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パリピ探偵ポア  作者: 吉良 瞳
17/50

【913:し】フダニト・ファンタジー


と つ ぜ ん の ふ ぁ ん た じ ー が き み を お そ う !

 



「おお、遂に我が国を救う、聖女様がお出でになられた…!」




 ーー一体どれだけのファンタジー作品で使われた台詞だろう。少しばかり痛む頭を抱え乍ら目を開くと、私は豪奢な宮殿の室内に倒れ込んでいた。私を中心として怪しげな厨二病的召喚陣が描かれており、遠巻きに武装した兵士や西洋チックな衣服を纏った貴族達が此方を見ていた。


 あたし、芝崎眞理。ごくごく普通の女刑事。ぴっちぴちの成人済み女!いったいど〜なっちゃうの〜。


「皆の者、聖女様に対し頭が高い。控えよ」


「「「はっ!!」」」


 一番高級そうな布を纏った、王冠を被った大柄な老人が威厳ある声で命令すると、兵士達は一斉に膝をついて首を垂れた。


「聖女よ、よくぞ参ってくれた。我が国は魔族の侵攻によって未曾有の危機に瀕している。是非その力を貸して頂きたい」


「聖女?……私が?」


 私がプ×キュアに…?

 王様らしき人物が前に出て来て私にお願い事をしている。何の事だかさっぱり分からない。聖女?国?魔族??それなんてRPGだ??

 因みに私はアニメやラノベでファンタジーを少しばかり嗜むのみで、基本的にベーコンレタス畑の民である。アニメやライトノベルで異世界転生ものを見て来たとはいえ、ファンタジー世界の職業やモンスター、セオリーといえる制度の事はよく分かっていない。つまるところ俄かなのだ。

 こんなに鮮明なファンタジー世界の『夢』を見るなんて、どうしてしまったのだろう。どうせならイケメンとイケメンがイチャイチャしている現場の壁になる夢が見たかった。


 …抓る頰が痛いのはどういう訳だ。


 召喚されたばかりで混乱するのも無理も無い、と王様は言ってくれるが、曖昧に頷く事しか出来ない。

 混乱しているのは突然異世界召喚された事ばかりではない。私にはこの王様の顔に見覚えがあった。一体何処の誰だったか…暫く考える時間を要したのは、この世界が夢の中だからなのだろう。そう、つい先日会ったばかり。番匠帝一郎というベテラン弁護士先生ではなかったか。隣に控えている宰相も西城さん、執事風の姿をした彼も確か馬替さんという名前であった筈だ。……ああ、騎士の中に犬鷲さんの顔もある。


 ツッコミ所は山程あるが、先ずは私が『聖女』だという事を何とかしなければならない。私は腐った女であって、間違っても聖なる女ではない。彼等の話に合わせて、返事をする事にした。


「…あの。僭越乍ら私は聖女などという高尚な人間では御座いません。私に国や魔族?をどうこうする力は御座いませんので、考えを改められた方が…」





「ーー否。貴様は間違い無く聖女だ。何を隠そう、この私が召喚したのだからな!!」





 ーー不意に、凛としたよく通る声が室内に響いた。しかもその声はよく聞き覚えのある、間違えようの無い人物の声であった。


 ふわり、と黒の羽根が宙に舞う。覚悟して見上げると、その声の主が居た。




「や、山田先ぱッ!?……ブッフゥ!!!」


「…なんだ、何故私の顔を見て笑っている?」


 …先輩はその背中に漆黒の翼を生やし、何処からとも無く舞い降りて来た。黒のロングコートに、胸元に大きなジャボの付いたブラウス。腰には訳の分からない鎖が巻き付いている。これで笑うなという方が無理である。


