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スーパーニートプラン 〜おとぎ草子血風録〜  作者: 海山馬骨
最終決戦・弘前城炎上
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@17の3 『そして始まる本当の戦い』

「お初にお目にかかります。オトヒメと申しますわ」


「ほう、うぬが」


「お姉ちゃん?」


 思わぬ人の出現に、ウラシマが目を剥く。


 そして、なんの用か、とでも言おうとしたのか、口を開きかけて次の言葉が声になる前に、桃様が激しくその場から飛び退る。


 一瞬前まで桃様が存在した空間を、オトヒメさんの貫き手が貫いていた。


「お姉ちゃん!? なにすんのさ!?」


「挨拶もほどほどに。あけましておめでとうございます。死ね」


 こんな物騒な年賀の挨拶初めて聞いた。



「外崎さんにも唐牛さんにも失望しました。この人を殺したら、次はあなたたちも始末してあげましょう」


「なに言ってるのさお姉ちゃん!」


「ウラシマ。あなたは早く家に帰りなさい」


「桃太郎さんたちを殺すなんて話聞いて帰れるわけないじゃん! どうしちゃったんだよ!?」


 オトヒメさんが、妹の物分り悪さに困り果てたというように、長いため息をつく。


 その間も一時たりとて手が休まることはなく、高速の歩法で間合いを詰めては、絶命の拳を次から次へ目にも止まらぬ速さで桃様へ打ち込んでいるオトヒメさんだ。


 桃様は桃様でそれに一切の反撃をすることなくいなし続けている。


「はあー。我が妹ながら、不出来が過ぎますよウラシマ。桃太郎さんを消さねばならない理由はあなたも聞いていたでしょう?」


「全然知らないよ!?」


「その話されたときは俺しか居なかったと思います」


 当たり前のように言い放つオトヒメさんに、ウラシマが何言ってんだおめえ、って感じで言い返すので、オトヒメさんはとても不思議そうな顔で俺のほうを見た。


 なので、俺は控えめに手をあげて、そんときの状況を説明する。


 どうしたのかな? 更年期障害が始まったのかな?


「…まあいいです。とにかく、私は桃太郎さんを排除するため万策を尽くしてきました。外崎さんが子供の使いにもならないものだから、外崎さんを唐牛さんの仕業に見せかけて事故に合わせたり、桃太郎さんの子分さんが私刑されるよう手配したり」


 後者は最初から知ってた。前者はいま明かされる衝撃の事実…。でもない。


 いや、あの口先ばっかな貴くんがしょっぱなから人殺しを指示できるとも思えないよね。いま振り返って考えれば違和感バリバリ。


 貴くんが本当に指示してたのは、桃果会が受けてたくっだらねーガキの悪戯オンパレード。あれだけだと思う。


「どんなに手を尽くしても意味がありませんでした。私は唐牛さんの軟弱さを侮っていたんです。ですから、外崎さんがうちの店で唐牛さんを追い詰めてくれた一件は本当に助かりました。さすがにあれで、唐牛さんも自分の命の危機を認識してくれましたから」


「ちょっと待って?」


 聞き捨てならないんですけど。命の危機ってなんのこと? 俺が、いつ、貴くんの命を奪うようなことをした?


「おかげさまで立場を自覚した唐牛さんは私が紹介するルートからどんどん武器を買い付けてくれました。笑いが止まりませんよ。整備不良の中古品や、新品でも廃棄予定の初期不良品を、サブマシンガンだっていうだけで疑いもせず買い取ってくれるんですから。しかも、正常品の相場の3倍で! 半額がキャッシュバックで懐に入ったから大もうけですよ」


 なるほど。貴くんの前で黒服どもをぶちのめしたあの一件が、制動力高めだった貴くんブレーキを動作不良に陥れたということか。


 だから、あんないきなりチャカ持ったヒットマンが登場するようなことになったのか。


 そしてなるほど。そんなに儲かったなら、もう桃様を殺すなんて夢からは覚めて地道な水商売に戻ってはどうだろうか。


「じゃ、じゃあ騙したんですかオトヒメさん!」


 俺と桃様の後ろに隠れていた貴くんが悲痛な声をあげた。


 そういや、この場に居たんだった。


「黙れ、虫」


 それに対して、オトヒメさんの態度ときたら氷の女王のようだった。虫て。


「ずっと粗悪品を買い続けてくれていればよかったのに。それこそ財産すべて吐き出すまで。それがこんなくだらない暴発を起こして。やったならやったで、桃太郎さんを仕留めていれば褒めてもあげたのに、本当に役に立たない虫です」


「…」


 貴くんがはらはらと泣いている。


 多少自業自得な面がありつつも。


「もうよい。うぬの戯言は聞くに堪えん」


 貴くんとオトヒメさんの間に通る視線を遮って桃様が立つ。


「もういいはこちらの台詞です。もういいです。30過ぎてスーパーのヒラ店員に甘んじているようなおじさんと、50過ぎて引きこもってたようなおじいさんに頼るのはやめます。最初からこうしてればよかった。最初から最強のカードを切っていればよかった」


 ひどい言い草な台詞の終わらないうちに、オトヒメさんの姿が残像を残して掻き消えた。


 ドン!


