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スーパーニートプラン 〜おとぎ草子血風録〜  作者: 海山馬骨
弘前市長出現
37/65

@14の2 『吹雪の夜に』

 二日ほどたった。


「うお、やべー。寒い。寒い。死ぬ」


 その日の仕事を終え、スーパー『ホイド』を出た俺であったが、即店のなかにリターンしたくなった。そりゃ暖房もろくろく効いてないような店内ではあるが、吹雪の外よりはなんぼなんでもマシである。


 つかマジか。今年は積雪がやたら遅い年で、年内の積雪はないものと思われたつーか夕方のニュースの天気予報でヨッシーも「年内は積もりません」言ってたのに、昨日までろくに降ってなかったと思ったらいきなり吹雪になるのかよ。こういう予報はちゃんとしろよヨッシー。頼むよヨッシー。昨日までぬくかったからあんま厚着もしてないし傘も持ってきてねえぞヨッシー。


 神ならぬヨッシーを恨みながら、しょうがなく雪のなかに歩を進めると、俺の行く手を遮る謎の影が。


「待ってたよタツオさん! さあ、『からぽねヤミー』に行こう!」


「情報収集して桃様たちと作戦会議っす! 準備は万端っすよ!」


「…」


 俺は思わず、目の前に出現した馬鹿二人ではなく、ごうごうと闇を切り裂く真っ白な雪嵐が吹き荒れる空を見上げてしまう。


 何を言ってるんだろうかこの馬鹿どもは。


「鍛治町まで行く足は? シンタ、お前もうイン○レッサ貸さないって親父さんにキレられたんだろ?」


「「2本の足がある!」っす!」


 ユニゾンして言う馬鹿二人の頭といわず肩といわず、ごっそりと雪が乗っている。


 呆れてものが言えねえ。


 てかなに? じゃあ鍛治町らへんから俺んちまで、歩いてきたの? この吹雪のなかを。


 狂ってんのか。


 俺は狂人の相手をする趣味は持たないのでさっさと家に帰ってシャワー浴びて寝るわ。


「あれ! なんで素通りするの!? ちょっとちょっとタツオさん!」


 なんでじゃねーよ。掴むな。離せ。店のやつに見られて知り合いと思われたら困る。


「あんな話聞いてなにか力になってあげようとか思わないんすか! 勇者でしょ!」


 少なくともこのクソドカ雪のなかを徒歩行軍で数十分か下手すりゃ一時間も歩くほど力になってあげようとは思えないつーか、お前はなんでそんな義憤に燃えてんの? いちおう34だろ?

 思春期潔癖症のウラシマくんはともかく、なんにほだされてそんな熱心になってんだよお前は。ていうかあんな話聞いてパンツぐしょぐしょにした奴に勇者でしょとか説教垂れられるのは心外極まるつーか死ね。マジで死ね。今このとき俺はここ10年ほどで最大級にシンタに対して死ねと思ってる。


「足があれば行くんだね!? じゃあ私が、私が…! ぐううう!」


 財布を取り出し、その中身と睨めっこして唸るウラシマ。


「タクシー代を…!」


 そんなか。


 そんな血反吐ぶちまけるほどの思いでタクシー代捻出してまで船越さんの力になってやりたいのか。なんという勇者メンタルの持ち主だろうか…。俺の能力全部お前が持ってればよかったのに…。


 さすがにこれを断りきれるほど俺も鬼ではなかった。



「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは! よもやこの大雪の中に参じるとは、うぬも見た目にそぐわず義侠心のある男じゃな」


 タクシーから降りて『からぽねヤミー』までのわずか数十メートル歩いただけでミニかまくらみたいになってる俺たち3人を見て、桃様以下桃果会一同大ウケであった。


 あと予想はしてたけどここに来るだけでタクシーで2時間かかった。もう絶対この馬鹿どもの思いつきには付き合わないと心に決めました。あ、タクシー代は桃様があっさり全額払ってくれました。


「ぶっちゃけ俺個人としてはどうでもいいつーか関わらないほうが…と思ったんすけどね…」


「あのおなごについては俺もそう思うがな」


「え?」


「ん?」


 …桃様の口から、桃様とは思えない発言が飛び出たような?


