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パリピ探偵ポア  作者: 吉良 瞳
16/50

リーガル・エンペラー2

 



 ーー判沢駅。

 世界で最も美しいと評価される近代的な玄関口。アーチ状の骨組みが頭上を覆い、鼓の様な形状の門が存在感を放っている。その鼓門を潜りバスターミナルを真っ直ぐ抜けた先に、駅の中へと続く正面口が解放されている。

 ここ近年で観光客も増え、駅周辺は都心程では無いものの連日の大きな賑わいを見せていた。そんな中にあって、人が避けて通る場所があった。その中心にはギターを片手に夢と希望を歌う青年と、その仲間達が居たのだった。


「愛を歌う天使は、滅んだ〜

 けれどそれを人は紡ぐ事を〜やめない〜

 何故なら、空は青く、雲は白い

 それと同じ今日も地球は回る〜ぅ〜




 ーーーロッキュー!!!!」





「…おお!素晴らしい歌詞だな!君、才能あるよ」


「マジっすか刑事さん!!褒められちった!!ヒャッホーイ!!!阿笠の兄貴、次のナンバーは俺達が運命的な出会いを果たしたあの曲だよ」


「最後までバラードだった癖にロッキューなどと意味が分からん」


「行くぜ!!サンシャイン銀河ラプソディー!!!イェーイ!!!」


「イェーイ!!」


「柏木くんやったれ!!」


「カッケェぞーー!!!」


 ノリノリの柏木に、それを煽る山田とポア、長谷川。阿笠はこれ以上関わりたくないと遠巻きに見守る事にした。


「いつもお疲れ様です。阿笠さん」


「…芝崎。お前はいいのか、混ざらなくて」


「嫌に決まってるじゃないですか。馬鹿なんですか?」


「愚問だったな」


 芝崎にもあのノリに混じる勇気も、対処する気力も無いらしい。阿笠の隣に避難してきた芝崎は、上司の精神年齢を思って遠い目をした。同行してくれた『番匠法律事務所』の面々の反応が恐ろしい。


「はっはっは。太郎君は相変わらずだねぇ」


「予想外に好印象!?」


「昔から賑やかな子でね。それに器用だ。礼儀正しい時は正しいし、遊ぶ時はとことん遊ぶ。切り替えの上手な子だよ。」


「…今は遊ぶ時ではないと思うんですけど…」


 朗らかに笑う西城に、芝崎は怪訝な顔を向けた。もしポアの推理が外れて、番匠を保護する事が叶わなければ裁判に間に合わないどころか彼の命が危険に晒されるかもしれない。余程ポアの推理を信頼しているのかーー否、この場合は山田を信頼しているのだろう。何があっても無事で救い出してくれると、信じているのだ。昨日の動揺ぶりを思えば吹っ切れ過ぎだと言いたいが、深刻になっていても仕方がない。長船も今日は顔色も良さそうであるし、犬鷲も落ち着いている。余計な水を差す必要は無いだろう。


「プラネット柏木()()()()()にお集まりの皆様、本日はお日柄もよく誠に有難うございまっす!」


「リサイタルだよこのうっかりさん!」


「次の曲は〜〜」


「…おっと、柏木君。そろそろ時間だぞ。ライブはここまでだ」


 一緒になって盛り上がっていた山田であったが、突然時計を見るなりリサイタルを終了させた。柏木と長谷川は不満そうに口を尖らせたが、ポアも分かっているようで「まあまあ」と言って二人を宥めていた。


