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スーパーニートプラン 〜おとぎ草子血風録〜  作者: 海山馬骨
最終決戦・弘前城炎上
54/65

@19の2 『俺たちは天使じゃないらしいな』

「俺の親父なんか俺の誕生日に蒸発したんだぜ」


「お袋が離婚するとき、5人兄弟で俺だけ父方のジジイんとこに置き去りにされた」


「高卒で俺が入った会社に後から入った妹が、会社の金横領したせいで俺までクビになったよ」


 いつのまにか。


 立って戦ってた桃果会の奴らや市議のおっさんおばさんら、そして俺が、ウラシマを囲む円陣ができていた。


 相変わらずそこらに重傷者が倒れたままなのに、雑談に花が咲く。


 カオスな光景だった。


「おばさんね、自分のお姉ちゃんと仲が悪くてね。昔勝手に服を持ってかれて、あんたなんか大嫌い! って喧嘩してから一度も口きいてないのよ」


「私は母親と折り合いがつかなくてねえ。勉強しろの一点張りで大学受験に受かってもおめでとうも言わないもんだから、頭にきて家を出ちゃったんだよ。そのまま何十年たってしまった」


「円満な家族なんてなかなかないものですねぇ」


 みなさんなかなかハードな経験をお持ちだ。


 なんか話が家族なんてくだらんよなって方向に進みつつあるのは、いいのか悪いのか。フォローになってるのかなってないのか。


 まあ、こんなとんでもない状況なのに、桃果会の奴らなんて仲間がやばいのに、市議会の人らは本来縁もゆかりもない切った張ったに巻き込まれて不安だろうに。


 それでも泣く子に釣られて集まって、こんなバカ話につきあってくれるんだから、いい人たちだ。


 まあさっきから白雪ちゃんが口を挟みつつも一瞬も立ち止まらず大車輪に働いてくれてるから可能なことだが。


 部屋の左右奥行きどころか階段の上下を目まぐるしく行き来して、重篤状態の患者から順番に手を尽くしてくれている。


 おかげですぐに命が危ないってやつはいなくなったようだ。


「外崎さんはなんかねえの?」


「え、俺?」


 で、割と外野気分でいたら、桃果会メンバーに話を振られた。


 俺…俺ですか。正直あんま話したくないんだけど、成り行き上仕方あるまいな…。


「俺は…実家がちっちゃい会社やってんだけどさ。家業の勉強もしないで毎日遊びまくってたら弟にキレられて、逆ギレしてとっくみあいの喧嘩して、そんなに会社が大事ならてめーが継げ! つって家出したくらいかなあ」


 おい。振られたから答えたまでなのに、うわあって顔すんじゃねえクソども。


「でもまあ、なんだ。謝りたいと思ってるよ。謝り方がわかんねーけど」


 流れとして、これはここでちゃんと言っとかなきゃな、って本音も言った。


 いろんな責任を弟に押しつけるようにして家を出て、そのときさんざん捨て台詞をぶちまけてきて。


 悪いと思ってないわけがない。


 もうかれこれ10年近くたつ話だが、ずっと心のしこりになっていた。


 連絡もとらないまま、俺が知らないうちに県外の人と結婚して、小さな家業と両親は弟ごとそっちの土地へ行ってしまった。


 元気にしてるだろうか。


「たつお、さん」


「お前の目にオトヒメさんとかさ。大人がどう見えてるか、もうおっさんだから忘れちゃったんだけどさ。ひとつだけいえるのは、大人も結構適当に取り返しつかないことして、いっつも後悔してんだぜ」


「そうなのよねえ。娘がいくら言ってもスカート短くするから、将来は水商売でもするのか、なんて言っちゃったときは言ってから青ざめたわあ」


「ははは。そうそう、そこまで言う気なかったし別に本気で思ってないのにってね。…まあ、そういうわけでさ。オトヒメさんが本気でお前を憎んでたら、お前と一緒に暮らせてないと思うんだけどな俺は」