「おっさん無理すんな」


「誰がおっさんか!我が名はギルバート・シュヴァルツ。このフダニト王国を守護せし堕天使だッッ!」


「ぐ、グフッ…む、無理…腹筋崩壊する…」


『絶対に笑ってはいけない』だったら私はタイキックを食らっていただろう。私達の様子を見守っている皆さんがとても真面目な顔をしているので、余計に笑えてくる。格好を付けてポーズまで決めている厨二病おじさん。どうしよう。私の想像力豊か過ぎるんじゃないだろうか。その尖った耳はコスプレショップで売ってるやつですか。起きたら先輩に教えてあげよう。大変痛う御座いました、と。こういうグラデ便箋あった気がする。


「…ぐふッ…それで、そのギルバート・シュヴァルツさん?は堕天使なのに守護天使なんですか」


 ちょっと無理があるんじゃなかろうか、と突っ込んでみる。


「うむ。実は色々あって、天界で神の怒りに触れてしまってな。それで地上に落とされたのだ。しかし慈悲深き神は、私に機会を与えて下さった…このフダニト王国を救えば、天界へ戻してやるとな。そういう訳でこの国の守護天使となり、貴様を召喚したのだ」


 ちゃんと設定がありました。


「それで、女。名前は?」


 改めて名前を聞かれるというのは不思議な感じがする。しかし如何やら山田先輩と私は初対面というシナリオらしい。


「えっと…芝崎眞理です」


「ふむ。マリー…マリエンヌだな」


 …とはいえ山田先輩は山田先輩である。現実の先輩と同じ事を宣っている。呆れながらも挨拶を済ませると、宰相基い西城さんが「聖女様もお疲れでしょう」と言ってこの場をお開きにしてくれた。有難い。

 堕天使かっこわらいが直々に私の部屋まで案内してくれ、これからは行動を共にし護衛をする事が使命だから、と話してくれた。


「ええと、つまり。私はせんぱ…ギルバートさんと魔族を倒す旅に出るって訳ですか」


 番匠国王の話を思い出し、私の予測を話すと山田先輩は機嫌良く頷いてくれた。


「理解が早くて助かる。最終目標は魔族の王たる魔王の討伐だ。我が国のみならず、他の諸藩諸国も甚大なる被害を受けている。魔王の討伐は、謂わば世界の悲願。人族の最後の希望…それが、君なのだよ」


 尊大に両腕を広げて使命の大きさを教えてくれるが、私にはゲームやアニメの感覚が抜けず何処か現実味の無い話だった。否、実際夢なのだ。昨日の晩は調べ物をしていて、就寝した記憶は無いからそのまま寝落ちしたに違いない。現在もスーツ姿のままだから、そういう事なのだろう。

 私にはトラックに轢かれた覚えも、神様に会った覚えもない。だいたいそんな事があったとしても、現実的に考えて異世界転生などありはしない。全く、子供じゃないんだから。


「まぁ…旅に出るのは置いておいて、王様にも話した通り私に魔王を倒せるだけの力なんてありませんよ。見当違いも良い所です。だいたい二人っきりじゃ戦力不足にも過ぎます」


 先輩にどれだけの強さがあるのかは知らないが、完全にお荷物の私を連れて旅になんて無謀も良い所である。そんな心配ーー物語上の欠陥を指摘すると、先輩は「それなら心配無い」と余裕の笑みを浮かべた。


「共に旅に出るメンバーは、もう一人内定している。私の盟友の精霊術師なんだが…もし、出発までに勧誘出来るのなら、誰か他の者を誘ってくれても構わない」


 先輩の脳内設定にある『精霊術師』と同じだとすると、きっと阿笠さんの事である。あの人も居るのか。ファンタジーな服を着た阿笠さんを想像して、少し面白くなった。


「そうなんですか。でも、聖女パーティで冒険って変な感じ…普通は勇者が召喚されそうなものなのに」


 また別のシナリオなら聖女も王道だろうが、このストーリーに相応しい主人公は『勇者』だろう。純粋な疑問を口走ると、先輩は笑顔を消して不愉快そうに眉間に皺を寄せた。よく表情筋が動く人である。


