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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
怪盗 王国ニ舞ウ
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第八十七話 地ヲ穿ツ怪盗 A面

『親愛なるウッホ・ビスト卿へ 七日後の正午【一角獣カイナラヤの宝石箱】を頂戴に参上 ナイアールが多面の一つ鉄鬼王シュド・メル』


そんな予告状が届いたのが六日前。


「それで、私に一体何の御用ですか?ショルメ公爵」

「何をとぼけた事を・・・」


質素な応接間で向かい合うのはダン・エンドー子爵とアイリーン・ショルメ公爵、怒気に似た気配を発するアイリーンに対して段蔵はあくまでのんびりと対応している。


「貴方が!ビスト卿の屋敷の目と鼻の先の、それも特に景観が良いわけでも観光地があるわけでもない土地を買って別荘を建てている。御用が無い方がおかしいですわ!」

「私は一応これでも政治家なんで有力者と親交を持ちたいと思うのは別に不思議でも何でも無いと思いますが?」

「貴方がナイアールで無ければの話でしたらね」


ダン・・・段蔵はキョトンとした顔で数秒固まった後に大笑いした。


「あっはははははは、私がナイアールと?ああ、アレですか?大方私に変装した(・・・・・・)ナイアールにでもたばかられましたかな?」

「変装ですって?」

「ナイアールは貴女を混乱させる為に私の姿で現れた。あらゆる人物に変装出来るナイアールならば不思議は無いでしょう?」

「(ですがあの時は変装などでは無かった)・・・良いでしょう、そこまでおっしゃるならば明日までわたくしも此処に泊まらせていただきますわ 」

「どうぞどうぞ、それで疑いが晴れるなら好きなだけ滞在なさって下さい、妻達も暇していたので貴女の武勇伝でも是非お聞かせいただければ幸いです」

「妻達?クラリース・・・女男爵も居ますの?」

「いえ、違います違います。ほら二人とも、入ってご挨拶をしなさい」


段蔵がドアに向かって声を掛けると入って来たのはエルフのメイドと褐色肌の鷹鳥人の少女だった。


「ロナと申します公爵閣下」

「カリンはカリンって言います」

「妻?“使用人を手篭めにした”の間違いではありませんの?」


カリンは意味が分からなかったのかポカンとしていたがロナはあからさまにアイリーンに敵意を向けた。


「ロナ、落ち着きなさい。公爵閣下のご意見も最もです、外からはそう見られても仕方無いでしょう」

「この事は女男爵や極星二人はご存じですの?」

「無論ですとも、我々の間に隠された愛など不要です」

「領地を任せているフーディーさんとも随分仲がよろしいようですわね?」

「そこまで気付かれておいででしたか、ですが当然妻達公認の愛人です。訳あって未だ妻には迎えていませんが、恥ずべき事は何もありません。何でしたら実際クラリースに聞いてみても構いませんよ」

「艶福家でいらっしゃるのですわね。まさか私まで口説き落とそうとお考えですの?」

「それこそまさか、私は女性を口説くのに三つ必ず避けている事があります。一つ、横恋慕厳禁。二つ、人妻厳禁(未亡人は除く)。三つ、悲恋厳禁。まあ、一と二は似た様なモンですがね、確かに初めて顔を合わせた際には貴女の魅力に惹かれたのは確かですが恋慕のソレでは無いのですよ。それに親友たるパロット殿下の妃となる方に手を出す程愚かではありません」