 どういうことか、と疑問を形にする前に、桃様が乱暴に俺の肩を叩いてコップを押し付けてくる。


「まずは駆けつけ三杯じゃ。外はさぞ冷えたであろう。五臓六腑に燗をせよ」


 なんか桃様がやたら上機嫌だが。まあいいか。仕事終わりにこんな強行軍してきたんだしタダ酒の役得くれーあったってよかろうものだ。俺はありがたくお酌を受けた。


「て、タツオさん! いきなり飲まないでよ! これから真面目な話するんだから!」


「はい! セイイチ脱ぎまーす!」


 ウラシマが渋面作って俺を止めにかかるその背後で、桃果会のすでに出来上がってる愉快な面々が完全に深酒宴会モードである。この空気のなかで酒入れないで話するのは逆につらみ溢れすぎるので俺は迷わずコップを呷る。


「あー! もー!」


 ウラシマが両手を振り上げてキレた。



「でえ。なんか進展あったっすかあ?」


 はあ。寒い日はやっぱ強い酒に限るなあ。この腹が焼けるような熱さが、指先まで冷えた体に染み渡っていくようだ。あ、ごめん嘘。2時間もタクシー乗ってたからむしろ体の芯からだるいほどぬくい。冷えてるのは体表面だけだ。まあなんにせよお酒はおいしいね!


 そんなわけで俺はさっそくいい気分になりながら桃様に尋ねる。


 ステージを店の奥の個室に移しての談話である。談話より俺としては飲み会の要素のほうが強いし大事だが。


「あったから呼びに行ったんだよお…」


 アルコールゼロ%のコークスクリューをちびちび舐めながら、なんか不満げなウラシマくんである。なんなんだよ、あのクソ雪のなか2時間もタクシー乗ってここまで来てやったというのに。


「あったと申せばあったか」


「桃様、なんすかその言い方! 大事件じゃないっすか!」


 シンタが超興奮してる。サカリがついた馬みてえに。こいつが大事だと思って興奮することというのは、そのほかの他人にとっておおむね心底どうでもいいことばかりというのが俺の経験則だが。


 シンタいわく。


 最初の『事件』は桃果会のメンバーの車が車上荒らしにあったことという。


 車上荒らしといいながら運転席側の窓が割られただけで、何か盗まれたわけでもなかったが、被害者青年は犯人見つけ出してぜってーボコボコにする。と息巻いた。桃果会一同も協力を誓ったものである。なにせ面子の商売だ。舐めた真似されて放置したままでは沽券に関わる。