「…勇者も確かに、召喚したのだ」


「なんだ、他にも召喚者が居たんですね。その人とは一緒じゃないんですか?」


「アレは実に不愉快な人間だった。故に、とっとと適当にパーティを組ませて追い出したのだ」


「………ハァ!?」


「あの男、…リョージと言ったか…クソッ、思い出すだけでも忌々しい。私の顔を見るなり腹を抱えて笑ったかと思えば、お前の力を借りるくらいならスライムに殺されて方がマシ、などと宣ってな。私もあんな奴の護衛は嫌だったので、全て無かった事にして君を召喚し直したんだ。……君も何やら笑っていたが、私の顔はそんなに面白いのか?」


「……いえ、笑っちゃうくらい、凄い人に召喚されたなぁと」


「なんだ、そうだったのか。やはり私はこう、風格が違うだろう?」


 フフン、と煽てられて調子に乗っている。…此処は余計な事は言わないでおこう。それにしても、勇者リョージ…。とっても知り合いの人な気がする。


「…勇者の話はもういいだろう。ところでマリエンヌよ、いきなり呼び出されて疲れただろう?今宵はもう体を休めるといい。続きはまた明日だ」


 私としてはこれは夢なので現在進行形で寝ているも同然なのだが、トンデモ話を立て続けに聞かされて疲れてきていた。休ませてもらえる時に休むべきだろう。

 あまり遅くまで女性の部屋に居るのは失礼だからな、と紳士を気取って、先輩は部屋を後にした。


「良い夢を、マリエンヌ」


「…おやすみなさい」




 ***




 ーーと言ったものの、私に宛てがわれた部屋は物語で見たお姫様の部屋と似たようなもので、とても人心地つける様な場所ではなかった。植物模様の壁紙に細かい装飾の美しいカーテン。備え付けの家具は見るからに高級そうで、ベッドは天蓋付きときた。聖さん辺りなら喜んでこの部屋で寛ぐのだろうが、私には眩し過ぎる。もう少し庶民的な部屋が理想だ…が、此処はフダニト王国のお城であるらしい。お城に庶民的な要素があったらそれは設計者の頭がトチ狂っているというものだろう。

 取り敢えず、眠れなくても体だけは休めようとベッドに寝転がった。


「……この夢、結構長い気がするんだけど……ひょっとして寝坊してる?嫌だなぁ、明日も普通に仕事なのに」


「…君さ、折角異世界に来たんだから楽しんじゃおうとか思わないの?」


「そんなお気楽でいられるのは学生までだよ。社会人になると、そんな余裕も無いの。異世界から帰ってきたら仕事クビになってて、家賃も払ってないから追い出されてるなんて最悪だよ?…ていうかこれ夢なんでしょ?夢ならもっと美少年の天使に召喚されたかったなー。なんで山田先輩…日頃妄想聞かされてる所為…?」


「ふーん、君も大変なんだね」


「そうなんだよ。一緒になって堕天使がどうだの話してたら、私まで白い目で見られるし…って、私誰と話してんの!?」


 お約束である。突然自分の独り言に会話をしてくる奴が居たら、こういう反応を取るのが正解である。しかし、まさか現実で(?)こういう反応をする日が来ようとは思わなかった。がばりと起き上がると、蝙蝠の様な羽根と牛の角を持った男の子が宙に浮いていた。


「………インキュバス?この世界、R18なの?」


「全然違うよ!!俺の名前はポア。インキュバスじゃなくて、聖獣だよ!!!」


 ほら、ドラゴン的な尻尾もあるでしょ?とプリケツ……ではなく尻尾を振って見せる。ずっしりとした重さがありそうな尻尾の先には炎が揺らめいており、溜息を吐くその口からはボフンと火の球が吐き出され空中に霧散した。


「聖獣って人型なんだ」


「突っ込む所其処なの?…この姿は仮の姿。人型にならないと、アガサさん…召喚主以外とは会話出来ないからさ」


「ふーん?」


 …聖獣ポアくん。恐らく、精霊術師である阿笠さんの使い魔的なポジションになるのだろう。火属性である故か薄着で、ノースリーブの上着の下からは引き締まった肌がチラリと覗いて見えていた。そしてカボチャパンツにニーハイソックス。ローカットのブーツ。絶対領域があざとい。