「でも、私のせいでお姉ちゃんがつらい思いしたのは本当で」


「ウラシマ」


 俺はなるべくまじめに見えるように、成功してるかわからんが、できるだけの誠意を込めてウラシマの目をみる。


 ウラシマを囲むみんながウラシマをみる。


「これだけは言っとく。オトヒメさんとの思い出は、いいこともいっぱいあるんだろ? そのなかのオトヒメさんが全部偽物だなんて思うなよ」


「う…うぐ、うっく」


 ウラシマが何か言おうとして、いえず、声が喉につっかえたようにまた泣き出した。


 市議のおばさんがウラシマの肩を抱いて慰める。


 しばらくして、ウラシマが落ち着くのを待ち、声をかける。


「悪い。いろいろ考えさせてやりたいんだけど、状況が最悪だ。頼めるか」


「うん。なんか、本当にごめん私のせいで。あと、お姉ちゃんのせいで」


 幾分すっきりしたように顔つきが切り替わったウラシマが首肯してくれる。


 砲火は衰えることなく俺たちの城を脅かし続けてる。


「俺らが反撃してもしないでも一緒だなこれ」


 桃果会が窓から離れた場所でぼやく。


「じゃ、ウラシマと白雪ちゃんの手伝いしてくれないか。上にも下にも怪我人だらけだ」


「うっす!」


「あ、でも」


 相談はまとまった、と思ったら、ウラシマが躊躇いがちに小さく挙手した。


「私、いま治癒魔法とか使えないかも…?」


「そおーんなことも、あろーかとぅ!」


 ウラシマの肩に顎を乗せて、突如現る毒女。


 白雪ちゃんは自信満々の顔で、手のひらに何かを乗せて出す。


 そこには宝石のような、何かの結晶のような、多角形で水晶質の赤黒い物体がある。


「体内に蓄積された余分な糖質・脂質・化学物質なんかを全カットしてくれる魔法のお薬ですぅ! これ一粒でどんなに穢れた体も生まれたての赤ちゃんみたいにリセット!」


 どういう原理で。


 と聞いたら罪だろうか。


 というか穢れってそんな病原菌みたいに退治できるもんなんだろうか。


「薬なのこれ…」


「仮に本当に薬だとしても飲むべきじゃない形状だし、そしてやっぱり薬として成り立ってるのか怪しくねえか…」


 なんせ提供者が提供者ゆえに。


「お、お、なんですぅその態度? 白雪の製薬技術が信用できないですかぁ? だてに24時間山暮らしで研究だけしてるわけじゃないですよぅ?」


「しかも作ったのおめーかよ」


 語るに落ちた。


 と思ったのは俺だけだったようだ。


 白雪ちゃんの手の内の、その極めてまがまがしい物体を、ぱっと取って大口空けて、ウラシマは一息に飲み込んだ。


 マジかよ。


 そして即座に目から血の涙が、鼻と口から泡混じりの血液が吹き出す。


「おい、吐け。いいから吐け」


 やっぱり完全にやばい薬であった。


「んぐっ、ぐっ、んがっ。…迷ってる時間ないんだ! やるよ!」


 しかし俺の忠告を振り切って、ウラシマは吹き出たものを全部飲み込んで、鋼の意思表明をする。


 男前を取り戻したウラシマ少年の姿がそこにあった。



 さて。


 分身ちゃんを作りだし、『共感』をかけて、銃眼から外を覗こうとしてみる。


 間髪入れずに吹き飛ぶ世界。


 本物の俺に戻った視界のなかで、頭をぶっ飛ばされた分身ちゃんが霞になって消えていく。


「…戦況を知ることすらままならんとは」


 奴らに比べりゃ水鉄砲のおもちゃなみなものしか所持しない我々に、米軍はまったくもって見敵必殺だった。


 試しでもっかい、別の銃眼から『共感』モード分身ちゃんを出してみたが、同じことで一瞬にして処分された。


 もぐらたたきのもぐらだ。


 収穫としてどうもならんことがわかった。


 オトヒメさんをどうにかするどころか、その前段階のMOB敵が高レベルすぎて対処不可能とか、このイベントのバランスおかしくねえか。


 とかバカなことを考えてる場合でない。


「実際どうしたもんかなあ…」


「お、おばけえええ!」


 悩める俺の後ろでいきなりハンカチを切り裂いたような悲鳴があがる。


 なんだよと思って振り返ると、なぜかみなさんが俺に注目しているのだが。


 桃果会も市議の人らも、なぜかウラシマや白雪ちゃんまでだ。


 おとなもこどももおねーさんも。


「タツオさん、ふつうの人は分身できないんだよ」


「あー」


 なんかさっきから分身癖がついてるというか、ちょっと離れたところにあるものを孫の手で引っ張り寄せるみたいな感覚で分身を使ってしまっていた。


「…まあこれを非日常っていうなら、弘前城の本丸で米兵に囲まれて殺されかけてるってこのシチュエーションこそ、映画の設定すぎるわけだし…」


「そんなパンもうどんも小麦粉でできてるから同じ食べ物みたいな論法…」


 そうはいってもな。


 特に隠し立てしてたわけでもなし、こんだけの人数に見られちゃった以上はもうどうにもなるまい。


「えーと。まあ、口止め強制する権利があるわけでもないんで。みなさん、今みたことは一応ご内密にってことでよろしくお願いしたいなと」


「君。君はひょっとして人間ではないのかね」


 俺のお願いをスルーして、なんか市議のなかでも一際偉そうなおっさんがとんでもないことを言い出す。


 俺のことをどういう角度でどう見れば人間じゃないなんて結論が得られるんだよ。


 目玉腐ってんのかジジイ。


「見ての通りのナイスガイです」


「質問の答えになってないですぅ」


「いやまあ、手品っぽいことができるだけの人間です」


 俺の正直な吐露を聞いてるのかいないのか、市議のおっさんは同僚を振り返り、なにやら頷きあっている。


「最後の弘前藩主・承昭公のご遺命というのはひとつではない。この世の誰より大義ある人、桃太郎氏のお仲間でありやはり尋常人ならざる君たちになら明かしてもよかろう。実はこの弘前城本丸は、からくり仕掛けと現代科学によって機動する巨大ロボットなのだ」


