第八十二話 裏方の帰還
「つまりだ、我らが美人領主様のお屋敷を襲撃した賊共だったが、おマヌケにも家人全員留守のタイミングで踏み入った」
「その話なら俺も聞いたさ、何でも襲撃者は屋敷に火を放ったが、うっかり自分達が炎に巻かれて全滅したってんだろ?学の無い俺が言うのもアレだが最近のならず者ってのはアホウの集まりなのか?」
「アホウだから犯罪者になるんじゃね~の?知らんけど」
歌や芸人の演目なんぞが見れるちょっと大き目の大衆酒場で大工とガラス職人が酒と料理を楽しみながら世間話に興じている。
「おかげさんで俺達やお前さん達に大仕事が入ってきたってワケだ」
「しかし何だって領主様の屋敷を襲撃したんだ?クラリースお嬢ちゃんが家を継いでから領内は前よりも潤ってる。この極上の酒を見ろよ、先代の頃は不味い酒がコレの倍以上の値段してたんだぜ」
「だ・か・ら・連中は気に食わないのさ、いいか?今の領主様夫妻に敵対してる連中ってのは例外無く何らかの犯罪行為で不正に利益を独占していた連中だ、先代が襲われたのもその辺の取り締まりを強化したからだって噂だぜ」
「悲しいかな対抗出来る資金も無かっただろうしな。連中の背後にはアークド商会があったからな~」
「エンドーの旦那との結婚は好機だったワケだ」
「む?その言い方だと金目当ての結婚みたいだな、少なくともあの夫婦に限って金目当てなんて無いと思うが?」
「俺の言い方が悪かったな、確かにあの二人の熱烈っぷりは金なんて入り込む隙間も無い」
「水の極星様は知らんが、オデル様の妹のオデット様とも良好らしいしな」
「ああ、俺も街で三人並んでいるのを・・・ん?何だありゃ?」
舞台の隅に大小様々な太鼓をくっつけた太鼓のお化けみたいなものが置かれ様々な楽器を持った女性が何人も入って来た。
「ん?なんじゃありゃ?」
「な!領主の嬢ちゃん!?」
トレードマークの眼鏡とその奥に輝く緑の瞳、そして大人っぽい漆黒のドレス。結婚から数年、一児の母となったクラリースは少女の面影を残しつつも大人の魅力が増していた。
彼女は歌う、愛の歌を、特に珍しい歌ではなくこの酒場でも何度か演奏されているありふれた曲だ。
彼女は歌手では無い、故に技術的に稚拙な部分もあっただろうがそれでも尚その歌は観客の心を掴んで放さなかった。彼女の歓喜が歌に籠められている、彼女が何に歓喜しているかは観客には解らないが、少なくとも喜ばしいという事実だけは十二分に伝わった。
歌が終われば自然と拍手が溢れる。無数の拍手の中、たった一つだけ舞台上から響いた音があった。
「ビューリホービューリホー、流石、流石は俺が愛する妻」
突如舞台上に煙が一瞬噴出しいつの間にか派手な深紅のスーツの男がクラリースの前に立っている。
男が太鼓のお化けに向かってパチンと指を鳴らせばドラマーは待ってましたと言わんばかりに軽快なリズムで演奏を始める。
「ありゃまさかエンドー子爵か?」
「クラリース嬢ちゃんの旦那の?」
リズムに合わせて手を取り合いタップを刻む、貴族の優雅なダンスでは無く、庶民の踊りよりも倍は荒々しく、金管楽器の爆音に合わせてお互いを文字通り振り回しながら踊っている。
「ん~絶好調!!」
これ程過激なダンスは余程相手と息が合わなければ成立するものではない、段蔵がクラリースを空中に放り投げ三回転はさせながらお姫様だっこでキャッチ、見ている方の目が回りそうだ。
店内の盛り上がりは最高潮だ。酒場を囲む不審な影に気付かぬ程に。
~街外れの廃屋~
「あの酒場に忌々しいエンドー夫妻が居るという情報は確かなのか、使者殿?」
集まったのはどいつもこいつも下劣な悪党ばかり、その中で一人の老人のが褐色のエルフ美女に問う。
「ええ、間違いありません、ここで彼等を始末出来ればアナタ方を邪魔するモノは何もありません、我等の繁栄はこれからですとも」
使者と呼ばれた美女の言葉に一同は歓喜する。
「おお!」
「やはり我等こそが真の貴族である」
「ジム・モロアッチに栄光あれ!」
テーブルの上には豪華な料理と銘酒の数々、美女はにっこり微笑んで食事を促した。
「ささやかながら皆様の未来をお祝いする為にご用意させて頂きました。存分にお楽しみ下さい」
