@6の3 『覚醒(めざめ)』
行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども行けども――。
――シンタの姿はどこにもなかった。
走るのもいい加減疲れるつーか疲れることはあんまないんだけど深刻に飽きてきたので、俺は走ってはドロップキック走ってはドロップキックの繰り返しで暇つぶしを始めた。ときどき俺の超絶ドロップキックに耐え切る固体が居て、そういう奴も含めて、化け物全種を確殺するにはどのくらいの助走と速度、飛距離が必要かを割り出していく。
そして完成した。
俺発明の、対化け物用、最大効率爆殺ドロップキック。殺そうと思い立ってから、実際にキックが化け物に炸裂するまでの間に、カロリー10キロ、コンマ一秒の無駄もない。完璧だ。俺はこういう効率を追い求めて行動を純化していくような作業が大好きなのだ。
気がつくとポッケに入りきらないくらい大判小判がざっくざく。軽く三ヶ月分の給料は稼いでしまった…潜り始めて一時間も経ってないのに…。自分の才能がこええ…。
『…シンタさん、まだ見つからないの?』
やべえ、今度も本気で忘れてた。@三回目。
「ていうかあれだろ、こんな一生懸命探しても気配すらないって、死んでんじゃねーの?」
『死なないって言ったじゃん!?』
「冷静に考えるとこんなとこで食い物もなく四日も生きてたらそれもう人間っていわなくね? って気がしてきたんだ…。俺はあいつを人間だと信じてやりたいんだよ。だから死んでるんじゃねえかな…」
だが俺の直感は告げている。シンタは絶対生きてるって。困ったものだ。
『馬鹿なこと言ってないで早く探してよ!』
「そうはいってもなあ…」
めくらめっぽう走り回ったのは確かだが、その先々で結構派手な戦闘音を反響させてるんだから、その周辺にシンタがいたら気づくと思うんだが。
あ、そうか。
「そのせいかー、そうかそうか」
『なに? なんなの?』
「いや、捜索に手抜きしてるってわけでもないのになんで出てこないんだろ? と思ったんだけど、俺が定期的に戦闘してるせいで音にビビって逃げてんじゃねーの? あいつ」
『…シンタさんの性格をよく知らないんだけど、そういう人なの?』
「あいつと比べたらドブネズミのほうがまだ足止めて殴りあうガッツがあるな」
もちろんドブネズミにそんな根性があるわけはないので、つまりシンタの根性値はゼロ以下のマイナス値ということだが。
つまりあれだ、これはさっき却下した、当初の作戦というか思いつきを決行するしかないのだろうか。ないのだろうな。マジか…。
うん、まあ、こいつら以外と素早くないってことがわかったし、すぐさま逃げに転じれば一斉に来られてもなんとかなるだろう。なりたい。
ああ、やだなあちくしょう。なんで俺はあの馬鹿と友達をやってるんだろう…。わりと頻繁に湧き上がる疑問が改めて湧いてくるのを止めようもないのであった。しゃーねー。せーの。
「シンタあああぁぁぁ! 生きてたら、つーか生きてんだろ! 助けてやっから返事しろおおおぉぉぉ!」
ハウリング。
勇者パワーと勇者肺により生み出される鬼肺活量のすべてをぶっこんだ絶叫が、地下空間の空気を震わせる。
ほどなくして、四方八方から地響きが轟きはじめた。その轟きは俺を中心とした円周状に広がっており、そして当然俺を目掛けて収束してくる。
その地獄の底から漏れいずるような轟音に混じって、絞め殺されそうな間際の鶏を彷彿とさせる情けない声が…よく聞き覚えのある声が、俺の耳に届いた。
「…ォォォオオオォォォ! トノおおおぉぉぉ! 助けてえええぇぇぇ!」
