第六十三話 敵地で仮面をかぶる者 危険な関係と巡る姦計
捕らえたラヴィニア姫を尋問する為、砦に詰めている幹部達が集まる。総司令官パロット・エルキュリア王子 三将軍新参の軍師ニアール・クアットロ 同じく三将軍が一人ネコ夫人こと大軍師オルタンス 風の極星オデル・ペレンナ 前線指揮官アイリーン・ショルメ公と副官のリト・ウッズ。
「私の天才的な策により【王子が!!】単独で捕らえた敵国の姫将軍とこれから面会を行います。【王子が!!】捕らえたので他の方々は一切口を出さない様くれぐれもご注意願います。これは【王子の!!】手柄ですので」
やたらと王子の手柄を強調する軍師ニアールことナイアールに辟易しながらも、一応は事実である以上何も言い返せない。ニアールの正体を知っているアイリーンとリト、そしてオデルことナイアールの妻の一人であるオデットもこの場であえて口を挟んで混乱を起こすようなマネはしなかった。
会議室に連れられたラヴィニア姫は存外に大人しく抵抗の素振りは見せない。
パロットはラヴィニアに静かに声を掛ける。
「久しいなラヴィニア姫、俺の事は覚えているか?」
「もしや・・・パロット・エルキュリア・・・か?」
「そうだ、久しぶりだな。結果は御覧の通りだ。いつぞやの盟約を果たしてもらうぞ?」
「・・・・・」
ラヴィニアが下を向き肩を震わせる。
「答えろ、盟約は覚えているんだな?」
「私が敗北し捕らえられた場合、私は貴方の妻となる事を誓う・・・何時かこのような時が来ると予感はしておりました・・・」
その盟約の内容にリトが思わず身を乗り出しそうになるがアイリーンが腕で制する。
「そもそもヨグスとエルキュリアでは国力に差がありすぎる。これ以上不毛な戦を私は望みません。ヨグスはエルキュリアの一部として併合されるべきです」
その言葉にエルキュリア側は面食らった。ヨグス国といえばエルキュリア打倒を掲げその理念を国民に徹底している軍事国家だ。和平を、それも自分達が下に付くなどと提案する人間が存在する事が驚きだった。ただ、パロットだけは表情を変えず瞑目していた。
「ラヴィニア・・・君は・・・」
その小さな呟きが聞こえたのはパロットの真横で補佐していた軍師ニアールだけだった。
「一度休憩しよう、ラヴィニア姫、狭い部屋で悪いが昼食は良いものを出そう。他の者達はこの場に残ってくれ」
ニアールから見たパロットは何やら瞳を閉じ俯いて考え事をしている。見ようによっては黙祷を捧げている風にも感じられる。
意を決したパロットは集まった幹部達に一世一代の計画を打ち明けたのだった。
~一時間後~
「では最大の謎に答えてもらおう。500年前にヨグスの手に入れた強力な魔道具とは何だ?」
長年のヨグスに対する謎、国力・生産力の低い土地で戦争を続けても崩壊しない理由。
「それは二つの魔道具・・・特に名前はありませんが【魂魄転移】と【絶対命令】を可能としています」
「魂魄転移・・・その言葉から想像するに魂を移動させる魔道具の様だが?」
そこでパロットの頭の中で何かが繋がった。
「まさか・・・新しい肉体を用意して生き続けているのか!?」
ラヴィニアがコクリと頷く。
「その通りです。魔道具の主に設定されたヨグス王ウィルバー・ヴェイト・ヨグスは肉体が滅ぶ前に新たな肉体を用意し500年生き続けているのです」
「なんという・・・」
羽扇子で口元を隠しながら軍師ニアールは先を促す。
「それでもう一つの【絶対命令】が可能な魔道具とは?まあ、大体予想できますが・・・」
「お察しの通り王からの命令は一切拒む事は出来ません。例え実現不可能な命令であっても達成されるまで命令を実行しようとします」
「ああ、それなら確かに反乱は起こらないし生産性もある程度確保できるだろうな、人間性が排除されるからマトモな発展があるとは到底思えんが」
