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1-06 おせんたく

 来た道とは逆向きに進んでいく。落ち着いて見渡す村は、人が自然と集まったような、集落といった様子だった。乱雑に家が立ち並び、きっちりとした区切りのある道はあまり無い。踏み固められただけのあぜ道を、ゆっくりと進んでいく。

 前を飛んでいたチュンは、いつの間にかよだかの肩にいた。たまに道を指示しながら、楽しげな様子だ。


「あっちに行くとさっきの草原。ここを右に行くと商店街だよ」


 チュンは一つずつ指さしながら、村を案内していく。石造りの無骨な家に、煉瓦造りの小さな家。たまに、ミオの暮らすような布張りの家や、ツリーハウスも見える。

 道行く人たちも皆容姿がばらばらだ。絹の服をまとった妙齢の女性は、口髭をはやした青い肌の紳士と会話している。チュンのような妖精たちが集まる中に、小さい炭鉱夫が混じってお茶会をしている。仮面をつけた長身の何かとすれ違うと、切りたての材木のような香りがした。


「この先が村の中心あたりで、井戸があるんだ」


 チュンの言葉に相槌を返し、よだかは先へと進んでいく。道が少しだけ補整され、しっかりと踏み固められているのが分かった。ツリーハウスが近くに散見し、木から落ちる木漏れ日が井戸の傍に影を作っている。広場のように少し開けた様子になっており、近くには東屋も見られた。たまに見えるレンガの家が木漏れ日をあびている。

 広場の中心に井戸があった。屋根と滑車がついたくみ上げ式の堅井戸で、とても丁寧に作られているようだった。周囲に小さな人だかりができ、文字通りの井戸端会議を広げている。


「やっほー」

「あら、チュンちゃん」


 チュンが声をかけ、人だかりの中へと飛んでいった。

 よだかはキョロキョロとあたりを見回す。水が跳ねる音が聞こえ、井戸の中を覗き込んだ。尾びれを優雅に躍らせた緋鯉が、よだかに近寄ってくる。



「泥よごれならあっちの方使っていいって……あ、ミヅハ様だ」

「ミヅハ様?」

「うん。水をきれいにしてくれるんだよ」


 緋鯉が答えるようにパシャリと水面を波立たせる。小さく一言断わって、桶で水をくみ上げて広場の端へと移動した。荷物からショベルとつなぎを持ち出してゆすいでいく。

 ショベルから土を落とし、部品ごとに壁へ立てかける。丸まっていたつなぎを両手で広げると、足回りが大きく汚れていた。一緒に丸められていた軍手やタオルが落ちる。


「いったい、何に使ったんだろうね」

「つなぎが汚れて、パーカーに着替えたのでしょう。汚れることが前提だったのかもしれません」

「うーん、穴でも掘ってたのかな?」


 よだかの記憶の手掛かりにならないかと二人で悩みながらも、着々と汚れを落としていく。よく冷えた水が手に心地いい。少しぬるめの風が肌を撫でていく。湿り気の無い風に、ここが地球では、日本ではないことを再認識させられる。

 少しずつ減っていく桶の水に、よだかの顔が映っていた。黒い瞳は光の加減でヘーゼルともグレーともとれる。前髪すら長い黒髪は真ん中分けで、低い位置で無造作にくくられていた。臀部にまで届きそうな毛先が、背中側から前へ落ちてくる。もう少しで水にぬれるかというところで、よだかが頭を振った。背中側で髪がおとなしく収まる。


「よだか、髪ながいねー。真っ直ぐで綺麗」


 チュンが興味を持ち、くるりとよだかの背中側に回った。触ろうとして、手が濡れていたことを思い出す。諦めて桶の近くへと舞い戻り、傍に置かれていた手袋を持ち上げた。

 手袋の汚れを落としながら、チュンは自分の茶髪とよだかの黒髪を比べる。ふわふわと毛先が羽毛のように広がるチュンにとって、ストレートなよだかの髪は羨ましいものなのだと唇を尖らせる。その様子を横目に、よだかはつなぎを絞る。