「私と殿下が?」

「殿下にお会いする度、貴女達お二人の話を聞かされますよ」

「あの暇人め・・・」

「私としては貴女の事が知りたいですなアイリーン・ショルメ公爵閣下」

「恋慕は無かったのではありませんの?」

「私が知りたいのは単純に英傑アイリーンとしての貴女です」


段蔵が軽く片手を挙げると二人の妻は部屋を出た。

程なくしてカリンが茶とお菓子を運んで来た。


「ありがとう。ほら、一個食べて良いよ」


段蔵が焼き菓子をカリンの口元へ運ぶと彼女は指ごと咥えた。水音を響かせながら恍惚の表情で菓子と指を堪能する少女の姿にアイリーンは背筋に寒気を感じた。


「食べたらロナを手伝ってあげなさい」

「うん♪」

「ははは、成人の儀は済んでいるとは言え、まだまだ甘えたがりの可愛い子供ですよ」


部屋を出て行くカリンを見送ってアイリーンは段蔵を睨みつける。


「私に敵意を向けるのはお門違いだ。そんな事よりも最近ダンドレジー傘下のバーネット子爵領で起きた捕物の話を聞いていただけますか?実の娘を嬲り、飽きたと言ってまるで物のように売り払った下種野郎が逮捕から裁判、そして牢屋の中で何と叫んだか、聞くだけで腸が煮えくり返る話ですよ?」

「・・・・・」

「事件は犯人が裁きを受けて終わりではありません、犯罪によって歪められた多感な子供は価値観も歪み一歩間違えば新たな犯罪者に成り代わる。私は今後、カウンセリングの研究と法整備に力を入れたいと思っております」

「それが対犯罪研究所に資金援助する理由ですの?」

「人が人である限り世界から罪は無くならない、だが減らす事は可能なハズです。私は期待しているのです、貴女ならいつか本物の正義を私に見せてくれるのではないかとね」

「迷惑な過大評価ですわ」


話が一段落したところでロナが入室する。


「ショルメ閣下、お風呂は如何ですか?」

「私は忙しいので遠慮させていただきますわ」

「え~、入れよ~。『女性は身綺麗に』なんて言う気は無いが、人間清潔に越したことはありませんよ。病気予防・疲労回復・気運向上、風呂は良い仕事の味方だ」

「結構ですわ、貴方が入ればよろしいですわ」

「や、今日は皆、貴女か来る前に既に入らせていただきました。人に会う前の礼儀と言うヤツですよ」

「仕事が終わったら家でゆっくり入らせていただきますわ」

「強情な方ですね。ならば仕方無い、ロナ、夕食をお持ちして。どうせ公爵は睡眠薬の混入などを疑うだろうから大皿で全員が取り分けるよう盛りつけてくれ」

「わかりました」


・・・

・・


私の目の前にはネットリとした赤黒いソースが掛けられた、豚肉と野菜の炒め物が置かれた。


「赤ワインをベースに皇国から輸入したソイソース等で味を調えてみました。きっと気に入ると思いますよ」


小皿に取り分け食べてみると甘辛いソースと柔らかな肉の食感、シャキシャキした野菜の食感に食材そのものの風味が溶け合い素晴らしい、と言いたいところですが少々味が濃いように思えました。

子爵はそんな私の考えを読んだのかロナさんにパンを切らせて炒め物をパンに挟んで食べて見せた。


「なるほど、だから濃い口に作ってありますのね」


柔らかいパンと一緒に食べれば尚食が進みますね。用意された飲み物はワイン・・・ではなく葡萄ジュースですね。同じ瓶から全員に注がれてグラスにも変わった罠は無し、どう見ても美味しい食事を楽しんでいるようにしか見えません。


「酒はそちらの仕事の妨げになると思いジュースにさせていただきました。カリンにも酒はまだ早いのでね」

「お心遣いに感謝しますと言っておくべきかしら?」

「礼には及びませんとも、公爵閣下のお仕事に見落としがあって困るのは我々の方ですからね」

「ふん」


と顔を逸らしたついでに周囲を確認する。不思議な造りの家です。

窓は一切無く光源は光の魔石を多く配置する事で得ていて生活には困らない、しかし当然その分コストが発生する。魔石を明かりになんて事は一般家庭でも珍しくは無いがこの家は少々過多と思う。

妙と言えばこの家そのものだろう、子爵は趣味の良い家具をポンポン買い揃える癖があり、近隣(フーディー領では無くダンドレジー領側)の職人達は潤っていて技術も向上していると聞いている。実際この別荘の調度品も中々趣味が良い、なのに先に述べた照明過多は彼にしては趣味が悪く貴族の別荘にしては手狭と言わざる負えない。

二階建てではあるが敷地面積は中流家庭並み、この地の有力者と親交を結びたいと言っていた割には貴族を招き入れるには些か迫力に欠ける。やはり有力者と親交を結びたいという話は建前でしょう。

彼が怪しいのは明白、きっと予告の時間前にはこの家を抜け出すハズ、その現場を押さえなくては。


「喰った喰った、ちゃんと歯を磨いて泥棒に入られないように戸締りしとけよ~」


それはひょっとしてギャグで言ってらっしゃるのかしら?