悪党共が魔物の如く餌を貪る様子を美女は微笑を絶やさず見つめていた。
(未だジム・モロアッチが健在だと思い込んでいるとはとんだバカ共ね。我が夫の為、この国の為に精々アナタ達のお目出度い頭の中を祝ってあげるわ)
一方で酒場には武装した賊達が乱入した。驚く客達をよそに舞台上を囲むように集まる不審者達。
「何なんだおまえら!」
大工が乱入者に文句を言うが、賊の一人がいきなり大工を殴り飛ばした。
「煩い!我等は民に真の平和をもたらす貴族である。偽りの貴族、ダン・エンドー、クラリース・エンドーに天誅を下す!!・・・って、その踊りを今すぐ止めろ!!」
異常事態だというのに相変わらず踊りと演奏を止めない一団に襲撃者は苛立ちを隠せない。
「おい!聞いて・・・」
段蔵に近づいた男がパタリと倒れる。顔には三枚のトランプが刺さっていた。襲撃者達は驚き一瞬動きが止まった、その隙を二人は決して見逃さない、段蔵は次々とトランプを投げつけあるいはクラリースと踊りながら敵を薙倒していく。
「来なさい♥」
クラリースが眼鏡を外しエメラルドの瞳を輝かせると襲撃メンバーの中に居た女性は皆一斉に裏切り仲間に刃を向ける。今や酒場は大混乱です。ちなみに最近クラリースは魔眼を発動する際眼鏡を外すが、別に外さなくても発動できる。
段蔵がクラリースの両手を握ってそのまま振り回せばクラリースの美脚によって敵が薙ぎ払われる。そして最後の一人になった時。
「動くんじゃねぇ!」
賊の男がガラス職人を人質に後ずさっている。ナイフをガラス職人の首筋に当て冷や汗を流しながらも笑みを浮かべ男は勝利を確信したのだが、ヒュッと音がした瞬間、ナイフが自分の指ごとトランプで切断されてしまった。
「ひっ・・・ひぃぃぃ、俺・・・指・・指!!」
「チッチッチッ、俺に人質なんて無意味さ・・・なんてな!」
店内は滅茶苦茶でテーブルが砕けるわ椅子の脚が折れるわ、それでも酒飲み達は自分の酒だけは死守したらしい。
「ずいぶん迷惑掛けたな店主」
「まったくだ。アンタが関わるといっつもこうだぜ」
「わ~かってるって。ほれ、迷惑代だ」
「まいど~」
「お客さん達も邪魔したな、今夜は俺の奢りだ、ジャンジャン飲み食いしてくれ」
「「「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
未だ終わらぬ演奏に合わせ、クラリースをクルリと抱き寄せる。
「お帰りなさいませ、アナタ♥」
「ただいま、俺の愛しいクラリース」
そして二人は幸せなキスをしました。
街外れの廃屋に集まっていた者達は苦しみ悶えなが床に倒れていた。
「あっ・・・ぐ・・・何故?」
「貴方達が倒れている理由ですか?酒や料理に一服盛らせていただきました。ああ、痺れるだけで死にはしませんよ、多分」
外が俄に騒がしくなり始めた。
「おっと、そろそろ領兵の包囲も済んだみたいですね」
「何故だ!貴様は女伯爵様の使者では無かったのか!?」
「何を勘違いされてるか知りませんが私はヴェルモン・ダンドレジー伯爵の部下ですよ。ホラ、あの方も女性で伯爵じゃないですか」
皆が唖然とする中一人の男が命乞いを始める。
「金ならある。いくら欲しい?言い値を飲もう」
「お金は確かに欲しいですね~、あって困る物ではありませんから」
「それじゃあ・・・」
「でもそれなら貴方を始末して全部貰った方が楽ですよね?今まで貴方達がしてきたように」
「そんな」
「まあ、月並みなセリフですがこう言っておきましょう。お前達に殺された弟の仇、この場で果たさせてもらう!!」
その宣言と共に兵士達が雪崩れ込んで来た。
・・・
・・
・
~エンドー・ダンドレジー屋敷再建中~
「これはこれは見事に全壊したな」
「全部地下室に避難してて助かりましたね。私もテレポーターの御陰で助かりました。そちらの領地は無事でしたか?」
「農場は多少荒らされたが人員も研究施設も無事だ。それよりも敵の魔物牧場へ反撃の際に信じられない報告を受けたんだが・・・」
「ええ、ミーネの件ですね。なんでも『・・・妊婦でも運動は必要』だとか」
なんで俺の嫁はどいつもストレッチ感覚でボス戦に挑むのだろうか?
