其の17 須佐、土佐藩邸へ
慶応3年6月(1867年)
船中の其の次の日の夕方、土佐城から乾が戻って来た。象二郎は乾と福岡を連れ、容堂に接見していた。船には土佐藩の部下を数人残しておいた。
「どうなった?乾」
「龍馬、殿はごねている。象二郎が説得に当たっているが暫くかかりそうだ。説得は象二郎と福岡に任せて、俺たちは京に同行する。大公儀への書状を書いてもらえれば、後、京の土佐藩邸に届けてもらう」
「わかった、では出航だ」
明治後、自由民権運動を興す、乾退助(後、板垣退助)は、徐徐に龍馬の理想を理解し始めていた。
「龍馬、大阪港に着いたら、京へまっすぐ行こう。俺たちと行動を共にすれば、お尋ね者のお前でも安全だ。木屋町の土佐藩邸を宿にしてくれ」
「藩邸は固っ苦しくて嫌じゃき」
「阿呆、お前の安全のためじゃ」
龍馬は新撰組を始めとして多くに命を狙われていた。が、どういうわけか?刀も持たずに京を迂路迂路していたのである。
「危なっかしくて視ていられない。お龍さん・・・あんた、昨年、龍馬を身を挺して守ったそうじゃな」
龍馬の妻、お龍も共にいていた。
「龍馬は、わたしが守ります」
○寺田屋事件 1866年1月23日
薩長同盟の会談を斡旋し薩摩人として身分を偽り、寺田屋に宿泊していた坂本龍馬を伏見奉行・林肥後守忠交が捕縛あるいは暗殺しようとした事件。
龍馬は長州の三吉慎蔵らと共に寺田屋に宿泊していた。深夜2時頃、寺田屋は幕府の伏見奉行たち30人ほどに取り囲まれた。
異変にいち早く気付いたのが入浴中だった龍馬の妻・お龍である。お龍は袷一枚を羽織るとすぐさま裏階段を2階へと駆け上がり龍馬たちに危機を知らせた。
捕り方たちはどんどん!と2階に駆け上り、龍馬は高杉晋作からもらった拳銃で防戦した。
2名を射殺し、数名に傷を負わせたが、拳銃を持つ手に刀傷を負った。三吉は槍で応戦し、その隙に隣の家の壁を壊し両名は脱出に成功した。
材木屋に隠れた二人は、薩摩藩邸に助けられ治療と警護を受けた。
寺田屋は其の4年前にも襲撃事件が起きている。
薩摩藩の尊皇派が当時薩摩藩主の父で事実上薩摩藩の実権を握っていた島津久光によって鎮撫された事件。諸藩の尊王派志士たちと共謀し関白・九条尚忠と京都所司代・坂井忠義を襲撃し、首を久光に報じることで蜂起を促すことに計画した。この襲撃にあたり伏見・寺田屋に集合、計画していた。
志士たちの思惑に驚いた久光は憤激し、鎮撫使を京都へ派遣した。
23日夜、寺田屋に到着した鎮撫使たちは首謀者である有馬新七に面会を求め議論を交わしましたが、決着はつかず薩摩藩同士の激しい斬り合いに発展した。結果、計画に加わった志士のの多くは命を落とし、尊皇派は大きなダメージを受けた。
此の鎮撫隊の中に新撰組が居た。彼らは此の事件により名を大きくした。
船は大阪港に着き、小舟で川を遡り、京都に向かった。
「ひさしゅうの、京は。須佐は土佐藩の者達に見付けて貰う。龍馬は藩邸で待て」
「わしが行った方が早いきに」
「何度、云ったらわかるんじゃ!新撰組が迂路迂路してるぞ」
藩邸まで社中の者達を囲んで、周りを土佐藩の者が警備しながら向かった。
途中、やはり、新撰組に出くわした。土方の隊だ。
「これは、これは土佐の乾殿、大勢連れていかがされました?」
「土方さん、客人を土佐藩邸に連れて行く処です」
「乾殿、わたしの知っている顔が数人居りますが・・・?」
「土方さん、特にこの龍馬はご存知だろう?しかし、彼は脱藩を許され、今では土佐の重鎮だ
」
「お尋ね者ですぞ」
「身を欲しければ、土佐藩邸に来なさい」
「土方さん、怪我は直ったかいの?」龍馬が前に出て聞いた。
「坂本!何故?知ってる?!」
「化け物にやられたそうじゃな」
「うぬ!」
「これから俺は須佐に会いに行く」
「龍馬!」乾が制した。
「須佐に?何をしに行く?」
「お前等にゃ、教えん」
龍馬たちは、苦々しい顔を並べた新撰組の前をニタニタしながら通った。そして社中の者たちと土佐藩邸に泊まった。
「副長!」
「須佐に続いてあいつらまで・・・手が出せん・・・奴は須佐を知ってる。何故だ?」
「知りませんよ」
「京の情報も手に入れているな。須佐と何をする気だ?」
土佐の藩邸に龍馬が居る・・・と知った薩摩の志士tsちが続々と訪ねて来た。
「坂本さあ、元気でごわしたか?寺田屋の傷は癒えましたかのう」
「半次郎どん、ひさしゅうの」
○中村半次郎
明治後、桐野 利秋。薩摩藩士。人斬り。
西郷隆盛は「彼をして学問の造詣あらしめば、到底吾人の及ぶ所に非ず」と評している。
半次郎は明るい性格で誰にも好かれた。粗暴な男ではなかった。才豊かで人望優れていた。西南戦争時、自害した西郷の後を追って、銃撃の嵐の中に突っ込み、激烈に戦死した。
龍馬は船中八策のことは一切、話さなかった。
数日後、土佐藩邸に須佐が京の旅籠に泊まっていると情報が入った。
「龍馬、わかったぞ。明日、数人で此処に来るそうだ」乾が嬉しそうに飛び込んで来た。
「わかった」
当日、武角、佐助、舞が土佐藩邸を訪れた。
其の後を新撰組は追っていた。
「土佐と何をする気だ?」
門番は不信な顔をした。須佐と云う者達が来ることは知らせがあったが、伊座、目の前には忍びのような出で立ちの男女である。武器は持っていない。
「まて!」またもや門番に制された。
「乾退助と坂本龍馬に呼ばれて来た」
「まて、まて、まて」奥から龍馬が出て来た。
「妖しい人たちじゃないきに。わしの客人だ」
「坂本さま、これは失礼を」門番は須佐を通した。
「須佐さんよ。ほんにあんたら、其の格好じゃもんな」
「坂本さん、我らに何用ですか?」
武角は、苦手だが何是か龍馬が気になってしょうがない。
龍馬の部屋で会談は始まった。
「乾です」
「我らは須佐一族、わたしが武角、佐助、舞です」
「あなた方は御上にも通じていると聞いている」
「孝明天皇の命によって、この佐助は新天皇に使えております」
「な、なんと!」
「我らの情報を何れ程知っているか知らぬが、孝明天皇は毒殺されましたぞ」
「な、なんだって!?」
とんでもない武角の発言から会談は始まった。