 精霊ではなく聖獣という所が謎だが、コアなファンでもついていそうだ。


「それで、私に一体何の用?突然現れるなんて心臓に悪い」


「ごめんごめん。眞理ちゃん、いきなりこんな世界に連れて来られて困ってるかなーと思って。一応俺、君のサポート要員って事になってるからさ。『フダニトファンタジー』の攻略、一緒に頑張ろうね!」


「えっなにそれサポート要員とかいんの」


 タイトルまでついている。


「居るよ!早速チュートリアルからやろっか〜!

 先ずは、嬉し恥ずかし、ステータスオープンって言ってみて」


「そんな急に…!ステータスオープンってアホかよ」


 私が戸惑っていると、急に視界にブォン!とウィンドウが開かれた。…今、ステータスオープンって言ってしまったからか。


 画面には、私の情報がゲーム感たっぷりに表示されていた。



 *****

 マリエンヌ Lv.1

 種族:ヒューマン

 職業:聖女

 HP:50/50

 MP:12/12


 スキル:聖属性魔法Lv.1、柔術Lv.2

 固有スキル:ステータス閲覧、聖女の祝福


 備考:異世界より召喚された聖女。

 *****



 本名マリエンヌにされてる!!!!!

 …ではなく、なんだろう、この胸の痛みは。まるで黒歴史を暴かれた時の様な頭痛は。


「まっ、最初の能力値はそんなもんだよね〜。次は、横にスワイプしてみて」


 深く考えると自爆するので、なるべく無感情に指を空中に滑らせる。



 *****

 メインキャラクター

 ギルバート・シュヴァルツLv.5

 ♡:1/100

 種族:天使(堕)

 職業:守護天使

 HP:132/132

 MP:48/48


 スキル:闇属性魔法Lv.4、縄術Lv.2、剣術Lv2

 固有スキル:裁きの鉄槌

 称号:断罪の堕天使


 備考:フダニト王国の守護天使。聖女の護衛の任を命じられた。

 *****


「とてもつらい」


「まぁまぁそう言わないの」


 そうは言っても、自分の心だけはどうにもならない。遠い目をしつつも、気になった所をポアくんに訊ねてみた。


「この、ハートってなに?」


「好感度だよ。好感度が高ければ高い程、このパーセンテージが上がる。ハートの色が緑なら家族愛、黄色なら友情、赤なら愛情を表すんだ。今は黄色で1パーセントみたいだね。初日ならこれが普通かな。因みに0パーセントだと無関心。黒色になると憎悪や嫌悪を抱いているって事になるから注意ね。好感度は常に大きく変動するものだから、よく見ておくといいよ」


「なんでそこだけ乙女ゲーム要素……」


 相手が自分をどう思っているか分かるなんて、現実的に考えるとこれ程恐ろしいものは無い。更に横にスワイプすると、ポアくんのステータス画面になった。



 *****

 ポアLv.69

 ♡:--/--

 種族:聖獣

 職業:アガサの召喚獣

 HP:1593:1593

 MP:991/991


 スキル:火属性魔法Lv.20、光属性魔法Lv11

 固有スキル:トランスフォーム、魅了

 称号:神の愛し子、小悪魔、みんなのアイドル、名探偵


 備考:自由奔放な召喚獣。召喚されていない時も人間界に現れては遊んでいる。

 *****


「ポアくん強ッ!?!?」


「えへん、だってポア様だもの!…でも、戦闘であんまり期待しちゃ駄目だよ?人間界ではアガサさんの命令が無いと攻撃出来ないし、精霊術師としての力が俺にも反映される。基本的に、聖獣や精霊達は人間界に干渉出来ない存在なんだ。それを可能にするのが精霊術師のお仕事って訳」


