其の18 幕府の血
「幸明天皇が毒殺されたとは、聞き捨てなりませぬな。如何様にして、そう思いなさるか?」
「其の前に、坂本さん、あんた土佐藩と解り合ったのですか?」
「時代の流れじゃの。参政・後藤象二郎も噛んでる」
「かんぱにぃ・・・かい?」
龍馬は笑みを浮かべた。
しかし、乾は此の須佐たちが徳川にも通じていることに懸念を持っている。
「なるほど。では、答えよう。あなた方には沢山の敵がいる。幕府、諸外国、諸藩・・・もう1つ・・・」
「諸藩まで?」
「薩摩、長州との薩長連合?戯けた連合だ。彼らは自藩のことしか頭に無い。組んだ方が利があるからだ。目的が済めば、また争いが始まる」
龍馬が首を振った。「須佐さんよ。よくご存知だ。その通りよ」
「坂本さん、何故?中岡殿と彼らを組ます事に疾走した?」
「無論、組めば幕府を転覆させる力になるからじゃき。薩摩には西郷吉之助、大久保利通、小松帯刀。長州には桂小五郎、伊藤博文、山県有朋がいる。彼らは自藩主の私欲など知っているが、そうは動かん。しかし、彼らには藩侍の血が濃い、思考が藩から出ていない。皆が話が合わないのも当然じゃ」
「須佐殿、もう1つ・・・とは?」乾が聞いた。
「魔です。坂本さん、何処まで情報を持っていますか?」
「そこんとこが、ようわからん。教えてたもれ」龍馬の情報も此処までらしい。
「土方たちを襲ったのは古事記に書かれる、天若日子です」
「あ、天若日子ーーーー??!!」龍馬も乾も流石に眼を丸くした。
「奴は我らと同じ法力を使い、岩倉と組んで幸明天皇を亡き者にした」
「岩倉具視かいの?」
「若日子は岩倉を誑かし、協力させて厨房に毒を仕組んだはずです」
「うーーん、龍馬、岩倉が・・・とは、どうだ?」
龍馬は答えた。「あの男は喰えん男だ。次の天皇を我が範疇から・・・とでもは考えるはず。其のためには、何をするかわからん男じゃ」
「我らはそう読んでいるが、岩倉には何も証拠は無いのです」
「ううむ。須佐殿たちの能力があれば、厨房にも容易く入れる・・・しかし、毒殺とは・・・」
「徐徐にいたぶらせ、殺したのです」
「やり方が陰惨だ・・・須佐殿、若日子は何を企んでいると思われるか?」
「其れがわからんのです。実質、奴は尊王攘夷の強健だった孝明天皇を殺して幕府を決起付けた」
「幕府の味方ですか?」
「そんなことを考える奴では無いです。兎に角、あなた方には多数の敵が居ると云うことです。奴は幕府よりも強敵・・・いや、土佐も潰され兼ねません」
「・・・・・・・・・」
「其処でじゃ、須佐さんよ。こういう方案を作ってみた」
龍馬は書き記した物を見せた。
「船中八策?」
「船の中で、まとめたからじゃ」
「大政の奉還!?」
「どう思うね?」
「一部の国学者が云っていた意見ですね。しかし、実現は無理。そう云われていた案だ」
「其れを容堂公の名で慶喜公に建白書として出す」
「・・・・・・」
「どうじゃ?須佐殿」
「今なら考えられる・・・実現出来るかもしれない」
「龍馬!須佐殿はお前と同じ考えだ」須佐と龍馬は同じ考えなことに乾は吃驚した。
「慶喜公はどうじゃね?」龍馬が一番気がかりだったことを武角に聞いた。
「慶喜公は・・・弱気だ。家老たちも揺れている。其処を若日子に何か誑かされていると思う」
「善い事を聞いた。龍馬!薩長連合と組んで、一気に幕府を潰そう」
「乾!まだわからんか?!幕府を潰しちゃならん!と云ったろうが。お前も山内根性が抜けんの。其れでは協力はせんぞ!」
「龍馬、悪かった・・・」
「乾殿、慶喜公が何故?弱気になっているかわかりますか?」
「そりゃ、志士の勢いに吞まれそうだからでは?」
「公はそんな玉では無い。公も新時代の流れを読んでいる。武士の時代は終わりにすべき・・・とも思っている」
「本当か?!」
「其れは公自信の考えです。徳川の長として、其れは云えない。だから揺れている」
「聞いたか?乾、わしの考えが・・・幕府は無くしても要人達を推挙する考えを」
「龍馬・・・何故?そんなことが読めるんだ?」
「わしにゃ、勝先生を始め、多くの幕府の友人がいる」
「お前が幕府の人間と、つるむのは・・・そういうことか・・・」
「其れがフリーダムじゃ」
「処であの容堂公が此れに賛同するとは、思えませんが?」
「須佐殿、象二郎が必ず、解き吹かせます」
「容堂公は、ただの目立ちたがりじゃからの」
「龍馬!ぶしつけに云うな!」
「で、我らは何を?」
「慶喜公との接見時、共をお願いしたい」
「我らを?」
「慶喜公のあなた方への信頼が成功の鍵となるはず」
「土佐藩のために?」
「いえ、日の本のために」
「一言、云っておきたい。我らは先日、長州と薩摩に談判をしに云った。天皇まで暗殺する輩が出たからです。あなた方のしていることは、ただ、人がバタバタと死ぬだけだと問いたんです。暖簾に腕押し。せせら笑っていた。彼らは血に飢えている。何が起ころうと幕府の血を視ねば収まらないでしよう」




