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スーパーニートプラン 〜おとぎ草子血風録〜  作者: 海山馬骨
愛と闘争の日々
16/65

@7の1 『人間をレベルでランク分けすんのってどうかと思う』

「おおー! レベルアップしてるよタツオさん! シンタさん探しに行ってなんでレベルアップしてるの?」


「なんでだろう…」


 思えばシンタを捜索してた時間より、化け物にドロップキックしてた時間のほうが長いような気がする。知らずにもりもり経験値を稼いでしまっていたらしい。


 いや待て。


「つかレベルアップってなんだ」


 あと経験値ってなんだ。RPGのキャラか俺は。いつのまに俺という人間はそんなデジタルな基準で管理されていたのだ。


「勇者になると一定量の経験を積んだときに、人間としてのレベルが上がるんだよ」


「人間としてのレベル」


 つまりあれか、その管理基準から見るとこないだまでの俺は人間としてのレベルが最低のクソ野郎だったということか。自分が最低のクソ野郎であることについては些かの自負があるが、それを改めて他人に言われるとムカつくなあ…。というか何勝手に人をタグ付けして分類してんだ、官公庁がやってたら即座に大騒ぎになって廃案に追い込まれそうなシステム押し付けやがって腐れキングダムが。


「てか、なんだ? その考え方でいくと、俺はたとえばこれからはなんぼ筋トレしたりしても筋肉はつかなくて、そのレベルとやらが上がるまで能力が上がんねーの?」


「ううん、レベルっていうのはそういうのじゃないよ。どう説明したらいいかなー。勇者だけの特権っていうか、頑張った勇者へのご褒美っていうか。なにかひとつのこと練習して、それに対する熟練が上がるっていう人間としての当たり前の機能には別に影響しないよ」


「ご褒美って何がだよ。なんも実感もいいこともねーぞ」


「たとえばライアードリアルの選択権がひとつ増えたりするよ」


 ガタッ


 思わず立ち上がった。突然の大きな物音に、周辺客が一斉に俺たちを注視する。


 ちなみにロケーションは樋之口のイオリタウリ内のファミリーレストラン白豆腐だ。


 万一ほかの客に漏れ聞こえでもしたら、羞恥のために腹割って果てねばならんほどの会話をしてる。にも関わらず、注目を集めるような行動をしてしまったことは一生の不覚である。危ないところだった。


「…マジで?」


「うん。もちろん特典はそれだけじゃないけど、大きいところはそれかな。おめでと」


 おお…おお…天にまします我らが神よ、我をお見捨てにならなかったことに感謝いたします。白雪ちゃんとかいう赤の他人を助けるために失われた俺のかけがえない宝が、まさかこの手に戻る日が来ようとは…。


「どうする? すぐ選んじゃう? だったらこれからタツオさんち行って、一覧見せてあげるけど」


「いや待て。急いてはことを仕損じる。急がば回れ。待てば海路の日和あり。もし性急に一覧を見てしまったら、あれもこれもって目移りした挙句にそのとき本当には必要なかったもんに手を出してしまう。ファミレスのメニュー見ながらの注文でも同じことがいえる」


 俺ってそういうところある。店に入る前はカレーがけパスタ食いたいと思ってたのに、肉肉しい写真につられて結局チーズINハンバーグOFビッグ頼んでまったく食いきれなくて今すげー後悔しているようにだ。


「…3日だ。3日で考えをまとめるから、そのとき改めて来てくれ。俺の店が終わった夜七時くらいに」


「夜は無理だよー…。私も客引きの仕事があるし…今からだって鍛治町帰ったら仕事だし…」


「馬鹿野郎! なに甘えてんだ小僧! お前姫巫女の仕事をなんだと思ってんだよ!?」


 俺は激怒した。


「タツオさんにそれは言われたくないなあ! 今まで散々サボってたんだからちょっとくらい待ちなよ!」


 ウラシマ少年がもっと激怒した。しかも至極もっともな論理だった。


「すいませんでした」


「わかればいいよ…。ところで、目を覚ます気配がないけどどうするの?」


 ウラシマが困り果てたように見やった席には、糸の切れた人形のようなシンタの亡骸が。訂正、いちおう死んでない。たぶん。ウラシマの言うところでは。まちょっと覚悟はしておけ。


