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須佐妖戦帖 第5章「幕末逢魔乱」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の15 船中八策

2人の会見は大浦お慶と云う名物女将が経営する清風亭と決まった。


その日の夜半、土佐側は後藤象二郎、乾退助(板垣退助)、福岡孝弟。海援隊(此の頃は、実は亀山社中名である)からは坂本龍馬のみ。


「象二郎、庭に隠れているのは誰じゃ?土佐の者達か?」

「龍馬、うぬも仲間を呼んでいるな。庭で双方がにらみ合ってるぞ」

「彼らは勝手に来たんじゃきに。穏やかに行こう。そうしないと一発触発ぜよ」

「わかっている。こんな処で斬り合いなどしたくない。お前にもわしたちにも利になる話をしよう」

「容堂(土佐藩主。山内容堂)さんは、出遅れたからな」

「うぬ!藩主を!」


「退助、落ち着け。龍馬の云う通りじゃないか。薩摩や長州に出遅れた」

「酔えば勤皇、覚めれば佐幕・・・だもんな」

「龍馬!ぬかすか!」乾退助と福岡孝弟が共に刀に手をやった。

「退助、福岡、お前等は部屋を出ろ!双方に云いたいことがあるのは当たり前だ。関ヶ原から250年。共にいがみ合って来た。だが、抑えろ!土佐のことを考えろ!」


「わ、悪かった。象二郎」

龍馬は思った。「後藤象二郎・・・土佐勤王党の粉砕を先導した奴だが・・・さすが吉田東洋の甥っ子。懐が深い・・・」

「龍馬、お前は資金が必要だろう。いくら欲しい?土佐はかなりの額を用意できるぞ」

「お前等、社中が儲かったら土佐商会と合併させる気だろう?」

「そんなことはない。お前等は独立企業だ。脱藩も放免だぞ。土佐の外郭機関と云うことだ。ただ、1つ頼みがある」

「何じゃ?」

「ちょいとお前等を調べたが、金の使い過ぎだ。会計士を付けたい」

「お前等の息の掛かった会計士なんかをか?」

「此処に呼んでいる。今、呼ぶ」


「お呼びですか?」1人の恰幅かっぷくの善い男が襖を開けた。

「何じゃ?弥太郎かい?」

「龍馬、知ってるな。岩崎弥太郎だ」


岩崎弥太郎いわさきやたろう

天保5年12月11日(1835年1月9日)- 明治18年(1885年)2月7日)

日本の実業家。三菱財閥の創業者、初代総帥。明治の動乱期に政商として巨利を得た。諱は敏(後に寛)、別名を土佐屋善兵衛。海援隊の会計を行うが、金使いの荒い龍馬とは最後までそりが合わなかった。しかし、維新後、三菱商会を興すが、龍馬がやろうとしたことを受け継いだ形のようになった。