 しかし、いざ桃果会が動き出そうとしたタイミングで、次々と『事件』が起こる。


 バー『からぽねヤミー』の店のドアがいきなり開いたかと思ったら生卵を投げ入れられたり。


 メンバーのチャリのサドルが盗まれたり。


 メンバーご自慢のハーレーに10円で引っかいたみたいな傷で『天誅』って書かれたり。


 メンバーの家の郵便ポストに賞味期限が切れてカビが生えたイギリストーストが突っ込まれたり。


 メンバーの家の犬小屋の前のエサ皿にチョコスプレードーナツが入れられたり。


 エトセトラ、エトセトラ。


 うん。


「…くだらねえええぇぇぇ…」


 思わず心底からの呆れを含んで言ってしまったら、シンタの説明をうんうん頷きながら聞いてた桃果会一同がギンッつー感じで俺にガンくれてキレだした。


「くだらなくねーだろ! サドルないチャリは乗れねーじゃねーか!」


「食ってなかったけどもし犬がチョコ食ってたらどうすんだ!」


 食ってなかったんならいいじゃねえか。と思わずにいられないのだが、俺が間違ってるんだろうか。というか真剣に犬の心配なんかしてんじゃねえよ。それでも不良かこいつら。


「ハーレーに傷つけたのは許せねー! バイクは俺らの魂だぞ! 直すのにいくらかかるかわかってんのか!」


「あ、でもあの『天誅』の字かっけえから俺残そうかなと思ってんだけど…」


 出てきた話のなかで唯一被害らしい被害といえたハーレーの持ち主がその被害内容を気に入ってるなら実質損害ゼロであった。


「マジでどうでもいいことばっかじゃねーか」


「いったっ! いたいっすよトノ! なんで俺を殴るんすか!」


 少なくとも、走行中の車のタイヤを破裂させられて交通量ピークの国道で半回転という、俺らがあった事故に比べりゃ不良の中坊のいたずら以下な案件ばっかであった。


 俺はこんなくだらねー話を聞かされるために仕事後の疲れた体に鞭打ってここまで連れてこられたのか。怒りすら感じる。


「ま、まあでも明らかに誰かが桃太郎さんたちに悪意を持ってるのは確かってことだよ」


 ウラシマがフォローとして成立してないことをのたまうが、とある誰かさんが桃様に悪意持ってるのは別にいまさら追認など必要ない前提的な事実でしかない。


 そしていずれの出来事も明白に人為的なものなので、あえて『事件』とは呼称したが。しかしこれを事件として110番に相談持ちかけたところで、まるで問題にされないのは明らかである。警察はそんなに暇じゃないのである。どこの警察が生卵ぶつけられました! なんて事案で捜査に動くというのだろう。


「法が裁かないなら俺らがやるしかないんすよ!」


 何が『俺ら』だこの野郎。まるで自分もその中心に立って頑張るようなこと言いやがって。カネも権力も持ってる弘前市長に楯突く気なんかこれっぽっちねーだろ。景気いいことだけ言って後は桃様と俺と桃果会がなんとかしてくれるとしか思ってねーだろ。


 いい感じで酔いが回ってきたのに気分が悪くなりそうで実に不快極まりない。


「証拠は?」


「は?」


「は? じゃねーよ。その桃様に悪意持ってる奴がいる、って証拠と、仮にそんなのが居たとして一連の悪戯を全部そいつがやったって証拠は? 証拠もねーのにどこの誰を『やる』つもりなのお前ら」


 詭弁である。


 あんだけ大々的に白昼堂々正面切って桃様に喧嘩売ったおっさんが居るのだから、そのあと特定のグループに属する人間だけをターゲットにこういう事件が立て続けに起こったのなら、もう状況証拠だけで十分真っ黒だ。とりあえず、悪戯に対して私刑的報復を加える程度はもう起こっておかしくない。


 もちろん市長サイドはそれが狙いなのだろう。どこから現れたのか正体不明の人間が、素行の怪しい連中を集めて危険な団体を組織した。そして、これが市民の代表たる市長に犯罪的暴力行為を加えてきた、となれば世間はどう思うか。


 このしょぼい悪戯連発なんか比較にならん、一網打尽の逮捕案件である。


 つまり、あまりにも手法が安っぽいが、これはれっきとした挑発だ。


 冗談ではない。それで桃様以下桃果会一同が摘発されてしまえば、俺単独でカネも権力も持ってる唐牛貴くん50歳を排除する方法などなくなってしまうではないか。というか、桃様が動かないのにその下の雑魚一同featシンタが動いてもなんの意味もない。


 はっきりいって俺としては桃様以下皆様方がどうなろうが知ったこっちゃないのだが、しかし娑婆とバイバイする前に市長は最低限道連れにしてもらわないと、俺のお財布事情が困るのだ。


「そんなの悪いのは市長の野郎に決まってんだろうが!」


 桃果会のチンピラがキレて吼える。そんなもん誰でもわかってる。


「お前がそう思うならお前んなかではそうなんだろうけど、それで実際桃様が動くのか聞いてみたら?」


 誰でもわかってることを、あえて濁して言ってる俺の意図を汲めない程度に頭悪いやつに理非を語ったところで仕方ない。俺は桃様にご出馬願う。


「え…そ、そんなんもちろん行きますよね兄貴!」


「軽挙するでない」


 一言で切り捨て、桃様が杯を呷る。


 話は終わりだ。


 立ち上がって気炎を上げてたチンピラーズが、不承知丸出しの不満顔で散漫に席に就くのを見ながら、俺も日本酒を飲み下した。


 こういう風に話の流れを持ってきはしたが、実のところ俺としては意外の感がなくもない。


 挑発にしてもやることしょぼすぎねーか?


