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スーパーニートプラン 〜おとぎ草子血風録〜  作者: 海山馬骨
最終決戦・弘前城炎上
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@18の3 『プロ軍人とも喧嘩できる一般人』

 なんか助かった。


 具体的にはシンタを気絶させて盾として構えたら、すべての攻撃がシンタを嫌うように避けていってくれたので助かった。


 シンタはすごい男だ。そのすごさが初めて俺の役に立ったかもしれん。ありがとう。


 しかし状況が改善されたかというと相変わらず全面的に火の海であり、弘前城が灰燼に帰るまで間もなしって感じなのは同じである。


 まあこのようにシンタを構えてる限りにおいては、火炎も弾丸も勝手にどっかへ外れてくれるのでノープロブレム。


 さりとてこのままこんな状態を続けてるわけにもいかないだろう。


 俺がのんびり状況の打開策を考えていたそのときだ。


 いきなり、俺の体が持ち上げられた。


 ヘリから鳴る轟音のせいでバックを取られたことにまったく気づいてなかった。


 え? なに? と思って下を向くと、なんか俺の両足をそれぞれおひとりさま一本ずつ掴んで持ち上げてる奴らが居た。


 弘大と白雪ちゃんだ。


 そして俺が巨大なクエスチョンを解消できないでいる間に、それは起きた。


 飛んだー。


 胃の腑を戻すかと思うほどのGが俺の内蔵を苛む。


 ぐんぐんぐんぐん俺の体が上昇していく。


 飛んで飛んで、数十メートルも飛び上がる。


 すげー。羽なんかなくたって人間って飛べる生き物だったんだ。


 かなうことならそれを自分の体で体験することは一生したくなかったが。


 つーか白雪ちゃんはともかく弘大にこんな目にあわされるとは。


 奴のなかでの俺のポジショニングの激しい変動を感じる…。


 そして。


 ガンガングングンズイズイ上昇してる俺の視界を埋め尽くすように巨大化していくオブジェクト。


 戦闘ヘリのコクピットが、もう手を伸ばせば届きそうであった。


 ガラス越しでパイロットと目があう。


 ヘルメットを被ってるのに目が黄金焼きみてーにまん丸くなってるのがわかる。


 なんか思わず腕を畳んで額にかざして敬礼してしまった。


 パイロットも敬礼を返してくる。正直いま目の前で起こってることをぜんぜん理解できてないと思われるが。


 ばっかおめー弘前じゃ人は空を飛ぶんだよ。


 こんなことっくれーでそんな驚いてたら弘前じゃ生きていけねーぞ。


 で、まあこんな状況に強制的にたたき込まれりゃ、自分がいま何を求められているか否応なしに理解が及ぼうものである。


 慣性に従って俺の体がヘリに最接近したタイミングで、俺はありったけの力を込めたパンチでヘリのガラスをぶち破る。


 そのまま腕を上下左右させ、ぶち抜いた穴を広げる。


 痛くないのかって? めちゃくちゃいてーよ。すげーガラス片が刺さりまくってるよ。


 でもこの戦いが終わったら俺オトヒメさんと完全縁切りするんだ…。


 それだけを心の支えにもうひと踏ん張りすることにした。


 哀れなのはパイロットだ。恐慌をきたして、操縦桿も離して手をでたらめに振っている。


 俺は彼の襟首を掴み、こっちの顔に奴の耳を近づけて叫ぶ。


「パラシュート! パラシュート! OK!?」


 パイロットがこくこく頷いたのを確認し、俺は彼を空へ解き放った。


 全人類の夢、生身の空中遊泳を彼にも楽しんでほしい…。


 俺がパイロットの夢をかなえてあげてすぐ、今度は操縦室と乗員室を隔てるドアが開く。


 腕の太さが女の胴回りはありそうな、って陳腐な表現そのままの屈強の軍人が現れる。


 彼は操縦室の有様と、操縦室に突き刺さった形の俺を驚愕の眼でみたあと、素早く乗員室に戻り、そこへ詰めていると思われる乗員に何事か叫ぶ。


 「エスケープ」とか「ゲラアウッ」とか聞こえるので、おおかた彼らもパラシュートで脱出することだろうと思われる。


 そのほうがいい。


 なにせこのヘリはいまや完全にコントロールが失われて自由落下の最中なのだから。


 しかし、この程度の高さでパラシュートって使えるもんなのかな。


 現代科学に期待だな!


