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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
怪盗 王国ニ舞ウ
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第七話 ダンドレジー領のクラリース嬢 後編

結構時間かかってしまいすみません。

自室に入り鍵を掛けて書斎で見つけた本をめくった。

そこにはお父様の字で病に伏せたお母様の病状と医師の診断結果や投薬の効果などが書かれていた。私は医療や治癒魔法に関しては専門外なので具体的にどのような治療が行われていたかは文章からでは上手く判別が出来ない、ただ当時の記憶を思い返せば、ベッドに寝たきりのお母様が日々弱っていく姿がとても痛ましかった。

日付に沿って読み進めていくうちにおかしな単語が幾つかみられた。変化・強化・制御・実験・検証・・・私は不吉なものを感じ次々とページをめくっていく、決定的だったのはお母様が亡くなった日付のページだった。

『検体6号死亡、しかし肉体変化・魔物制御の試験において一定の結果を残す。組織の重要な戦力になる事は間違いない、検体7号が成人するまでは領内から他の検体を集め研究を続けなければならないが必ず女伯爵様の期待に応えられるだろう』


コレは何だ?検体6号?背筋にゾクゾクと薄ら寒いものを感じ振り返る。幸いそこには何も無く部屋のドアもしっかり施錠されている。私は一息ついてから改めて本を読みすすめた。そう、この本はお母様の死後も書き続けられていたのだ。そこから先は悍しいの一言に尽きる。解剖・投薬・手術・実験の繰り返し、その内容は吐き気を催すものだった。そして本の最後のページに書かれていた文には・・・。


『実験は完成し、人体の強化・魔物の増殖・魔物の完全制御が可能と成った。組織の協力が無ければこれほど早く完成する事も無かっただろう。増殖した制御前の魔物が検体7号を襲撃する事故もあったが運良く戻って来たので当初の成人するまでという予定よりは少し早いかもしれないが近々7号を完成体に仕上げる予定だ。女伯爵様も喜んでくれるだろう』


私は息を呑んだ。日付は・・・私が屋敷に帰ってきた昨日の日付、何もかもに疲れてしまった私はベッドに倒れこみそのまま泥の様に眠ってしまった。もしかしたら身体か心かはたまたその両方が疲労の末現実逃避してしまった為なのかもしれない。

次の日目覚めると机に置いてあったハズのあの本が無くなっていた。私は悪い夢でも見ていたのだろうか?

今朝は朝食の味が感じられなかった。昨夜読んだ本の内容が頭から離れない・・・やはりあんな生々しい内容を単なる夢と断じるには無理があった。部屋から本が消えた理由なんて決まっている。そもそもあの本はサブロが読んでいたものだ。あの男はきっと何かを知っている。

今日は一日あの男を監視することにした。昨日は領地経営の勉強の合間に適当に見ていたが鍵を握るのはやはりサブロなのだ。私は屋敷で庭がよく見える部屋に陣取り扉を施錠して屋敷の執事には勉強をするから近寄らないで欲しいと伝えた。準備は万全何時でも動けるように身構える。

庭に出てきたサブロを観察していると改めてその動きに驚かされる。速い・正確・無駄が無い、庭に巣を作っていたのか数匹の少し大きな蜂がサブロに向かって飛んできたがどんな魔法を使ったのか近寄る端から地面に落下していった。ささっと剪定した枝葉や害虫の死骸を片付けて物置小屋に移動してしまった。


~約十分後~

「遅い、もう少し待ってみようかしら?」

~約二十分後~

「あのバカ物置でサボってるのかしら?」

~約三十分後~

「ぜんっぜん戻ってこない!一体あんな物置に何があるって言うの!?」


私は真相を確かめる為急いで物置小屋へと向かったのだが・・・。


「えっ?なに“これ”」


物置小屋の床が剥がされていた。いや、よく見ると床が蓋のようになっていてその下には石造りの階段が続いていた。

私が唖然としていると後ろから湿った布のような物でいきなり口と鼻を塞がれ意識が遠のいていった。落ちる寸前に見たのは薄い笑みを浮かべる執事の顔だった。


カチャカチャと何かの金属音で目を覚ます。私はどこかの寝台に寝かせられているみたいだ。頭がはっきりしない・・・。ふと横を見るとぼんやりと二人の人物が見えてきた。


「おお、やっと起きたか。心配したぞ」


優しく声を掛けるその人物は・・・お父様、と後ろに控えているのは執事・・・。

そこまで確認して私はようやく目が醒めた。身体を動かそうとしてガチャガチャと金属音がする。鎖で完全に寝台に固定されていた。


「お父様!これは!?」

「うむ、時が来たので最後の仕上げに掛かろうと思ってな」

「時・・・」


私の頭の中で昨日の本の内容が駆け巡った。


(アレはなんと書いてあった?思い出せ!思い出せ!私)


「検体7号・・・やっぱり私が!」

「ほうほう?どうやってその事を知った?まあいい、知ったところで大した問題ではないか」

「こんな事をして一体何が目的なのですかお父様!!」


お父様はニンマリ笑うと恐ろしい夢物語をまるで生徒に講義する教師のように語り始めた。


「よろしい、愛しき検体よ、これから完成品となるお前には知っておく義務がある。魔物と呼ばれる存在が人気の無いダンジョン・森林・廃墟等で自然発生する“澱みの沼”から出てくる事は知っているな?」


学院で習った。沼から出てくる魔物は大体同レベルのが一~五種類程、光魔法を流し込んで沼を消滅させるのが基本的な対策だ。どこに出るか分からない為定期的に巡回する必要がある。


