第六十五話 ゼリーパラダイス
戦である以上、犠牲者はつきものである。
幸いにも段蔵の嫁軍団には死者は出なかった(一部元々死んでる)が強力な魔力の撃ち合いにより手足の一部が消滅する程の重傷を負った者も何人か居た。残念ながら万能ナノマシンでも失われた部分を復活させる事は出来ないのだ。
「必ず俺が元に戻してやるからな」
「ふぁい♡まってまひゅ♡」
ベッドの上で彼女達をケアし終えてから段蔵は知識人を集めて相談する。
「下手な義手には頼りたくないな」
「手っ取り早いのは新堂達に細胞を培養してもらう事かのう?」
「可能なら俺達だけで治してやりたいんだが」
「自分の妻に良いところを見せたいんじゃな、良い心がけよな」
「以前みたいに澱みの沼を使うのはどうでしょう?」
「あれは蘇生はしたけれども治ってるワケでは無いような気がします。サロメさんは首が切れたまんまだしセドナさんは一つ目になっちゃったし」
「姉さん生やす術知らない?」
「知っておるが本人が最短でも100年程修業せねばならぬぞ」
「流石に長い」
良い答えが出ないまま皆が唸っていると情報収集をしていた女の子が一人報告にやって来た。
「ダン様が怪しいと睨んでいたシケテルノー・コアクト子爵ですが、先程領主館が魔物の襲撃で壊滅しました」
「どんな魔物だ?」
「それが・・・巨大なスライムです」
スライム、日本では二種類のイメージがあるだろう。極端に強いか、極端に弱いか、強い場合はあらゆる場所に音も無く侵入し不定形故に攻撃が効きにくい。一方弱い場合は、小さく臆病で少しのダメージでも死んでしまうといった感じだろう。
この世界のスライムは後者に近くスライム退治といえば子供のお手伝いレベルの仕事だった。だが、報告の感じから今回は恐らく強い方が現れたのだろう。
「なあ、強いスライムっつったらやっぱり無制限の再生能力と変幻自在な身体だよな」
「ほう、スライムを手懐けて娘達と融合させようというのか?中々発想が人外じみてきたのぉ♪」
「不味いか?」
「考え方と使い方次第じゃろう。魔物退治も出来て嫁達も元気になる、誰も困らないならそれで良いではないか?」
「決まりだな、早い内に行きますか」
◇ ◇ ◇
~スライム増殖から3時間 コアクト子爵領主館~
「コアクト子爵は何者かから増殖薬と制御薬を受け取ったらしく丁度館の中庭に発生した澱みの沼に投与したと思われます」
「それでこのザマか・・・」
領内に潜入させていた女の子達からの報告を聞き終え段蔵は館を見る。
「うん、スライムまみれだな」
周囲を囲んでる領兵の隊長らしき男がこちらに気付き怒鳴りつける。
「コラ!貴様達、この状況が見えんのか!!」
「ああ、お勤めご苦労、私はこういう者だ」
段蔵は王家の紋付レイピアをチラリと男に見せる。
「それは王家の・・・失礼致しました!」
「構わんよ、それよりも兵達を下がらせてくれないか?」
「え?いえ・・・ですが・・・」
「何、こちらも事態を解決出来る人材は用意してある。来なさい」
現れたのはいつもの漆黒の鎧に身を包んだオデットを筆頭とした嫁軍団だ。
「その漆黒の鎧はもしや風の極星オデル様!?分かりました。直ぐに兵を下がらせます」
嫁軍団と入れ替わる様に後方に下がる領兵達を見てオデットはレイピアに視線を向ける。
「ソレ、姫様にお返ししないのか?」
「こんな便利な物を簡単に返せますかってんだ。返して欲しけりゃ決闘でも何でも受けてやるぜ」
「まるで宝を貯め込む性質の悪いドラゴンだな」
周辺を任せて主力のオデット カスミ シンク(豹獣人)と沼を浄化する為の修道女・マール(エルフ)を連れて中に入る。
「ダン様、人が!」
シスターが指差す方を見れば下半身がスライムに飲み込まれたメイドがこちらに手を伸ばしている。
「だずげ・・・で」