「どうもこうもずっとこうしてるわけにもいかねえだろ」


 入店するときは連行されるグレイ型宇宙人っぽく俺とウラシマで両脇を支えた実に犯罪的な画面を披露して、店員に「あの、お客様…?」と引き止められそうになったんで、ウラシマと二人で「いやーすいませんこいつ酒弱いくせに飲み会で一気しちゃってえ!」「そうなんですよー! 俺のかっこいいとこ見せてみたいとかつってー!」とアルコール臭が一切しないシンタを引きずりながら突破するという顛末があったわけだが。


 それからテーブルに突っ伏したまま一度たりとて顔をあげないシンタを、さっきからあからさまに店員が気にしている。さすがにもうピーポーピーポーが来ても文句がいえない雰囲気になりつつある。


 やばいよなあ。なんでこんなに起きないんだろう…。中二アーマーを浄化したから、実はあっちがシンタの本体になってて、ここにあるのはただの抜け殻なんじゃないだろうか。シンタの場合有り得ないとは言い切れない。


「まあ…とりあえずタクシー呼ぶか。折半で」


「折半て。タツオさん大人じゃん。しかもさっきめちゃくちゃ稼いだじゃん。知ってるんだよ私」


「まだ換金してないし…お前のお姉ちゃんがちゃんと換金してくれるかすら未知数だし…」


 ちなみに前回分の探索報酬は8000円だった。そこからの予測では今日一日で40万は稼いだと思うんだけどどうだろう。


 とはいえ、この俺の希望的観測報酬がまるまま全部手に入るとしたって、それは未来の話であって現在の俺の財布には3000円しかないという抜きがたい事実がある。チーズINハンバーグOFビッグの料金を払ったら残額2000円を切るので、岩木方面のこの店からというと、俺んちまでへのタクシー代ですら出し切らんのであった。


「待て。ビッグアイデアがひょいと出た。俺は頑張って歩いて帰るから、お前が一人でシンタを連れ帰ったらどうだ?」


「その馬鹿みたいな提案のどこがビッグアイデアなの? ビッグって大雑把の大? 雑すぎてスッカスカの意味? そもそも私はシンタさんの住んでる家なんて知らないんだけど? そして私が一人でシンタさんの分もタクシー代出すの? 折半ですらなくなってるよね?」


 矢継ぎ早の批判が俺を襲う。


 俺はワナワナと怒りに震えて、情報公開を決意した。


「お前後悔すんなよ」


「え、なに財布出してんの。野口さんが一人…二人…うわ、え、ほんと? 野口三人…? タツオさん大人だよね…?」


「鍛治町で常連になるような大人とワープアで年収200万切る大人を同じ生き物として扱うんじゃねえよ、そこはそれとなく誤魔化してなあなあにするのが世間の常識ってやつだろうが。あ? これで満足か? 福沢の一人や二人用意できない悲しい大人の実態を白日の下にさらけ出して満足か?」


 君はこんなことをしていったい何を得たの? 俺の胸には深々と抜けない棘が突き刺さったよ。突き刺さったよ。


「あ、あの…なんかごめんね」


「謝るな」


「うん、じゃあまあシンタさんは私がなんとかしておくから…事情はお姉ちゃんも知ってるしお金のことは心配しないでいいからね…」


「同情すんな」


 天にまします我らが神よ。お前は死んでた。もしくはやはり偽者だったってことだ。もうあんたを信じることは二度とない。永久にグッバイ。



「というわけで今日は白雪を連れてきたから、ちょっと白雪とスパーしてみてよ」


 場所は俺んちのアパート近くの空き地。


 三日間でどういうライアードリアルをもらいたいか具体的な方向性を定めて、ライアードリアルの一覧を見せる用事とともにあんとき預けた宝石類を換金した現ナマを持ってくる予定のウラシマを、指折り待ち続けてさらに幾日か。


