其の12 憑依
「須佐殿!」
「ああ、あなたは・・・大鳥殿。生きていましたか」
「須佐殿、1人ですよ、1人に手も足も出ない・・・わたしは、恥ずかしながら隠れました。武士として恥ずかしい」
「それで善い。あれは此の世の者ではありません。向かって行っても死人が増えるだけです。慶喜公は?」
「わかりません」
武角は接見の間の前に来た。
「慶喜公・・・」
「須佐殿か?・・・入ってくれ」
「慶喜公、心配致しました。ご無事で何よりです」
「奴は消えた。会津の報告の通り、奴には・・・死の匂いがした」
「元は新撰組からの報告です」
生き残った者達が横で死体を片付けていた。
「須佐殿、すまぬ。少し自分の部屋で休みたい」慶喜は相当まいっていた。
「上様、離れの部屋へ参りましょう」
須佐たちも家老たちと違う部屋に赴いた。
1人の家老が話し始めた。「須佐殿、二条城が襲撃されました。上様は精神的打撃を受け、疲れている。後は我々が話します」
「失礼致しかねた・・・」
「そう、あなた方が帰った後、新撰組が容保殿と共にやって来たのです。あなた方が云う魔を視たと。此の世の物では無いと。直に軍を固めた方が善いと。鉄砲や大砲ではだめだ。多分、火攻めが有効と思われると。で、急遽行った」
「土方ですね」
「兵達は、まだ隗と戦っているのですか?」1人の家老が須佐に聞いた。
「はい。ご家老、大丈夫です。もうすぐカタがつくでしょう。・・・ところで若日子は何をしに?」
「それは・・・・・・・」
「?」
「今は話せません。上様の許可が無ければ・・・」
武角は何か怪訝しいと察した。
「何か隠している・・・若日子と何か密約でもしたか?」心の中で思った。
「ご家老、一言進言しておきます。奴と取引など絶対せぬよう」
「・・・」
須佐たちは退散した。同じ頃、延暦寺麓から都の端での攻防は終わっていた。餓鬼と小鬼は全滅した。
「何だ?!あの態度は?あの有様を視て頭が狂ったのか?そうでしょう?武角さま!」
「云うな・・・佐助・・・」
京は守られた。兵たちが歓声を上げている。白狐たちは退散していた。
人々は、安堵し、延暦寺の方に皆が手を合わせていた。助かった僧侶たちが手当を受けている。須佐たちを見かけると手を合わせた。
「上様・・・」家老は慶喜の部屋の前に居た。
「入れ」
「須佐殿たちは帰りました」
「大変な一日だった。生き残った者は幾人だ?」
「30人程・・・・」
「大阪城に暫く拠点を置こう。・・・お前は冷静だ。今の幕府の状況をどう視てる?」
「あれは此の世のものでは無い。江戸から救援が来ても皆殺しにされるでしょう」
「奴らが後方の敵としたら、志士は前方の敵って処か?どっちでも同じことだが・・・ふふふ」
「我々は・・・志士達にも勝てないでしょう」
「わたしもそう思う。さらし首になるか?身体をバラバラにされるか?・・・・どうすれば善い。志士と隗との板挟みだ」
「隗(若日子)の提案は?・・・・」
「吞む・・・しか無いか・・・・」
慶喜は思った。
「須佐殿、すまぬ・・・・我々も生き残りを掛けなければならない・・・」
明けて次の日、
「す、須佐さんたち!」
「何だ?主人、慌てて」
「ご、御所のお役人さんが数人、貴方がたを訪ねて来てます」
「わかった」
「へへーーーー」
旅籠の主人はどうやら須佐を探ったらしい。御所や二条城で噂を聞いた。
「何か、偉い人たちらしい。しかし、そんな連中が何でこんな汚い宿に連泊しているんじゃろ?」
今一、理解出来ない。
佐助が階下に降りて役人と会った。
「須佐どの全員、御所に宿を移して貰えませぬか?」
「我らは志能備。志能備が御所で迂路迂路しては・・・」
「急務なのです。御門の命に関わる。助けてほしい」
「御上の病状が悪いのですか?」
「此処だけの話。医者にも原因が解らないのです。が、・・・」
「が?」
「皆が思っていることがあります」
「其れは?」
「呪い・・・・です」
「呪い?!」
「昨日からどうも様子がおかしい。顔つきも変貌して・・・・」
「若日子の仕業か?!陰陽師殿は?」
「彼らが始めに気づいたのです。須佐どの、ささ、どうか御所に」
須佐たちは役人と共に御所に赴いた。
廊下を女たちが忙しそうに走り回っていた。
「何をしているんです?」
「造花を作って御門の部屋に運んでいるんです」
「御上の要望ですか?」
「武角どの」
「陰陽師どの。何がどうしたんですか?」
「御上の部屋に行ってください。視れば一目で解ります」
須佐たちは足早に部屋に行った。
「御上、須佐です」
「入れ」
襖を開けると・・・・
「むう?」
部屋中、造花でいっぱいだった。
「此れは・・・・」
「佐助さま、此の造花は梅です」舞が答えた。
「梅?!」
「女中共め。梅を持って来いと云えば、季節柄無いと抜かしおった」天皇とは思えない言葉づかいだ。
「御上、梅の季節ではありませぬぞ。何故、急に梅を?」
「梅は善い」
「梅屋敷は此処では御座らぬ・・・・・」
天皇は佐助を見据えた。
「何と行った?佐助」
「梅屋敷は此処では御座らぬと申しました」
「梅屋敷は何処に行った?」
「御座いません」
皆が立ち上がった。
「もう無いのです。菅原道真公!」
天皇は皆を見据えた。
「御上に道真公が・・・憑依している・・・・・」