ヨグスの異常な精神構造の原因は近親婚の繰り返しだけではなく魔道具の影響もあったようだ。あるいは魔道具の影響で異常行動に対する忌避感がなくなっているのかもしれない。
「それではヨグス王が命じればエルキュリアの国民も操る事が可能と?」
「いえ、効果範囲は現在のヨグス国領土内のみです。逆に言えば命令権が届く範囲を領土にしたのです」
「その【絶対命令】は持ち運び可能なのですか?」
「いえ、御山と呼ばれる場所に造られた施設みたいなものなので移動は現実的ではありません」
軍師ニアールは羽扇子をラヴィニアに向ける。
「貴女は他のヨグス人と違って聡明で受け答えもしっかりしている。【絶対命令】の影響下にあると思えません。そして貴女の名前、ラヴィニアとはウィルバー王の母親と同じ名前ですね。何か関係があるのですか?」
一瞬だがラヴィニアがピクリと反応したが、その後落ち着いた様子で身の上を語り始める。
「ヨグス国では最も優秀な女性にラヴィニアの名を与える風習があり、王の側近となるのです。そして【絶対命令】は確かに国民を操るには有効ですが状況変化への対応力がどうしても低下してしまうのです。なのでラヴィニアを含む一部の優秀な側近には能力の低下を防ぐ為【絶対命令】は行使されません」
「なるほどな・・・それでは最後の質問だ。ヨグス軍に魔物化薬は渡っているのか?」
そこでラヴィニアは苦虫を噛み潰した表情になる。
「あの下衆共が持ち込んだ薬ですね。私の指揮する部隊には配備されませんでしたが全軍を賄う量が配備されています」
その言葉に一同騒然となる。本気を出せば千の兵も凌駕すると言われる極星に匹敵するバケモノが万単位で攻めて来ているのだ、顔色も悪くなるというもの。
しかし、軍師ニアールは笑い飛ばし一蹴した。
「ほほほほほ、ヨグスの弱兵風情が無い知恵を使ってよくぞ考えたものです。恐れる事などありませんよパロット王子!王子の統率力、私の智謀、そして未来の王妃たるラヴィニア様が和平の為協力していただけるのです。これはもう勝利したも同じではありませんか、早速ラヴィニア様にはヨグスの配置、進軍ルートなどを教えていただきたい」
その言葉に笑顔で応えるラヴィニア、彼女はしっかりとパロットと握手をした。
「幼き日の盟約に従い協力は惜しみません」
しかし、その光景を不審の目で見ている者も居た。
「・・・・・どうもね、王子はお人好しが過ぎるようです」
「オルタンス将軍!口を出さぬように言ったハズです!!控えなさい!!」
「確かに貴様が何事か喧しく喚いていたが私としては聞いてやる義理は無い、私は傾国妃と同じ名を持つその女と自称天才軍師である貴女など最初から信用してはいない」
「何だと貴様!!」
「我らの部隊は遊撃部隊として抜けさせてもらいます」
ニアールが焦りの表情で引き止めようとするがオルタンスの考えは変わらない。
「貴様!!王子と陛下の意向を無視して勝手な行動を・・・」
「お生憎でしたね。独自行動を許されているのは貴女だけではありません。私もレモン殿下と陛下より独自行動を許可されていますので」
「ぐぬぬ」
「何が『ぐぬぬ』ですか、我々はこれで失礼させていただきます」
「勝手にしなさい!!」
パロットがラヴィニアに顔を向ける。
「見苦しいところを見せてしまったな」
「いえ、敵将であった私を信用出来ないというのは当然の事でしょう」
「それと暫らくは幽閉させていただくが、これはラヴィニアを護る為でもある。理解して欲しい、そして平和が訪れたらその時は・・・」
「わかっています。その時を心待ちにしております」
~その夜~
王子の夜の相手として寝室に呼ばれたアイリーンとリトは緊張していた。
「今日は疲れる話ばっかりだったからな、お互い発散しようぜ、これからもっと忙しくなるんだしな」
専属メイドのシャーロットが紅茶を用意する。
「相手ならそちらのシャーロットさんにお任せすればよろしいのではなくって?色々お楽しみだったのでしょう?」