「へえ…山田先輩と違って、好感度の表示が無いのは?」


「言ったでしょ、俺は眞理ちゃんのサポートだって。非攻略キャラだと思ってくれたらいいよ。だいたい眞理ちゃんタイプじゃないし」


「告白してないのに振られた気分になるやつだよ…。てか、攻略キャラとかますます乙女ゲームじゃん」


「うん。元の世界に帰るには、誰かの恋愛エンドか友情エンドを見る必要があるからねぇ」


 なんという事だろう。何が悲しくて、イケメンキャラではなく知り合いの攻略をしなくてはならないのだろう。


「あ、あはは。せ、先輩以外の攻略キャラは誰が居るのかな〜?」


 横にスワイプするが、何も表示されない。『まだ出会っていません』と機械的な声が頭に響くのみである。


「俺が言えるのは、同じパーティメンバーになるアガサさんかなぁ。もし他に攻略したい人が居るなら、行動次第で新たにメインキャラクターに据えられるよ。あ、女の子は駄目ね。君レズビアンじゃないでしょ」


 つまり、この世界の異性の誰かと愛を育むか、熱い友情を交わさなければ元の世界には帰れないらしい。魔王を倒してクリアじゃないのか。魔王を倒すプラスアルファをしなくてはならないという事なのか。


「…誰も攻略しないのは、駄目なの…?」


 元に戻って攻略したその人に会う時、自分は平常心で居られるのか。その回答は、確実に『ムリ』である。


「パーティメンバーとの大団円エンドもあるけど。それってかなりハードル高いよ。常に好感度が大きく変わるってのに全員同じ数値にしないといけないし。幾らゲームみたいな世界だからって選択肢が表示される訳じゃないし。行動を決めるのは眞理ちゃん自身だ。」


「それなんて無理ゲー…」


「友情なり恋愛感情なり育てないと、ボス戦で連携が組めなくて死ぬとかフツーにあるから、やっぱり攻略は大切になってくる」


「因みに、死ぬとどうなるの?」


「復活とか無いから、普通にあの世行き」


「…………」


 思った以上に乙女系ファンタジー世界である。そしてシビアである。眩暈がする。…自分の夢だとは最早思えない。そろそろ、これが今は現実なのだと認めざるを得ない。


「…先ずもって、恋愛は無理だとして…友情かぁ。先輩は存在自体がしんどいし、阿笠さんとマブダチになれる気がさらさらしない…」


「じゃあ他の誰かを攻略する?」


 他の誰かとなると、旅に出る前にパーティに勧誘する必要があるのだろう。道中で会う人もあるかもしれないが、それは楽観的過ぎる。ストーリーが始まる前に攻略対象を選んで行動するのは、乙女ゲームをする際で大切な事だ。途中からだとエンディングまでに好感度を上限まで上げ切る事が出来ない可能性がある。


「あの場に居たのは…王様や宰相さん達は無理だとして…犬鷲さん?最悪ジン様だと思って攻略すれば…」


 あの彫りの深い顔を思い出す。少し怖いが、一番精神衛生上マシだろう。


「犬鷲さんって、国家騎士のノリヒトさんだね。頼りになる男だし、仲間になるなら心強いけど。でも眞理ちゃん、ライバルとやり合う覚悟はある?」


「ライバルとか居るの!?」


「うん。フダニト王国の王女、ムサシちゃん。ノリヒトさんをパーティに加えると、ムサシちゃんもオマケで付いてくる可能性が高い」


「そ、そう来たか…」


 ムサシ王女……。あのチンピラスタイルの女の子が、お姫様とは。あの子と恋敵、いや友情敵になるのは勘弁である。


「少し、考えさせて…」


「そうだね。考える時間は必要だ。もし質問とか、俺に会いたくなったらステータス画面の『call』を押してね。何でも答えるよ。でも出られない時もあるから、それは勘弁ね〜」


 じゃあ今日の講義はここまで!とポアくんは窓を開いた。風に煽られて、短い髪がさらりとそよぐ。その首筋に【913:あ】と文字が浮かび上がっているのが見えた。何処かで見た文字列だ。

