第六十七話 怪盗談義
無い知恵絞って推理物っぽくなるように努力しました。
『三日後の夜、美食侯爵殿がお持ちの珍味【ドラゴンの舌】購入させていただきます ナイアールが多面の一つ“血塗れた舌のレア”』
なんて手紙が届いたのが三日前の事、アジオ領主にして国内随一の美食家・元冒険家でもあるデリシャ・アジオ侯爵は今一人の女性とテーブルで向かい合っている。
「そうか、部隊の到着は間に合わなかったか」
「ですので私一人でお邪魔させていただきました」
「いや、お邪魔などとんでもない・・・ワシも家内も息子達も娘達も部下達も領民も揃いも揃って料理馬鹿じゃからなぁ、専門家に来ていただけるのは有り難い事ですわい」
金髪を腰まで伸ばし肌は健康的に赤みがかった紅い瞳の女性アイリーン・ショルメ隊長である。当然予告状の知らせを受けてアジオ邸までやってきたがそこで世界中の料理や食材を研究する為にタフな冒険者だったアジオ侯爵とナイアール対策談義に華を咲かせていた。
「兵を多く配備すれば良いのではありませんか?」
「いいえ、かつてナイアール自身も言っていましたがそれは愚考ですわね。普通の賊ならばともかく誰にでも変装出来るナイアールに対しては付け入る隙を与えるだけですわ」
「それでは人数を減らせと?」
「通常なら愚策ですが条件次第では有効打にもなるでしょう、まず警備人員全員を可能な限り錬度の高い者で固める事、それこそ達人級の武芸者や極星に迫る魔法使いを入れておきたいですわね」
「・・・『まず』と言いながらいきなり難題を持って来るのう」
「集めた人員は協調性の高い者が好ましいですわ、スタンドプレーはナイアールの思う壷ですからね。私もそれで散々痛い目を見ましたわ」
「むむむ、自身の力を過信して失敗するというのはワシも冒険者時代に何度か見ておるからな、ワシ自身も調子に乗って失敗した事があるし」
「味方やご家族を深く理解する事。ナイアールがどれだけ完璧に変装しても他人である以上必ずボロが出ますわ、普段から周囲の人間に気を配り話し合えば自然と偽者の区別が出来ますわよ」
「良好な人間関係を築く事でナイアールが付け入る隙を無くすのじゃな」
ひとしきり話し合ったところでアイリーンが「さて」と言い・・・。
「それでは今回狙われた【ドラゴンの舌】についてお話願えますでしょうか?」
「ううむ、本当にどこからその話が漏れたのやら・・・、去年ペレンナ伯から牛の肉を馳走になった時にな、牛の舌を焼いた物が出てきてのぅ、中々美味だったのでワシも真似してみようと考えていたところに一頭のドラゴンが領内を襲ってな」
「ドラゴン退治のついでに肉を取ったと?」
「いや~、久々のドラゴン退治じゃったがワシもまだまだ現役ですわい。モツや脚なんかも美味じゃったが舌は牛以上に絶品でな、他の部分は領民に配ったが舌だけは丸々こちらでこっそり確保したんじゃよ。この事は家族と一部の使用人しか知らぬハズなんじゃが・・・」
「実物を確認させていただいてもよろしいですか?」
「うむ、おーい!ニクロー!!例の物を持って来てくれ~」
ニクローと呼ばれた使用人が巨大な肉の塊りを運んでくる。
「どうやらこの肉自体が魔道具になっているらしくてな、腐らないんじゃよ。最近の夕食の楽しみじゃ」
侯爵は慣れた手つきで巨大な肉切包丁を使って家族とアイリーンの分をスライスする。
「ショルメ隊長も喰って行きなさい、戦う前には肉じゃろう。ニクロー、残りは盗まれんようにしっかりと地下倉庫へ入れておくんじゃぞ」
「承知しました旦那様」
しかし台車に肉を載せて去ろうとするニクローの肩をアイリーンはむんずと掴んだ。
「毎度毎度よくも上手く変装しますわね」
「へ?お嬢さん一体何を・・・」
「とぼけても無駄ですわよ、ここに証拠があるのですからね!!」
アイリーンがニクローの髪を掴んで思い切り引っ張るとスポンとカツラが取れて女性の顔が現れた。
「何じゃと!?」
