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スーパーニートプラン 〜おとぎ草子血風録〜  作者: 海山馬骨
弘前市長出現
30/65

@12の1 『超リアルなキングス○ィールド(戦闘シーンオンリー)』

「どうしようウラシマ…このゲーム死ぬほどつまんねえ…」


「ゲームじゃないからね…」


 ウラシマとシンタを引きつれ我が家に戻った。そして、コーヒーを入れて腰を落ち着け、置いてきた分身ちゃんに『共感』をかけ、さあ探索だと意気込んだはいい。


 ただひたすらにだだっぴろく、地形も障害もクソもない、行けども行けども薄暗い地面しか見えてこないという画面構成。


 出てくるモブは気色悪い畸形の化け物オンリー。


 敵が見えるなり戦闘。戦闘。ひたすら戦闘。


 こっちが取れる戦術は徒手空拳のみであり、敵もせいぜい個体差といえば大きさとスピードが違う程度。


 作業的であった。ライン工のうちで最も低質な仕事を任されてるライン工のごとく、単純極まりない作業の機械的な反復であった。


「いかん、眠くなってきた…本気でクソゲーだぞこれ…いやマジでこんなダルいゲーム初めてやった…」


「ゲームじゃないからね…!」


 ウラシマが拳を強く握り締める。そんな祈りを込めていわれても困るんだ。ほんとにだるいんだこれ。デバイスが俺の頭の中にしかないから、他のやつにネタでプレイさせられないのが惜しいほどのクソゲーだ。


 思えば日本産RPGは国内ライターに『ストーリー付き戦闘ゲーム』とかいわれて洋ゲーに比べたら全然ロールプレイングになってないって小ばかにされ続けたものだが、しかしながらどうせ戦闘ばっかならせめてストーリーくらいはついてたほうがいいわ。


 戦闘ばっかなら戦闘ばっかでもいいから、もっと本当に単純な動作だけなら反射神経の限界に挑んだりって楽しみ方になってくるからよかったのに。ゲームウォッチは偉大なのだなあ。


 下手にちゃんとした戦闘の体裁がある分手続き手順が煩雑であり、しかも分身ちゃんは殺されたらまた出しに行かないといけないという都合上、残機ゼロで弾幕ゲーやってるみたいな気分である。しかも弾幕ゲーにそのまま例えるなら、弾幕の形が常に一定でそれが延々と延々と延々とどこまでも続くという弾幕ゲーだ。ひとつも爽快感や達成感につながらない無駄な難易度というやつだ。


「あ」


 油断した。分身ちゃんが儚く散った。


 いや、それは本当に油断といえただろうか。失敗して早く終わろう、という内心がなかったとは断言できない。


「どうしたの?」


「分身ちゃんの霊圧が消えた」


「え、消えちゃった? やられたの? じゃあもっかい出しに行く?」


 ウラシマがそう言ったそのときの俺の顔ときたら、きっと筆舌に尽くしがたいほど醜悪に歪んだのであろう。ウラシマシンタ二人揃って、哀れみの視線を寄越すのだから。


 とはいえ、実際問題どうにかしてノルマを達成する必要はあるのだ。具体的な数値目標こそないが、だからこそいくら稼いでもケチをつけられる可能性はあり、稼いで稼ぎすぎということはない。


 でも、もうこのゲームはやりたくない。ゲーマーの誇りにかけてこんなクソゲーはこれ以上遊べない。料理人が自分の舌を大事にするのと一緒である。決して単純にかったるいからではない。


『昨日行われた弘前市長選では、新人の唐牛貴さんが僅差で勝利し、当選を決めました』


「あ、市長選のニュースだ。へー、新人の人が勝ったんだ」


「いつのまに市長選なんかやってたんだ…?」


「謎っす…あれ、前職つか今までの市長って葛西さんじゃなかったっすか…? 山田って誰だろう…」


 やめろ小僧。新聞も読まないレベルのうす馬鹿を見る目で大人たちを見るんじゃあない。確かに読まないし、テレビでもニュースはほぼ見ないが。


「昨日までみんなその話ばっかしてたじゃん。夕方のニュースも特集組んでたよ?」


「昨日までなんの話してたシンタ?」


「昨日はバイト先で最近行ってるラーメン屋の話で盛り上がったっすね!」


「そうか」


 俺は弘大に現彼女(去年までJKだった子)の友達誰か紹介してくれよーとか言ってたが、口には出さないでおこう。ほら、シンタに対するウラシマ評価にさらに盛大な赤字がついたのがウラシマの表情からわかるだろう? この崩壊現象に巻き込まれるのは危険だ。


 いや、だいたい究極のぶっちゃけ話していい?


