第六十二話 敵地で仮面をかぶる者 悲劇と喜劇
~約500年前 エルキュリア北方~
「おのれ忌々しいヘンリーめ、何処まで妾とウィルバーの邪魔をすれば気が済むか」
敗走し追い詰められたウィルバー派は未開の北方の地へと追い詰められていた。
「うううっ、ははうえ・・・」
「おお、よしよし妾の可愛いウィルバー、もう少し辛抱しておくれ」
斥候に出ていた兵が報告に戻る。
「ラヴィニア様、前方に何やら大きな村と古代遺跡らしき魔力を帯びたストーンサークルがございます」
「ふむ、この地は今や全て妾達の物です。此処を新たな拠点とし、何れヘンリー共を滅ぼしてさしあげましょう」
そんな時、一人の貴族が震えた声で元王妃に近寄ってきた。
「殺すのですか?あの村の人々は国内の争いとは無関係だ。なのにアンタはまたあの時みたいに殺せと命じるのか!?アンタの所為であの・・・うぐっ!!」
貴族は最後まで言い終わる前に四方から串刺しにされ息絶えた。
「戦が長引くとこういった輩が増えるのはいけませんね。妾に意見するなど神に逆らうも同じと心得なさい」
そして蹂躙が始まった。
村長なる老人が何事か叫ぶ。
「センチネルの御山に近寄るな、神々の怒りに触れ災いが降りかかるぞ!」
村長の・・・村人たちの命は容赦無く刈り取られた。
「この世全ては妾の物、妾こそ女神ルブランの化身なのです。妾を罰する者などこの世に存在しない・・・なのにあの下賤の子は!!」
先の敗戦を思い出し激昂したラヴィニア元王妃は死体となった村長の頭蓋をこれでもかと踏み抜いた。中身が飛び散り足が汚れるのも気にせず狂気の表情で何度も何度も。
「ヘンリーめ、必ず殺してやる。そして愛しき我が子ウィルバー・・・、貴方が支配する世界を妾・・・私に魅せて」
そうして彼等ウィルバー派はセンチネル山にあるストーンサークルを・・・神代の魔道具を手に入れた。
◇ ◇ ◇
~現代 ヨグス拠点付近~
「それでは今回の野外授業を始めます。今回は『潜入と工作』難易度の高い敵司令官の誘拐を行おうと思います」
「アイリーンに任せて来たけどウチの本陣は大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫、ヨグス側の間諜は俺の妻達が潰してるから向こうは俺達が準備万端だって事すら気付いてないぜ。そして俺自らヨグスに潜入して探ってたから陣容は完璧に把握している・・・と言いたいが、あの国は異様だ、侵入するだけで魂が疲弊する呪いの大地だな、三日以上留まれば精神に深刻なダメージを負うから頻繁に偵察できない、残念だが完璧な情報を得る事は出来なかった」
「それが例の魔道具の効果って奴か」
「恐らくはな。まあ、詳しい考察は後にして侵入するからには敵方の鎧が必要だな、丁度向こうから巡回の兵が二人来てるみたいだからサクッっと殺ってしまおう」
「・・・殺すんですか?」
「殺しは初めてか?戦争である以上綺麗事は通用しない、お前の決めた道はお飾りの貴人の剣では生きて行けはしない、殺戮者に成れとは言わんが国民に仇為す存在は斬り捨てる覚悟は必要だ。先ず俺が手本を見せる」
段蔵は敵兵の背後に近づき口を塞いで一気に絞め殺した。この世界の住人は地球の人間よりも身体能力が高いが反面、実は気配察知能力は地球人よりも低い事が最近判明した。流石に目の前で殺気や闘気を放てば相手も相応の反応を見せるが背後からそれなりに訓練した人間が近づけば気付かれることはほぼ無い、無論アイリーンなどの一部の達人はしっかり気配察知をしてくるので完全に安心は出来ないのだが。
「そんじゃあ、残り一人をお前ね、俺が見本を見せた通り口と喉シメてキュッと首折るなり心臓刺すなり好きに殺ってくれ」
王子が敵兵の背後に近づき上手く首を絞め口を塞ぎ力を籠めるのを見て段蔵は兵の額を手裏剣で貫いた。
「覚悟は見せてもらった。やっぱお前には殺しは似合わんわ、その力は一番大切な場面まで取っておけ、血の匂いなんざできるだけ無い方が幸せなんだからな」
二人で兵士の鎧を剥ぎ取って装着する。そうしている間にパロットは段蔵に前々からの疑問を口にした。
