第九十九話 邪道楽土
エルキュリア王城謁見の間にて国王アーサー・へイス・エルキュリアと多面怪盗ナイアールとの秘密の面会が行われた。
ナイアールは二人の少女を伴い玉座に座す王と王妃に平伏していた。
秘密なので当然護衛は無い。
「面を上げよ」
「ほい」
「・・・お前さあ、こういう時は二回目に顔上げるモンだろ?あと俺は一国の王なんだからもっとマシな返事しろよ」
「ご要望とあらば王国の由緒ある伝統に則り完璧にやり直して見せるが」
「もういいよ、そんなん俺だって半分くらいしか覚えてねーよ」
国王と言う割りにはフレンドリーなナイスミドルだが、嘗て武勇で鳴らしたと言う噂通り絶えずナイアールに対して近寄りがたい闘気を放ち続けている。
妙な真似をすれば一刀にて斬り捨てると言った空気が滲み出ていた。
「ったく、お前さんがあと三十年・・・いや二十・・・でもないな、あと十年でも早く来てくれたらパロットじゃなく俺がアンタに弟子入りして色々片付けたのによ」
クツクツと笑う王の姿にナイアールも笑みを漏らす。
「それで、その娘達がそうなのか?」
ナイアールがユナとユノを前に進ませる。
「確証は無い、単に過去の事件とアンタの部屋にあった肖像画を拝見させてもらってもしやと思っただけだ」
「・・・いや、間違いなく“当たり”だよ。妹に面影がある」
王の妹は行方不明だ。政争に嫌気が差して城を出たか、あるいは何者かに排除されたか。ナイアールは後者だと考えるが王は前者と考えたようだ。これは妹の性格を良く知っている王の確信だった。
「え?どういう事、段蔵?」
「お兄ちゃん?」
「つまりだ、この偉そうなオッサンがお前らの伯父って事だよ」
王が優しい声で姉妹に語る。
「今まで苦労をさせて済まなかったね。ユノにユナと言ったか?突然こんな事を言われて驚くかもしれないが、君達は王家の血筋に連なるお姫様なんだよ」
「私達が・・・」
「お姫様?」
二人はいまいちピンと来てないようだ。無理もない話だか。
「俺は妹を・・・君達のお母さんを助けてあげられなかったバカな男だ。だからこそ聞かせて欲しい、我が妹キャロラインを助けた君達の父は良き人だったか?」
「お父さんはとても優しい人でした」
「自分も病気だったのに、お母さんの事も私達の事も最期まで気に掛けて」
話を聞き終えると王も王妃も瞑目してしまう。
知っていれば助けたかった。生きていたなら妹の夫とも語らいたかった。助ける手段も余裕も無かったのは事実だが、それでもと考えてしまう。
「よし、伯父さんから可愛い姪にせめてプレゼントをやろう。何か欲しい物はあるか?宝石類や立派な屋敷だってあげられるぞ」
その言葉に双子は顔を見合わせる。
「あの、伯父様、私は星の智慧社の貿易船団を所有し、月々これだけのお給料をお小遣いで貰っています」
「ひい・ふう・み・・・俺の給料より一桁高くない!?」
「欲しい物は段蔵にお願いしたら大体くれるしね」
「むしろ伯父様は何か必要な物はありませんか?大抵の物は取り寄せますよ」
「よーし分かった。逞しい娘に育って大変満足だ。金目の物の話は止めよう」
冷や汗を流す王の様子に今まで成り行きを見守っていた王妃が夫にアドバイスを送る。
「でしたら貴方、【アレ】をプレゼントしたらどうかしら?」
「アレ?どれの事だ?」
「貴方の部屋にあるキャロライン様の肖像画ですよ」
「あっ・・・あ~、なるほどな、流石我が妻」
「「欲しい」」
「話は決まったな、さっそく用意しよう」
「ありがとうございます。美人の伯母様」
「そうだ、伯母様にはアレをプレゼントしましょ」
ユナが取り出したのは瓶と小冊子、それらを王妃に渡す。
「これは何でしょう?」
「エンドー家特製美容液と美しさを向上させる魔力の使い方を記した本です。美容液は毎月お贈りしますね」
「あらあら、本当に効果があるなら嬉しいわね」
王妃とて美しさを保つ為、日々研鑽は積んでいる。美容に良い品を取り寄せた事だって一度や二度ではない、たがそういった物品の半分以上は大した効果を得られなかった。疑うのも当然だろう。
これが後にあと三人の子供を産む程効果が出る事をこの時の王妃は知るよしも無かった。
「用意出来たから持って行きなさい」
王が肖像画をナイアールに渡す瞬間に呟いた。
「俺の大切な娘三人に可愛い姪まで・・・やっぱ腕の一本くらい置いていくか?」
肖像画がナイアールの手に渡った瞬間、王は剣の柄に手を掛けこれまで以上の闘気をぶつけた。無論単なる脅しである。肩の辺りで寸止めしようと剣を振った・・・つもりだった。
「・・・・・!?」
王の腕がガタガタと震え録に剣が持てなくなっていたのだ。
発汗は止まらず背筋は凍るように冷たい。
「陛下、そのジョークは微妙ですね。僭越ながら手本をお見せ致しましょう」
それまで普通にしていた男から放たれた吹雪のような闘気・・・いや殺気に王は思わず玉座に座り込んだ。
心臓が早鐘を打ち息が整えられない。
「どうします?不敬罪で近衛でも呼びますか?」
「・・・いや、いい。どうせ近衛兵もお前の女とかいうオチだろ?」
「いや、近くに控えてる奴普通に男なんだがな」
王とナイアールは顔を見合せ大笑いした。
「女抱いて美味い飯食って金銀財宝に囲まれて、まるで王様だな」
「王様はアンタだろ」
「違いない、俺もアンタみたいに生きたかったぜ」
「まだ遅くは無いさ、さっさとパロットに王位を譲って仕事から解放されりゃ後は自由だ。先ずはアンタを待ってる美熟女の愛人を可愛がってやるんだな」
元国王アーサー六世は引退後、田舎の屋敷で女を侍らせながら余生を過ごした。
王城に居た頃より美しくなった正妻と老齢のハズなのに妙に若々しい愛人、新たに口説いた若い女性達との間にトラブルは起きなかったものの年々増え続ける弟妹に国王ポアロ四世(パロット王子)は頭を抱えたと言う。