 なんらかの特殊な状況を除いて、田舎の自治体の首長選挙ってなんか意味あるの? 地方都市の市長選なんて現職候補に駄目出ししてクビを挿げ替えるとき以外機能しなくない? みんなは自分が住んでる街の首長がどんな人でどんな功績があってどんな政策を推進してるか知ってる?

 俺は知らないよ? いや、何もそのことを恥じろっていうんじゃない。


 つまり俺が言いたいのはだから俺やシンタが弘前の元市長も現市長も顔はおろか名前にすら覚えがないのは仕方ないというかむしろ知らないのが自然なことだし、異世界出身なのにちゃんと知っててニュースも見てるウラシマを勉強熱心なやつだと逆に褒めるべきだということだ。


「なんかでもこの人、あんまり評判よくないんだよね」


「というと?」


「なんかお酒の飲み方が悪い…のかな? 聞いた話だと。私は直接会ったわけじゃないしよくわかんないや」


「なんだ」


 ついこないだ市議会を巻き込んだ不正市長選挙でヒートアップした市がすぐ隣にある我が弘前市ですぞ。酒癖が悪いくらい全然許容範囲さ。


 しかし。


「いや、会う機会もなかろう市長のことなんかどうでもいいんだよ。なんとか金策考えねえと…」


「分身出しに行く? その顔やめて…そこまでつまんないの…?」


 寝そうになるくらいには。一時間で切り上げたからまだあれだが、普通のゲームと違ってあそこから面白くなったり盛り上がる可能性がゼロで、永遠に同じ展開が続くだけと知ってしまってるので徒労感もひとしおである。あんなもん何時間もやったら発狂しそうだ。


「あ、じゃあ桃様に頼ったらどうっすか? なんか何でもなんとかしてくれそうじゃないっすか?」


「…確かに」


 どんな無理難題を持ち込んでも解決してくれそうな頼もしさが溢れた人ではある。明治大正の大親分のようだ。


「じゃあ行こっか。そろそろお昼だよ、なんかおごってよタツオさん」


「お前の姉のせいで金の工面に頭がフットーしそうな俺にさらに飯おごれと申したか」


「あ、じゃあ桃様におごってもらったらどうっすか? なんか何でも食わせてくれそうじゃないっすか?」


 俺は、シンタは時々すごい大物なんじゃないかと感じる瞬間があります。


 なにはともあれ、桃様が居そうなとこに行くことになった。



 運動公園。


 国道7号に隣接する、弘前市民憩いの運動空間である。主に富裕かつ体がなまってる、つまり暇なプチブルの連中が集合する場所だ。弘前公園に続く弘前第二のプチブル広場と俺のなかで名高い。


 そのなかの、特に何かの競技のコートとか、体育館近くというわけでもない、ただの通路に設えられたベンチの上にその人は座禅を組んでいた。


 黒のレザージャケット、黒のカラージーンズに、真っ赤なインナー。ど派手なカラーリングのようでいて、肩まで垂らした桃色のロン毛のおかげで、妙にしっくり来る佇まいであった。


 見た目を言葉で表現すればどう見ても禅などする若者ではないようだが、その幽玄なる座禅姿が森閑として場の空気を支配している。つまりいつもどおりの桃様なのであったが。


「タツオにウラシマに今か」


 そして、目も開けず言い放つ桃様。


「気配だけで誰が何人居るのか察知するとかいう人間スカウターみたいな技見せられても、まあ桃様だしとしか感じないっすね」


「ついこないだもっとすごいもの見せられたからね」


 ウラシマとシンタがうんうん頷きあっているが、そんなことは今はどうでもいい。俺はもっと切迫した事情を抱えてここに来たのだ。


「桃様一生のお願いです。カネ貸してください」


「いくらじゃ?」


「え、とりあえず30万くらいかな…?」


「いま来る。ひとまず腰を降ろして待て」


 用途とかそういう細かいことは一切聞かず、質問はたったひとつ、いくら要るのか? こんだけ。すごい。男として一度はこういうことしてみたい。勝新かよ。相変わらず男が欲しいものすべてを兼ね備えた人だった。


「兄貴! お待たせしました! 今月の土手町からのアガリしめて100万っす!」


 昼日中の陽光を受けて、桃様と俺と二人のアホの計四人がのんびりしていると、そのおだやかな空気を切り裂くように大声をあげつつムサくて反社会的な身なりの男が現れた。有体にいうとヤクザだった。


「おう、大儀であった」


 そのヤクザが、50万円ずつ入ってると思われる分厚い紙封筒2つを、王への献上品のように恭しく差し出すのを、桃様は無造作に鷲掴みして、そのうち片方を俺に放って寄越した。