「寝室は如何いたしますか?ベッド付きの客室がございますが・・・」

「ですが閣下は別室を望まれないでしょう?」


見透かしたような子爵の問いに私は迷い無く頷いた。


「ご夫妻と同室を希望いたしますわ」

「しかし私達の寝室には他に寝具はございませんよ?」

「ご心配には及びませんわ。私、明日の予告時間まで眠る気はありませんもの」


子爵はガシガシと頭を掻いて呆れた顔で私を見ている。


「寝ないってマジか?ナイアールの予告とやらは明日の昼だって聞いたぞ?」

「それが何か?」

「嫁入り前の女性がその気は無いとは言え男性と同じ寝所に入るなんて・・・見上げたイカレっぷり。仕方無い、予備の敷き布団を出しましょう」


しかしロナさんが驚愕の叫びを上げる。


「そんな!では今夜は・・・」

「流石に客人の目の前では無理だろ、公爵がお帰りになってからな」

「くっ・・・」


凄くロナさんに睨まれています。


「チッ・・・」


舌打ちされてしまった。

しかし私としては子爵から目を離す訳にもいかないので睨まれようが恨まれようが意見は変えません。

案内された二階の寝室には大きなベッドが一台だけ、コレに三人あるいはそれ以上の人数で淫行に及ぶのでしょう。


「その場所で良かったですか?」


部屋の隅の魔石の照明が淡く灯る位置に敷き布団とお茶のポットに数冊の本が用意された。


「問題ありませんわ」


ロナさんがベッドから睨み付けてくる以外は・・・。

さて好色な男だ、きっと直接性行為に及ばなくても両脇に侍らせるくらいはやるだろうと、覗いてみればカリンちゃんを真ん中に据えて護るように位置取りをしている。

子爵はこちらを見てフッと笑い、直ぐに寝てしまった。驚く程あっさりと、何の警戒も無しに。

私は静かに本を読みながら夜が明けるまでを何事もなく過ごした。

結局、子爵はぐっすり眠り、用意されたお茶にも不審な点は無く、やがて子爵一家は眼を覚ました。

窓が無いから今一つ時間が分からないが彼等は十分に睡眠は取れているだろう。


「ふわぁ~、おはようございましゅ」

「む~、欲求不満です」

「さっさとメシにしよう」


一階に降り二人の奥様が台所に向かい朝食の支度を始める。


「昨日の話の続きですがね、私は閣下・・・いえ、アイリーン・ショルメと言う人物に興味があります」

「こんな成り上がりに興味を抱くなんて、とんだ物好きですわね」

「成り上がりはお互い様、そうでしょう?農家の三女のアイリーンちゃん」

「・・・」

「別に農業をバカにしているワケではありませんよ、私が今こうして美味しいパンをかじっていられるのも生産者の皆様のお陰なのですから」

「子爵の政策で農村にも余裕が出ているのは存じておりますわ」

「自慢じゃありませ・・・やっぱり自慢ですが、我らが領地から今まで学が無いと侮られていた者達からいずれ傑物が現れる事でしょう、そういう下地を作りましたから当然です。ですが分からないのは貴女だ」

「・・・」

「失礼を承知で言わせてもらうが何故あんな村で生まれ育った貴女がそこまでの才を持っているのか不思議でならない、機会やコネも無く地元の役人は最悪、どうやったって貴女みたいな優秀な人間が生まれる土壌は無かった。貴女は一体・・・」