「御覧の通りニクローさんは偽者ですわ。きっと何日も前から本物のニクローさんと入れ替わっていたのですわね」
「そこで【ドラゴンの舌】の事を知ったのか」
「クックックッ、バレちゃったらしょうがないわね」
アイリーンは慣れた手つきで女性の姿のナイアールを拘束する。
「ふふふ、お肉を食べるまでもありませんでしたわね。これにて事件解決ですわ」
意気揚々とナイアールを外に連行しようとするアイリーンだったが玄関のドアが勢い良く開かれアイリーンは動きを止めた。
彼女の目の前には剣を向けるアイリーン・ショルメと配下の兵達が立っていたのだ。今、この場には二人のアイリーン・ショルメが存在していた。
「これは一体・・・どういう事じゃ!?」
玄関の方から本物のニクローが飛び出す。
「旦那様、変な連中に捕まっていたところをこちらの方々に助けていただいたのです!!」
「何!?それではまさか・・・」
剣を向けるアイリーンは油断する事無くもう一人の自分を睨みつける。
「アジオ侯爵、ナイアールは色々な変装をしますが最も得意としている変装はアイリーン・ショルメですのよ。事件解決と安心させて油断したところを盗むつもりですわ、けれども私達がこんなに早く到着するのは計算外だったかしら?」
そこから剣を構えていたアイリーンの動きは早かった。ロープを投げつけ一瞬でもう一人のアイリーンを縛り上げてしまったのだ。
「ちょっと失礼」
そう言うと肉の塊りの臭いを嗅ぐアイリーン、そして縛り上げたアイリーンの懐から何やら小瓶を奪い取りこちらも中身の臭いを嗅いだ。
「恐らく肉にこの薬をふりかけましたわね、これまでのパターンからすると睡眠薬かしら?」
「肉を喰わせて眠っている内に盗もうという魂胆か!」
「それで正解だと思いますわ侯爵」
「どこまでも悪知恵の働く奴じゃ」
「部隊には優秀な薬師が居りますのでこのお肉を解毒の為一度我々に預けていただけませんか?」
「それは有り難い、是非ともお願いいたします」
こうしてアイリーン達はナイアール一味を連行して去っていった。
◇ ◇ ◇
~一週間後~
「という事があったんじゃが」
「ソレ完璧に騙されていますわ」
「あ、やっぱり?」
先週と同じ構図でテーブルに向かい合うアジオ侯爵とアイリーン、話題は当然ナイアールについてだった。
「侯爵が送られたという捜査部隊への援軍要請の書状ですが王都には届いておりませんのでナイアールに奪われた可能性が高いですわね。そしてニクロー氏と入れ替わり【ドラゴンの舌】の存在を突き止め」
「ニクローを助ける事で本物の捜査部隊と信じ込ませてナイアールを捕らえるフリをして肉を奪い、ついでに部下も回収という訳じゃな。まんまと一杯食わされたわい」
「盗られた物は仕方ありませんわね、それよりも今日は侯爵に見ていただきたい物がありますわ」
そう言ってアイリーンが取り出したのは一枚の絵画。
「ほう、葡萄園の収穫かの?絵画の知識はあまり無いが葡萄の瑞々しさが良く描けておるな」
「以前とある盗賊を退治した時に押収した物なのですが国立美術館に展示してあるあの大きな貴婦人の絵とタッチが非常に似ていますので私の見立てでは九割方同一の画家の作であると鑑定しますわ」
「おお、あの国宝と同じ画家の!?これは驚きじゃな。して、この絵をワシに見せて何をしたいのじゃ?」
「気に入ったのであれば差し上げますわよ」
「何と!本当に良いのか?」
その言葉にアジオ侯爵は食い入るように絵画を手にとって見つめる。
「ええ、勿論ですわ。これは【ドラゴンの舌】の代金ですもの、お肉とても美味しかったですわよ」
「なんじゃと!?」
アジオ侯爵が顔を上げると既にアイリーンの姿は無く手元には【ドラゴンの舌】の代金である絵画だけが残されていた。
段蔵達が浄化すると周囲の魔物も消滅しますが、これは段蔵達の浄化能力が非常に高いからです。普通の聖職者はそこまで消せません。