 え? 全部預けていいのかって? だって俺には換金の方法なんかないんだから足元見られようがネコババされようが、信じて預ける以外どうもなんねーよ。


 まあ俺が鵜飼いの鵜扱いであるにしても、ある程度エサをやらなきゃ働かないのは向こうもわかってるだろうし全額取り上げられるっつーことはあんめえ。


 で、一週間ぶりの俺の休みに現れたウラシマ少年は、会うなり日本語になってない妄言をのたまった。


「日本語で」


「タツオさんが白雪とスパーしてみて?」


「スパーってなに? パスタの昔っぽい言い方? 温泉のちょっとおしゃれな言い方?」


「スパーリングしてみてよ」


「炭酸入りワインかあ」


「くどい上に往生際が悪い…べつに痛い思いさせるっていうんじゃなくて、タツオさんの今の実力を測りたいんだよ」


「痛いし死ぬわ」


 このクソガキは俺が白雪ちゃんの手で山中で行方不明になるとこだった一連の経緯を全部その目で見てるのに、どうしてこんなことがいえるのだろう。


「いっとくけど、これだってタツオさんのためだからね? 次の刺客は絶対に白雪より強いのが来るんだよ? 実力を把握しておいて、もっと適切なトレーニングをして、確実に強くなっておかないと。あきらかに自分以上の強者が手加減して実力測ってくれるなんて、ふつーないことだよ? 利用しなきゃ」


「…手加減?」


 俺はこのとき初めてウラシマの後ろで無言を維持していた白雪ちゃんを見たのだが、なんで彼女が沈黙していたのかつーとものすごい高速でステップ踏みつつ目に見えない拳速でジャブを放つシャドーで自分を高め続ける儀式に集中しきってたからである。


「…だ、大丈夫だよ! 約束したもん! ね、白雪、手加減いけるよね?」


「っし…っし…ジャブから入ってワンツー…のけぞったらフックで落として左でアッパー…」


「白雪ぃ!?」


「はっ!? だい、だいじょぶですう! いつでも殺れますう!」


 いつでも殺られそうなのが俺の運命っぽいです。助けて。


「あのね、レベルが上がるとライアードリアルをひとつ多く得られるほかに、そこまでで経験した内容によって戦闘系の能力が強化されることがあるんだよ。ざっくりいうと達人級のパンチのコツがわかるとかそういうの」


「おい」


「レベルが上がるっていうのは滅多にないことでかなり濃厚な戦闘経験を積まないといけないんだよね。逆にいうとレベルが上がったその時点で、そんだけの経験を積んだんだからなんかものすごい武器を手に入れてる可能性があるんだ。だからきちんとそれを確認しておいたほうがいいんだ」


「おい。見ないフリすんな。お前が連れてきた女の現状を直視しろ」


「というわけでタツオさんには白雪とスパーリングを」


「振り出しに戻ってんじゃねーよ。ふざけんな。死ぬわ俺」


 俺が当然の抗議を行っているというのに、ウラシマが突然髪を振り乱してキレた。


「いい年なんだからいい加減自分の運命と向き合いなよ! 白雪は女の子なんだからちょっとくらい殴られたって死なないよ!」


 …女ってひどいよな…。逆切れすればどんな無茶な意見も通せると思ってるんだから…。しかも何がひどいってそれがある程度真実なのが一番ひどいよ…俺も現代日本に暮らす現代日本人として、キレた女に逆らってはいけないというルールが骨身に刻み込まれている。こんな世の中ぶっ壊れてしまえ。


「問答はあ、終わりですかあ? そろそろいくですう」


 そしてキレてみせるまでもなく理性の線の繋がってない女が襲いかかってきた。

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