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須佐妖戦帖 第5章「幕末逢魔乱」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の20 大政奉還

其の騒動を聞き、会津藩100名と新撰組がやって来た。主人はあわあわと未だ、玄関先で腰を抜かしている。2階だ。新撰組と会津兵数名が駆け上がって行った。其の他は旅籠を囲んだ。

部屋はガラクタ同然だ。窓も無い。血吹雪である。


「須佐殿!無事ですか?」

「1人、斬られた。介護を頼みます」

「奴らは?」

「もう、逃げた」

「須佐!何があった?犯人の顔を視たか?」

「土方さん、近藤さん・・・覆面をしていた・・わからない」

「何故?あんたらが狙われる?人世の魔の一派か?」

「そんな者は居ない」

武角は薩摩の名を出さなかった。

須佐たちは手当を受けるため、階下に降りた。


「近藤さん・・・」土方は思った。

「最近、須佐たちは、土佐藩邸に出入りしていた。何か関係があるに違いない」

「トシ、何か裏でとんでもないことが起きているか?」

「うむ、薩長は須佐を神の如く崇めている。土佐に須佐とは無関係だった。其れが何故、最近、土佐と随意になっている?」

「犯人の目星は付くか?」

「混沌とした世だ。一時いっとき前は同志でも、一時後は敵と云う世の中じゃないか」

土方はあまりにも不自然は状況を察した。

「須佐たちの力があれば、暗殺集団を皆殺しにするなど、わけが無い筈・・・何故、全員、逃がした?新八、此の騒動の裏を調べろ」

「わかりました」


若日子わかひこは何をしている?・・・」武角は、ふと思った。

半年ほど、動きが無い。

「奴が何か関与しているのか?いや、此れは世の中の動向だ。・・・半次郎は(土佐と何を企む?)と云った。・・・どんどん混沌として行く。坂本の案を中心に・・・」


9月中旬、土佐から密書を携えて、谷が船で京に来ると連絡が入った。

象二郎が龍馬に伝えた。「龍馬、谷が京・薩摩藩邸に来る。お前はどうする?」

「谷は建白書を持って来るんだろう?」

「其れしか無い」

「やったな、象二郎」


たに 干城たてき

天保8年2月12日(1837年3月18日)ー明治44年(1911年5月13日)

土佐藩士、明治後、軍人、政治家。

1859年、江戸に出て安井息軒に学んだ。其の後、土佐に帰国して藩校・致道館で史学助教授となった。このとき、武市半平太と知り合い友人となり、尊王攘夷運動に傾倒する。しかし1866年、藩命で長崎を視察したとき、ここで後藤象二郎や坂本龍馬と交わって、攘夷の不可なるを悟り、次第に倒幕へ傾いていった。