やっぱりその話になったかと予想していたパロットは肩をすくめる。
「確かにこのアホのメイドに流されちゃったのは悪かった。ついでに先に謝っとくが俺は立場上、政略結婚なんて場面が絶対に出てくるから他の女に手を出す事も有る。だが、絶対にお前達を捨てたりはしない、それで許してくれないか?」
「とんだクソ野郎ですわね」
「たいちょ~~~」
シャーロットがテーブルに4人分の紅茶を置きながら宥める。
「まあまあ、溜め込むと体に悪いですよ?せめてお茶でも飲んでゆっくりしてってください」
「全く、誰の所為でこうなってると・・・」
「いただくっス」
全員が紅茶を飲んだのを見計らってシャーロットが満面の笑みで爆弾発言を投下する。
「ナイアールが献上してきた媚薬入り紅茶はどうでしたか?胡散臭い男ですがアレはアレで中々気が利きますね」
「お・・・おまえ・・・」
「王子の言う通りこれから忙しくなるんですからスッキリと発散させちゃいましょう?良いですね?アイリーン様?」
「謀りましたわね~~~~!!」
・・・
・・
・
「それで昼間の件ですが、覚悟の上ですのね?」
「ああ、盟約は守らなくてはならない、全てはエルキュリアの為だ」
「ならば私からは何も言う事はありませんわ」
~数日後~
ラヴィニア姫が伝えた通りの陣容・規模・進軍ルートでヨグス本隊が動いた。エルキュリア軍は既に準備を終え迎え撃つ態勢を整えている。地形を利用した罠や伏兵に抜かりはなかった。
エルキュリア凡そ三万五千に対しヨグス二万。しかし、これから対峙するのは多くの兵が未経験の異形の軍勢なのだ。気が重くなるというものだろう。
「先生、リトの部隊を偵察に出すとは・・・。本当に大丈夫なのか?」
「・・・・・必要な事だ、今後の彼女の為にもな」
死地へと向かったリト達は自分達の予想を遥かに超えた異常事態に遭遇してしまった。誰もが予想外の出来事、目の前に広がる惨状、肉が飛び散り骨は砕け血塗れた大地へと変貌していた。地獄と呼ぶなら正にこの場所だろうとリトの部隊の全員がその感想を抱いた。
「これは一体・・・」
そう、ヨグス軍本隊一万五千は此処に壊滅したのだった。
話は3時間前に遡る。
人を外れた異形の軍勢は全てを蹂躙する為に進軍する。敗北など微塵も考えていない、人では最早手に負えない災厄へと成り果てていた。
「止まれ」
その凛と響き渡る声に異形の軍勢は足を止めた。しかし、自分達が何故足を止めたかが解らない、魔物制御薬の効果でマスターから下された『進軍セヨ』という命令以外は受け付けないハズであるにも関わらず。
やがて先頭集団は正面に狸獣人の女を見つける。身重なのか少し腹の大きくなった妙な女だ。軍勢にとって取るに足らない存在、一撫でで終わらせる事が出来る。だというのに異形達の足は全く動かない、恐怖を忘れたハズの異形達が前方の女が放つ圧倒的な妖気に足が竦んでしまったのだ。
「人間同士の戦であれば妾の出番なぞ無いのだがな、諸君等は目出度くバケモノの仲間入りを果たしている。なればこそバケモノ一年生の諸君等にはバケモノの先達たる妾が教授してやるのが筋というものであろう?」
そして狸女は膨れ上がる。
「見上げ入道・・・諸君等は見越せるかな?」
女は山一つはあろうかと言う程の巨大な狸へと姿を変え前脚で先頭集団を踏み潰した。異形達の紫色の血肉が飛び散るのを見て守鶴前はかつて日本で会った人食い妖怪達と同じ様に前脚に付着したソレを一口嘗めてみる。
「うげ!!不味!!やはり妾の食事は段蔵の精に限るな」
ぺっぺっと唾を吐き、異形の軍勢に向き直る。
「このまま薙ぎ払っても良いが、それでは風情が無い、やはり軍には軍をぶつけるべきじゃな・・・久しぶりにあの術を使ってみるか」
守鶴前から妖気が膨れ上がり体毛がパラパラと抜け落ちる、そして体毛は彼等に姿を変えた。
それは戦国の世を生き抜いた守鶴前の仲間達、前の夫・・・段蔵の祖先たる戦国大名に仕えた猛者達であった。
