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パリピ探偵ポア  作者: 吉良 瞳
10/50

【914:し】女子会





 今日は久しぶりの休日。平日休みで友人達となかなか予定が合わない中、運良く都合が付いた。私は普段より少しだけ遅く起床し、出掛ける準備をし始めた。堅苦しいスーツはハンガーに掛け、白のシフォンのロングスカートを履いてセーラー襟のトップスを着る。髪はシュシュで緩くまとめて、ちゃちゃっとお化粧を施せば出来上がり。鏡の前でくるりと回って可笑しな所が無いか確認してから、家を出た。

 向かう先は両町のカフェ。スイーツがメインだが、パスタやピザなど洋食も提供している、お洒落な佇まいの店だ。判沢市両町と横町ストリートの交差点より南に下った細い路地を進むと、行き止まりだが開けた場所に辿り着く。そのちょうど行き止まりとなる場所に目的の店『林檎の森』はあった。


「いらっしゃいませ。一名様でしょうか?」


「いえ、友人と待ち合わせで…」


『きらきら輝く今時の女子』と形容するに相応しい女性店員に声をかけられる。こういった人物と会話をするのは少し苦手だ。刑事という職業柄、どんな人とも物怖じせず話さなければならない。当面の目標だ。


「眞理ちゃん、こっちですよ」


 店内を見渡すと、既に友人二人の姿があった。壁際のソファー席に座り、優雅に手を振っていた。


「あ、彼処です」


「そ、そうでしたか。では後程メニューをお持ちいたしますね」


 笑顔の眩しい女性店員の笑顔が、一瞬固まるのが分かった。無理も無い。渇いた笑い声で彼女を見送り、席へ向かった。


「おつかれー、眞理」


「もう、遅いですよ。…て、私が早く来過ぎちゃったんですけどね」


「あはは…お待たせしました」


 私は気怠げな声で挨拶をしている方の友の隣に腰を下ろした。通路側の、一番店の出入口に近い席だ。


「こうして三人で集まるのも久しぶりね。去年の冬のイベント以来かしら?」


「そうだな。連絡はよくしてるから、そんなに久しぶりって感じもしないけど」


 今時珍しく“てよだわ言葉”を話す壁際の席に座る女性の名は、西 聖(にし ひじり)。鳶色の髪を高い位置でツインテールにし、それを螺旋を描く様にくるくると巻いている。様々な種類のレースをふんだんにあしらったピンク色のジャンパースカートに、丸襟のブラウス。頭には大きなリボンを付けていた。この説明から分かる通り、彼女は“ロリィタ”と呼ばれる人種の人間である。うふふと嫋やかに笑うその指には、ショートケーキの大きな指輪が嵌められていた。…邪魔ではないんだろうか。


 そしてもう一人は仁井田 朱子(にいだ あかこ)。此方は私の高校時代の同級生で、メンズライクな服装の似合う美人さんだ。ランダム巻きの漆黒の髪。デニムのジャケットに、Vネックの黒のカットソー、そしてぴったりとしたカーキ色のスキニーを合わせている。大きく開いた胸元からはたわわな果実が溢れんばかりで、ボーイッシュな服装が逆に女らしさを上げている。

 私は自分のぺたんこな胸部と比較して憂鬱になった。


 ……そう、あの女性店員さんの態度の理由ーー。

 それは、服装も見た目もてんでばらばらであるからだ。今し方も、メニューを渡し乍ら私含む三人を見渡していた。


「それにしても、聖さんのお洋服。いつ見ても可愛いですね」


「有難う。私もお気に入りなの。『アンジェリーク・プリンセス』の新作の『うさちゃんのホイップパーティ』っていう名前のお洋服なの。スカートの裾の部分に生クリームを絞るうさちゃんがプリントされているでしょう?それから、胸元のリボンの下のボタンがハート型になっているのよ。もう一目惚れしちゃった!」


「そうなんですか」


 聖さんのお陰で、ロリィタなお洋服には何もメルヘンな名前が付いている事を知った。お人形の着る洋服みたいでそれはそれは愛らしいが、人間用の服にするには過剰装飾である。似合う人が極めて限定されてしまう。それを着こなす聖さんは強者だ。幼い頃の私が彼女を見たら、絵本から飛び出して来たお姫様だと本気で信じたかもしれない。