 あと、ヘリと一緒に自由落下中の俺はどうやって助かんのかな!



 なんとか助かった。


 いや、マジで地上激突寸前ってとこで機体を蹴って大脱出してなかったらふつうに死んでたものと思いますが。


 だって地面とキスしてぐにゃっと曲がったその瞬間にヘリ大爆発したし。


 落下地点が弘前公園内であったことは不幸中の幸いといえよう。


 民家に落ちてたら大惨事では済まなかった。


 代わりに弘前公園にはまたひとつ赤熱したクレーターが新生したわけだが、もはやこうなっては今更なのであきらめよう。


 で、このまま逃げようかとも思ったがなんとなく弘大たちが居た地点にテクテク戻ると、弘大たちは弘大たちで屈強の米軍人どもと相対してたわけだが。


「まさかアパッチ・ロングボウが撃墜されるなんて思いもしなかったデース。どんな方法を使ったか知りまセーンが。一般市民に見せかけて軍用ヘリすら破壊する武器を隠し持つとは、とんだ食わせものデース」


 軍人集団の先頭に立つのはマクダウェル氏だった。


 そして大いなる誤解をしていた。すいません素手で壊しました。


 壊したつっても操縦席のフロントガラス割ったくらいで、あとはパイロット追い出しんで勝手に墜落しただけなのだが。


「しかし調子に乗るのもここまでデース。さっき本丸に詰めていたような二線級の一般兵とはワケが違うデースよ! この男たちこそが合衆国の本気デース! ヘイ、ネイビー!」


 マクダウェル氏の号令に答えて、その背後に控えていた男たちがザッと前に進み出る。


 任務に当たってその完遂以外の雑多な思考を一切排除した、まさに戦う人間兵器たる男たちの姿があった。


 筋肉の鎧に包まれた巨体は機敏で、微塵たりの油断もない。


「どうでもいいんだけどよ」


 本当に心底どうでもよさそうな声の調子で、弘大がマクダウェル氏のワンマンショーに水を差した。


「あのおっさんって市長のツレなんじゃねえの? なんで市長が降参したのにまだやる気満々なわけ?」


「あー」


 そういえば弘大はオトヒメさんという人間を知らんのだった。


 だからあの女がどんなにやばいかもわからんのだった。


 俺が、オトヒメさんの桃様襲撃と米軍が撤退してないのを見て、即座に二つの事案を結びつけ、米軍をバックから動かした本当の黒幕が最初からオトヒメさんだったなどと判断するようなことは、オトヒメさんと関わりない人間には無理であろう。


 オトヒメさんがいかな悪鬼羅刹であるかの解説はとても簡単なのだが、いかんせん字数を要する。そしてめんどい。


 どう説明したものか、俺が悩んでいると、マクダウェル氏が勝手に解説を始めてくれた。


「冥土の土産に教えてやるデース! これは我が合衆国と、同盟者たるレディ・オトヒメの深淵なる策謀の第1ページなのデース!」


「ほう」


 弘大が大仰に頷く。


 あの女と同盟者とか言い切っていいのか合衆国、と俺はなんか複雑な気持ちになる。


「第一に、市長と市民の信頼関係を破壊する! 第二に市長主導による戦火を起こす! 第三に、これを不安視する市民の前で我々合衆国軍が事態を収拾する! 第四に、市長に代わる真犯人として桃太郎一派を粛正! そして治安維持を名目として合衆国軍が進駐! 弘前市の統治権を獲得するデース!」