「先生って奥さん沢山いますけども、まさか無体な事なんてしてないですよね?遠縁とはいえドロシーのような王家の縁者も身を寄せているみたいですし・・・しかし、それにしても多過ぎでは・・・」
そんな王子の質問に・・・段蔵は軽くキレた。
「オマエら王族がちゃんと国内を纏めないからこんなんなっとんじゃ!!ザケた事抜かすな!!」
「え~っと、何かごめんなさい」
段蔵に妻が多い理由はタヌキ姉さんやクラリースが連れて来るからなのだが、根本の原因は犯罪組織“ジム・モロアッチ”や今戦ってる“ヨグス国”によるテロ活動、そして悪徳貴族や悪徳商人の所為で不幸になる女性が多いからだ。王子は段蔵が無体な事をしていないか心配していたが、むしろ無体な目に遭った行き場の無い女性達が段蔵の下に集まっているのが現状である。
これが比較的安定している帝国や皇国ならばこれ程の事にはならなかっただろう。
「最初は、世界中の美女や美姫を各国から数人ずつ集めるだけのつもりだったのに、こんな規模になるなんて俺だって予想外だよ」
「わかりましたから落ち着いて」
「すまん、取り乱した」
「王位とかは興味無いんですか?」
「ヤダよ王様なんて、王様になったら政治しなきゃならなくなるだろ?そんな面倒は真っ平御免だね」
「それでは先生はこの先何を成すおつもりですか?」
「世界の覇王!!」
「・・・はぁ?」
パロットが間抜けな声を出すのは当然だろう。今時子供のごっこ遊びでもそんな役職出てこないのだから。
「その、“せかいのはおー”とやらは王様とか皇帝とは違うんですか?」
「全然違うわ!世界の覇王は好きな時に遊んで好きな時に喰って好きな時に女を抱くのが世界の覇王だ。王様や皇帝みたいな政治家とは別物なんだよ」
「話を聞く限り“せかいのはおー”ってロクデナシの事ですね」
「喜べパロット王子、俺が世界の全てを盗んだらお前をエルキュリア王国担当の国王に任命してやるからな」
「へいへい」
そんな与太話をしながら慣れない敵国の鎧をパロットがやっと装着し終えると同時に段蔵も着替え終わったらしい。
「待たせたな!」
「いえいえ、俺もちょっともたついたんで・・・って、ええ!?」
段蔵は赤に白いフワフワの飾りが付いた帽子と服を着込んで大きな白い袋を担いでいた。
「いやいやいやいや!え?今から敵陣に侵入するから敵の鎧を着て紛れ込むって話でしたよね?」
「我こそはナイアールが多面の一つトントン・マクートの聖アル様だ。ヨグスの皆にプレゼントをくれてやろう。王子はそこで見ているがいい」
「・・・・・」
そう言うと段蔵改め聖アルはピョンと大きなテントが並ぶ敵のキャンプ地に飛び出して行った。
「先ずは先制のプレゼントだ」
聖アルが袋から取り出したのはこぶし大のボール。それを、巡回中の兵に気付かれないようにくっ付けていく。派手な衣装なのに相手が全く気付かない身のこなしは流石だろう。
「これは魔導爆弾、俺の叢雲改の霊力変化を読み取って発動する秘密兵器だ」
「ナイアールが時々使ってる奴だな」
「今回は人が吹っ飛ぶくらいに調整してある。そして!」
近くの兵士に毒蛇を放り投げると兵士は蛇に噛まれてしまって焦っている。
「ぐお!?直ぐに光術師の回復を・・・」
そこに聖アルが姿を現す。突然現れた赤い衣装の変人に兵士は動揺し判断を誤る。
「貴様何・・・うっ!?」
敵へ対応しようと思った兵士だったが蛇の毒が回りそのまま倒れこんでしまった。
「聖を見た者は死あるのみ」
他にも松明持って踊りながら近くの森を焼いたり兵達を一人ずつ箱詰めしたり一人の兵士の背後を追い掛け回したりやりたい放題している。
「次はコレだ」
聖アルが袋の中からエロい絵の描かれた紙と爆弾を取り出して色んな地点に置いた。
「おほ!」
「この絵は・・・」
そうして絵を見る為、兵士が近寄った瞬間を狙って起爆、コレにはパロットも苦笑い。
「先生・・・」
一方で謎の襲撃を受けているヨグス軍は混乱していた。
「敵の姿はまだ確認出来ないのか!!」
「申し訳ありません、目下捜索中でございます」
(うしろ!うしろに先生が!!)