迫りくる土煙は、もちろん化け物どもの集団行動全力マラソンによるものだ。
その先頭に、羽根をむしりとった鳥類のように情けない体型をした細くて弱そうなやつが…やつが…なにあれ。
俺はそれを視認した瞬間、いつでも発進できるようにスロットルを暖めておいた足に、全速全開を命じた。
「ちょっとおおおぉぉぉ!? なんで逃げるんすかトノおおおぉぉぉ!?」
『え? え? シンタさんいたの? え、それでタツオさん逃げてるの!? なんで!?』
「いいかウラシマ。悲しいことだけどシンタはもういない。もうあの今慎太郎はこの世のどこにもいやしないんだ。それが現実だ、諦めろ」
『どういうこと!?』
「どういうことっすかあああぁぁぁ!? 俺ここに居るんですけどおおおぉぉぉ!?」
うるせえ。いちいち絶叫すんな。俺が知ってる今慎太郎ってやつは色んな意味で駄目で腐ってて壊れた奴だったけど一応は人の形をしてたんだよ。間違っても6メートルオーバーの漆黒の筋肉の塊の上にちょこんと出てる上半身だけみたいな、GO永井が思いつきで描いたグロ画像なんていう姿ではない。
「有体にいうと化け物に取り込まれて化け物になってる」
『え、ええ? そんなの聞いたことないよ、そりゃ魑魅魍魎の類っていうのは個の境界が曖昧っていうか、お互い同士で混ざったりいきなり分裂したりするわりと適当な存在だけど、それは負の想念で出来た半思念体だからできることであって、生きた人間との融合なんて根本的に無理なはずだよ。コーヒーカップに注がれたコーヒーとそれを混ぜるマドラーが、かき混ぜてるうちに溶けてひとつになったみたいな話だよそれって』
「長々と説明しやがって…現にそのありえねーことが起きてんじゃねーか。お前じゃ話になんねーから責任者を出せ。だが私にもっといいアイデアがある。すべてを忘れてここを封鎖しよう」
『駄目だよ!? 駄目だからね!? ま、待っててお姉ちゃんに電話して聞いてみる!』
「おう早くな」
※
『ごめんお待たせ!』
「あのさあウラシマくん。一般常識でいって30分も人を待たせるのはごめんお待たせじゃ済まされないんだよ。状況わかってる? 俺さっきから30分走りっぱなんだけど?」
『ご、ごめんなさい、後で埋め合わせになんでもしますから…』
「まあいいわ、それでオトヒメさんはなんつってたんだよ」
『えっとね、それはたぶん悪路王でしょうって。悪路王っていうのは東日本での呼び名なんだけど、とにかくこういう地下封印空間ていうのは人が栄えてる地域では必ず地下にあるもので、そこで一定期間を過ごした生あるものは穢れを受けて、魑魅魍魎が融合する最も高純度の触媒になっちゃうんだって。そうなるともう意識も消滅して、ただ巨大なだけの、くすんだ桃色やカビのような緑色で全身覆われて、誰が見ても醜悪で吐き気を催す死臭まみれの肉塊になり果てる…ってシンタさんそうなっちゃったの!?』
地下世界に囚われた元人間が醜悪怪奇の怪物に、ってなんかどっかで聞いた話だなあと思ったら、ヨモツヒラサカの神話にそっくりだ。とするとイザナギは古代に単身でこんなとこに乗り込んだのだろうか。
そしてこの話には突っ込みどころが3つある。いや3つどころじゃなくていっぱいある。ありすぎて突っ込みきれないが、順番に並べていこう。
まずこんな空間が二つもあるけど青森県は栄えてない。
シンタは不愉快なほど元気いっぱいに絶叫し続けてて、どう見ても意識がないやつの言動ではない。
走ってるせいで感じないだけかもしれんけど、吐き気を催すってほどの悪臭はまったく匂ってこない。
くすんだ桃色やカビ色…? 誰が見ても醜悪な肉塊…?