「それにひきかえ、なんだよ眞理。その格好。…服が悪いとは言わないが、顔と合ってないぞ」


「朱子ちゃんったら、もっとオブラートに包まなきゃ駄目よ。眞理ちゃん、似合ってない訳じゃないわ。ただ服と顔が喧嘩してるの」


「どっちもどっちじゃないですか…」


 聖さんはまず私のメイクを指摘してきた。スーツの時とほぼ同じメイクで、茶色のアイシャドウにピンクのリップ。何処が悪いのかと問えば呆れられてしまった。朱子も「駄目だこりゃ」と溜息を吐いた。…酷すぎる。


「別に普段と同じシャドウでも良いけど、アイラインくらい引いたらどうなんだ?それに、アイブロウも適当だし。リップの色も薄過ぎる。後ファンデーションはちゃんと付けてるのか?これならすっぴんの方がましだ」


「そうねえ、とりあえず“ちゃちゃっと”やりましたって感じね」


 …返す言葉も無い。出掛ける前に、五分で完成させたメイクである。しかし真剣に化粧をしたとして、アイラインなど時間がかかるばかりで綺麗に書けないのだ。眉毛も自前のをきちんと残しているから書く必要性を感じないし、派手なリップこそ自分には似合わない気がする。


「…ファンデだけはちゃんと塗ってます」


「はあ〜〜」


 お前女に生まれて何年目だよ、と朱子の鋭い吊り目が私を睨む。そんな事を言われても、社会人になって初めて化粧なるものをしたのだから勘弁して欲しい。中学高校はそもそもメイクは禁止であったし、警察学校では訓練訓練、また訓練で女を磨く余地などあろう筈も無い。どちらかといえば男子力の方が付いている気がする。…男子力とは、何ぞや。


「これだから『チャーミングファーム』のガーリーなお洋服にすっぴんブスは腐女子って言われるんだぞ。他のお洒落に気を使ってる腐女子に謝れ。チャーミングファームに謝れ。」


「私もう怒っていいよね?」


 私が着ているお洋服は、彼女の言う通り『チャーミングファーム』というファッションブランドのものである。慎まやかでお上品なデザインで愛らしいのに、そのお値段はリーズナブル。二次元にお金を全力投資したいが女は捨てたくない、という我儘なオタクな女性の強い味方なのである。


「…腐女子だけじゃなく女オタクって、如何して可愛いお洋服を着ても自分の顔は可愛くしないのかしら。そんな汚い顔面晒すならフリルやリボンを付けちゃ駄目よ。Tシャツにジーパンで十分だわ」


「聖さん。そういう事言うとまた炎上しますよ」


「あらいやだわ」


 可愛くしないのではない。出来ないのである。若しくは気が回らない。可愛い服を着たいだけ。そんな所だ。美人な朱子と可愛い聖さんには理解出来まい。女オタクで腐女子の私が代表してここに宣言しておく。

 因みに、女オタクと腐女子の違いは、前者はアニメや漫画が純粋に好きな女性、後者は同性愛作品を好む女性の事である。同義扱いされがちだが、全くの別物だ。……ところで、彼女のその意見だと私は汚い顔を晒している女という事になるのだろうか。



「ほんと、残念よね。眞理ちゃんは元は良いのに」


「………あの、そろそろ注文を……」


 ーー店員さんが、申し訳無さそうに声を掛けてきた。そういえば、私の見た目の話から盛り上がっていて何も頼んでいない。


「アフターヌーンティーを三人分。お紅茶はダージリン、ポットの茶葉は抜いておいて下さいな」


「畏まりました」


 聖さんが代表して注文をしてくれる。

 この店の一番人気は、アフターヌーンティーセットだ。自家製の焼きたてのスコーンにミニサイズのケーキ、サンドウィッチがケーキスタンドに美しく盛られる。それからポットに入った紅茶が各種あるフレーバーの中から選択することが出来る。女子会には持ってこいのメニューである。


「…それにしても、二人共見た目が凄いからフェスで会った時吃驚したなぁ。この人達本当に私と同じオタクなの!?って。」


 ーー二人と出会ったのは、一昨年の地元のアニソンフェスだ。

 高校時代、朱子とは顔見知りではあったが仲良しのグループが別で、別段親しくした事は無かった。私はオタクの女子達のグループに所属しており、彼女はクラスの中心で騒いでいる様なリア充のグループに居た。アニソンフェスで再会した時は、気合の入ったギャル服にハイヒールの女が悪目立ちしてるなあ、と思い直ぐに気がつく事が出来なかった。


