く。声をかける間も無く開かれたその先には、暗い顔をした少女と、その手を引く谷地と藤田の姿があった。




「…どういう事です、何故貴女達が…」


「盗み聞きをしてしまって、すみません。中村さんが沙耶香ちゃんをよろしくって。」


「田代さんとそのご家族が不仲なのはみんな知っていました。仕方なく、施設の決まりだから顔を出しに来てる事くらい。だから、殺した手段は分からなくても、犯人はあの夫婦だろうって中村さんが………わ、私達は憶測で判断するのは良くないって言ったんです。でもまさか、本当だったなんて…」


 しかもこんな可愛い子を使って…と、谷地は少女・沙耶香に視線を落とした。藤田が彼女の頭を優しく撫でるが、反応は薄い。


「…田代夫妻にとって、自分達を殺す為に田代さんが包丁を隠し持っているなんて計算外だった。せいぜい具合が悪くなって死ぬ現場を彼女が目撃してしまうくらいの考えだったんだろう。職員達も、この子の為は勿論だけど、入居者が中毒死しただなんて世間にバレたらやっていけなくなる。だから、勝手に隠蔽してくれるだろう。と、そういう筋書きだった。

 しかし実際には毒物を掻き出す為に喉に包丁を突き立てた…本人もそんな使い方をするなんて夢にも思っていなかった筈。現場は、大惨事となった訳だ。」


 田代夫妻と職員達が繋がっていた訳も無い。殺人の計画を知っている筈も無い。彼女達のその心が利用されたに過ぎない。


「浅はかな」


 沼谷の溜息は、夫妻と職員の両方に向けられたものであった。


「ごめんなさいごめんなさい。防犯カメラの映像を誤魔化したのは私です。この子の顔を見たら、なんとかしてあげなきゃって…」


 谷地が目に涙を浮かべて告白する。ポア達に三人で話しかけてきたのも、あちこち動き回って少女が見つからない様にする為であったらしい。その間は、職員一同が結託して、交代で彼女の世話を焼いていた。


 ーー「沙耶香ちゃんが、おじいちゃんが死ぬ瞬間を見てしまった。犯人は、分かってる。…みんな、協力してくれる?」


 警官達が到着するより前、少女を物置に隠した中村は他の職員達にそう嘆願した。沙耶香をよく知る職員達の中に反論する者はおらず、彼女の存在を伏せて事情聴取を受けた。


 惨憺たる老人の死を目撃した少女は無口に俯いていた。立ち直るには、随分と時間がかかりそうだ。


「…中村さんは、今?」


「自首するよう、田代さんのご夫婦を探しています。中村さんが一番、あの家族が殺したに違いないと確信していましたから。…以前、死ねば良い、と話しているの聞いてしまったのだと話してくれました。」


「…探せ。田代夫妻と、中村沙恵。職員達も誰一人逃すな」


 指示を受けた小林は慌てて各所へ連絡を取る。挨拶もそこそこに、現場を後にする。


 殺人の容疑と、その隠蔽に加わった者達。全員が緊急手配の対象となった。一人の老人と幼い少女を巡って、多くの者が混乱の渦に巻き込まれた。


「殺そうとしていた者に殺される。可哀想とも思えんが…社会の闇が産んだ、悲劇だな」


 吐き捨てる様に沼谷は呟き、彼もまたその場を立ち去ろうとする。その前に不愉快げにポアに一瞥を送り「協力感謝する」と述べた。


「………ツンデレぇ?」


 やれやれと肩を落としたポアは、田代沙耶香の無気力なその手に、飴玉を一粒握らせてから家路に着いた。




 ***




「ポアに嫌われた。愛想を尽かされた。私なんていらないんだ、私との事は遊びだったんだ……」


「もー!阿笠さん機嫌治してよ!!悪かったって!!」


 ーー介護施設の事件が解決して数日。釈放された阿笠は憔悴頻り、菌類が繁殖しそうなくらいじめじめと恨み言を呟き続けていた。


「ふん。心の中では面倒臭い奴だと思っているんだろう。バンドに誘ってもくれないし、事件もあっさり一人で片付けた。助手の私は不要だったんだ…不要…そうか、私はこの事務所を借りる為に名前を利用されただけ…私の存在意義はこの部屋の維持の為だけ…それも今、騒音被害の通知の山で危機に瀕している。こうなったらもう、私はお払い箱…」


「んもー!!!うるさーい!!!!」


 阿笠の機嫌を損ねると、かなり面倒臭いという事をポアはよく知っていた。だからと言って態度を改める気はさらさら無いが。よくも恨み言の種類が豊富なものだ、と呆れてしまった。


「阿笠さんは俺にとって必要な人だよ?名義目的だなんて、考え過ぎだ」


「…留置所にも来なかった癖に」


「それは、無実を確信してたから!!」


「どうだかな」


 不貞腐れるいい大人に、やれやれと自分が折れてやる事にする。こういう時は相手の望む言葉をくれてやるのが吉だ。


「…本当の所、今回の事件阿笠さんが居なくてちょーー大変だったの。馬鹿二人は役に立たないし、俺の言いたい事一つも分からない奴ばっかでさ。その点、阿笠さんはいつだって俺の考えを汲んでくれて、みんなに正しく伝えてくれる。阿笠さんの存在の大切さに気付いたんだ」


 大仰に両手を広げて弁解する。仲直りしようと視線を送ると、目を合わせてくれなかった顔が、ちらりちらりと此方を向いた。


「…………それは本当か?」


「本当だとも我が友(モナミ)よ!バンドに誘わなかったのも、阿笠さんの好みを知り尽くしたが故だよ?興味の無い事に誘われたりなんかしたら、断るのが心苦しいだろうと思って」