 あかん、俺の街の議員が発狂してた。


 この街で政治に携わるやつには狂人しかおらんのか。


 弘前をゴッサ○シティにしようと目論見を働かす女がいるかと思えば、それに巨大ロボで対抗しようとか、マンガにしても出来が悪すぎる。


 俺は思わずおっさんのおでこに手を当ててお熱を計ってしまった。


「私はまったくの正気だ! 現実離れをいうなら君のいうとおり、この戦争状態だって君自身だって桃太郎氏だって、さっきから怪我人を治療してくれている彼女たちの力だってすべてにわかに信じがたいことばかりじゃないか!」


 ごもっともすぎてなんもいえねえ。


 しかしそれでも巨大ロボはちょっと…。シチュエーションにかこつけて童心の夢を通そうとしてるとかそういうのじゃなくて?


 俺はとりあえずおっさんを放置して、状況打破の一手を繰り出すことにする。


「まあ。あの。それはそれとして。白雪ちゃん、毒で外のやつら黙らせらんない?」


 考えてみれば入ってくるときもそのようにして入ってきたのだ。


 同じことを繰り返せばいいだけの話だ。


 なんだ、米軍の無力化なんて思ったより簡単そうだな!


「え…ここで毒を出すの? 室内だよ? 本気?」


 俺の楽観に対して、ウラシマがすぐさま疑念を提示する。


 うん。ふつうに忘れてた。


 …やっぱこの手はねえな! 万策尽きたり!


「ふっふっふ。女子三日会わざれば」


「もうそのネタはいい」


「…白雪がただ毒にだけ夢中だったと思ったら大間違いですぅ! もちろん真空呼吸だってレベルアップしたんですぅ! せやっ」


 白雪ちゃんが変なポーズを取って、窓のほうを向いた。


「いま白雪からあの窓までの間に空気の層を広げたですぅ。そのなかにはティラノサウルスでもコンマ一秒で絶命させる猛毒が漂ってますから近づかないほうがいいと思いますぅ」


 ザッ


 と、なんとなしに散らばっていた人の輪が白雪ちゃんから遠ざかる。


 俺も、ウラシマも。


「…その反応はちょっと傷つくですぅ。外崎さんは平気じゃないですかぁ」


 実際はどうだろうがティラノ殺しの毒とまで吹かれて近づく気にはちょっとなんないかな…。


「で、そこの窓から毒を散布するの?」


「ですぅ」


「…逆風で毒が戻ってきたらどうするか聞いていい?」


「気合いで乗り切るですぅ」


「タツオさん止めて! 絶対ダメなやつだよこれ!」


「うーむ…」


 はっきりいって不安しか感じないが、じゃあこの状態どうやって打開すんの? つってもはや白雪ちゃんの毒ガスくらいしか打つ手がないのも事実なわけで、ほかになんの代替案もないわけで。


「…要は風が戻ってこなけりゃいいんだろ?」


 数分後、本丸2階には銃眼のちょっと手前あたりの位置ででっけえうちわを構えた10人の俺の姿が!


 ちなみにうちわには「悪市長に鉄槌! 桃太郎大勝利!」と浮かれポンチなフォントが踊るように刻印されているわけだが。


「唐牛の奴をぶっ飛ばしたらそのまま弘前城で宴会するつもりで作って持ってきてたんですけど、いやあ役に立ってよかったなあ」


 うんうんとうなずきあってる桃果会メンバーに突っ込む気力もない。


 なぜかって、意識が飛びそうだからだ。


 なぜ意識が飛びそうかといえば、分身ちゃんを一斉に9体も出してるせいだ。


 さらにその9体全部に『共感』をかけているので、ただでさえきついのに、視界がバーチャ○ボーイみたいな嘘3Dを重ねて表示しすぎたみたいな、見てるだけで頭がくらくらくる映像になっている。


 いや、分身ちゃん出すのって本当にぜんぜん負担でもなんでもないのな。


 だからパソコンで同じソフトを多重起動するみたいなことできるんじゃね? って思ってやってみた。


 できた。


 いや、できた? っていえるかこれ?


 もうちょっとした拍子でゲロ吐きそうなほど気持ち悪いんだけど。


 こっから分身ちゃんを全部同時に動かして全力でうちわ扇ぐとか、そんなことできるの? 俺。


 とはいえ、一般人に毛が生えた程度の桃果会の奴らがうちわでふわふわやったところで、風の進入を跳ね返すなどできるわけもない。


 白雪ちゃんの毒しか頼る武器がない以上、これしか手段はあるめえ。


 なんか俺定期的にひっどい目にあってる…頑張る気のなさではギネスものだと自負してるのに…。


「た、タツオさん。顔色真っ青だよ。つらかったらやめていいよ」


 そんなわけにいかねえからこうなってんじゃねえかダボぉ…。


「外崎さんガンバですぅ。万一途中でヘタれたらすっごいことになるですよぅ」


「…がんばる」


 すでに頑張りの限界超えてる気がするがな。

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