「あれが私のオタクデビューだったからな。何気なく見たアニメに初めてハマって、その主題歌を歌ってるアーティストが地元のフェスに出るって言うから参加したんだ」


「ギャル服の女の人が色んな人に声掛けようとして避けられてるから、勇気を出して話しかけたのが始まりって訳」


「ギャル服じゃない。『ヴェルマーチ』だ。私の勝負服」


「………汗を掻くフェスでヴェルマーチなんて……俄かにも程があるわね」


『ヴェルマーチ』はハイブランドのお洋服だ。一着十万以上はするらしい。聖さんとはそのフェスの終わりにオフ会で会った為、彼女はその時の出来事は知らない。聖さんにもあの時の事を知って貰おうと、何があったのか話した。


「会場で大事な“スズメくん”のラバストを落としちゃって、見かけなかったかって聞こうとしてたんだよ。それなのにオタク共ときたら、シカトしやがるから…」


 ラバストとは、ゴム素材のストラップの事である。

 朱子はチッ、と眉間に皺を寄せ乍ら運ばれて来たスコーンを頬張った。


「ヴェルマーチの場違い女なんて誰でも関わりたく無いって」


「でも眞理は話しかけてくれただろ。一緒に探してくれて、スズメくんを見つけてくれた。」


 スズメくんとは、朱子が二次元の扉を開くきっかけとなったアニメの登場人物だ。元は少年誌の漫画で、一匹狼で人と群れる事を嫌うが、主人公がピンチな時は共同戦線を貼ってくれるミステリアスな少年だ。キャラクター人気投票で一位になった事もある大人気ぶりである。…因みに朱子は同担拒否だ。


「だって、私が声掛けたら朱子ったら泣きそうな顔するんだもん。絶対見つけてあげなきゃと思って。……今でもスズメくん、好きなの?」


「当たり前だろ。スズメくん程クールな男はいない。」


 その後、御礼を言う彼女に私の名前を呼ばれて、漸くかつての同級生だと知った。聖さんは微笑ましそうに私達二人を見ていた。


「そんな事があったのねぇ。それで、眞理ちゃんが朱子ちゃんをオフ会に誘ったのね。アニメが好きなロリィタは時々居るけれど、貴女みたいなタイプは初めてだったから私も吃驚したのよ。」


 朱子はアニソンフェスで絶大な存在感を放っていた。聖さんもなかなかだが、それを上回る“ヤバさ”であった。

 そんな縁があって、私達は全員地元という事もあって時々一緒に遊んだり、他のイベントに参加する様になった。当然朱子にはヴェルマーチで来るのをやめさせ、お姫様と騎士と下女のトリオとなった。言わずもがなお姫様が聖さんで騎士が朱子、下女が私である。誰かさんの言う『聖女』などとんでもない。


「ーー話は変わるのだけれど、今年から眞理ちゃんは刑事さんになったんでしょ?

 お仕事は順調?」


 しみじみ過去を思い返していると、聖さんが話題を変えてきた。


「そうだ、今日はその話を聞こうと思ってたんだよ。どうなんだ、眞理」


 朱子も同調して私を見た。実は、社会人としての経歴は二人の方が先輩だ。私は大学を卒業してから採用試験を受け、警察学校へ行った。やっと交番勤務となった頃、既に彼女達は就職して働いていた。


「うん、なんとか上手くやってるよ。相棒になった上司がちょっと変な人だけど…」


 本当はちょっとどころではない。私は山田先輩の煩い笑顔を思い出して苦笑いをした。


「本当に大丈夫?パワハラとかされてない?」


 二人は私がオタ活を最小限にまで切り詰めてまで捜査一課へ行こうとしていた事を知っている。折角念願叶ったのに、酷い目に遭わされていないかと気を揉んでくれている。


「全然!基本的には良い人だし。…ただ、厨二病が過ぎるだけで…」


「なんだうちらの仲間か」


 心配そうな視線が一瞬にして消え失せた。むしろ親近感が湧いた様で、あれこれ質問が飛んでくる。特に聖さんが、かなりの勢いでがっついてきた。


「どんな人?何歳?見た目は?格好良い??その上司さんについて詳しく!!!」


「ちょっと聖さん……。ええと、どんな人って、賑やかな先輩ですよ。かなり残念だけど。歳はちゃんと聞いた事ありませんけど、三十五くらいかな?格好良いかは……ど、どうなんだろう?」