 ーーそうしたやり取りがあった直後、正面口から外へ大勢の人が溢れ出した。


「…柬京からの新幹線が、無事到着したようだな。お前達も、見失うなよ」


「え?なんすかヤクザ屋さん。ゲーノー人でも来るのか?」


「…私は警察屋さんだよ」


 長谷川の惚けた発言に、山田は肩を竦めた。ポアも阿笠も群衆に目を凝らし、何かを見逃すまいとしている。


「ポアの推理が正しければ……、番匠さんが此処へ姿を現わす筈だ」


「え…?一体どういう事なんですか!?」


 阿笠がぽつりと呟く。事情を分かっていないのは長谷川ばかりではない。芝崎も『明日になれば真相が分かる』と言われただけで何が起こるのかは何も知らされてはいなかった。





 そして、彼の言葉通りーーその人は眩しい笑顔で姿を現した。




 ***




「お迎えご苦労!皆の諸君!元気にしていたか?太郎ちゃん」


「番匠弁護士!!」


 豊かなグレーヘアをかっちりと纏めた、恰幅の良い老人。鼻の下に威厳たっぷりの髭を蓄え一見厳しいが、満面の笑顔が快活な気性を人々に連想させる。西城もふくよかな体型をしているが、それとは異なる尊大さがその肉体を持って表現されているように思われた。


「た、太郎ちゃんはもうやめて欲しいと言ったじゃないですか…」


 山田はむず痒そうに頭を掻いた。


「私の中では太郎ちゃんは太郎ちゃんだ!それに君こそなんだ、『番匠弁護士』なんて固っ苦しい。昔のように『帝おじちゃん』と呼んでくれて良いんだよ?」


 珍しく言い澱む山田に、芝崎は軽い驚きを覚えた。ああ言えばこう言う、斜め上発言をしてくる山田がやり込められている。


「太郎ちゃんですか、先輩」


「ウッ、芝崎君まで…」


「身内には弱いんですね…じゃなくて。ちゃんと説明して下さい!番匠さんは誘拐されていたんですよね?それなのに何故、此処に?」


 それは…と山田が答えようとすると、「番匠先生〜!」と何処かで聞いた事のある声が聞こえて来た。ひょろりと背の高い、猫っ毛が印象的な中年男性。馬替である。


「ご無事で何よりです、先生」


「君もご苦労だったね。何事も無くて良かった」


「本当に怖かったんですからね!」


「すまんすまん」


 ますます意味が分からない、という顔をする芝崎。見兼ねた犬鷲が、代わりに事情を説明してくれた。


「…実は、誘拐というのは狂言なんです。番匠先生は最初から、昨日ではなく今日、柬京から戻って来るご予定だったんです。馬替さんは最初から供なんてしていません。お一人での出張でした」


 騙してすみません、と犬鷲が頭を下げた。西城と長船も、一緒になって謝罪の言葉を口にする。


「芝崎さん、そして阿笠さん達には悪いと思っています。身内のごたごたに巻き込んでしまって…」


「本当に申し訳御座いませんでした」


 芝崎は何が何だか分からず、山田と阿笠を交互に見た。阿笠は鼻で笑い、山田は何故か頭をおさえていた。昨日のあのやり取りで狂言だという事に気付いたらしい。


 ポアが、事の次第を説明する。


「ーー今回の誘拐事件、実際は嘘だったんだけど。犯人は番匠法律事務所のみんなだったって訳だ。

 番匠さんは一人、今日までずっと柬京に居て、昨日は判沢には居なかった。」


「うむ。では、馬替さんは一体何をしていたんだ?」


 目を白黒させる芝崎の代わりに、阿笠が進行役として質問する。名前を挙げられた馬替は番匠にどれだけ大変だったか懇切丁寧に説明している。


「それは明白な事だよ。替え玉の運び人さ。昨日、確かに『番匠帝一郎の偽物』なら現れた。タクシーに乗って事務所へ向かっていたら、予定通り不審車がついて来ている事に気が付いた。そこで、見せつける様にして息のかかった人間にわざとタクシーを襲わせた。あ、勿論運転手さんもグルね」


「予定通り、とは?一体その日、何が起こっていたんだ?」


「つまり、番匠さんはあの日何者かに襲われる可能性があった。それはきっと長船さんが語っていた通りの事を予測していたんだろうね。法律事務所のみんなは無事裁判の日を迎えようと、先に襲ってしまおうと計画を立てた。でも本人がそれをやると危ないから、別の人に代役を立てたんでしょ。背格好さえ似ていれば、遠目なら親しい人間でない限り騙す事は可能だ。本物の秘書の馬替さんが一緒となれば、疑える人は少ないんじゃないかな。風邪を引いたとか言ってマスクで顔を隠していたなら特にね。