「待ってろ、今たす・・・」
「助けてやる」と手を伸ばしたが、そのままメイドはスライムに飲み込まれ一瞬で溶けてしまった。
「・・・チッ、先を急ぐぞ」
段蔵達はタヌキ姉さん特製の魔除け護符の御陰でスライムは襲って来なかった。既に人間の姿が見当たらないところを見ると全員喰われたのだろう。
「着いたぜ、中庭」
なるほど、沼からは際限無くスライムが溢れ出し、以前戦った囁きの大樹みたいに魔物が澱みの沼を呑み込み始めている。
「マール、俺と同時に浄化するぞ」
「は・・・はい、お願いします」
段蔵は刀を、マールはステッキを沼に突き刺す。
「一二三四 五六七八 九十」
「苦しみに沈みし魂よ、我が呼びかけに応え新たな肉体に宿り給え」
そして敷地内のスライムが全て融合し凝縮され一体のスライムに変化した・・・したのだが・・・。
「・・・・・でけぇ」
「今までと違って人型じゃないですね」
「不思議と嫌悪感は感じないが・・・ダンの世界で言うところのちょっとキモい」
サイズはかなり小さくなったものの形状は肌色の丸っこい肉塊に女性らしい器官が多数生えた高さ5m程の饅頭といった感じだ。顔とかも複数付いている。
「顔一人ひとりは美人だから抱けない事は・・・いや、何か負けた気がする・・・ん?」
「どうかなさいましたか?」
「こいつのツラってさっき呑まれたメイドじゃね?」
「言われてみれば・・・」
その時、メイドの目がぱっちりと開き段蔵と見詰め合った。
そして肉饅頭からプルンと半透明なメイドが飛び出してきた。
「死ぬかと思いました~」
「んな!?」
それを皮切りに次々飛び出す半透明な女性達、六人目が飛び出した時には饅頭本体も体積が減り人間の形状になっていた。
「何・・・この記憶・・・お好み焼きが食べたい」
「私、スライムに食べられて・・・アレ?」
「なにか・・・凄く便利な世界を垣間見ていた気が」
「どうやらこの館に住んでいた女性達みたいですね」
領内の偵察を行っていた女の子達に確認すると肌色饅頭だったのが領主の妻で、出てきた六人の内三人は彼女の娘で残り三人は館のメイドだそうだ。残念ながら子爵を含めた男性陣は全滅したらしい。
「この度は私共をお救い頂きありがとうございます」
「早速だが経緯を聞きたい、何故こんな事になった?」
「昨夜の事です。主人がザハーク公から妙な薬を渡されまして『これで魔物を奴隷にすれば今よりも大きな権力が手に入る』と、丁度今朝、裏庭に澱みの沼が発生していたので僧侶の方を呼ばずに薬を試してみる事にしたのです。バカな事をしました、私も今まで夫と共に悪行を重ねてきたので天罰が下ったのでしょう、気付けばスライムに全てが飲み込まれていました」
「ちょっと待った。今、ザハーク公と?シケテルノーに薬を渡したのはグリド・ザハークなのか?」
「ええ、夫はそう言っていました」
「あんのクソ野郎が」
「遠藤子爵、私は覚悟が出来ております。ですが娘達はまだ取り返しがつきます、そしてメイド達には何の罪もありません。どうか娘とメイドは助けていただけないでしょうか?」
その姿に悪徳貴族夫人だったという過去は見えなかった。この女性はラヴィニアと違い純粋に娘の身を案じている。過去がどうあれその姿勢は美しい、段蔵は美しい物が大好きなのだ。
「俺も悪人だぜ、そんな俺に自分と娘と従者の運命を委ねようなんて相当なバカだな・・・だがそれが良い」
段蔵はにっこりとサムズアップ。
「お母さん名前は?」
「ボアンと申します」
「ならばボアン、君は今すぐ俺と再婚しろ。そして娘達もメイド達もコアクト家の罪も全て俺に差し出せ、君が自分の罪に対して罰を受けたいと言うならば俺がタップリと辱めてやる」
こうして、スライム状の女性達も妻として迎え入れた。しかし本題はここからである。