 山田先輩は、別に不細工ではない。かといってイケメンだと言うのも可笑しな気がする。私におじさん属性は無いのでイケオジという感性もよく分からない。ただスタイルは良い方だと思うし、無駄に足が長い。隣に居るとよく良い匂いがする。厨二病の癖に香水でも使っているんだろうか。


「ふんふん。それで?眞理ちゃんはその先輩と恋に落ちたりしないの?」


「ぶっ!!!」


 聖さんは両手で頬杖をついて、にこにこと笑っている。私は予想だにしなかった言葉に、口に含み掛けたダージリンで噎せた。


「…大丈夫か?眞理」


 朱子が紙布巾を渡してくれる。


「…うん。ごめん」


「で?どうなんだ。その先輩刑事さんとは」


「朱子まで何言ってるの!?」


 二人して一体何を訳の分からない事を。先輩と私は一回りもふた回りも年齢差がある。…十歳差ぐらいだろうか。恋愛対象になる筈が無い。


「あら、恋に年齢なんて関係無いわ。それに相棒同士の二人が恋に落ちるシチュエーションって沢山あるじゃない。」


「それってホモの話じゃ…」


「よく知らないけど、少女漫画でもありそうじゃない?」


 それにしたって、フィクションでの事だ。ノンフィクションでそんな事は滅多に無い。


「女の刑事って少ないんだろ。ハーレムじゃん。その先輩じゃなくても、良い人居ないのか?」


 二次元の中の刑事しか知らない人達の発言だ。思わずげんなりとしてしまった。朱子は女オタクなので同性愛は特別好まないが、乙女ゲームは数多くやっているらしい。聖さんはボーイズラブもガールズラブも嗜む、筋金入りの腐女子だ。何れにせよタチが悪い。

 …というか、いつから恋バナになったのだろう。


「いないよ。おじさんばっかりだし。同期の人も、みんな年上だよ。多分私が一番年下」


「………その歳で捜査一課って、眞理って凄かったんだな」


「年上の彼氏、素敵だと思うんだけれどねぇ…」


 年下が好みかと言われればそういう訳でも無い。ただ、捜査一課の人達は年上過ぎるか、怖いかで恋愛対象として考えられない。…小林刑事はまだ歳が近く優しいが、守備範囲外である。


「今は二次元に夢中なので、リアルの彼氏は別に…」


「そんなの駄目よ。その歳で初恋もまだなのは不味いわ」


「だな。このままだと魔法使い、いや魔女になるぞ」


 …私が初恋もまだな事を、如何して二人は知っているのだろう。そんな話はした覚えが無い。不思議そうな顔をしていると、朱子に白い目で見られた。


「……芋女のお前に、彼氏が居たとは思えない」


「酷い!……事実だけどさぁ……」


 朱子にも、聖さんにも恋愛経験はある。故訳あって二人にも彼氏はいないが、これまでに様々な恋をしてきたらしい。以前恋バナになった際、私は影を薄くして二人の話を聞いていた。


「眞理ちゃん。まずは、ちょっとでも良いなぁと思った男の人には唾をつけておくのよ。それで付き合ってみて駄目だったらお別れすれば良いんだから。」


「そんな簡単に言いますけどね、」


「簡単では無いわ。だって私も未だに王子様に出会えて居ないんだもの。」


 王子様て。

 実は聖さんは私と朱子より年上である。


「……分かってはいるのよ。本当は王子様なんて居ないって。でも、ついもしかしたらと思ってしまうのよ。……妥協は出来ないから、何時もお別れしてしまうのだけれどね。

 私はそれで生涯孤独でも後悔しない。優しいだけのつまらない男と一緒になるくらいなら可愛いお洋服を着て勝手気儘に生きたいわ。

 ーーでも、眞理ちゃんは一度も恋をしなくて、後悔しないと言える?」


 聖さんの言葉には、経験者の重みがあった。私だって、恋愛に憧れはある。ただ、そんなときめきが無いだけで。


「そうだぞ、眞理。色んな男と出会って出会って、もう限界だと思うまでリアルの彼氏はいらないなんて言っちゃ駄目だ。

 私なんか、今まで付き合った男みんな犯罪歴のある奴かムショ行きだぞ!?分かるか、この絶望が。お前も絶望を味わってから二次元の旦那とガチ恋しろ」


「朱子さんや、ちょっと途中から何を言っているのか分からない」


 朱子の目の光が消え失せる。…過去の男達を思い出しているのだろうか。

 彼女はとことん男運が無く、『二次元の男は裏切らない』と言って女オタクを極めだした過去を持つ女だ。正直、こうはなりたくない。


「兎に角っ!私達全員フリーなんだから、今度一緒に合コンに行きましょうよ。…朱子ちゃん、そんな顔しないで。身元確かな人を連れて来るから。眞理ちゃんも!出会いの場に行かないといつまで経っても彼氏出来ないわよ!見た目は私が何とかしてあげるから。ねっ!!」