 そのままポアくんは窓枠に足をかけ、ぴょんと飛び降りる。彼は夜の空を飛んで行ってしまった。


「現れる時は突然なのに、帰る時は窓なんだ…」


 気にしたら負けというやつである。




 私の異世界初日は、こうして過ぎて行った。




 ***




 部屋が明るくなり始めると共に、私は再びこの世界で覚醒した。夢から覚めている事を期待していたのに、天蓋付きベッドの上に寝そべっている。私の部屋ではない。


 やはり、これは現実なのだ。


「み、認めたくない…」


 窓から外を覗くと、西洋風の建築が数多く並び、それと同じくらい緑が繁っていた。少なくとも私はこの風景を知らない。呆然としていると、コンコンコン、と三回ノックが鳴った。どうぞと返事をすると、聖さんがにこやかに現れた。ツインテールの頭にホワイトプリムを乗せて、クラシカルなロングのメイド服を優雅に着こなしている。


「お早う御座います、聖女様。お召し替えに参りましたわ」


「聖さん…!」


「まあ、私の名前、何方から伺いまして?」


 うふふと優雅に微笑む聖さん。しかし、彼女もまた元の世界の記憶を持ち合わせていないらしかった。尤も、似た顔の人間というだけで同一人物ではない可能性も無くは無いが。


「さあさあ、此方にいらして」


「は、はあ…」


 私は彼女に成されるがままに、顔を洗い寝巻きを脱がされ、真っ白なワンピースに着替えさせられた。裾部分に花柄の刺繍が施され、シンプル乍ら可愛らしい。こんなワンピース、すぐ汚しそう…と思っていると、聖さんが「このお召し物には魔法付与がされていて、ちょっとやそっとでは汚れませんわ」と答えてくれた。私の考える事など聖さんにはお見通しらしい。


「髪型はどうなさいますか?私の好きにしても?」


「い、いや。もう自分一人でやりますから」


「いけませんわ聖女様。これが私の仕事なのです」


「じゃ、じゃあ…。邪魔にならない感じであれば、なんでも…」


 そう答えるとなんだか楽しそうに髪を弄られる。普段の私なら頭の後ろでポニーテールにするのみである。高い位置で結ぶのだってそこそこ大変な作業なのだが、彼女は更に編み込みを加え、毛先がふんわりとする様に緩く巻いてくれた。


「腕が鳴るわ〜!」


「え、あの、そんなの適当で良いんですけど…」


「駄目よ、女の子は可愛くしなくっちゃ」


 成人式でもあるまいに。気が付けばメイク道具が広げられ、手際良く化粧を施されてしまう。

 以前から聖さんは言い出したら聞かない人である。顔を弄られる感覚に落ち着かなかったが、なんとか耐えていると、鏡の前には美少女がーー…んなわけない。七五三か。


「やっぱり思った通り。とっても可愛くなりましたわね、聖女様」


「ど、どうも有難う御座います聖さん……」


 なんだか朝から疲れてしまった。生き生きしている彼女を見ていると、もう何も言えない。


「お城にいらっしゃる間は私がお世話をしますから、何でも言いつけて下さいましね」


「…助かります。あの、早速ひとつお願い良いですか?」


「はい、なんでしょう?」


「…聖女様、ではなく眞理と呼んで下さい。むず痒くって…」


「あらあら。光栄ですわ。眞理様?」


「いえ、眞理ちゃんって呼んで欲しいななんて…」


 友達に様付けされるなんて、居心地悪い。せめてそれだけでも、聞いてくれたら…とお願いしてみると、聖さんはぽっと頰を赤らめて花が咲く様に笑った。


「なんてお可愛らしい方なのかしら…!分かりました、二人きりの時は、マリちゃん、と呼びますわね」


 ご朝食の席にご案内しますわ〜!とそのまま聖ワールド全開で案内される。ずっとこの調子だと疲れるが、可愛い人だ。

 もう、聖さん攻略出来ないのか。

 同性は無理と言われたが、一応ステータスを見てみる。


「あ、開いた」



 *****

 サブキャラクター

 ヒジリLv.2

 ♡:20/100

 種族:ヒューマン

 職業:死霊術師

 HP:25:25

 MP:20/20


 スキル:掃除Lv.6、料理Lv.4、洗濯Lv7、メイクアップLv.4、心理学Lv.3、死霊術Lv.1

 固有スキル:なし


 備考:フダニト王国のメイド。本人は自覚していないがネクロマンサーの才能がある。

 *****



 ネクロマンサーって何それこわい!!!!死霊術師!?!?