無論、守鶴前が妖術で生み出した幻影に過ぎない、しかし・・・。
「御前様、御久しゅう御座います」
「おお、その声は槍の甚兵衛か?妾は夢でも見ておるのかえ?」
「はっはっは、御前様が精進した賜物でしょうな」
「以前よりも妖気が強くなった故、幻なれどこうして語り合う事が出来るのでござろうな」
「赤備えの時成に副将の鬼吾平の爺様か?おおっ、おおっ、本当に久しいのぉ」
守鶴前の背に立つ何者かの気配を感じ声を掛ける。
「息災であったか二代目」
背に立つのは人形遣いのくノ一、二代目加藤段蔵を名乗る女だった。
「昔は二人で敵兵を翻弄したものです」
「うむ、お主の人形に妾の妖術を重ねてよく遊んだものよ」
覚えている、彼等の顔は足軽一人に至るまでしっかりと覚えている。
「物の怪の軍勢が相手とは・・・闇天寺の生臭坊主達が呼び出した式鬼共を思い出しますな」
「何、拙者の刀で三枚に卸してやりますわい」
そうしている間にも幻影の軍勢は、整列し号令を待っている。弓を槍を刀を火縄を構え今か今かと待っている。
「皆の者聞け!数百年の時を経て妾は竜ノ進様の子孫である竜二と婚姻を結び、悲願であった子も宿った。しかし、あのバケモノ共は妾が愛する竜二の住まう国を蹂躙しようと目論んでおる。ならば遠慮は要らぬ。者共掛かれーーーー!!」
『うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
圧倒的だった。数秒毎に敵部隊は細切れになり粉砕され薙ぎ払われていく、しかしその中には守鶴前がかつて愛を交わした男は居なかった。
ふと、右前脚の脇を見れば一人の女が並び立っている。
「久しいな華姫」
「ふふふ、お招きいただき嬉しゅう御座います。獄卒や修羅との飲み比べにも丁度飽いていた頃でしたので」
「変わらぬようで何よりじゃな」
正室の華姫、当時は気付かなかったが、彼女こそ守鶴前の最初の夫の妹であるおハナの子孫だったのだろう。頭の良い娘で竜ノ進を良く支えた良妻であり守鶴前の親友でもあった。
「守鶴、竜ノ進様を探しているのでしたら無駄でございますよ」
「む?どういう事じゃ?」
心底呆れたという表情で華姫が見上げる。
「永き年月の果てにそんな事も忘れてしまったのですか?この耄碌古狸」
「何お~!?」
「竜ノ進様の最後の言葉を本当にお忘れですか?」
「忘れるワケが無かろう!『輪廻転生があるのならまた来世で会えるじゃろうて・・・・・来世は必ずやお前と子を成そう』って、ああっ!!」
「やっと気付きましたか、守鶴との子を成した竜ノ進様の子孫、であれば答えは決まっておりましょう?・・・・・なんて言いましたが本当はどうなのでしょうね?」
「は?」
「私達は守鶴の生み出した幻影に過ぎません、今の言葉だって守鶴が無意識に思っていた願望が表に出ただけかもしれませんし」
「・・・・・」
「ですがそれで良いのではないでしょうか?そう思っていた方が幸せですし、何より物語としてとても美しい」
なんて、何時か見た時と全く同じ笑顔を守鶴前に向けた。
守鶴前は前脚で腹を撫でる。
「やや子や、この光景を視ておるか?母はお前を護る為ならば地獄の悪鬼をも打ち倒して見せよう、お前の住む世界が明るく清らかであるように・・・晴明じゃなくて清明・・・は少し狙い過ぎか、清明・・・遠藤清明いや赤城清明じゃな」
敵軍の最後尾に居た豪華な服を着て冠を被った小太りの青年を檻に閉じ込めながら未来に思いを馳せる守鶴前だった。
一方その頃、ヨグス軍別働隊五千はラヴィニアの伝えたルートから大きく外れて奇襲攻撃を仕掛けていた。しかし、彼らが目にしたのはネコ夫人こと大軍師オルタンス率いる部隊だった。
「やっぱり私の読み通りこの地点から奇襲を仕掛けてきたか、今こそレモン殿下の威容を示す時、魔砲戦車セト前へ!!」