龍馬暗殺に怒り、暗殺犯を新撰組と決め込み、近藤勇、捕拿ほだ後に板橋刑場にて熾烈しれつな拷問を行った。


「中岡が京に来る云うだ」

「慎太郎か。奴はどうだ?」

「わしの案に怒っているそうじゃき」


其の後、京土佐藩邸に建白書を携えて、谷が着くと皆が緊張した。「容堂公が大政奉還に賛成したとは・・・信じられない」

「視ろ、殿の名が刻まれている・・・」

龍馬たち、社中の者達は「ふん!」と馬鹿にした。

建白書は後日、土佐藩主・山内容堂の名で二条城に出された。


10月3日 土佐藩主山内豊範(容堂)、「大政奉還」の建白書を徳川慶喜に提出。


須佐達は御所に居た。無論、暗殺事件などの安全面に於いて、此処は最も安全な場所である。

「須佐殿、客人でございます」

「どなたですか?」

「幕府の高官です」武角達は彼らを部屋に通した。

「須佐殿、怪我の具合は?」

「伝七は腕を斬られて、この通りです」肘から先が無かった。

「実は殿が会いたいと申してまして・・・」

「慶喜公が?」武角は悟った。既に土佐が大政奉還案を出したことは聞いていた。

「二条城に出向きます」


「須佐殿たちが二条城に?」

「慶喜公と会談か?我々を差し於いて・・・」

龍馬はニタニタしていた。「当然だ。徳川始祖の代からの天海僧正からの恩、服部家の恩、出雲への憧れ・・・」


二条城では武角と佐助が慶喜に会った。

家老・大久保一翁が同席した。


大久保一翁おおくぼ いちおう

文化14年11月29日(1818年)ー明治21年(1888年)7月31日

幕末から明治時代にかけての幕臣、政治家。東京府知事、元老院議官を務めた。早くからの開明派である。勝海舟と仲が善く、龍馬とも随意だった。


「須佐殿、土佐から提案書として大政を奉還・・・と云う案が出た。ご存知だろう?」

「はい。土佐は不届きもの・・・と、思われますか?」

「思わない・・・ただ・・・悩んでいる」

「当然でございます」

「此処にいる大久保一翁は、早くから開明せよ!と訴えていた者だ。勝などと同じく」


武角は大久保を視た。「大久保殿、此れは容堂公から・・・と、お思いですか?」

「思ってはおりません。思うに坂本あたりでしょう?」

「其の通りです」

「坂本?坂本とは誰じゃ?」慶喜が知っているわけが無い。

「土佐の浪人集団のおさです。彼は唯一、新時代の構想をしっかりと持っております」

「一翁・・・浪人の案を土佐が同意したのか?」

「参政・後藤象二郎の力でございましょう」


「慶喜公、徳川幕府は洋威を防ぐため、初期から鎖国制度を引いてまいりました。しかし、其れも時代の流れ、ペルーは大統領のめいだと云う親書を携えて、堂々と日本に開国を求めた」

「艦砲を強引に打ち込んでの。空砲だが」

「彼は南海から北海への捕鯨ルートの中心辺り、日の本で物資、燃料の給油などを行いたいため、國の代表として来ました」

「そうだが、特使を送れば善いものを、軍艦数隻を従えて来た。侵略と視て当然だ」

「其れが彼らのやり方ですが、其の裏には商売、貿易と云うものがございます。彼らは日の本を属国にするなど考えてはいないはず」

「貿易国として開国を望んだ・・・」

「そうです。其れには國の体制と、かんぱにぃが必要です」


一翁は思った。「須佐殿がこんな発言をするとは・・・まるで龍馬が乗移ったみたいだな」

「かんぱにぃ?」

「国際法によって利益を守るのです。其れには近代独立国家であることが必要です」

「国際法?」

「数年前、尾張徳川が長崎の商社船と追突事件を起こした・・・」

「知っている・・・彼らか?彼らが坂本か?」

「そうです。彼らは損害賠償を徳川三藩に行っても、泣き寝入りだとわかっていました。で、国際法に乗っ取って賠償を行い、勝訴した」

無論、慶喜は国際法なるものを知っている。しかし、日の本にはそういう観念は無かった。

「慶喜公、諸外国には商売と偽って属国したらんとする國もございます」

「知っている。其れが悩みの種の一つだ」

「あなたは若日子に何と云われた?」

「・・・外国が手を出せば守ってやると・・・」

「信用したのですか?」

「していない。・・・していないが、曖昧な返事をした。側近たちが、あの化け物に粉々になって殺された。あんな死に方は嫌だ」

「大政を奉還しますか?」

「武士では時代を守れぬか?」

「外国からも、志士からも・・若日子からも・・・」

「敵が多すぎるな」

「坂本はあなた方を敵とは思っておりませぬ」

「どういうことです?須佐殿」

其の後、会談は進み、別れた。


10月14日 徳川慶喜、政権返上を明治天皇に上奏(大政奉還)した。

朝廷、これを受け、薩長に倒幕の実行延期の沙汰書を下す。倒幕の大儀を失った薩摩藩は、江戸で放火・掠奪・暴行などを繰り返し幕府を挑発する。


武角は語った。「坂本は、此れで幕府からも志士からも恨みを買うな。幕府側の者達は江戸時代を終わらせたとして、志士たちは振り上げた刃の向けどころを無くされたこと・・・双方が血を視なければ収まらない」

「若日子も肩すかしですか」

「奴は何を考えている?」

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