 一発目で国道走行中の車をパンクさせるとかいう、殺人未遂そのものの挙に出た連中と同じ集団とはとても思えないしょっぱさである。


 シンタとウラシマがたいへんたいへん大騒ぎすっから、気が進まねーとか言いつつどんな血煙が上がったのかと内心ちょっと野次馬根性ありつつ来たのだが、蓋を開けてみたらこんなもんであった。まさに大山鳴動してねずみ一匹とはこのことか。


 俺たちがされたようなレベルの仕掛けを他の連中も受けたなら、桃様もただちに動いたことだろう。


 そういう意味では期待はずれでもある。桃果会のチンピラ2、3匹の命を生贄にして俺の地下探索収入がV字回復する大チャンスだったのに…。キャラ群来て虹字予告で擬似連3回して突入した確変が大当たり一回で終わったみたいな話であった。ふざけんなよなマジで。貴くん陣営ガッツが足りねーよ。それはそうとパチンコってマジでクソゲーだよな。


 しかしなんだ。完全なる誤解だが、たぶん貴くんには桃様の側近筆頭みたく目されてるであろう俺やシンタへも、あれ以降は特になにもアクションがないし、いやまたあんな事故とか仕組まれたら本気で死ぬんで一刻も早く貴くんなんとかしてくれよ桃様、やくめでしょ。とか非常に言い出しづらい感じにはなってしまったことだなあ…。


 あれだろうか。もう一発や二発、いや3発までなら誤射かもしれないみたいなゾーンに突入してるっぽいだろうか。


 まあ、さすがにあっちも体面とかあるだろうし、あれほど派手なことを仕掛けてくることはもうないだろうけど。ないと思いたいけど。



 一週間たった。


 間もなくクリスマス。恋人や家族のいない人間にはまったくこれっぱかしも関係ない聖誕祭が街へ来るヤァヤァヤァ。


 桃果会への陰険な嫌がらせは相変わらずの密度と頻度で行われているようだ。


 毎日毎日飽きもせずに、バー『からぽねヤミー』の入り口にバナナの皮を置くとか、メンバーの愛車の吸気口に釣りで使うオキアミのすりつぶしたやつを塗りたくるとか、『からぽねヤミー』が入居するビル周辺に「桃果会は泥棒」とかいう張り紙が大量に貼られるとか、合いも変わらず地味かつくっだらねえ子供の悪戯のオンパレードだが、それをやられてる連中のほうも子供なみの知能と理性しか持ち合わせないので、溜まり場の雰囲気は最近最悪らしい。


 らしい、というのは俺はお仕事があってそんな頻繁に鍛治町なんて行ってられんからで、以上の話はウラシマからの伝聞による。


 また桃様が桃様で「なんで動いちゃ駄目なのか」つーことをわざわざ言葉を尽くして奴らに説明してやるような人でもないのが、事態の悪化に拍車をかける。


 まあ、誰だって嫌がらせをされても放置して我慢しろ、なんてのをずっと耐えられるわけもない。それが脳みそ筋肉チンピラ集団の場合においておや、という話である。


「っらぁぁぁあああ! 次はてめえだこらぁぁぁあああ!」


「くそっ、こいつ力が強いぞ! 全員で抑えろ!」


 だからして、現在の桃様周辺はバルカン半島顔負けの火薬庫であることが確定的なので、俺としてはしばらく『からぽねヤミー』どころか鍛治町にすら近づかんとこう、と思ってたのに。


 俺はとりあえず席を立ち、店を出て、店の前でポン引きに精を出す少年の頭をガシリと掴む。非常に懐かしいこの感じ、アイアンクロー。思えば俺とお前の出会いはこんな感じだったな。


「おいウラシマ」


「な、なにカナ?」

 