「…なんだ、そうだったのか()()()()!」


 はあ。とポアは心の中で溜息を吐いた。こんな大人にはならない様にしようと固く誓う。

 年齢を超えた友情を噛み締めた阿笠は、爽やかな空気を伴ってお茶を淹れ始めた。丁度、時刻は3時を刺そうとしており、おやつ時である。鼻歌が聞こえてきそうな助手の背中に苦笑し「どれだけ俺の事が好きなの」と呟くと「否全くお前など好きなものか」と帰って来た。


「それで、田代とかいう夫婦はちゃんと捕まったのか?少女を匿った職員の女も」


「うん、小林君が言うには介護費用の支出が苦しかった事、田代政道さんの保険金が高額であった事から殺害を計画したそうだよ。利用された沙耶香ちゃんは、どうやら本当の二人の子供じゃあ無かったらしい。奥さんの方が再婚で、前の旦那の連れ子を引き取った形だったから血の繋がりのない沙耶香ちゃんに、愛情も余り無かったようだ、と。政道さんと沙耶香ちゃんはお互いの孤独を分かち合う唯一の存在だった。政道さんは、このままでは沙耶香ちゃんの為にはならない…と夫婦の殺人を考えていた。二人が死ねば、自分の保険金は戸籍上孫である沙耶香ちゃんに相続されるからね」


「…その話は事実か?」


「んーん、後半は小林君の想像。やらねばやられると思って田代夫婦を殺したかっただけなのかもしれないけど、確かに政道のおじいちゃんと沙耶香ちゃんは仲が良かったみたいだしねえ。

 二人を探しに行った中村さんは、ある意味大手柄。逃亡を図る二人を判沢駅で取り押さえようとしている所に、警察も駆けつけたそうだ。」


「ポア。その人の名前、中村沙恵だったか?」


「うん?」


「少女の名は、田代沙耶香………まさか、な」


 今回の事件に関与していない人間が口出しするものではない、と阿笠は言及をやめた。

 それよりも、消臭剤の蓋を外してもりもりとジェル状粒々を食べ始めるポアに、首を傾げた。


「それは食べ物なのか?」


「うん。グミだよ。さっき話した毒注入グミ」


「お前、何故警察に提出しない!?というか、吐き出せっ!!」


 淹れたばかりのお茶をひっくり返しそうになりながら駆け寄ろうとする阿笠をポアは慌てて制し、誤解だと首を振った。


「違うんだって。これね、沼谷さんを納得させる為に俺が用意した小道具!偽物!分かる!?」


「はあ?」


「中村さん、目敏く回収してたんだよ。勝手知ったる部屋に見知らぬ物があったら何であれ疑うでしょうよ。沙耶香ちゃんの反応を見ればそれが何か一目瞭然!」


「では、彼女は少女が目撃したのではなく殺した張本人だという事に気付いていた?」


「…だろうね。でもそれは敢えて言う事じゃない。目撃しただけならと同意してくれた人達も、実行犯を隠そうとしていると知れたら納得させるのは難しい」


「…確かに」


「だから、本物は警察の方に中村さんが提出してるって。俺が話した以上の事も、嘘吐いた部分の事ももう分かってる頃かと思うけど。今頃沼谷さん、一杯食わされた〜って怒ってるんじゃない?絶対怒ってるわ、ウケる」


「…因みに、お前は何処でその消臭剤グミの存在を知った?」


「そりゃ勿論、見たからだよ?中村さんが態と悲鳴を上げて、驚いた俺達が部屋に推し入った時に。警察が捜査しにやって来た頃には無くなって居たから。変だな〜と思ってたら思わぬ所で繋がったって塩梅さ」


「…よくそんなもの、覚えていたな」


「俺がおやつの匂い、気付かない筈無いじゃん?」


 そう言って、ポアは消臭剤の容器の中に入ったグミを阿笠に差し出した。


「ほらほら、一緒に…」


「ポアぴ!」「ポアちん先輩〜!!今日練習は〜???」


「あ、ヤッベ」


 食べよう、と言いかけたが事務所の外から聞き覚えのある声が聞こえて来て、ポアはあっと渋面を作った。阿笠が建て付けの悪い窓を開くと、「あっ!阿笠の兄貴こんちゃ〜っす」と軽い調子で二人が両手を振っていた。


「なんだ、あいつら」


「今日バンドの練習やるって約束してたの忘れちってた!」


「…お前まさか、ここで…」


「ううん、今回はちゃんとスタジオ借りたし!じゃ、ちょっくら行ってくるわ」


「おい…」


 バタバタと忙しなく出かけていくポア。一人残された阿笠は引き止めようと浮かせた手を引っ込めて、気を取り直すように腰を落ち着け机に放り出された書面をめくった。




「いつまで続く事やら」



 ーー田代夫妻は、潔く反抗を認めた。

 巻き込まれただけの筈の中村という介護職員が政道を殺したのは私だ、共犯だと主張し続けたが為に、事態の収束に時間を要しているという。

 彼が中村が少女の犯行を知っているか否かを警察に言及しなかったのは、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪に差し障る為かーーあの面白い事が大好きで女好きのあいつの事だ、何も考えてはいないだろう。

 珍しくポア自身で纏めた報告書を読み返した阿笠は、探偵の成長に目を緩ませた。


【913:あ】無垢編 完


今回はいつもの助手刑事不在回でした。難産でした。毎度きちんと推理の説明が出来ているか不安に駆られます…お気付きの点が御座いましたらご報告お願いします。感想もお待ちしております。

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