俺は、ちょっとずつ走行スピードをゆるめつつ、疑念を晴らすべくシンタにひとつの問いかけを放った。
「おいシンタぁ! 左手あげてみろぉ!」
「はぁっ? なんでっすかあああぁぁぁ!」
「いいから言うとおりにしろやクソボケ!」
「あげ、あげますよお! はい、これでいいっすかあ!」
「…あー」
頭痛がしてきた。
俺は脚を止めた。
「右手あげろ」
「やっと止まってくれた…もーなんなんっすかあー? はい」
「右足」
「ちょっとちょっとお、お父さんスイッチしてる場合じゃないんじゃないっすかー? はい」
「…」
「ぐぼぁっ!? な、なにするんすかあ…あ、でもあんま痛くない…」
思わずというか思うところありすぎて万感の思いのこもったボディブローを叩き込んでしまった。めんごめんご。
「自由に動くんじゃねえーか。ぶっ殺すぞお前」
「え、そりゃ自由に動きますよ自分の体だし…」
しかも気づいてねえ。なんなんだこいつ。
いやもう一瞬でおかしいとわかった。
誰がどっから見ても醜悪な腐った肉みたいな色と匂いの化け物?
さっきまで俺と必死のチェイスをやらかしてたシンタを包む肉のアーマーは、それとはまるっきり逆の存在だった。
全身は闇を吸い込んだような漆黒の肉体。その四肢はこれまた黒く艶を放つなんらかの哺乳動物の体毛に覆われていて、四肢の先の手足といえば、地上に存在する一般的な生き物なら象だろうがシャチだろうがひと撫でで殺せそうな巨大な爪が合計20本。さらに、これはもう完全になんの意味もないオブジェだろうが、バオ○とかカ○ズ様みたいな牙らしき何かが上腕から肩にかけてびっしりだ。
一言でいって中二病の夢がいっぱい詰まったミラクルボディである。
おじさんだってこんなの心震えるわ。醜悪? 馬鹿いってんじゃねーよかっけーよ! そうそうこういうのでいいんだよこういうので! っていうダークヒーローそのものだ。やっぱ黒はいい。黒はいいよな。センスないといわれようがかっこいい色つったら黒だよ。黒が嫌いなオタクなんかいません。
思えばしかし黒という色へのこだわりはシンタの場合俺以上であった。白と黒のスーツが選べるゲームなら絶対に黒を選んだし、第二次世界大戦がテーマのゲームならマルチプレイヤーの参加枠が連合軍ばっか空いてようが何十分も待って必ず枢軸で戦ってた。というかナチスとかSSが大好きだった。なぜなら黒いから。
つまりだ、30半ばに達しようという年齢で貫き通した中二ソウルが、とうとう数百年も地下世界に立ち込めた化け物どもの怨念を、てめーの好きなように捻じ曲げやがったということではないか。アリかこんなの。馬鹿じゃねえの? 馬鹿だった。
馬鹿の一念岩をも通す、ということわざの、これほど相応しい体現者が他にあるだろうか。いやない。あってたまるか。こんな馬鹿はこの地上にこいつ一人で十分だ。
「や、や、こんなことやってる場合じゃないんすよ! モンスターがいっぱい来るんすよ! ここ、昔のオカルト能力バトル漫画みたいなグロ系の万魔殿っすよお!」
知ってる。そしてバケモンはお前だ。決して口には出さないが。なぜならこいつは化け物っていわれると怪物っていわれたと解釈する幸せな精神構造の持ち主だからだ。怪物っていうのはホークスでリハビリしてる平成のあのお方とか、そういうすごい人間に送られる名誉称号であって、たとえこいつの脳内オンリーの出来事だろうと、こいつとビッグマツが肩を並べるような事態を許すわけにはいかない。
「いいからちょっと、どれでもいいから好きなの殴ってみろ」
「はあー? 俺があんなモンスターに太刀打ちできるわけないじゃないっすか! 変なこと言ってないで、トノさっさと異世界勇者パワーであいつらやっちゃってくださいよおー!」