 なんと恐ろしい策略だろうか…なにが恐ろしいといって、実現可能性がオーナインシステムなみに低いことが恐ろしい。


 計画と呼ぶもおこがましい何かだった。


 特に第四から後のジャンピングっぷりが半端じゃなかった。


 イラクみたいに戦争に負けて国体そのものが失われたならともかく、仮にも主権国家であり同盟国の日本の都市に進駐とかできるわけもない。


 大戦略とか好きなちょっとアレな小学生が参謀気分で考えそうな計画だ。大の大人がこんなこと考えるだけで罪なのに、それを実行していいんだろうか…。


 しかし、完全にできないと思うんだけど、ここ最近なんか世界の常識が揺らぎつつあるのを感じるのでもしかしたらがあるかもしれない…。


「そこは自分を信じてあげてもきっと正解ですう」


 ありがとう白雪ちゃん。君は常識破壊装置としてかなり上位の存在だが。


「弘前市民は我が合衆国の準市民として迎え入れてやるデース! 黙秘権も裁判権も選挙権も生存権もなく、納税義務だけがある二級市民としてネ! HAHAHAHAHAHA」


「なあトノ」


「うん」


「なんかもうダルくなってきたんだけど、つまりこのおっさんはぶっ殺していいっつーことだよな?」


「ゴー弘大ゴー」


「やっちゃえですう」


「おう」


「そして弘前はヒロサキ租界として合衆国委任統治領となり、ミーがその総督として全権を支配するのデース! HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAごびゅ」


 マクダウェル氏の後背に控えていた米兵が動く隙もなく、一瞬に距離を詰めた弘大の爆弾パンチがマクダウェル氏の首を刈り取った。


 変なポーズで崩れ折れ倒れるマクダウェル氏の首がいけない方向に曲がっていることについては俺としては目をつむりたい。


「…!」


 コンマの時間で自分たちの指揮官を討ち取られたにも関わらず、戦闘意欲を失わない精鋭なる米兵諸君が即座に弘大を囲んだ。


「せっかく喧嘩しに来たのに、殴り甲斐のねー雑魚か女ばっかで色々溜まってたんだ。死ぬまでやろうぜ」


 自分に対する包囲をぐるり見渡し、通じるのか通じないのか、日本語で挑発…ではなくたぶん本心を述べながら、弘大が獣のように笑う。


 その口元に長大な牙を幻視してしまいそうな恐ろしい笑顔に、囲みこむ米兵たちがじりじりと後ずさった。


「トノ、と…誰? か知んねーけど。お前らは本丸戻っていいよ。こいつらは俺がやっとくから。ていうか、早く行け。全部俺のもんだ。一匹もやらねえ」


「お前…わかった。気をつけろよ」


「誰に向かって言ってんの?」


 まったくだ。社交辞令にも心配するだけ損な奴である。


 俺はもう後ろも振り返らず駆けだした。


 別に本丸に用があるのではない。桃様とオトヒメさんの頂上怪獣大決戦に巻き込まれたくはない。


 でも、このままここにいたらそれはそれでデモニック弘大と米軍の大戦争に巻き込まれそうだから。


 俺は、逃げる。


「え? ほんとですかぁ? お友達捨てて逃げるですかぁ?」


「弘大が殺して死ぬような奴なら俺は苦労してない」


 だから大丈夫。


「ええ…本気で逃げるならそれはそれでいいですけどぉ…ところで今さんはどうするんですかぁ?」


「シンタが殺して死ぬような奴なら俺は苦労してない」


 そういえばヘリに向かって投げられる直前に手放して、あの焦熱地獄のただなかに放置しっぱなしだったが、シンタなら大丈夫。


 なぜならシンタだから。


 だから大丈夫。


「えー…まあいいんですけどぉ…」

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