「つり銭は煩わしい。まとめてとっておけ。こなたは俺の今夜の飲み代ゆえ呉れてやれぬが大目に見よ」


 と、薄く笑って残ったほうの封筒を懐に入れた桃様である。50万からの差し引き20万を『つり銭』とか称してしまう感覚がマジビッグだ。俺はビッグだつったビンビンしてる人よりビッグだ。


 しかし、すげえ。50万円って何十キロあるのかしら…。こんな金額手に持ったの生まれて初めてだよ僕…。なんかダンベルより重い気がする…。


 俺が札束の重みに恐れおののいているのを、じっと見る目がひとつある。


 視線を感じてそのほうを見ると、件のヤクザが穴をあくほど俺を見ている。


「兄貴、こちらの方は?」


「我がともがらの外崎龍王じゃ。俺と思って仕えよ」


 舎弟です。友達じゃないです勘弁してください。桃様と同格なんて、人間として何を要求されるかわかったものではない。


「なるほど! わかりました! これからお世話んなります外崎さん! 自分、猿止渉さるどまりわたるっていいます!」


 ガバッ


 とガルウィングなみに両手を振り上げんばかり頭を下げられても困る。お前みたいな気合が入りすぎたヤクザリーゼントのお世話をする気はさらさらない。


 や、しかしこいつなんかどっかで見覚えがあるんだよなあ…。


 猿野郎の真似でもないが、俺もついまじまじとそのツラを見てしまう。


 しかし立派なリーゼントだ。油ごってごてのギットギトで白い油分が浮くんじゃねえのとすら案じられるほど。こんな恥ずかしげもなくポマード塗りたくる人間は90年代のVシネマ世界でしか生存できてないと思ってた…って。あ。


「おめーいつだかの銃撃犯じゃねーか!」


 忘れもしない、つーかいやまあ今の今までは忘れてたんだが、そいつは紛れもなくあの夜にスナック『千鶴子』で俺たちを襲ったどチンピラだったのだ。とっくに路地裏で冷たくなってるか豚箱入ってるかだと思ってたのに。


「あ、やっぱり外崎さんってあんときのお連れさんですか!? いや、その節はですね! 俺も若気の至りと申しますか!」


「終わった話じゃ。俺が許したゆえ、うぬも許せ」


 覿面に慌てるどチンピラを制するように桃様が手をあげる。


 や、別に俺がなんかの被害を受けたわけでもないので、許せっつわれて許すことにさしたる抵抗があるわけでもないんだけど、その許すべき理由というのが『俺が許したから』っていうのが本当に桃様って王様だな思うね!


 しかし、そうなってくると、あれだ。


 これだ。


 俺は、桃様から受け取った分厚い紙封筒を思わずまじまじ見てしまう。


「このカネ、大丈夫? ダークネスかつアンタッチャブルな経緯で人々の涙と恨みが染み付いてない?」


 なんせ俺は、お前らヤ業の連中に汚いカネ掴ませられてハメられることにかけては前歴があるからな。警戒するに越したこたあない。


「なんてこと言うんですか! その金を馬鹿にするのだけは許せねえ! みんなの感謝の気持ちを集めた金なんだぞ! いらねえんなら返せぐべっ」


 どチンピラが詰め寄ってきたので怖くて思わず腹を蹴ってしまった。あ、そういえば俺勇者って設定だったから、百人力の脚力なんだけど大丈夫? 内臓破裂とかしてない? やばそうだ。顔色が土気色になって脂汗吹きやがる。ヨエーなただのチンピラ…。え、こんななんの脈絡もない展開でいきなり殺人犯になるの俺。正当防衛成立しない? マジで?


「た、タツオさんさすがにお天道様が真上で見てるとき一般人殺っちゃうのはちょっと…」


「やっぱこの人にこんなパワーは相応しくないっすよ…もっと自覚と責任感のある俺みたいな男が持つべき力なのに…」


 居たのかお前ら。桃様たちと会話してる間空気すぎて忘れてた。あとこれ一般人じゃねえし。殺人未遂の犯人だし。てか俺もまだ殺ってねえし。そしてシンタはいまだにそんなこと考えてたのかこの馬鹿。


「やれやれ」


 場が収集のつかないカオス空間へ突入しようか、という空気を断ち切るように、桃様がどチンピラの頭のそばに膝をつき、そのままどチンピラの襟首を持ち上げた。


「あんな蹴りで倒れるのも無様じゃが、あの程度の挑発に乗るとはいかなる有様じゃ。千万もって修養が足らぬな。この程度でくたばることもあるまいが」


 挑発じゃなくってまるっきり本音なんですけど!


「そうすっとあれです? このお金はこの猿ナメリくんが言うとおりきれいなお金なんです?」


「何を持って良銭悪銭と為すか。そも、銭自体が穢れじゃというものもあろうが」


「禅問答はまた今度で…」


「ことのはじめは、単なる謝礼だったのじゃが」

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