「俺に死ぬほどぶん殴られるのとあいつらを殴るのどっちがいい?」
「…もし怪我でもしたら一生恨むっすからね!? や、やってやらあ、やってやらー!」
鼻汁垂れて涙流すほど怖いか…いやまあ、そういえばこいつ自分がいまどんな状態になってんだかわかってないんだったわ。そりゃ怖いか。しかし。
ズバン
と。
追いすがってきた化け物の一体に、めちゃくちゃに振り回したシンタ(IN悪路王モード)の拳が至極いい加減な感じでヒットした瞬間、その化け物の体が膨らませすぎた風船みたいに弾け飛んだ。
「お…おおおぉぉぉ!? な、なんすか!? なんか俺超強くなって…いや、長い…長い眠りから覚めるときが来てしまったようだな…くそっ、俺は戦いたくなんかないのに! これも宿命だっていうのかよ…!」
驚愕から一転、シンタが自分ワールドを展開し始めた。
あ、まずった、と思ったのも束の間だ。
シンタの右側から、上半身の代わりに腰から上が水疱瘡のような無数の球体で出来た化け物が飛び掛る。それを最初から予測していたように動いたシンタは、その化け物を右手で受け止め掴んで持ち上げる。持ち上げた拍子に、自分の右手の様相が目に入ったのだろう。
「え…あれなにこの手…。ぬ、く、これが『秘蹟』を解き放った代償だってのかよ! この体の奥底から湧き上がってくる闇が! ちくしょう、腕が、俺の腕が黒に! 黒に染まっていく!」
独壇場だった。なんてこった。いままでなんの根拠もなかったやつの中二病ワールドに、これ以上ないほどのバックボーンが生まれてしまった。俺はこれから先に訪れるウザすぎる人間関係を想起して、ここで事故に見せかけてこの馬鹿をこの馬鹿が愛してやまない闇に葬りたくなってきた。何が秘蹟だ馬鹿野郎。おめーの腕はここ何日もずっとそんな感じだよ。
さらにひどいことに、究極にいかん出来事が立て続けで起きた。
馬鹿の右手のなかの化け物がグネグネとその身を不定形に歪め始めたかと思ったら、しゅっと空気のように溶け消えてしまったのだ。しかし俺は見た。化け物はただ消えたのではない。コンマ数秒ぼこりと膨らんだシンタの右手に吸収されたのだ。その吸い込まれる瞬間を俺は見た。キモイ。すごい気分悪くなってきた。もうやだ帰りたい。
「は、ははは。俺って本当に化け物になっちゃったんだな…! こんな怪物を吸い込んじゃうなんて…! もう、もう戻れない! 俺は人間の世界へは戻れないんだ!」
なにが気分悪いって馬鹿が絶頂嬉しそうなことだ。言葉面だけ眺めたらぶっ壊れた未来に嘆き苦しむ悲劇の人みたいだろ? これに声色っていうニュアンスを付けると、結婚10年目でやっと子供を授かった中年パパでもこれほどは喜ばねえよってほどの喜色に溢れてるわけだよ。
なんで化け物と合体して喜んでんだよ。わかったよ、いいよもう、戻ってこなくて。頼むから一生ここにいろよ。
あと多くは語るまい。人生無敵モードに突入した馬鹿くんは確変が終わらないパチンコ台のように連戦連勝ちぎっては投げちぎっては投げで好き放題に暴れまくり、俺はその後ろをついてくだけでそれ以上なにひとつすることもなく安全に階段へ帰還したのだった。
「で、どうすんだよこの馬鹿」
「どうしようか…」
「おひさしぶりだねウラシマさん…長い時間のせいかな、今はなんだかやけに君が小さく見えるよ…」
ここに来るまでのバトルでさらに巨大化した馬鹿は、こんだけ広い地下空間でもちょっと歩きづらそうなくらい巨大化しており、つまりいうまでもないが俺たちを迎えに降りてきたウラシマが馬鹿に小さく見えるのは馬鹿がでかくなりすぎたせいであって、時間とかそれ以外の要素は全然関係ない。
「このままじゃ地上に出れないどころか階段通れないよ…」