「お前絶対なにも起きないからつったよな?」


 近づかんぞと思ってたのに2時間3000円ぽっきりで飲めるサービス券をあげるから、といってクラブ『観音カノン』にまんまと誘い出された俺も俺だが。


 まあ、もう店に入った瞬間に悪い予感はしたんだ。


 なんでかって猿と雉が居たからだよ。


 思えばその時点で帰ればよかったのに、化粧べっとりモードのオトヒメさんがいつになく優しい笑顔で手招くから、生存本能と危機感がバリバリに刺激されつつもふらふらしてしまったのだ。


 オトヒメさんのお酌でくいくい飲んじゃって、ずいぶんいい気分になっちゃって、気がつくとどっかで見たような黒服連中が来店しており、止める間どころかあっという間もなく殴りあいの喧嘩が始まってしまった。


 ほんとさ。


 『観音』は『ノブレス』とかほどじゃねーにしても、そこそこお高い店なの。そんなとこに猿だの雉が居る時点でもうおかしいじゃん。


 それが2時間3000円とかの格安居酒屋の呑み放題プランみたいな値段設定してるのもおかしけりゃ、そんなプランに付き合ってママ役のオトヒメさんがお酌なんかしてくれるのもおかしい。まともな部分がひとつも見つからないシチュエーションだ。


 …男って悲しい生き物だよな…。安い酒ときれいなチャンねーが居れば、見えてる地雷を踏み抜けちゃうんだもんな…。我がことながら涙出そうだ。


「いけませんね。あのチンピラ思ったより強いですよ。あの人数差なのに市長さんの手下を圧倒しそうです」


 俺のあとをついてきたんでもあるまいが店から出てきたオトヒメさんが、なんか冷静に店内の喧嘩を実況している。


 なるほど、オトヒメさんの言うとおり猿はばかり君はかなり腕っ節が強いようではある。


「こんな店のなかで喧嘩してんの止めないんですか?」


「困りました。彼には首の皮一枚繋がるか繋がらないくらいの半死半生になってもらう予定ですのに。勝たれてしまったら元も子もありません」


 なんと恐ろしいことを言う女だろうか。


「…ちなみになぜそんなことを?」


「いつまでたっても桃太郎さんが動いてくれないようなので。大事な弟分が全殺し一歩手前くらいに痛めつけられたら、さすがに彼も考えを改めると思いませんか?」


 鬼かこの女。鬼だった。


「まあそうすね。ところでその話に俺はまったく関係ないと思うんですけどなんでだまし討ちでこの場に同席させたんです?」


「まかり間違ってあの子が殺されそうになったら止めに入ってください」


「てめえーでやれやそんなこと」


「私は女ですよ? ほんと男とは思えない発想しますね外崎さん。大の男を拳で制圧するなんてしたら他のお客様に引かれるじゃないですか」


 知らねえよそんなこととしかいいようがない。この店の常連連中は自分がヤニ下がってる女がどんなクソバケモンだか露ほども知らんらしい。知らんというのは幸福なことだなあ…。


 しかしあれだ。市長の手下軍団ほんとに弱い。いや猿きらり君が俺たちの想像より遥かに強いのかもしらんが。それにしても五倍の人数で囲んでるわりにボッコボコだ。黒服のほうが。


 船越さんの話じゃ市長の手下っつーのは格闘経験もあるプロのボディガードのような触れ込みだったのに、とてもじゃないがそうは見えない。喧嘩馴れしてるとはいえただのチンピラにまったく太刀打ちできない格闘技経験者って、そんなもん有り得るんだろうか…。


 この分じゃ数分も持ちそうもないなこいつら、と思って眺めていると、黒服のうち一人がスマホを取り出しどっかに連絡しだした。応援要請か。


 だが正直、こんなうらなり雑魚が何ダース増えたところで猿&雉には勝てそうもない。というか勇者能力ナシの俺でも頑張れば殴り合いで勝てそうなレベルに弱くねーかこいつら。一般人だったころの俺より弱いってのは、自分で言うのもなんだが相当なもんだぞ。男やめて舌噛んで死んだほうがいいレベルのナメクジだぞ。


 このままじゃこいつら、マジで全滅させられそうだなあ。と他人事で眺める俺だったが。

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