 聖さん、メイドじゃ無かったの…。好感度は黄色で、20パーセントも上がっている。名前呼びが功を奏したみたいだ。ただ、この聖さんとはあまりお近づきになってはならない気がした。


 一人で百面相をしていると、聖さんがうふふと微笑んだ。怖い。マジ怖い。


「マリちゃん。着きましたわよ。一緒に旅をする皆さんとのご朝食なんですから、笑顔よ、笑顔」


「ひゃ、ひゃい」


 聖さんにビビっているのが伝わってしまったらしい。「マリちゃんたら、本当に可愛いんですから…」と呟く言葉のせいでもう何も信じられない。

 少なくともこの扉の中に入れば聖さんから解放されるだろう…と唾を飲み込む。

 聖さんがノックをし「聖女様のお着きです」と声をかけると「入り給え」と先輩の声がした。


「お、お早う御座います」


 扉が開かれ、一歩中へ入る。中には長方形のテーブルを囲んだ先輩と、阿笠さん、ポアくんが居た。


「お早うマリエンヌ。今朝は随分麗しい姿をしているね」


「う、うるわっ!?」


 この先輩、何を言っているのだろうか。


「フン…呼び出された聖女は、田舎娘の様な女だと聞いていたが」


「眞理ちゃん、カワイイじゃーん」


 急にまたなんで逆ハーレムみたいな言葉を浴びせられる罰ゲーム。しかも知り合いに。戸惑い乍ら勧められた席に座る。すると、向かいのポアくんが小声で何かを言ってきた。


(ステータス開いてみ)


 どういう事なのか不明だが、言われるがままにステータスオープンと呟く。すると、先程は気付かなかったが私のステータスが変化していた。ステータス画面は私とポアくんにしか見えないらしく、先輩と阿笠さんは無反応だ。



