第七十話 怪盗ナイアールの大失敗
全裸・・・もとい前略って略する意味も無いですが、俺ことスーパーウルトラセクシィ犯罪王ナイアールは今、牢屋の中に居ます。前みたいに事前に牢屋に細工していたとか一切無いです。お嫁さん達も不参加です。素です。
何故こうなったか、多分に慢心から来る油断が原因だと思われる。
「それではその時の映像をどうぞ~(嘘)」
牢番「さっきから何言ってんのコイツ?」
◇ ◇ ◇
今日も今日とて悪人の屋敷に狙いを定める。今回の獲物は帝国風のオシャレな壷(多分金1億ぐらい?)、でも正直言うとアイリーン隊長が別件で部隊を離れている為、リト副隊長が今回の作戦総指揮をしているのが残念でならない、王子が居れば話は別だろうが、アイツだってホイホイ城を抜け出せる立場じゃあ無いし折角だから副隊長殿の実力でも見てやりますかね。
コレがいけなかった。
「うん、入り口は隊員が見張ってるのか。ここで眠り玉投げるのは何となくスマートじゃないな・・・けれどもあえて正面から堂々と侵入したい」
注意深く観察してみれば入り口を出入りしている連中は小さな紙を見ながら番兵に何かを伝えているみたいだった、そして番兵も手元のクリップボードで何らかをチェックしていた。
「なるほど・・・」
つまりは簡易ながらの合言葉や管理番号みたいなものだろう、中々考えたものだ。
「でもソレをこんな風に持ち歩いてちゃ意味無いよ」
俺と似た背丈の兵士を眠らせて変装を済ませる。
「0721番ね・・・何となく嫌な番号だな、ナニがとは言わんが」
そうして意気揚々と入り口へと進んでゆくと当然の如く番兵に止められる。
「止まれ、屋敷内に何用か!」
「は・・・はい、ナイアールの件で至急リト副隊長に報告したいお話があります」
「ふむ、では番号を言え!!」
「(来た!!)は・・・はい、0721番です」
「!?・・・そうか、急ぎの様子であるから直ぐに伝えよう。少し待っていてくれ」
しばらく待つと現れたのはまさかの副隊長本人だった。
「ナイアールに関する急ぎの報告っスね。それじゃあ、なるべく厳重な場所の方が良いと思うっス、ついて来るっス」
事前に調べたマップを頭に浮かべながら副隊長の後ろを大人しくついて行く、通されたのは金持ちの家にしては質素な申し訳程度の椅子と机が置いてある狭い部屋、脳内マップにはこの部屋の情報は無かったから予告状を受けてから急遽造り足した部屋なのだろう。
俺はその部屋に通されて絶句した。部屋の中には色々とヤバイ事に手を染めているこの家の主が拘束されていたのだ。
俺が振り返った瞬間、腹を思いっきり蹴飛ばされ部屋へと押し込められて、そのまま鍵を掛けられててしまった。更に驚くべき事に小部屋ごと馬で牽引されてここまで連れて来られたのだ。
・・・
・・
・
どうやら家主の犯罪を真っ先に暴き逮捕、後に屋敷の一部を大胆にリフォーム、まさか部屋そのものが移動可能とは恐れ入った。車輪付けて風の魔石で軽くしているのだろう、この世界ならではの工夫が中々面白い。
俺は4ケタの数字が書かれた小さな紙を改めて見てみる。
牢番「小さいが真っ白い紙だな、星の智慧社の御陰で随分紙も安くなったもんだ」
「・・・あ~、そっか~単純な事だったんだな~、合言葉や管理番号なんて“無かった”って事か」
牢番「つまりどう言う事だってばよ?」
「この紙は最初から奪われる事を前提に作られていたんだ、つまり・・・」
◇ ◇ ◇
~ナイアール逮捕記念祝勝パーティー~
「つまり隊員達は0以外の適当な数字を言うように事前に通達しておいたっス、そして持たせた紙には必ず0の数字が書いてあるっス」
隊員「ナルホド、つまり0って言った奴がナイアールって事か」
「いや~、まさかこんな簡単な手に引っかかるとは思ってもみなかったっス」
隊員「流石副隊長に選ばれるだけはありますね」