「此度は姫殿下が直接指揮しておるのだぞ!これ以上の失態は許されない!異変を見つけたなら直ぐに報告しろ!」
(異変真後ろで起きてるよ!コイツ等マジか!?何故気付かん!)
ドゴーン!!と敵小隊長と兵士数名を吹き飛ばした後、聖アルはパロットの所へと戻ってきた。
「ただいま」
「先生・・・アンタの力は計り知れん」
聖アルは衣服を脱ぎ捨てると一瞬でヨグス指揮官クラスの鎧姿に着替えた。
「それじゃあこっからが本番だな」
二人で慌てたふりして一番大きなテントへと向かう、周囲が混乱しているので同じ鎧を着ていれば全く気付かれない。
テントの中では床机に座するラヴィニア姫がこの異常事態の報告を待っていた。
「一体何の騒ぎですか!?敵襲ですか!?」
「わかりませぬ、斥候は未だ戻らず兵達の報告も理解不能なものばかりで・・・」
「役立たずが!!」
ラヴィニア姫が腰に下げたサーベルで役立たずの側近の首を落そうとした瞬間、外で隠れているナイアールは残っていた爆弾を一斉に起爆させた。
各所で連続して起こる爆発にラヴィニア姫も動揺を隠せない。
「一体何だと言うのですか!?」
そうして自分の目で確認する為、テントから出たラヴィニア姫は入り口で待ち構えていたナイアールとパロットに薬を嗅がされ近くの箱の中へ詰め込まれてしまった。周囲も自分達で手一杯で目撃者は無い、ナイアールは近くに繋いであった軍馬に適当な死体と聖アルの時に持っていた大きな袋を乗せて軍馬を放った。そして軍馬を指差しながら大声で叫ぶ。
「殿下が攫われたぞ!!追え!追え~~~~!!」
周囲の兵がナイアールの指差す方を見れば何やら大きな袋を乗せた軍馬を駆る人物が逃げ出して行くではないか、全員が軍馬に注目している隙にナイアールとパロットは箱を持って反対方向へと逃げたのだった。
「わっはははははは~~~、ここまで上手く行くとは思わなかった。まあ、戦力を集めている最中だってのもあったけどな」
「集めてる最中って五千人位居たのに・・・、本当に普通の人だったら同じ装備を持ってても絶対無理だったでしょうね」
「帰るぜ、俺達の国に。たった二人で敵の先遣隊に打撃を与え大物を誘拐出来たんだ。王子も大英雄の仲間入りか?」
「やめて下さい、殆ど先生がやったんじゃないですか」
「でも俺は王子がやったと大々的に宣伝する。この意味理解しているな?」
「・・・・・」
エルキュリアの砦に二人が戻るとこちらも大混乱が起こった。新参の軍師と今まで引篭もりだった王子がたった二人だけで敵の要人と思われる姫将軍を捕縛したのだ。段蔵の予想通り大英雄の誕生で士気が一気に上がった。
「しかしこの女・・・もしやラヴィニア姫か?だとすれば・・・」
敵の顔を確認したパロットはこの戦が未だ始まりに過ぎない事を理解した。
申し訳程度のクリスマス要素




