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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
怪盗 王国ニ舞ウ
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第六話 ダンドレジー領のクラリース嬢 中編

切りがうまくいかなかったので中編になっちゃいました。

夢を見た。最悪な夢だった。私はあの暗い森でゴブリンの集団に追いかけられて・・・そうしてゴブリン達が寄り集まってモゴモゴと不気味に蠢いたかと思うとあの汚らしい庭師のサブロに変化した。私は見たくないと思いつつもサブロの顔を見てしまい・・・顔が無かった。

夢だから?思い出せないのは・・・私は顔の無い真っ黒な空洞になっている・・・黄ばんだ(甘い花の香りがする)ボロを着たサブロ?に衣服を破られそれで・・・夢の中の私を私は見た。そのクラリースという娘は、もはやサブロの形すらしていない何か黒い物に辱められて・・・妖しく微笑んでいた。その夢の中の私同士の目が合った瞬間に、あまりのショックにベッドから飛び起きてバランスを崩し盛大に床に転んでしまった。

恥ずかしく意味不明な夢を見た挙句すっ転んだ乙女の気持ちを整えるには美味しい朝食、そして仕事に限る。今日はまず森のゴブリン退治を領内の兵に指示して領民の安全を図らなければならない。

ふと、昨日の手紙が気になり庭に目を向けるとサブロが笑いながら庭木の剪定をものすごい速さで行っていた。


「一体何なのかしら、あの人」


サブロの姿を見て昨夜の悪夢?を思い出し身震いするが、勿論今庭仕事をしているサブロにはイボだらけの汚らしい顔がちゃんとあるし汚れているとはいえ夢の中ほどボロボロの衣服では無かった。ただ、不自然ではあった。

執事の話では彼が来てから庭が見違える程美しく整えられたと、私が学院に旅立つ前もそこそこ綺麗だったとは思うが確かに今の方が整えられている。まるで手入れをした痕跡すら欠片も残さないかのように、あのみすぼらしい男の一体どこにその技術を学ぶ資金と知性があるのだろうか?

『サブロの動きを監視せよ』それは誰が届けたか判らない怪しげな手紙だったがその短い一文は納得出来る内容であった。

とにかく怪しいところが多すぎる。何故あんな見た目の人間を父上が雇い入れたのか?これは、前の庭師が引退した後しばらくして植物の知識に明るく力仕事も難なくこなす人材という触れ込みで実際に植物の知識は王立学院の学者先生並だったから雇ったそうだ。

だがそれ以前の経歴は?お父様や侍女・執事達は気味悪がって近寄らない様だが「仕事さえこなしてくれれば良い」みたいな感覚なのだろう。一旦思考を打ち切り私は町に向かった。昨日のゴブリン襲撃事件で古くからの知り合いである女騎士に意見を聞きに行くためである。


「行方不明事件・・・ですか?」

「そうなのよクラリースちゃん、それもウチの治めてる村だけじゃなくってダンドレジー領内の至る所で起きているみたいなの」


虎耳尻尾で三十代半ばのベテラン騎士である彼女の話によればそんな大事件が起こっていおるらしい、全く世の中どうなっているのやら恐ろしい話である。


「ゴブリンの方も数増えてるわよね、この前もウチの亭主と兵を連れて退治に行ったんだけど結構苦労したわ」

「そうそう、そのゴブリンです。ゴブリン退治の時に真っ黒な服の人はいませんでしたか?」

「それって最近領内に現れる“影人”の事?ってクラリースちゃんは昨日帰ってきたばっかりだから知らないか、よろしい、お姉さんが教えてあげましょう」


影人・・・ひと月程前から領内に出没しているらしい、町で強盗があれば颯爽と現れて犯人を縛り上げ、村に魔物が現れれば風の如く蹴散らす。変わった形の剣と謎の魔法での戦闘を行う怪人物らしい。


「最初は単なる噂だと思っていたんだけどねこの前の討伐の時見ちゃったのよぉ~」

「見たって、あの人をですか?」

「私達が来た時には半分以上片付いたんだけども~凄かったのよ?なんかバーンって破裂したり見えない何かを投げて額に穴開けたり変な剣でズババーッて、いや~ウチの亭主もあの3分の1位戦えればもっと見栄えが良くなるのにねぇ」

「旦那さんは治癒魔法が得意じゃないですか、あんまり無茶な事はさせないでくださいね」

「あっはっはっはっ」


女騎士との話を聞くと近々兵力を集中しての大規模なゴブリン掃討作戦を行うことが領内で決定しているそうだ。お父様も領民の安寧を望んでいるのだ。私も頑張らなきゃ。

その夜、私は趣味の読書(変態貴族の書いた特殊な“そういう本”)を(いろんな意味で)楽しんでいると部屋の外で微かに物音が聞こえた・・・自慢ではないが私が“そういう本”を読んでいる時の感覚の鋭敏さには自信がある。ともかく、何事かと思った私はそっと廊下に出ると廊下の向こう、エントランス付近でランタンを持ったサブロを見つけた。サブロは相変わらずの猫背でそのまま書斎の方へと向かっていった。『サブロの動きを監視せよ』不意に手紙の一文が頭を過る。私はサブロの尾行を開始した。

書斎の扉は僅かに開かれ隙間からある程度部屋の中を確認出来た。書斎では本棚からサブロが何らかの本を取り出して読んでいた。

置かれたランタンの灯りが照らし出す彼は不気味だった・・・何が不気味って笑っていないのである。昨日から今日のこの時までいやらしく笑っている彼しか見ていなかったが、今の彼にはあのニタニタ笑いが完全に消えていた。

ふと、私は一瞬サブロと目が合ったような気がしたその瞬間、サブロの持っていたランタンから灯が消え部屋が暗闇に包まれた。やがて目が慣れて来るとそこには既にサブロの姿は無く僅かに開いた書斎の窓から夜風が入り込みカーテンを揺らしていた。ふと机に目を向けるとサブロが読んでいたと思われる本が置かれていた。

私は本を持って自室に戻ることにした。

冒頭クラリースの悪夢は八割方彼女の趣味である(アレな)読書の所為です。

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