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須佐妖戦帖 第5章「幕末逢魔乱」  作者: 蚰蜒(ゲジゲジ)
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其の10 魔の襲来

「慶喜公、緊急の用があって、お訪ね申した」

「如何な申し出か?」

「京を魔が襲いましょう」

「魔・・・信長は第六天魔王と宣わったんでしたね」

「そうです。あなたや御門を狙うでしょう。そして京を我が物にする。百鬼夜行で」

「百鬼夜行とは・・・・」

「京が焼き尽くされます。先ず民の退去をお願いしたい」


「わたしの周りは敵ばかりだな。大老の井伊直弼も失って・・・志士たちの暴虎に我我は対処出来ないでいる・・・・須佐殿、あなただから云うが、幕府は今や壁際だ。薩長を中心にまた戦さが始まるだろう。時代は血を視なければ収まらない。奴らは幕府関係者を殺し、民も犠牲が出るだろう。朝廷や民は退去するよう進言しよう。魔か・・・だが、攘夷の志士たちとの戦の方が現実だ」

「攘夷の志士を優先しますか?其の前に魔はあなた方をゴミのように殺しますよ」

武角は思った。

「慶喜公は心の中では魔を信じていないようだ・・・現実の対処で頭が一杯だ・・・」

「須佐殿、もう善い。心には止めておこう」

武角は落胆して二条城を後にした。


旅籠に戻ると留守を預かっていた者たちが「どうでした?」と聞いて来た。

「二条城は・・・駄目だ」

「そうですか・・・それと・・・新撰組が来ました」

「壬生が?」

「はい、殺された仲間の検分、事情、それと山火事の件で。其のまま正直に話しました。山火事の件は、副長たちの話と一致すると驚いてはいましたが・・・」

「彼らは京の治安維持が仕事だ。職務だからな。つまり、こうだ。幕府は京を脅かす者は、自分たちが対処すると。会津もそうだろう。第一、此処らは会津の管轄だ」

「魔をどう捉えているのか・・・」

「所詮、無理なんだ。眼で視なければな。・・・土方と数人の壬生は魔を視ている。仲間が残虐に殺される処を視ている。土方はどうするか・・・」

「武角さま、土佐達はどうしますか?」

「土佐の者たちと話す。彼らは柔軟性がありそうだ。特にあの桔梗紋の坂本・・・」

「明智殿と同じ紋ですね」


ズシィーーーン!


大きな地鳴りが起きた。旅籠が大きく揺れた。


「な、何だ?地震か?」

「皆の者、始まったぞ。桓武かんむ天皇が、魔から逃れようとして建てた平安京が、四神相応を駆使した京が今、破壊されようとしている」

「北東・・・鬼門が?」

「鬼門が破られようとしている・・・・」

逢魔おうまが時か・・・」


逢魔時おうまがとき

黄昏たそがれをいふ

百魅ひゃくみせうずる時なり

世俗小児せぞくせうにを外にいだす事をいまし

一説に王莽時おうもがときとかけり

これは王莽前漢おうもうぜんかんの代をうばひしかど、

程なく後漢の代になりし故、

昼夜のさかひを両漢の間にしてかくいふならん

鳥山石燕 今昔画図続百鬼「逢魔時」より


日暮れ時を古来、「逢魔が刻(おうまがとき~逢魔が時)」と呼んだ。

昼と夜の狭間。陽が翳り、闇が覆い始める黄昏の時。闇が世界を呑み込み、冥界の扉が開き、 人界へと魑魅魍魎、物の怪たちが禍々(まがまが)しく、蹂躙じゅうりんし出す刻。魔と出逢う刻。忌語なりし。


辛酉。車駕遷于新京。

同十三年十月廿三日。天皇自南京、遷北京。

丁丑。詔。云々。山勢実合前聞。云々。此国山河襟帯、自然作城。因斯勝、可制新号。宜改山背国、為山城国。又子来之民、謳歌之輩、異口同辞、号曰平安京。又近江国滋賀郡古津者、先帝旧都、今接輦下。可追昔号改称大津。云々。

「日本後紀」卷第三逸文


延暦13年(794年)10月23日、此の国は山河襟帯さんがきんたいし、自然おのづからに城をなす。此の勝(形勝 けいしょう)によりて、新号をさだむべし。よろしく山背国を改めて、山城国と為すべし。また子来しらいの民、謳歌おうかともがら異口同辞いくどうじに、号して平安京と


古来の民たちは、平安の都を願ったのである。


「鬼門封じの比叡山延暦寺ひえいざんえんりゃくじが危ない。地主神・大山咋神が・・・・」

須佐たちは皆、外に出た。京の民達も「何事か?」と皆、外に出ていた。

「延暦寺だ!」須佐たちは延暦寺へすっ飛んで行った。


走りながら着物を脱ぎ捨て志能備の容姿になった。


延暦寺に着くと寺内から悲鳴が聞こえた。

「視ろ・・・・」

上空の空間に小さな穴が開いていた。

「あれは・・・立体の穴だ・・・・」


別次元の扉が開いた。

現代物理学の話になるが、空間に開いた「穴」は立体、球になる。何故なら私たちの世界は3次元だからである。

「随分小さいですね」

「延暦寺の鬼門封じが効いているからだろう。そう安安とは穴は開かない」

「何か生き物がポロポロ穴から落ちています」

「あれは・・・・餓鬼だ!・・・・延暦寺に落ちている。あの悲鳴は僧侶たちが餓鬼に襲われているんだ!」


「ギャアギャア、ギギイ」

餓鬼は空の穴から、次々にワサワサと落ちて来る。其の数は数千。

餓鬼は元人間である。生前、幾多の悪事を仕出かした者の黄泉での成れの果てだ。感情も理性も無い。只、腹を空かしてうごめいている妖怪だ。

僧侶たちに喰らい付いていた。


「うわあ、ぎゃああああ」

一人一人の僧侶に数十の餓鬼が襲っていた。貪り喰っている。

「山法師が・・・・」

信長や秀吉に依って衰退させられた寺の武装僧である。山法師たちは、此の未知の化け物を長刀なぎなたや槍で倒していたが、幾ら斬っても・・・・死なない。元々死んでいるものだ。死ぬわけがない。

「こいつ等、幾ら斬っても死なんぞ!う、うわああああ」

「ギイ、ギギイ」

山法師たちも次々と襲われている。自分の内蔵を生きながら喰らわれる。


延暦寺全体が血吹雪にまみれ、地獄絵図だ。

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