「ところで再建中の屋敷だが、何かあの屋根の部分一部屋空いてない?俺の気のせい?」
「ああ、あの部分はドリームランドから建築素材を買って来てプールにする予定なんですよ。屋根の一部をガラス張りにする予定なのでこの世界の大工さん達には手を入れないようにしてもらってるんです」
「は?プール?訓練用なら地下にもあるだろ?」
「わかってませんね~。日当たりのいい遊び用のミニプールをあの場所に造るから良いんじゃないですか、コレが完成予想図です」
ヒョイと渡されたイラストを見てみれば、すっごくどっかで見た事あるプールだった。どこでとは言わないが。
「段蔵様の故郷で【レーノプール】と呼ばれているものを参考にさせていただきました」
「Oh・・・」
「それと、そろそろ新しい魔物娘さんに名前を付けてあげなくちゃいけませんね」
テレポーターで地下に移動し、大っきいのと小っちゃいののコンビの部屋へ向かう。
部屋の中では寝転がるドラゴンゾンビの上にちょこんと金毛の女の子が乗っかりペシペシと翼を叩いている。
「ふみゅ~みゅみゅみゅ~(図体ばかりデカイ雑竜が良い声で鳴きよるな)」
「うう~ソコ敏感だから触っちゃだめだよ~」
二人の様子にクラリースの頬が何故か緩んでいる。
「仲良く遊んでるのかな?可愛らしいですね~。でも、何でナノマシンの翻訳機能が働かないんでしょうか?」
「え?普通に喋ってるじゃん」
「え?」
ドラゴンゾンビに乗ってた金色がピョンとこちらへやってくる。
「みゅみゅみゅ~、ふみゅんふみゅふみゅ(これは親愛なる夫殿に姉上、ただいま駄竜めを躾けておりました)」
「ん~クラリース達には聞こえていないのか?ナノマシンが効いてない?」
「ふみゅ~んみゅいみゅい、みゅ~~~ん(あんな薬で真竜たる余の言葉を曲げる事など不可能、ですが夫殿は理解されてるご様子)」
「そう言えばまだ何の魔物か調べて無かったな」
名称:カーバンクル
南米で目撃されたと言われる額に紅玉を付けた正体不明の生物、鳥類でも哺乳類でも爬虫類でも無いから多分竜なんじゃね?JKという理由でドラゴンのカテゴリーに入れられる事もあるらしい。
「おお、ゲームとかで有名なレアモンスターか」
「みゅふ~(どや)」
「今からお前に名前を付けるけどどんな感じのが良い?自己申告があるなら言ってくれ、無ければこっちで“地球の女神or昔話のヒロイン縛り”で決めるから」
「みゅ~みゅ~むい~(特に無いが余に相応しい偉大な感じで頼もう)」
「うん・・・だったらティアマトで決まりだろう」
「みゅいんみゅみゅ、みゅ~みゅ~(バビロニア神話のグレートマザーだな、神にも等しき余に相応しい名前だ気に入った)」
「それじゃあティアちゃんですね。今後ともよろしくお願いします」
「問題はこっちだな」
ドラゴンゾンビは敏感な翼をティアマトにいじくりまわされぐったりしている。
「やっぱり魔物だった頃に呼ばれていたジャバウォッキーかジャバウォックあたりが妥当か?」
しかしドラゴンゾンビはお気に召さないようだ。
「嫌だ、あんまり可愛くない」
「だったらアリス・・・にしたいところだがルイス・キャロルの小説は縛りの中に含まれるか微妙だな。少し文字ってエリスはどうだろう?」
「エリス!いい名前。気に入りました」
「みゅい~(迷惑戦闘狂女神)」
「そう言う事言わない」
楽しそうな声に惹かれタヌキ姉さんも入ってきた。
「うん?名付けは終わったかの?何々ティアマトにエリス?」
「ティアちゃんです」
「むぃ~~~~?(こんな毛駄物が夫殿の第一夫人だと?)」
タヌキ姉さんがヒョイっとティアを抱き上げればティアはピコピコと元気に手足を動かす。
「みゅい、みゅいみゅい(無礼者が、疾く頭を垂れよ)」
「おお、可愛いのう全身むにゅむにゅで骨が入ってないみたいじゃが、スライムとも違ってしっかり同じ形状を保っておる。う~む不思議なさわり心地」
「みゅみゅ みゅ~!!(F**k You!!)」
「何じゃって?」
「愛してるってさ」
暫らくは平和な時間を過ごせそうだと心底安堵した。
いやっほ~い、評価が増えてる。
ありがとうございます。そして、ありがとうございます。