「私は・・・」


その時、グラグラと大きく家が揺れた。


「!?地震!?」


揺れは直ぐに治まったが私は外が心配になった。しかしそれよりもエンドー子爵が猛ダッシュで二階に駆け上がるのが視界の端に映り予定変更、そのまま私は子爵を追い掛けた。


「子爵!何をなさっているのです!?」


エンドー子爵は書斎と思しき部屋で机の下に潜り込みなにやらゴソゴソと動いており、私が声を掛けるとビクッとその身を震わせた。


「何でもありませんよ・・・」

「怪しいですわね」

「何でも無いと言えば何でも無いのです。失礼ですが私は朝食に戻らせていただきます」


あからさまに怪しい、やはり一時の油断無く見張るしか手は無いようだ。

幸いにも地震によって朝食がひっくり返る事は無く、その後余震も起こらなかった。


「よし、風呂に入るか」


太陽の光が見えないから時間の感覚が狂うが恐らく昼頃だろう、そんな時間に風呂に入ろうとは良いご身分だ。


「こんな時間にですの?」

「別荘の下見を兼ねた休暇はもう終わり、夕方には帰ろうと思いますので、その前に気力を養っておこうかと思いまして」

「お風呂の準備は出来ております」

「わ~~い、お風呂だお風呂だ~」


三人は風呂場へと向かい私も後を追いかける。


「何です?風呂の中までついて来るんですか?」


既に三人は下着姿になっていた。どんだけ風呂好きなんですかこの人達。

下着を脱ぐモーションに入る直前で私は目を背け彼等は風呂場へ突入していく。

私は扉の前で聞き耳を立てる、少しでも脱出しようとする気配があれば現場を押さえる為だ。


『あう・・・お兄ちゃ・・・そこ違・・・』

『旦那様、私が・・・』

『ん・・・ん、イケたか?』


聞き耳立てる必要が無いくらい大音響で致してらっしゃる!!

チャプチャプガッコンガッコンガタガタとナニをやってるのか知りたくも無い効果音も響いてくる。

やがて水音がチャポンと鳴って静かになり、暫らくするとザッパ~~っと風呂から上がる音が聞こえた。


「ふは~~~良いお湯だった」


結局、彼等は家から出る事無くそれ以降の時間をのんびり過ごし、やがて荷物を纏めて帰る準備を始めた。

私は外の空気が吸いたくなり玄関から外に出た。陽は傾き始めている、私の時間感覚は自分で思っていたより正確だったのかも知れない。

近所の教会の日時計は予告時間をとうに回っていた。


「結局私の収穫は無しか・・・」


恐らくこれ以上得られる物は何も無い、ビスト邸に配置したリト達と合流して報告を聞くべきだろう。


「お世話になりましたわ」

「これで我々の嫌疑は晴れましたかな?」

「さてどうでしょう?成果に関しては本部でしっかりと纏めさせていただきますわ」


三人が玄関前で手を振って私を見送っている。

相当鬱陶しかったろうによく笑顔で居られるモノだ。私が同じ立場だったら終始しかめっ面だったろう。


「さて、リトの報告を聞くのが楽しみね」


・・・

・・


「行ったか?」

『完全に、ビスト邸に入っていったであります』

「よしカリン、お風呂からアレ持ってきて」

「うん!」


カリンが風呂場から持ってきたのは一角獣の彫刻が美しい宝石箱だった。段蔵は宝石箱を手に取りニヤリと笑う。


「最後まで頑なに風呂場に入らなかったのは失敗だったな公爵閣下」

「でも家が揺れた時は驚きました」

『ゴメンであります。最後の方で魔力の制御をミスったであります』

「まあ誤魔化せたから良しとしよう。お疲れ様、勿論周囲の音を遮断してくれたオータムと生活水を供給してくれたウインターもな」

『我が魂の契約者が望みを叶える事こそ至福』

『感謝してくださいね』

「分かってる分かってる。そんじゃ愛しい我が家へ帰りますか」


居間に飾られた五角形のオブジェから淡い光が放たれ彼らを包み込んだのだった。

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