「なっははははははっ(本当はこの前の夜に王子様と一緒に考えた作戦だなんて言えないっスよね~)」
◇ ◇ ◇
~牢獄~
牢番「おわ!アンタそんな弁当どっから出したんだ」
「この俺様が牢屋の臭いメシなんか食えますかってんだ」
牢番「いや、さっきまでそんな物影も形も無かっただろ。あと臭いメシってのは牢屋の中に便所があるから言われてるんであって、牢屋の中で食べれば例え貴族様と同じメニューでも臭いメシなのは変わらんぞ」
「勉強になるな。どうだい、アンタも一つ?」
牢番「い・・いや、アンタはあのナイアールだ。どうせ眠り薬でも仕込むつもりだろ!?」
(その意見は最もだが折角の愛妻弁当にそんなマネは出来ないな)
そう思った時、通路の向こうから牢番を呼ぶ声が聞こえてきた。
牢番上司「おーい、用事が出来たからお前は一旦こっちに戻れー」
牢番「了解しましたー。・・・ってワケだから精々大人しくしててくれよ。まあ、俺はアンタのファンだから出来れば頑張って脱出して欲しいんだがね」
そう言って牢番は去っていった。
「ふむ、では期待に応えますか」
・・・
・・
・
「たまたま私が近隣の視察に来ていて良かったな」
「・・・・・」
「しかし、天下のナイアール様もこうなったら形無しだな、今出してやるから精々感謝するんだな」
「・・・・・」
女が鍵を開けて牢の扉を開けるがナイアールが動く気配は無い。
「どうした?さっきから黙って、早く出るぞ」
「・・・・・」
女が牢の中に入ってナイアールの肩を叩けばそのままナイアールはコテンと倒れてしまった。
「!?!?!?!?」
二・三度ナイアールをつついてみるが反応は無し、強引に顔を引っ張ってみれば明らかに皮膚とは違う何か布みたいな感触で、光魔法で顔を照らせば目鼻っぽい落書きが書き殴られているだけだった。即ち・・・。
「人形だコレ~~~~~!!」
◇ ◇ ◇
~遠藤家~
「出産予定日前に失敗するなんて、パパちょっとショック」
「でも、出産前に間に合いましたね」
「ああ、しっかり体も洗ったし準備万端だ」
「御前様とクラリース様が同時に出産とは、運命的ですね」
「同時期の妊娠は数名居たにも関わらず何故か他の娘とは見事に予定日がずれたんだよな」
「そろそろみたいですよ、行ってあげて下さい」
この日、遠藤家に長男次男が誕生した。
長男の名は清明、狸の獣人であり母の妖術を受け継ぐ才能溢れる術師。
次男の名はジャン、器用さと素早さ、そして母の惚れっぽさを受け継いだ黒髪緑眼の人間の次期当主。
◇ ◇ ◇
~十数年後~
「よう、兄ちゃん久しぶり」
「お前も里帰りか?風の噂ではアジオ領で活躍して娘さんと縁を結んだとか、ちゃんと他の嫁さんに説明してるんだろうな?」
「なはは、兄ちゃんも懐の“式神”が随分増えたみたいじゃん?おまけにどこぞの小国の姫も誑し込んだとか?」
「人聞きの悪い事言うな、魔物に襲われてるのを助けたら何かイイ感じになったんだよ。それに・・・」
「ああ、まあ・・・」
「「親父に比べれば大した事じゃないしな」」
「実家に帰ったら家族クイズやるの勘弁して欲しい」
「未だに親兄弟姉妹の名前を全員言えるのは親父と母上とクラリース母上ぐらいか?」
「ここ数年は母親も弟妹も増えてないから何とか良い点取れるかも」
「ああ、やっと避妊の仕方を覚えたのかよ、あのバカ夫婦共は」
「たぶん今だけだぜ、そろそろソーニャ姉ちゃんもって話だし」
「そうなるとアンリエット母上もノリでもう一人と・・・それで済めば良いのだがな」
そんな時、遠方で「キャー助けてー!」と叫ぶ女性の声が。
「やれやれ、俺達も結局親父の事は言えぬか」
「じゃあ今回は俺が沼の浄化で兄ちゃんが女の子の方な」
「心得た」
この後、家族に紹介する女の子が確実に増える事を予想しながら二人はそれぞれの役目を果たす為駆け出すのだった。
長男・次男はナイアールを継ぎませんでした。ただし実力的には十分あります。