四台のチャリオットに積まれた巨大な魔法使いの杖、その力を解放する。
「放てーーーー!!」
その瞬間極大の光線が四本走った。光は前方の敵部隊の九割を地形ごと薙ぎ払い友軍を大いに沸かせた。
しかし・・・。
「限界です。杖が四基とも砕けてしまいました!」
「くっ・・・そうですか、チャリオットは戦闘部隊と交代して残りを片付けなさい、敵は少ない、各自奮戦せよ!!」
通常の戦争であれば敵戦力の九割消滅など勝利と同じである。
(しかし、連中は一人一人が極星に匹敵する魔力を持ったバケモノ、それがまだ五百人も残っている。士気が高い今を逃せばこちらが壊滅してしまいます)
そんなオルタンスの懸念は即座に現実のものとなる、お返しと言わんばかりに放たれる広範囲の大魔法、前衛に防御手段は無く兵達は絶望を目の当たりにする。
四種の魔法が前衛に接触する数m手前にその奇跡は発生した。分厚い水の壁がエルキュリア兵達を守ったのである。
そしてヨグス兵を挟み込むように現れる仮面を着けた女性達、彼女達は弓矢や魔法で次々とヨグス兵を仕留めていった。
「将軍!彼女達は一体・・・?」
「援軍です。決して攻撃してはなりません」
見れば彼女達は極星級の魔法を同等以上の魔法かそれ以外の未知の力で打ち消している。その光景にオルタンスは思わず舌打ちした。
「・・・余計な事を」
乱入者達に複雑な感情を抱くオルタンスだったが伝令が慌てた様子で走ってくるのを見て気を引き締める。
「しょ将軍!!バケ・・・バケモノ・・・」
「ええい、落ち着いて報告しなさい!」
「バケモノの一匹がこっちに突っ込んできます!!」
最早オルタンスの位置からでも見える。土煙を巻き上げながら突進してくるバケモノは魔法や飛び道具を受けても怯む様子さえ見せない。
「狙いは私ですか・・・」
死兵は避けるべきとオルタンスは判断するがそれはあまりにも遅すぎた・・・いや、相手があまりにも速過ぎた。文字通り人を超えた速度で突っ込んでくるバケモノ相手に後退する時間は残されていなかった。
(こんな所で終われない!隊長、私を護って・・・)
バケモノが残り300mと迫った時、オルタンスを護るかの様にローブを着た何者かが前に立った。
ローブの人物は弓矢を構え魔力を集中させると周囲に光輝く宝石が現れる。
「この技は!!」
放たれた矢はバケモノの心臓を貫通し更に矢の後に続く様に飛んでいった宝石は開いた穴からバケモノの体内へと侵入する。
『大地へ還れ!!』
その言葉と共に宝石の魔力が膨れ上がりバケモノを言葉通り内部から土へと変化させてしまった。
ボロボロと崩れる土塊を暫らく残心で見つめるローブの人物だが完全に崩れ去ったのを確認すると気を緩めた。
「貴女アンジェリカよね?そうなんでしょ?」
「似合わねぇな・・・」
「え?」
「大臣になって知恵で国を護るんじゃなかったのか?何故戦場に立つ?約束が違うだろ?」
それは、かつて恋敵に語って聞かせた夢だった。あいつが武力であの人を支えるなら私は知力で支援すると、あの人が愛したエルキュリアを護るのだと、だけど・・・。
「隊長が死んで貴女も消えちゃったからこうするしか無かったのよ!!」
隊長の死とダンドレジーに保護されたというアンジェリカに裏を感じたオルタンスは夢を捨て闘う事を選択した。
もう20年以上闘い続けたのだ、今更後戻りは出来ない。
「・・・・・お互いあの日から変わっちまったって事か」
「待って!!」
突然の砂塵に思わず目を閉じた一瞬でローブの人物は目の前から消えてしまった。仮面の援軍も撤退したらしい、ヨグスの侵攻は今回もエルキュリアの勝利で幕を閉じた。
「・・・何よ」
乾いた大地にオルタンスの小さな呟きが染み込んでいった。
【魂魄転移】は魂の交換では無く一方的な書き換えです。書き換えられる前の本来の魂は死と同じ扱いになります。
二代目飛び加藤が女性なのは某アニメの影響です。
次回がヨグス編の最終話です。