 聖さんの提案に、私と朱子は渋面を作った。朱子は二次元の旦那ーースズメくんにガチ恋しているらしく、もう現実の男性と向き合うつもりは無いらしい。朱子は感情を悟らせない真顔でティーカップを置き神妙な雰囲気で口を開いた。


「…知ってるか?犯罪を犯す人間がクズばかりとは限らない。身元なんて関係無いんだ、どんな奴でもやる時はやる。つまり私と付き合うイコール犯罪者になるという事なんだ」


「さっきから言う事が支離滅裂だけど大丈夫?」


「心配される事なんて何もないぞ。何もかも、大丈夫に決まってる。…眞理、お前は聖さんと行ってこい」


 この女は自分の事は棚に上げて私には行けと勧めて来る。喪女の私が合コンだなんて、幾ら何でもハードルが高過ぎる。


「いや…そういうリア充みたいな集まりは苦手だし…」


「もう、二人ったら!貴女達に勧める男性よ?遊び人みたいな人を呼ぶ訳無いじゃない。それに、自分の所為で犯罪者になるだなんて朱子ちゃんのソレは傲慢って言うのよ!」


 ぷんぷん!と効果音でもつきそうな可愛らしい怒り顔で私達を睨みつける。…正直、童顔な聖さんに睨まれた所でちっとも怖くない。そういう趣味の人からすればむしろご褒美である。


「…それで、聖さんが集めてくれる男性って、どういう人達なんですか?」


 一応、話は聞いてあげる事にする。頭ごなしに行かないというのも失礼だと思ったからだ。聖さんは握りしめた両拳をぶんぶん振り回すのをぴたりと辞め、私が興味を示してくれたのかと思ったのかずいっと顔を此方に近付けてきた。…なんて綺麗な肌なんだろう。毛穴が無い。


「それはね、私の仕事先のお友達にお願いしようと思ってるんだけどね」


「あ、嫌な予感してきた」


 聖さんの口から出る職業の男性に思いを馳せる。それなら、遊び人では無いだろうし、朱子の懸念する犯罪に手を染める可能性も低いかもしれない。


「………やっぱりやめておきましょう」


 私は「そんなあ」とがっかり肩を落とす聖さんに、「今は仕事が恋人ですから」と男が口にする様な言い訳をしてこの場を逃れる事にした。




 ***




「はあ〜久々にお喋り出来て楽しかったわ。あ、でも、合コンはまだ諦めてませんからねっ!」


「はいはい。頑張れよ、眞理」


「何で私だけ!?」


 アフターヌーンティーを楽しんで店を出ると、日が傾きかけていた。この後はカラオケに行くか、横町ストリートにあるアニマートへ行くか。ゆるゆると三人で歩いていると、髪を明るく染めた男性達が私達に声を掛けてきた。一人は耳や口元にピアスをつけ、もう一人は顔に大きなサングラス、更にもう一人は日焼けサロンにでも通っているのかというような色黒で、全員頭の悪そうな顔をしていた。私達の敵対部隊『チャラ男』である。


「こんにちわ〜お姉さん達。みんな可愛いね。俺達もちょうど三人だし、これから一緒に遊ばない?」


 ーーこれがナンパというやつか。何と軽薄な誘い文句だろう。私が断ろうとするより先に、聖さんが「申し訳ありませんが、お断り致します」と笑顔で言ってのけた。強い。


「ええ〜!そんな事言わないでよ。君の格好、ゴスロリって言うんでしょ、マジヤバい。ねえ、ちょっとだけで良いからさ」


「ゴスロリでは無く、ロリィタですわ。ピンクにフリルのお洋服の何処にゴシックの要素があるというのかしら」


 ロリィタの精神が間違いを許せないのか、そんな場違いな訂正をしてチャラ男達を笑わせる。その様子に朱子がイライラしたのか、私達の前に出てメンチを切った。こういう時は陽キャで元リア充の朱子に頼るに限る。