 馬替さんまで空港まで行く事になったのも、偽番匠さんのカモフラージュ。本物の襲撃者に犯行を見せつける為だ。それに、運転手の役割を任されていなければ『番匠さんが誘拐された』と断定してあれ程詳細に俺達に語って聞かせられない。馬替さんが西城さんに電話をする事で『無事に本物の襲撃者を騙すことが出来た』と報告する役割も果たしていた訳だ。この役割は馬替さん以外には出来ないよね。

 そんな訳で、予定通り小梅空港まで行くまでに襲撃者を撒き、若しくは諦めさせた馬替さんは俺達に電話をした。ってね。

 西城さんが面識も連絡手段も無いタクシーの運転手に口止めをしたなんて無理な嘘を吐いてくれたお陰で全部すっきり解決したよ。拘束されて動けないんじゃないか、と答えるのが正解だったのに、焦ったんだろうね」


「…成る程。理解しました。でも、そうなると如何して我々を巻き込んだんですか?その本物の犯人を捕まえる為…だとすると、回りくど過ぎですよね」


 実際、捕まえて無いですし。と芝崎は首を傾げた。馬替の涙ぐましい努力は番匠に大方聞き流され、頭をぐしゃぐしゃにされていた。聞き流されている事に気付いていない馬替は、擽ったそうに撫でられる大きな手を受け入れて、照れ笑いを浮かべている。


「誘拐される可能性がある、というだけでは証拠が無ければ警察は動けんからな。自分達で誘拐を回避出来るならそれが最適解だろう。…巻き込まれたというか、今回の誘拐事件は私の為に仕組まれた側面もあるのだろう。…ですよね、番匠弁護士?」


「山田先輩が原因?」


 とても複雑そうに口元を引攣らせる。山田に問いかけられた番匠は、人の良さそうな笑顔で悪びれずに答える。


「柬京で太郎ちゃんのお父さん、義郎君に会ったんだがね?そろそろ刑事なんか辞めて自分の跡を継いで欲しいという話をしていたんだ。ならば、私も協力しようではないかと盛り上がって…」


「やっぱり…」


「西城に連絡して、今回の誘拐事件の計画を伝えたんだ。

 元々私に拉致誘拐を仄めかす脅迫が来ていて、柬京から判沢へ帰って来た時が一番危ないんじゃないかって話はあったんだ。新幹線を一日遅らせる事も考えていたから、こりゃもう一石二鳥?」


「ぜんぜん一石二鳥じゃありませんけど…」


 嬉しそうな番匠に、何故か芝崎の方が呆れ返る。類は友を呼ぶという言葉が、何故か頭によぎった。


「自分の危機を回避すると同時に、今回の狂言誘拐を見抜けなかったら実力無しとして刑事を辞めさせる…そういう作戦だったんですね」


「そういうこと」


 番匠は芝崎を指差して、バチリとウインクを飛ばした。

 …山田は大きな溜息を吐いた。父さんの考えそうな事だ、とぼやく。そして、少し離れた所に立っている阿笠と芝崎の直ぐ隣に来てーーその肩に両腕を回した。


「ーー私は、刑事の仕事に誇りを持っています。このような、友にも相棒にも恵まれ、やり甲斐も感じています。だから、まだ辞めるつもりはない…そう父にお伝え下さい」


「ーーーーー」


「…そうか。ならば私からは言う事は無い。お父さんにも伝えておこう」


 山田はほっとした様に頰を綻ばせた。いつまでそうしているつもりだ、と阿笠に顔を摘まれる。


「ふぁにふぉすりゅ」


「セクハラです」


「しふぁしゃきひゅん!?」


 ブン、と芝崎に振り払われて後方へ仰け反る。反動で前につんのめりつつ、非難してやろうと彼女を見上げる。


「なんですか。こっち見ないで下さい」


「…………照れているのか?」


「いません!!!」


 耳を赤く染めて否定されても全く説得力が無い。にやにやと見つめていると、頭に制裁が降った。手刀は痛い。


「…阿笠ぁ」


「自業自得だ」


 阿笠もいつにも増して塩対応である。人一人殺していそうな目をしている。ああ、二人の『デレ』は可愛くない…山田は心の中でそう思うだけに留め、口に出す事はやめておいた。