 *****

 マリエンヌ Lv.1

 種族:ヒューマン

 職業:聖女

 HP:50/50

 MP:12/12


 スキル:聖属性魔法Lv.1、柔術Lv.2

 固有スキル:ステータス閲覧、聖女の祝福

 付与:魅了▽


 備考:異世界より召喚された聖女。

 *****



 付与、魅了!?ひょっとして、聖さんのメイクの所為か。スキルメイクアップ、と書かれていた。魅了の横に表示された▽を押すと、詳しい情報が出て来た。



 ▽魅了

『ヒジリ』によって付与された。対象者の魅力が大幅にアップする。異性の好感度が上がる。

 メイクが崩れる、落としてしまうと効果が無くなる。



「こんな素敵なお嬢さんと旅が出来るなんて、光栄だな、なあクリス」


「…別に、足を引っ張らないでくれるなら誰でも構わん」


 ………もう化粧は自分でやろう。こんな目に合うくらいならすっぴんドブスの方がマシかもしれない。


 とにかく、阿笠さんとはこの世界では初対面なので挨拶をしておく。


「えっと、初めまして。芝崎眞理です。お邪魔にならない様、頑張ります…」


「アガサ・クリストフ。精霊術師だ。隣のこいつは召喚獣のポア。…よろしく」


 笑わなかった私を褒めて欲しい。真顔でその名乗り、破壊力がとんでもない。

 笑ったら即バッドエンド。これから共に旅をする仲間なのだ。


「朝食を食べたら、町へ降りて武器を買いに行こう。旅道具も買い揃えねばな」


 山田先輩が優雅に紅茶を飲み乍ら、今日の予定を立てる。支度金は番匠国王から貰っているらしい。


「眞理ちゃん、昨日の今日じゃまだ外に出てないでしょ?色々案内するよ!」


「こら。遊びに行くんじゃ無いんだぞ」


 …こういう会話は、いつも通りだ。私は頷いて、食べ切れない程の朝ご飯を口に運んだ。お行儀が悪いかもしれないが、食べ乍ら阿笠さんのステータスも確認してみる。



 *****

 アガサ・クリストフ Lv.5

 ♡:5/100

 種族:ヒューマン

 職業:精霊術師

 HP:61/61

 MP:113/113


 スキル:精霊術Lv.5、召喚術Lv.2、精霊語Lv.72、古代語Lv.70

 固有スキル:荳也阜縺ョ縺ュ縺、騾?、聖獣ポアの加護

 召喚獣:ポア

 称号:探求者


 備考:フダニト王国お抱えの精霊術師。古代語の研究者でもある。

 *****



 …これは、なんという偏りの多いステータスだ。山田先輩と同じレベルだが、HP量とMP量が真逆。しかも、Lv1の私と体力が10程しか違わない。体力が無いにも程がある。その代わり精霊語と古代語のレベルがとても高い…これは知識面だから、戦闘力と切り離して考えた方が良いのだろう。文字化けしている部分については何とも言えないので、後でポアくんに聞いてみよう。…好感度は聖マジックの所為なんだろうな。


 共に旅に出る初期メンバーの能力を照らし合わせて、これからどうやって戦って行けば良いのか考えてみる。

 …RPG初心者と言っても差し支えのない私でも、これだけは分かる。


「前衛が、誰もいない…だと…」


 四人居て、誰も前衛に慣れそうな人が居ない。先輩とポアくんは魔法での中距離攻撃型。阿笠さんの精霊術も中距離攻撃か、後方支援系になるだろう。そして、私は聖属性だから回復要員。後方だ。一応私が柔術Lv.2、先輩が剣術Lv.2だがそれをメインにして戦うのは違う気がする。職業が聖女、堕天使である以上いつか限界がやってくるだろう。自衛としてのスキルだと考えた方が良い。これは本格的に前衛職をスカウトすべきだ。その事を、ベーコンを口に運び乍ら三人に相談してみた。


「…やはり、前衛が居ないと駄目だろうか?」


「駄目ですよ!分かってたのなら、なんでもっと早く見つけておかなかったんですか?なんで余裕ぶっこいてるんですか!!!」


「むう…君がそう言うなら仕方がない。前衛といえば、剣士や戦士だな」


 先輩が私の心配事に一応理解を示してくれて、少しホッとする。しかし先輩は難しそうな顔を崩さず「しかし誰を誘えばいいのだ」と呟いた。当ては無いのか、と阿笠さんとポアくんにも視線を向ける。


「………私にそんな体育会系の友人が居ると思うか?」


「アガサさん、友達居ないもんね〜」


 せつない。こんな所も現実と一緒か。


「う〜ん、国家騎士のノリヒトさんは?昨日眞理ちゃん気にしてたでしょ」


「ノリヒト?」


 先輩と阿笠さんがその名前に反応する。はあ、と大きな溜息を吐かれた後、首を横に振られた。


「あいつは駄目だ。ノリヒトが城を開けるとなると、ムサシ王女を制御出来る人間が居なくなる。魔王を討伐する前に国が滅びる」


「同感だ」


「…じゃあ他に誰が居るんですか」


 ……長谷川君、信頼がなさ過ぎる。代替案を求めるも、皆しんと口を閉ざして何も答えない。


「………先に追い出したっていう、勇者さんと合流するっていうのは」


「もっとナシだ」


「…………」



 まだ出発もしていないのに、パーティに暗雲が立ち込める。


「お、俺たちの戦いはこれからだ!!!」


 私はこの不出来なファンタジーシナリオに絶望し、ナイフとフォークを握った手をテーブルに打ち付けたのだった。

続きは気が向くままに。次回は全然違う話を書きます(爆)

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