「まあ、善い・・・が、象二郎。容堂さんはどっちに傾くんじゃ?」

「日本のことを考えている・・・・」

龍馬は含み笑いを浮かべた。「象二郎も困っとるらしい。武市たちを殺した奴が今更、勤王とでも云うか?なるわけが無い」

「象二郎、わしは大公儀さんにも利になる話を持っておるぞ」

「なんだと?!何の話だ」

「それは、後、話す。暫く長崎でわしにつき合え、其の後、京都に行くぞ」


帰り際、お慶が象二郎たちに声を掛けた。

「坂本さんは、あんたらに商売じゃなく、フリーダムを教えたいんだと思いますよ」

「フリーダム?」


後藤象二郎は龍馬の接待を受けた。

社中は皆、反対だ。

「龍馬さん、何ですか!あんな奴らと!」

「沢村、皆、土佐の後ろ盾を考えろ。象二郎ならやってくれる」


象二郎たちは龍馬の接待を受けながら、長崎の風を感じた。

「龍馬、フリーダムっちゃ、なんのこっちゃ?」

「フリーダム・・・皆が平等な世の中じゃ」

「意味がよう、わからんわい」

亜米利加アメリカのように、殿様を庶民が入れ札で決めるんじゃ。上士も下士も無くす」

「と、殿様を?!」

「身分を無くすだと!」


「龍馬!お前はアカだな!」乾退助と福岡孝弟が刀に手を掛けた。

「まあ、まて。詳しく聞こう、龍馬」と、象二郎が制した。

「此の町を視ろ。南蛮人が多いが彼らは商売で此処に来ている。と云って身分など彼らにあるか?・・・無いだろう。それが日本が世界から産業で遅れているふうだ。此れからは産業が物を云うぞ。侍だろうが庶民だろうがな」


彼らは色々回った。上野彦馬の写真館で写真を撮ったりもした。

象二郎は徐徐に龍馬の云う理想を理解し始めた。

「龍馬、我々はお前に軍艦を仕入れてもらい、操練を頼みに来たんだぞ。遊びに来たんじゃない」

「乾、其の軍艦をどうするんじゃ?幕府のためか?勤王のためか?」

「・・・・象二郎、何とか云ってくれ!」乾は答えに窮した。


「退助、福岡・・・我々のすること、土佐は何をすれば善いか?答えが見付かりそうだ、諸藩は勤王派、佐幕派と別れている。考えていることは対戦争だ。そんなことを続ければ、日本は弱って行く・・・其処を南蛮人は突いて来るぞ。我々は彼らの属国と化す」

「象二郎、何を云ってる?」

「此処を視ろ!奴らは商売で幕府やらに武器を売るが、一体どれほどの在庫があるんだ?産業革命ってのは恐ろしい」

「象二郎・・・」

「龍馬!お前はそういうことを考えているのか?」

「わしゃあ、フリーダムになりたいだけじゃ」

「我らはどうすれば善い?何か作があるか?」

「ある。軍艦で京都に行くぞ。其の前に土佐に行く」


「土佐に?」

「お前には容堂に渡してもらいたい物がある」


其の後、土佐上士たちと社中の船員を乗せ、軍艦で旅立った。

船中、龍馬は後藤象二郎に書状を渡した。

「此れを容堂さんに渡してくれ。どうだ?」

「何を書いたんじゃ?」


一、天下ノ政権ヲ朝廷ニ奉還セシメ、政令宜シク朝廷ヨリ出ヅベキ事。

一、上下議政局ヲ設ケ、議員ヲ置キテ万機ヲ参賛セシメ、万機宜シク公議ニ決スベキ事。

一、有材ノ公卿諸侯及ビ天下ノ人材ヲ顧問ニ備ヘ官爵ヲ賜ヒ、宜シク従来有名無実ノ官ヲ除クベキ事。

一、外国ノ交際広ク公議ヲ採リ、新ニ至当ノ規約ヲ立ツベキ事。

一、古来ノ律令ヲ折衷シ、新ニ無窮ノ大典ヲ撰定スベキ事。

一、海軍宜シク拡張スベキ事。

一、御親兵ヲ置キ、帝都ヲ守衛セシムベキ事。

一、金銀物貨宜シク外国ト平均ノ法ヲ設クベキ事。

以上八策ハ方今天下ノ形勢ヲ察シ、之ヲ宇内万国ニ徴スルニ、之ヲ捨テ他ニ済時ノ急務アルナシ。苟モ此数策ヲ断行セバ、皇運ヲ挽回シ、国勢ヲ拡張シ、万国ト並行スルモ、亦敢テ難シトセズ。伏テ願クハ公明正大ノ道理ニ基キ、一大英断ヲ以テ天下ト更始一新セン。


○大政奉還

○上下両院の設置による議会政治

○有能な人材の政治への登用

○不平等条約の改定

○憲法制定

○海軍力の増強

○御親兵の設置

○金銀の交換レートの変更

である。


「こ、これは?!!」

俗に云う船中八策である。


「奴らは京に居るのか?力を借りるかもしれない」

奴らとは須佐のことだ。龍馬は既に彼らが何者か調べ上げていた。

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