~ダンドレジー家~
「何とか予定通りスライムを家族に迎え入れた」
元コアクト婦人でサイ獣人だったボアン、一見普通の人で全身ムニュムニュしている。その娘三人とメイド達は最初無色に近い半透明だったが名は体を表すの言葉通りその体色に変化が表れた。
おっとり牛獣人長女ミルクは屋敷で出される牛乳が気に入りミルクの香りがする乳白色ボディーに変化。知的クールに見えて実はおバカなエルフ次女リンは紅茶が気に入りタージリンの香りが心地好い褐色になった。甘えん坊人間の三女ハニーは蜂蜜甘々飴色に変化した。
館で最初に段蔵と会った人間メイドはグレープ、赤ワインの香りと色だ。彼女の同僚のエルフメイドはカルボさん、ソーダが気に入り無色の身体だがプチプチと刺激的な触り心地だ。
そして最後に問題児?が現れた。
「ごしゅじんたま~」
テコテコとオレンジスライムの幼女が俺に擦り寄ってくる。
「あのねあのね、ミカンお胸がきゅんってしちゃったの、ごしゅじんたま~ミカン何かのびょーきになっちゃったのかな~?」
などと幼児言葉で甘えてくるエルフ(ドワーフ系)の幼女メイドだが俺は騙されない、既にボアンには確認済みだ。何よりタヌキ姉さんやネフティスみたいにコイツには年長者の貫禄が滲み出ている。
「プレイの一環なら喜んで受け入れるがね。日常でそれは少々あざとい」
「えへへ♪」
東方から移住してきたというミカン好きのオレンジスライムだが、メイド暦40年のメイド長(61歳)だそうだ。何故か知らんが超若返ってしまったらしいが、中身はしっかりお婆ちゃんだ。
「なんですか、ノリが悪いですね。ここは一つごしゅじんたまのおちゅ~しゃをミカンにずっぷしと突っ込むシーンじゃないんですか?」
「また今度暇な時にな。今は人助けの方が先だ」
集まったのは前回の戦いで、もしくは段蔵と出会う前から怪我や病で身体の一部を失った嫁達と今回家族となったスライム娘達。いよいよスライムの力で人体を修復する時が来たのだ。
スライム娘達が自分の体からボールのような物を取り出す。これがスライムの細胞の一部らしい。
「取り出した細胞は既に私達の制御を離れ問題無く皆さんにくっつきます。そうすれば勝手に遺伝子情報を読み取って復元・融合・同化するハズです」
そうボアンが説明する。魔物化した際に自身の性質を理解したらしい・・・のだが、他の6人は『あれ?そうだっけ?』という顔をしている。大丈夫だろうか?
ともあれスライム細胞を患部にぺたりと押し付けるとゆっくりと形が整い始め、やがて外見は完璧な形となった。
「おお、凄いな、成功じゃん」
「ダン様、私の手がちゃんと動きます。これでまた抱き合えるんですね」
「ふう、これで松葉杖生活から開放されるよ」
「ありがとう、スライムのおねえちゃん」
ちゃんと問題無く動いているみたいで何よりだ。
「スゲーな、仕事柄腕の良い外科医には何人か会ったが繋ぎ目が全く見えないのは初めてだ」
「手術ではなく完全な融合ですからね」
めでたしめでたし・・・それだけでは当然終わらなかった。
ボアン以外からスライムを融合させた女性達が自身の身体から自在にスライムを出し入れや体内の移動出来るようになっていたのだ。
「いえ~い、スライムライダー参上」
「おっぱいとお尻に少しスライムを混ぜてみました」
「甘いわね、☓☓☓にスライムを移動させて・・・ミミズ千匹・数の子天井ナンボのモンじゃい」
「あ~、皆さん、スライムの投与は治療の一環として行ったのですから、豊胸効果目当てでのスライム受け取りは禁止です・・・ってかそんな簡単に乳がデカくなったら俺が揉んで育てる楽しみが無くなるだろ!!」
ちなみにボアンのスライムで足を治療した女の子は俺や捜査部隊のリトを凌ぐ神行法に迫る程の俊足を手に入れた。
どうしてこうなった。