「魔物の中には巨大なものや闇魔法と呼ばれる人間には使えない特殊な魔法を用いる者もいる、ならばもしこれらが我々人間の手で制御出来たならば?魔物の能力を人間が使えたならば?そうだ!そうだとも!!魔物の軍隊による世界の統治だ!!決して夢ではないぞ!!」


狂っていた。こんな男は父親なんかじゃ無い、私の信じていたものがこんな恐ろしいものであっていい筈が無い。


「そんな研究、上手くいくわけがない妄想を語るのもいい加減にしなさい」

「ふむ、確かに私一人では上手くいかなかっただろう。実際に沼から発生する魔物というのは思ったよりも数が少ない、兵隊に使うには数が足りなかった。沼から湧き出るという性質の為か奴らには生殖機能が一切無かったから繁殖させる事もできない、随分失敗を繰り返したよ。だが私は成功したのだ」

「まさか、最近のゴブリン大発生の原因は・・・」

「ご明察だ、完成したのだよ。沼に入れると魔物を大量発生させる薬が」

「なんて・・・事を」

「さあ、我らの栄光の為今こそその身を差し出せ検体7号!お前は我らの軍隊の最も美しき指揮官となるのだ」


狂った男が叫び妙な器具と薬瓶を手にして私に迫って来る。私は成す術無く狂った研究の完成品とやらになってしまうのか?と思った時だった。

カツンカツンと床を響かせる足音、男二人は入口を凝視する。私は寝台に固定されてよく見えない。


「なっバカな!サブロだと?貴様どうやって此処を見つけた?」

(えっ?サブロ)


その瞬間バキンと音を立てて私の拘束が全て外れた。

起き上がった私が見たのは二人と対峙するサブロのあの醜い姿だった。サブロが口を開く。


「どこのどんな世界に行ってもくだらない人体改造ってのは無くならないモンだな、吐き気がする」

「なんだ?貴様、一体何なんだ?タダの庭師風情が!」

「俺は・・・そうさな」


サブロはバッと汚い上着を勢いよく脱ぎ捨てた。


「あっ?」

「えっ?」

コロジョン

そこにいたのは紛う事なきコロジョン・ダンドレジー男爵その人であった。

私とコロジョンと執事は混乱の極みにあった。目の前にはもう一人のコロジョン・ダンドレジーがいるのだから。狂ったコロジョンは喚き散らした。


「何だこれはどういう事だ?何が起きている?お前は誰だ?誰なんだ?」

「俺は“オマエ”だよ、オマエの悪心の“影”とでも言えばいいかな?」

「殺せ・・・奴を殺せーーーっっ!!」


コロジョンが叫ぶと執事は前に出て深呼吸を一つ、するとその体は倍以上に一気に膨れ上がり執事服を突き破り肌は緑色に変色し悍しい化物の姿となった。


「こりゃまたわかりやすいカタチになったな。大きな体に強靭な筋肉、シンプルな強化で実にいい」


化物となった執事が豪腕を出鱈目に振るうと石造りの壁や床が次々と粉砕されていく。


「おおっと、流石にオツムのパワーアップは出来なかったか?男爵さんよ」

「何をしている!サッサと片付けろ」


コロジョンが叫ぶと化物は右腕を前に突き出した。


「厶ッ?」


対するもう一人のコロジョンが不審に思っていると化物の腕の先から竜巻が発生し真正面を滅茶苦茶に蹂躙した。後に残ったのは衣服の切れ端だけだった。


「ふっふははっ、何者か知らんが私の兵士にかかればこんなものか、肉片一つ残さずに塵と消えたらしいな、これでやっと・・・」

「チョーシこいてんじゃねぇぞオッサン!!」


ザンッと化物の脇腹が切られた。そうして姿を現したのは全身を漆黒の衣で包んだ影、その手には以前に見たあの刃が握られていた。


「悪竜斬る為鍛え上げられたこの“叢雲・改”そこらの木っ端怪物なんぞ直ぐにかっ捌いてやる」


言うが早いか影人間は化物に次々と傷をつけていく、化物は影人間を捕まえようと手足を振り回すが全く当たらなかった。傷の痛みに怒り狂う怪物は再び右腕を構えた。


「そいつを待ってたぜ」


影人間は懐から取り出した鎖を投げつけコロジョンを捕縛してその立ち位置を一瞬で入れ替えた。


「バッ待て撃つ・・・」


撃つなと言いかけたコロジョンの言葉が終わる前に竜巻に飲み込まれメキメキバキバキと何かが折れる音が響いた。竜巻が壁に激突して壁の一部が崩壊するとそこには人が居た形跡は何も残らなかった。


「おとう・・さま・・・」


私は知らず知らずの内につぶやいていた。もしかしたらあの狂人の為に涙を流していたのかもしれない。


「グガァァァァアァァァッッッ」


化物が咆哮して頭を抱える。主の死により動きが鈍くなっているみたいだ。その隙を逃さず影人間が駆ける。影の手には2本の鉄の杭らしきものが握られていてそれを化物の顔面に投げつける、2本の杭は吸い込まれる様に化物の目に突き刺さり大量の血の涙を流す。


「イギャ嗚呼アアAAAああああ」


三度右腕を突き出した化物に刃が走り腕を・足を・最後に首を切り落とした。首だけになった化物の歯が4・5回ガチガチと鳴ったがやがてそれも収まり地下室に静寂が訪れた。

一部始終を見ていた私は色々な事が起こりすぎて頭が混乱している。すると影人間が近づいてきて


「顔色悪いけど大丈夫?なわけ無いか、辛いなら手を貸そうか?」


差し出された手はとても柔らかかった。

上記の理由からこの世界には“くっコロ”展開は一切ありません

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