「ちょっと、ポアちんを差し置いて何サンコイチしてんの!?仲間にいーれーてーー」


 番匠は、「若いって良いねぇ」としみじみと頷いた。




 ***




「ーーで?あんたが番長か」


 これで幕引き無事解散ーーと思われたその時。話についていけない長谷川は柏木と静観を決め込んでいたが、番匠が親玉という事だけは分かったらしい。話がひと段落ついた事が分かるなり、番匠の前に立ち塞がった。


「俺は犬鷲の兄貴が舎弟、長谷川武蔵。兄貴を抱え込もうって腹なら、俺を倒してからにしろ。タイマンだ、かかってこい!!」


 そう啖呵を切る長谷川の足は、ガクガクと子鹿の様に笑っていた。


「おや、君、犬鷲君の彼女?へぇ〜犬鷲君もやるじゃないか」


「は、ハァ!?良い度胸じゃねぇか!!ヤクザの親分だか知らねぇがやる時はやる男だぞ、俺は!!」


「ヤクザじゃないよ、弁護士だよ」


「しゃぁらくせぇ!!!」


 滅茶苦茶な構えをしたかと思えば、武術も喧嘩術もなく我武者羅に突っ込んで来る。見兼ねた犬鷲は、間に入って長谷川の腕を捻り上げた。


「いい加減にしろ!!」


「いたたたた!!兄貴!!なんで止めるんすか!!」


「俺はもうそういうのはとうの昔に足を洗った!今はこの番匠弁護士先生の所でパラリーガルをやらせてもらってる!分かるか?ヤクザじゃない。真っ当に働いてるんだよ、俺は!」


「パラ…?パラパラガール!?そんな性癖が、」


「馬っ鹿!!お前、馬鹿だろ!?」


 二人の問答に、周囲は別の意味でハラハラさせられていた。長谷川の頭の出来の悪さは一級品である。悪気が一切無いというのも、問題だ。その中にあって番匠だけは、大らかな笑顔で頭に血が上っている犬鷲に声を投げる。


「犬鷲君、女の子をそんな風に扱うものじゃない。ちょっと、おつむが弱いのかもしれないけど、君を慕う子にその態度はいけないよ」


「先生!この男は妄想に留まらず先生に暴力を働こうとしたんですよ!?それなのに


 ……………女の子?」


「君は何を言ってるんだ。何処から見ても可愛いお嬢さんじゃないか」


 犬鷲は眼下にいる長谷川を見下ろした。興奮と怒りで染まった赤ら顔。尊敬する兄貴分に怒られたショックで瞳に溜まる涙。髪型と服装さえ気にしなければ、確かに女性に見えなくもーー無い。


「はせっちって女の子だったの!?」


 柏木は「嘘だろ」と叫んだ。番匠以外の者達も、あんぐりと口を開く。


「いや、俺は分かってたよ?」


「何故それを早く言わない、ポア」


「だって聞かれなかったし」


 ポアも気付いていたらしく、頭の後ろで腕を組んでなんでもないとでも言いたげな態度を取っていた。


「るっせぇ!!俺は男だ!体は女でも、心は漢なんだよォ!!」


 じたばた、と拘束から逃れようと捥がく。理解した犬鷲は、無意識の内にその手を緩めた。

 その白磁の様に白い肌、長い睫毛、薄紅色の唇。側に寄れば花の如き芳しい香りに包まれる。


「……高校時代、確かに虐められている女子生徒を助けた。学校で育てていた花を踏まれて泣いていた、あの…!?それが、お前!?う、嘘だろう…!!」


 犬鷲の脳裏には艶やかな黒髪の、大人しそうな少女が浮かび上がった。喧嘩ばかりの少年時代の、数少ない青春の一頁である。育てた花を故意に踏まれ、ぽろぽろと涙を流す女子生徒。心無い言葉をかけられ為すすべもなく俯いていた彼女に、犬鷲は声を掛けた。当時不良だと周囲から恐れられ一匹狼だった彼に、女性の慰め方が分かる筈が無い。そんな中無理矢理紡いだ言葉であったが、自分を励ます言葉に泣いていた彼女は微笑んでくれた。