「行かねえ、って言ってんだろうが。通行の邪魔だ。退いてくれる」


「おーおー勇ましいねーちゃんだなぁ!俺結構タイプかも」


「おめーマジかよ〜!!ヒュ〜〜!」


 何が面白いのか、男達が盛り上がり出した。無視しようにも、道に横並びになられては相手にせざるを得ない。男達は朱子の胸や聖さんの華奢な足にじろじろと厭らしい視線を送っていた。


「俺このギャル子ちゃんね!」


「じゃあ俺はゴスロリちゃん〜」


「おいちょっと待てよ、俺はあの子かよ〜」


 一緒に行くとは一言も言っていないのに、無理にでも連れ出そうとする勢いである。サングラスの男が私の相手をするのは嫌らしく、変わってくれとゴネていた。…そりゃあ、二人の方が美人で愛らしいけれども…。なんだか遣る瀬無い。


「おい…言わせておけば。眞理、今すぐこいつらを強要罪と名誉毀損で逮捕しろ!しろったらしろ!」


「…そうね。これ以上しつこいとなると、此方にもやり方というものがあります」


 私が二人の後ろで黙っていると、聖さんと朱子が男達の前に引っ張ってきた。


「えっ!?な、何するの!?」


「逮捕ってお姉さん達何言ってるの?」


「一緒に遊ぼうって言ってるだけじゃーん」


「そうだよね?おねーさん?」


 あろう事か私に同意を求めて来る男達。冴えない私に逆らう術が無いと思っているのか、完全に舐め切った態度だ。


「そんな態度で良いのかよ!ウチの眞理は刑事なんだぞ!」


 朱子が勝手に私の身分を明かしてしまう。どういうつもりなのかと思えば、私で彼等を脅すつもりだったのか。


「そうそう。更に言えば朱子ちゃんは刑務官。檻の外から見下されるのがご趣味かしら?」


「え〜嫌だよ。囚人になっても口説かれるとか勘弁して欲しいね。その点聖さんは良いよな、死人に口無しってな」


「嫌に決まってるじゃない。こんな達の死に化粧をするなんて」


「…は?」


 …後半、何の話をしているのか私にもよく分からなかった。だが事実として、仁井田 朱子は刑務官、西 聖は納棺師である。人呼んで『絶対に関わり合いたくない女三人衆』。又の名を『獄中死コースで出会う三人娘』。今私が考えた。


「な、何をふざけた冗談を…」


「なあ?」とピアスをした男が問いかけると、サングラスの男も色黒もけらけらと笑い始めた。しかし、その声に先程までの威勢は無い。


「…ふざけてなんかいません。…兎に角、これ以上しつこいなら、本当に逮捕しますけど」


 私は溜息を吐いた。本当はこんな事で出したくは無かったが、鞄の中から警察手帳を取り出しチラつかせてみせた。


「う、嘘だろ」


「こいつらヤベェぞ!逃げろ!」


 警察手帳が決め手となって、青褪めた男達は慌てて両町の人混みに消えていった。流石に刑事と刑務官と納棺師を垂らし込む勇猛は無いらしい。


「はあ…権力の横暴……」


 実際、あの程度で逮捕など出来る筈が無い。向こうの頭が残念で助かった。もっと上手く対応出来れば良かったのだろうが、難しいものである。


「有難う眞理ちゃん。助かったわ」


「流石眞理。刑事って便利だな」


「別に私は何も…って、朱子、そういう使い方するの勘弁して欲しいんだけど」


 尊敬の眼差しで私を見るが、私は全く得意になれない。男達に全く相手にされなかったのが、地味に傷付いた。


「………。聖さん。私、やっぱり合コン行こうかなあ。ちゃんと綺麗にしてくれるなら、だけど」


「本当に!?」


 唐突な私の言葉に、聖さんは表情を明るくした。


「……だって“お坊さん”が相手なら、こんな気持ちにはならないだろうし…荒んだ心を癒して欲しい……」


 聖さんがセッティングしようとしている男性とは。

 ーー僧侶である。


「でもあれだろ、もし嫁になったら寺の事とかしないといけないんじゃ?そしたら刑事の仕事は辞めないといけないんじゃ…」


「…それは困る」


「まあまあ、会ってみるくらいは良いじゃないの」


 私達は(かしま)しくお喋りをし、仕事への英気を養った。明日からはまた忙しい。

 あんな男達の事など忘れて、私は残りの貴重な休日を全力で楽しむ事にした。




登場人物達の主義主張は特定の誰かを否定するものではありません。

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