 と、でかい和太鼓を全力でぶっ叩いたような、とんでもなく重苦しい音が弾ける。


 その音の中心点で、桃様が膝をついていた。


 桃様に膝をつかせたのは、オトヒメさんが袈裟切りに振り下ろした手刀だ。


 それを両手で受けたがために、爆音が轟いたわけだ。


 重機じみた超圧力のせいで、桃様の足元の地面がひび割れ沈む。


 え? なんだこれ?桃様が避けれなかったってこと?


「私という最強のカードをね」



「なぜそうまで俺が邪魔なのだ」


「あなたが名君気取りで人のためにならない偽善行為ばかりするからですよ。桃太郎さん直属の桃果会がいい例です。本来ならどんな手段を使っても一晩で10万は稼いで、それをパッと使ってくれていた人たちが、日給5000円の仕事をして空いた時間はボランティアでパトロールなんて。単純計算で経済活動が20分の1に縮んだのと同じじゃありませんか」


「「え!?」」


 俺とウラシマがまったく同時に心底からの驚きの声をあげた。


「…桃果会って飲み屋の上前はねてご飯食べてるんじゃなかったんだ…」


「桃果会の活動ってマジで善意だったんだ…」


 てっきり親玉がイケメンなだけの半グレ集団だとばかり…。


「俺がそのようなものどもを召し使うものか」


「他人の会話に口を挟むなんて余裕がありますね」


 びっくりしてる俺とウラシマの前を、腕が消失して見えるような神速で拳打のやりとりをしながら桃様とオトヒメさんが通り過ぎる。


「売り上げが伸びた店もあると聞くがな」


「そんなごく一部の店の話はどうでもいいんです」


 本当にごく一部の店の話に過ぎないのかはオトヒメさんの証言なのでわかりません。


 怪しい風体のやつが一切現れなくなったっつーくらい劇的に治安が改善したんだから、よくよく考えると大半の店は得したんじゃないだろうか。


 もともとボッタ気味な価格設定で後ろ暗い商売してたオトヒメさんの店が、その恩恵を受けなかったことは想像に難くないが。


「弘前は昔日の姿を取り戻さなくてはいけないんですよ。弘前はあのころに帰るのです。世界最悪・最底辺といわれた、暴力とカネだけがルールの暗黒都市へ」


 弘前で生まれ育ったいち弘前市民としていうが弘前がそんなゴッサ○シティみたいな場所だった歴史は一度たりとてない。適当なこと言ってんじゃねえぞこのババア。


 しかし、つまりオトヒメさんの理想とする『弘前』はそうした場所なのであろう。


 そして現在そうでないなら、武力と謀略によってそんな『弘前』を実現するという恐怖のマニフェストでもある。


 …助けて桃えもーん! 僕の世界ひろさきを守って!


「…タツオさん! 桃太郎さんを助けよう!」


 マジでここでオトヒメさんを止めないと非常にいかんことになると直感したのでなんとかしたいのだが、桃様と渡り合うようなクソバケモンに俺が突っかかってもなあ。


 と躊躇していると、正義の小僧ウラシマ少年が参戦を表明した。


「え、いいのか。お前の姉ちゃん相手だぞ」


「いいよ! どう考えても言ってることおかしいものお姉ちゃん!」


 ほんと似ても似つかねえ姉妹だなあ。


 …うーん、メインは桃様がやってんだし、ウラシマと二人なら横っちょから叩くくらいならいいかあ。


「よ、よしやるぞ」


「おー!」


「行くのか」


 俺が控えめに、ウラシマが元気満点で気合を入れる横で、まったくやる気のなさそうな弘大が居た。


 まったく発言しないから存在を忘れかかってた。


「行くのか。って、いやお前は?」


 思い出してみれば俺やウラシマよりこの男のほうがどう考えても戦力は上だった。


 むしろこんな局面では矢面に立つべきである。


「女を殴るのはなあ」


 あれが女か。


 という言葉を飲み込む。


 いちおうウラシマの前でもあることだし。


 しかし俺たちの眼前では、手刀でソニックブームを引き起こし城内を破壊するバケモンの姿がある。


 これが女か。


 それ自体が非常に難しいことだが、百歩譲ってこの戦闘能力をさっ引いて考えたとしても、この世でもっとも酸鼻を極めるヘドロを腹一杯に詰め込んだようなあの人格の持ち主を女と呼称してよいものか。


「ま、お前らがピンチになったら助けに入るから。ちょっと頑張ってみろよ」


「弘大さんはただの人なんだから無理言ってもしょうがないよ。さあ行こう!」


 こいつがただの人なら俺こそただの人なんだが、もういい。


 一見会話が可能なようでいて、拳銃の恫喝でも意志を曲げられない人間を説得するのは不可能だ。


 なんだかんだオトヒメさんの攻撃を受身一方で避け続けている桃様も、余裕でそれが出来てるわけではまったくなく、一瞬ごとに切り傷や流血が増えていた。


 時間はあんまりなさそうだ。


 よし。行く。


「そういやトノ」


 行く、つって動き出した足が即止められた。


「お前行かねーなら出鼻くじくなや!」


「いや、お前いつのまにそんな強くなってたの? そのうち喧嘩しようぜ」


「いまさら!? そして冗談じゃねーよ馬鹿!」


 この話を継続するとマジでこいつとやりあうことになりそうなので、俺はもはや一切振り返ることなく駆け出すのであった。

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