「ぼくは、チュンの髪、好きですよ。柔らかく風に揺れていて、きれいです」


 つなぎを持ち上げながら、よだかが事も無げにいう。チュンは少し照れたようにはにかんだ。バサバサと水を飛ばすように振られるつなぎに、二人の髪がゆらゆらとあおられる。

 チュンはふと思い立ったように高い位置へ飛び上がると、ゆらゆらと体を揺らして鼻歌を歌い始めた。つなぎが風に巻き上げられ、よだかの手を離れる。手袋やタオルもともに巻き上げられ、グルグルと空中を回り始めた。風で洗濯されているかのように、チュンを中心に緑青色のつなぎが舞い踊る。

 青い空と、さらに青いつなぎと、その中心でハミングするチュン。現実離れした様相に、よだかは目を輝かせる。やがてゆっくりと回転が収まり、チュンが舞い降りてきた。追随するようにつなぎやタオルが追いかける。よだかがそれらを受け取ると、ほとんど水気がなくなっていた。


「今の、魔法ですか?」

「うん。私たちエアリエルは、風を操るのが得意なんだよ」


 どうだと言わんばかりに胸を張り、チュンが腰に手を当てる。よだかがつなぎをわきによけて拍手すると、さらに鼻が高くなったかのようだった。



 荷物をしまい込み、桶をもとの位置に戻す。井戸端会議中の人たちによだかが礼をすると、ゆっくりと手を振ってくれた。来た道を少しだけ引き返し、チュンの案内の元今度は別の道へ進む。

 商店街に入ると、牧歌的だった様相は鳴りを潜め、少しだけ熱気が増したかのようだった。幾つもテントが並び立つ。黄色いギョロ目の魚を持ち、店主らしき猫が声を張り上げる。その声に誘われるように、子供連れの主婦が店へ寄っていった。

 向かいの店から漂うのは、香草の焼けるような香り。思わず涎が出かかる。


「ここいらで食べていくのもいいけど……よだかはこっち!」

「うわっ」


 いきなりパーカーのフードを引っ張られ、少しだけバランスを崩す。チュンに引っ張られるままに道を進んでいく。商店街の喧騒から少しだけ離れると、大きめの建物が見えてきた。使い込まれた木造建築が、竹に囲まれて悠然とたたずんでいる。

 表の看板には文字が書かれているようだった。よだかは目を凝らすが、見たこともないような文字だ、読めるはずもない。ふと看板横に書かれている絵が目に留まる。頭が丸く、羽が太めの鳥。雀のようだ。そして周囲を取り囲む竹。雀と、竹藪と、大きな建物。


「……すずめのお宿?」

「あたしのお家! この村で一番おっきい宿屋なんだよ!」


 チュンが竹で編まれた扉を開けると、内部の様子がよく見えた。せわしなくかけていく鳥頭の男に、ゆったりと籐椅子に腰かける優美な女性。少し黄色みがかった光に照らされた奥にはカウンターが見える。

 カウンターに座っていた背の高い茶髪の男性がこちらに気づき、よだかへと声をかけた。


「竹林宿へようこそ」

 やっと喧騒と繁忙期と現実逃避から帰ってきました。まあこれも一種の現実逃避ですが。

 テンションに任せて一気に書いたので、誤字や矛盾等あったらすみません。

 情景描写というか風景描写というか、五感の描写が好きなので、ついついそっちに走ってしまいます。もっと心情描写も行っていきたいですね。


 夏が近づいてきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。僕は日本では有数の夏暑い、冬寒い気候な土地で過ごしています。アイスコーヒーが美味しい季節になりました。最近はバニラアイスをアフォガードで楽しむのが美味しいです。

 くれぐれも夏バテや熱中症、クーラー冷えにはお気を付けください。



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