「…そうですね、貴方の仰る通り、強くならなければなりませんね」


 花が綻ぶ様に笑う少女だった。あの時の少女が、こんな風になっているだなんて地獄だ。


「…そうすよ兄貴。ショボくれた面してた園芸部の根暗ヤロー。俺は、あれから兄貴に相応しい漢になる為だけに生きてきたんです」


 薔薇の様に頰に染めた少女が、まるで憧れの男性を前に告白するかの如く。

 しかしそんな少女の現在の出で立ちは、センスの悪い大きなハイビスカスの柄のアロハに細い首に似合わぬ金メッキのネックレス。親から貰った体にピアス穴を開けまくり、トドメに虎柄のパンチラのフルコンボである。こんなに嬉しくない女の子のパンチラはそうそうお目にかかれない。

 地獄だ。


「…………その直向きな思い、情熱。この番匠、気に入った。君、うちでバイトする気は無いかい?最初はお茶汲み雑用ばかりになるけど、ゆくゆくは法律を学んでも…」


「ば、番匠先生!?」


 番匠が感動してハンカチで目を覆っている。西城も長船も、馬替まで感極まってしきりに頷いている。

 地獄だ。


「…俺、あんたに酷い事ばかり考えていたって言うのに、許してくれるのか…?なんて、大きな器の親分なんだ……。分かりやした、俺、番長さんの元で精一杯やります。やらせて下さい!!」


「…この世は地獄だ」


 犬鷲がその場に崩れ落ちる。

 阿笠とポア達は哀れと思いつつもこれ以上巻き込まれない内に退散していた。




 ***




「いやぁ、人生って何が起こるか分かりませんね」


「その通りだ芝崎君。初恋の女の子が男の子になっている事もあれば、相棒が一日で辞める事案が三連続する事もあるものだ」


「え…マジ………?」


 あれから番匠は無事、海堂の弁護人として裁判へ参加する事が出来た。今の所不穏な存在も現れていないと西城から連絡があり、一先ずはこの件は落ち着きをみせた。現在はタクシーと使用した車に取り付けられたドライブレコーダーを解析し、番匠を付け狙っていた人物の割り出しと証拠探しをしている所である。


 山田と芝崎は署に戻り本来の業務を片付け、帰路に着こうとしていた。


「一体何をやったんですか。苦手な人間とも円滑な関係を築く事が第一の社会で、幾らなんでもそれはヤバいと思いませんか?」


「そうは言っても、彼等とは合わなかったのだから仕方がないだろう」


 どうせまたこの人は厨二病を爆発させて世話を焼かせたのだろう。しかし相棒を辞退させる程とは、余り考えたくない。


「大人なんですから、合う合わない関係なくやっていかないと駄目なんじゃないですか?ていうか、そういうのは先輩の方が分かってると思うんですけど………」


 何故上司に対してこんな小言を言っているのか。巫山戯ている姿ばかりが目立つ山田だが、感も良く仕事の出来る男である。課長にも一目置かれ、沼谷というエリート刑事にも敵対心を抱かれている程だ。最悪の事態を考えた時に番匠を無事に保護する自信があると発言すらしていた。

 そんな事くらい常識としてやっていけるだけのコミュニケーション能力がある様に見えるのに、芝崎は不思議でならなかった。それとも買い被り過ぎなのだろうか。


「おっと、電話だ」


「ちょっと先輩…」


 山田のスマートフォンが震える。通話ボタンを押すと、最早耳に馴染んだ声が聞こえて来る。山田は、嬉しそうに頰を綻ばせた。


「なんだ、阿笠さんか…なんか、阿笠さんと山田さんの方が相棒同士みたい」


 山田は何かあれば阿笠に頼っている様に見える。阿笠もまた、なんだかんだで山田を信頼している様に見えた。幼馴染同士ならそういうものなのだろうか。彼等と出会って日の浅い芝崎には分からない胸中だ。


「………うん。…うん。そうだったのか。それは大変だったな。でも良い子そうじゃないか、柏木くん」


 この上司の人間関係がいまいち上手く行っていないのは、そんなに病気が過ぎるからなのだろうか。それとも、他に何かあるのだろうか。阿笠なら、それを知っているだろうか?