「困ったときのオトヒメえもんだろ。相談してみろよ」
「いやあ…どうしようかな俺、とうとう本当の自分に目覚めちゃって…これから毎日、結社との血みどろの戦いが始まるのかな…」
シンタを付けねらう結社というのを俺はシンタん家がある近くの商店街の『今くんはすぐ支払い滞納するけどかわいそうだからなるべく待ってあげよう会』しか知らない。ある意味血みどろの戦いだよな。ワープアそのものであるシンタの稼ぎは、国に収める血税より、商店街の人たちに払うツケの清算にはるかに多く消えていくのだ。
「んー。んー。わかった。え、そうなの? まあしょうがないかあ。うん。じゃあ」
「オトヒメさんなんだって?」
「えっとさ。タツオさんちょっとシンタさん眠らしてくれない?」
「眠らすってどうやって。俺そんなやり方知らねえよ」
「首筋を思いっきり叩けば意識飛ぶから。今のシンタさんならまず死なないから大丈夫だよ」
「適当だなあ…」
飛び上がって回し蹴りを叩き込んだ。おお、なんとなくやってみたら空中で軌道修正できたぞ。どうやったの? 俺。
まさかいきなり俺に蹴られるなどとは夢にも思わなかったのだろう。気持ち悪い妄想をつぶやきながらもろに俺の蹴りを受け、ズドーンと派手にぶっ倒れるシンタIN悪路王。ごうごうと粉塵が巻き起こり死にそうに煙たい。うおおお煙たい。
「げほっげほっ! うげー! もー、喉痛いよー! 全部タツオさんのせいだ! なんで私がこんな目にあうんだよー!」
ひどい言いがかりだった。というかすべての発端はお前なのだからさすがにその論を押し通すなら俺にも考えがあるぞこの野郎。
と、軽くムキムキきていると、口元を手で覆いながら、ウラシマがなにやら白い粉を黒い巨体からにょきっと生えたシンタの本体にふりかける。そしてその身を囲うようにチョークで線を引き始めたのだが、いちおう魔方陣っぽい曲線や文様があるもののあまりにシンタの体に沿いすぎたその線は事故現場のご遺体があった場所を示すためのアレにしか見えないのだが。
作業を終えて、ウラシマが「はらいたまえきよめたまえかしこみかしこみ」とかなんとかぶつぶつ言ったかと思うと、シンタの体(本体じゃないほう)が塩ふられたナメクジみたいにみるみる縮小しはじめて、とうとう消えてなくなってしまった。
「あれ…? え、それそういう風に消せるもんなの…?」
「ただの思念体だからねえ。別にシンタさんに根を生やしたわけじゃないっていうか、シンタさん操られてすらいなくて元気満々だったからね。石ころの上に土がかぶさって、その上に発芽した雑草って感じ? 引っこ抜いて水で流せば元通りの石ころなんだってさ」
「そうなんだ…そんで、あの、黒いボディはなに? もうすっかりどっかに消えてなくなっちゃったの? もう戻らないの?」
「? うん、そうだよ?」
目頭が灼熱する自分を抑えがたい。そのとき俺の胸に去来した映像は、ついさっきまでの、人生でこれほど楽しい経験をしたことはないというほど喜びを隠しもしない、そしてこれからの栄光に浮かれ信じて疑わない、哀れすぎる一人の男のハイライトだったことはいうまでもない。
グッバイハイパーシンタ。ハローいつものシンタ。目が覚めたら俺は彼にひとつ嘘をつくだろう。それは彼を傷つけないためにつく、大人のやさしい嘘だとわかってほしい。
シンタは夢を見たのだ。楽しくて嬉しくて虹色の夢だったけど、やっぱりそれは夢だ。人は夢のなかでは生きられないということなのだ。世界はいつだって残酷なもんなんだ。
叩き折ることが不可能なくらい鼻が伸びたピノキオの相手をしなくて済んでよかったわ、という本音を封じ込めて、俺は明日からのシンタのために祈った。グッドトリップ。