其の6 謎の人斬り
武角たちは其の後、全員。旅籠屋に集まった。
「銀次と柾は?」武角はおもむろに聞いた。
「死にました。遺体は新撰組が発見し、此れから我らを処に来ます」
「新撰組か・・やっかいだな。死んだ仲間のために黙祷をしよう」
「皆、済まぬな。で、土佐浪人達と共に居る剣客のことは解ったか?」
「はい、武角さま。俺たちも怪しい人物と睨んでます。間違いなく人斬りですよ」
「以蔵の代わりか?」
「違います。奴は長州(現山口県)の者・・・と云うか、桂小五郎が中岡に暫く預かってもらう様、頼んだ・・・・との事なんですが・・・」
「との事なんですが?」
「目的がどうも善く解らないんです。それと・・・」
「長州人は長州成敗で地元に隔離されている。奴なら顔も知れていない・・・しかし、何故?長州が人斬りを?・・・それと?」
「土佐の者達から一切、奴の話が出ないんです」
「朝も一緒に居たのにか?」
「どうもよく解りません」
「奴は人斬りや志士の眼とは違う」
「魔の匂いがプンプンします」
「そうだな。毛利殿とは随意だ。長州に飛んで、情報を仕入れたいが無理だな。我らで探ろう」
「武角さま、毛利は戦国時代、出雲も制覇していたんですよね?」
「うむ。毛利元就が一度、攻めて来たよ。出雲の尼子氏が我々に助けを求めて来てな。元就は仲間だと思ったようだ」
「で?」
「尼子氏と我々は何の関係も無い。だが、数万の兵を寄越したな。数時間の戦で生き残った兵たちが逃げた」
「そんな話、聞いたことがありませんよ」
「我々の戦い方が、此の世の者たちでは無い・・・と元就は悟ったようだ。後日、彼が1人で訪ねて来た」
「も、毛利元就が?ひ、一人で?!」
「我々に帰依したんだ。島根の石見銀山の側に豊栄神社と云うものがあってな。其処に元就の木像がある。最近になって視付かったらしいが、帰依の印だよ」
「そんな闇の歴史が・・・・」
「其の後、関ヶ原で出雲藩などと外様大名が転封されて来て、毛利は今の土地に追いやられたんだ」
「今も帰依しているんですか?」
「うむ」
どんどん!
急いで階段を上がる音がした。主人だ。
「薬屋さん、お仲間が殺されたそうで、お悔やみを申し上げます」
「ご主人。忝ない」
「今、下にあなた方を訪ねて、お侍が来てます」
「新撰組かい?」
「いえ、なんか不気味なお侍です。それも1人で来て・・・ありゃ、人斬りですよ。もしかしてあれが犯人?」
「なんだと!」
「薬屋さんたち、何をしたんですか?人斬りだの、新撰組だの。迷惑なんだよ、あんたたち。出てってくれないかい?!
「俺たちは何もしてないさ。こっちが被害者だよ」
「斬り捨て御免・・・ですかい?」
「1人で来やがった・・・とにかく、下に行こう」
「薬屋さん、何を云ってるんです?殺し屋ですよ!新撰組が事情聴取に来るんでしょう?彼らにまかせれば・・・」
「主人、新撰組が搗ち合ったら、斬り合いになる。・・・新撰組が皆殺しにされる・・・」
「はあ?」
辻の向こうから呼ぶ声がした。視ると朝の怪しい剣客が立っていた。
「須佐だな」
「貴様・・・・何故、我らを知ってる?」
「剣を抜け」
「せっかちだな。こんな場所で戦うつもりか?」
「人気の無い山の方へ行くか?」
「よかろう」
「取り巻き、お前らも来たきゃ来い」
「佐助、お前だけで善い」
「はい」
3人で無言で歩いて行った。
「おい、あいつら・・・・」
其れを旅籠の側まで来た、新撰組が視ていた。
「土方さん」
「1人、何者だ?ありゃ。人斬りだな。追え!」
土方ら8人程が後を追った。
「ありゃ、人気の無い場所で斬り合いをするぞ。会津殿から手を出すな、と云われたが・・・須佐め、やはり剣客、忍びだな」
「土方さん、須佐の2人は丸腰ですよ」
「こないだも手裏剣を出したろう?何処かに隠し持ってやがるんだ。絡繰り術を使うからな」
人気の無い山間に来た。
新撰組は木や岩の陰に隠れて伺っている。
「長州の人斬り、名を聞こう」
「やかましい!」
いきなり斬り掛かって来た。
2人が避けると土の中から人のものでは無い手が2人の足を掴んだ。
武角と佐助は空から刀を出し、其の手を薙ぎ斬った。
「貴様、長州の人斬りとは嘘だな?物の怪だな」
ずあああああああああーーーーー!!!!!!
人斬りの背中から牙の生えた蛇が数匹出て来た。蛇では無い。大蛇だ。
「ま、まさか?ヤタ(八岐大蛇~やまたのおろち)か?」
其れを視ていた新撰組が、腰を抜かした。
「な、何だ!?!あれは?」
「ふ、副長!ば、化け物です!」
「く、糞!須佐に加勢しろ!」
わーーーーーっと新撰組が刀を手に持ち、駆け込んで来た。
「よせ!出るな!土方!」
武角は叫んだが、次の瞬間、惨状になった。