最初はボアンがリーダー格だからかと考えたが。
「ひょっとしてボアンと他の6人は全く別の魔物なのかも・・・」
先ず抱き心地が全然違った。
ボアンがブニョ・モチッ・ヌププなのに対して他6人は多少の差異はあれどプルン・クニュ・チュルンって感じなのだ。どちらかが悪いと言っている訳じゃあ無い。これはそう、比較にならない全く違う物を無理に比較しようとしているんだ。例えるならボアンがステーキで他6人はゼリーなのだ。だから別種の魔物では無いかと思い至った。
ボアンを解析する。
名称:肉人 ぬっぺふほふ ぬっぺっぽう ぬっぺら坊 封
人間を驚かす妖怪だがその肉を食べれば強大な力を得られると言われている。
はいはい狐狸の所為、狐狸の所為。
他のスライム娘を解析する。
名称:スライムロード
創作物ではショゴスが元祖とされる、アメーバの発見と言う科学技術の進歩によって認知された稀有な魔物。環境適応力が非常に高く変幻自在、物理攻撃は無効で四大元素系の魔法も効果が薄い非常に強力な魔物。
「ボアンはスライムじゃなかった~~~~!!」
そこへ妖怪に詳しいタヌキ姉さんがやって来る。
「おお、ぬっぺっぽうか?懐かしいのう。昔、タヌキ仲間だった竹千代ん家に遊びに行った時に庭に住み着いてて竹千代がスゲービビッてのう、妾が山に住むよう説得してやったのじゃ」
「もしかしてボアンのスライム?で足が速くなった女の子は・・・」
「間違いなくぬっぺっぽうの伝承からじゃろうな」
謎は全て解けた。そうそう、肝心のボアンだが絶賛辱しめ中だ。
「お・・・お兄ちゃん、お茶が入りました」
「違う、もっと甘える様に!身も心も幼い妹に成りきって!『お兄ちゃん、お茶淹れてきたよ、ボアンといっしょに飲も』だ」
「私の声真似やめて~」
今ボアンは髪をヒラヒラフリルの大きなリボンでツインテールにして女児の服を着せウサちゃんパンツを履かせている。娘達もドン引きだ。
「見ないで~」
「このちょっと大きめのスッパイ飴を舐めながら『お兄ちゃん、こんなのダメだよ~』って言ってみて」
「おにいひゃんンチュ・・・、こんらろらめぇチュパ・・・らりょぉおジュルルル」
「三十後半の未亡人に何やらせとるんじゃ」
「もう俺の女だから未亡人じゃねーよ。ボアンかわいい」
「お母様かわいい」
「お母様」
「おかあさま」
「奥様」
「ボアン奥様」
ボアンが真っ赤になってプルプル震えている。
「イジメかっ!!」
ちなみにボアンの部屋も地下牢だが、ぬいぐるみを沢山配置した薄いピンクの壁紙の甘々ロリロリ部屋にしてやった。美熟女が自分の娘よりも対象年齢が低そうな部屋で寝起きするその姿はシュールである。
◇ ◇ ◇
~おまけ~
名称:毛深き女部族
ヨグス地方の御山攻略の際に仲間入りした魔物娘、顔以外が体毛で覆われた類人猿の魔物だが顔は綺麗で体型も普通の女性と遜色無い。しかしその体から溢れるゴリラパワーは、英雄に匹敵する程である。
ヨグスに滅ぼされた村人達の使命を受け継いでおり、【絶対命令】の魔道具がラヴィニアの手に堕ち長い年月が過ぎた現状もあり快く破壊に協力した。
彼女達は原始人みたいな服装とは裏腹に未来感バリバリの道具を所持している。リング状のビームを放つ光線銃に自分の思考を遠距離の仲間に伝えるピカピカ光るテレパシーヘッドギア、意思に反応してメカアームが飛び出すバックパックやタイヤの無い反重力バイクなど、地球の科学力を遥かに超えるこれらのアイテムから当初は遠藤家の科学技術の大発展が期待されたが、後に彼女達が無意識に闇魔法で作り出した魔道具だった事が発覚、都合良くはいかなかった。
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でも豆腐メンタルだからお手柔らかに。