「………ん?ああ、今からご飯?勿論構わないよ。芝崎君も一緒でも良い?」


「それは困る。今日はお前と一緒に一夜を共にしたい……太郎、」


「…ちょっと芝崎君、変なアテレコやめてくれる?…あ、いやこっちの話。はいはい、じゃあ後で」


 通話ボタンを切る。山田は芝崎を睨んだ。


「…そういうチャチャは、良くないぞ」


「最近分かってきましたけど、めちゃくちゃ仲良しじゃないですか。腐女子の餌食になって当然だと思いませんか?」


「全く思わん」


 そういうところだぞ、と言われて芝崎は肩を竦めた。別に誰彼構わずカップリングをしている訳ではない。

 そんな事よりも、先程の通話の内容が気になった。


「冗談は兎も角…阿笠さん、食事に誘ってくれたんですか?珍しい」


「何時もは私からだからな…今回は巻き込んだお詫びに奢れ、だとさ」


「それなら、阿笠さんらしいです」


「君も行くぞ」


 芝崎は山田の車に同乗させてもらう。何度目かになる高級車の香りと座り心地は未だ慣れず緊張するが、オーディオから流れるアニメソングが安心感を抱かせてくれていた。

 耳を傾けていると、愛してやまない声優の歌声が聞こえてくる。アニメ版『うたの騎士(ナイト)さま♪』のオープニングであった。ひょっとして、この作品が好きな事を話したから入れてくれたのだろうか。意外に思い、訊ねようとする。


「ーーあそこだ、あの居酒屋だ」


 ーー芝崎が言葉を発する前に、山田がハンドルから片手を離し指を指す。


「ああ、阿笠さん、もう待ってますね」


 店の前にはスマートフォンを見つめる神経質そうな男が居た。此方の車には気付いていない様で、視線は画面に注がれたままだ。


「……ポアくんも、一緒だな」


 阿笠の画面を覗き込む派手なファッションをした青年。愛嬌のある幼い顔をした、丸井探偵事務所の名物探偵。

 二人は何がそんなに面白いのか、頭を寄せ合って何か言葉を交わしていた。その姿は兄弟の様にも、親子の様にも見えなくもない。


「ポアくんって、一体何者なんですか?」


 芝崎の唐突な質問に、山田は一瞬言葉を詰まらせた。だが直ぐに口元に微笑を浮かべて、芝崎に視線を向ける。


「君は、()()とは違う人間だ。そうだね」


「は……?」


 何の同意を求められているのか、彼女には分からなかった。『あれ』とは『ポア』の事か。それとも話の流れに関係なく、誰か別の。

 山田は返事が返ってこない事に関心は無いらしく、違う言葉を重ねた。


「マリエンヌよ。今宵は闇に浮かびし満月を讃える為の饗宴(きょうえん)…遠慮は要らん、存分に英気を養うのだ」


「………ご馳走様です?」


 駐車場に車を停め、外に出る。阿笠とポアは二人に気が付いた様で此方に歩いて来た。


 芝崎は空を見上げた。満月など浮かんではいない。


「ごっちっそ!山田さんの奢り〜〜ウェイウェイ!!」


 飲むぞ〜!と張り切るポアと呆れ返る阿笠。間に入って痛々しい発言を連発させる山田。




 三人の後ろ姿を、芝崎は後から追いかけた。





リーガル・エンペラー編 完


今回は殺人事件ではなく誘拐事件でした。登場人物が多く覚えきれないかと思いますが、基本はいつもの四人の名前だけ覚えていて下されば問題無いですたぶん。


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