第五十八話 サラワレタ副隊長 奇天烈ブリキ将軍ノ絡繰卍城 中編
本当は後編のつもりだったのに・・・
「王子、例の捜査部隊の隊長さんと対犯罪者研究所の所長さんが面会を求めています」
御付のメイドである犬獣人シャーロットが来客を主に優雅に告げる。
「珍しいな、あの隊長さんが俺を訪ねるなんて、また何か壊したいモンでもあったのかな?とりあえず通せ」
「かしこまりました」
部屋に入ってきたショルメ公とシントー夫人だがシントー夫人はともかくとしてショルメ公は落ち着きが無い、いつもの彼女ならば王族の私室であっても堂々と腰を下ろしそう・・・また、そういった行為が絵になる女性だったと思っていたが、何やら様子がおかしい。
「うぇ~~~~~ん、王子様~~~~~」
「何だ!?どうした!?マダム、これはどういう事った?」
突然ショルメ公が泣きながら抱きついて来た。あまりの出来事にパロット王子が困惑しているとシントー夫人が説明に入る。
「実はですね・・・」
シントー夫人はこれまでの経緯を細かく王子達に説明をした。
「え゛~~~~~~~、さらわれたリトさんはショルメ公の変装~~~~~!!」
「いや、確かに驚くべき内容だったけどそこまで絶叫する程か?」
シャーロットの絶叫に若干引き気味になった王子だが、気を取り直して状況を整理する。
「まあ、助けに行かなきゃならんのだが、この文章のココ、『銀の靴』って俺持ってたっけ?」
「おうじさま~~~~」
あんまりといえばあんまりな発言に涙目になるリトだった。
「ああ、待て待て、今思い出すから・・・ひょっとしてアレか?」
そう言ってクローゼットの中をごそごそと探して目当ての物を引っ張り出した。
「何年か前に挨拶に来た悪趣味な貴族が置いてった献上品だ、箱は開けてないが靴だと言ってたな・・・。ああ、やっぱり悪趣味な銀張りの靴だな。しかし、俺ですら忘れてたのによくこんなモンの事知ってたよなあの人は」
「王子様、ソレ貸して欲しいっス」
「うん?貸せってか?使い道無いからくれてやっても構わんぞ」
「ホントっスか?」
「ただし、その絡繰城に俺も連れてけ、面白くなりそうだ」
「うえっ!?」
反対の意見を述べようとするリト達に畳み掛けるようにシャーロットも王子の援護に加わる。
「丁度ショルメ公領への視察を考えていたところです。是非向かいましょう、ええ、絶対に行かなければなりません」
「何でそんなに興奮してるんだよ。見ろ、副隊長さんビビってるじゃないか」
シントー夫人がどう断ろうかと思案しているとリトは心を決めたように顔を上げた。
「分かったっス、王子様の同行を許可するっス、いえ、是非とも同行して欲しいっス」
「副隊長~!?」
「きっと本物の隊長も同じ意見のハズっス、王子様なら自分達よりも良い作戦が浮かぶかも知れないっス」
「決まりだな、それじゃあショルメ公領北の廃城・・・絡繰城について説明してくれ」
シントー夫人がやれやれと言った顔で鞄から資料を取り出す。
「建てられたのは約500年前、ヘンリー派の将軍が要塞として使っていたそうですがウィルバー派の追放と共にその役目を終えていま~す。それでも何百年かは手入れをされていたらしいですが~、街から離れている事もあって徐々に人が寄り付かなくなり、つい数ヶ月前までは蟲系魔物の巣となっていました~」
「その言い方だと今は魔物の巣じゃ無いのか?」
「ショルメ公領の引継ぎで忙しかった時にですねぇ、アークド商会の武器開発部門代表って人が『新型の武器を北の廃城で試させて欲しい』って許可を求めたらしいんですよ。その時は小規模のものだろうって誰も気にせずに許可を出したんです」
「アークド商会?あの、安くて低質な武器を量産している連中が新型武器の開発だと?」
「ショルメ公領の代官は隊長の為にシントー領から派遣したんですが、完全に引継ぎが終わったら領兵集めて魔物退治しようっていう計画だったんです~。それがこんな事になるなんて・・・」
「そのアークド商会の武器開発部門代表ってのは?」
「それが、ここ数ヶ月で急に頭角を現した人らしくて、捜査部隊の調べでは名前はイゾルデ、元々商会専属の間諜だったらしいです」
「汚れ仕事担当が一部門の代表とは随分な出世で」
「それに関しては奇妙な点がありますね、商会役員の何人かが大きな事故に遭ったり、ライバルが病を患ったりで・・・そもそもあの商会は一族が重役を独占しているので一族以外の人が一部門とはいえ代表に任命される事が異例なんですよ」
「で、そのイゾルデってのが廃城の魔物を一掃したと?」
「それも不明ですね~、活動そのものは少人数で行ったみたいですし、廃城を奪還するなんて利益にならない事に商会は資金を出さないと思うんですよ」
「異例の出世をした謎の人物にナイアールが占拠した古の城か、益々興味が湧いてきた」
結局、王子も視察名目で向かう事となった。目指すは怪人の住まう絡繰城。
◇ ◇ ◇
~その頃絡繰城では~
柔らかいベッドにテーブルには飲み物と果物、トイレ・バスルーム完備の貴人のゲストルームの中にアイリーンは軟禁されていた。
室内のインテリアを矯めつ眇めつしているとドアが開けられた。
「お待たせいたしました。今日の昼食はカレーライスですよ。デザートにスドーフもお持ちしました」
仮面を装着した二人のカラス鳥人メイドが食事を運んできた。アイリーンはコクリと頷き昼食を受け取った。
「毒なんて入っていませんよ~って前も言いましたね。それではごゆっくりどうぞ」
そう言ってメイド達はドアを施錠して出て行ってしまった。
完全に人の気配が消えるのを確認してアイリーンは緊張を解く。
「ふぅ、向こうはこちらを害する気はないみたいですわね。しかし・・・」
ここに軟禁されて数日、敵の手中に堕ちた敗北感よりもアイリーンには城の中そのものに興味と探究心が掻き立てられた。
「考える事は沢山ありますわね、例えば・・・」
例えば今日の昼食、最近国内で支店を増やしつつあるレストラン銀の星名物スドーフのチリトテチン風味と最近追加されたカレーなる料理だ。
何故、銀の星でしか扱っていない料理が出てくるのか?味はアイリーンが以前食したものと全く同じだったが、レシピを盗んだとして全く同じクセの料理が作れるだろうか?
備え付けのベッドも非常に寝心地が良く、テーブルの上には羊皮紙じゃない真っ白な紙と高そうなペンが置かれている。生活に不自由は無い、むしろ贅沢とも言えるだろう。閉じ込められているという事実を除けばの話だが。
「魔法も発動しないし、何らかの魔道具で部屋を・・・いえ、建物全体を守っているのですわね」
初日に部屋を焼き払おうと試みたが魔法は発動しなかった。テーブルの上の呼び鈴を鳴らせば直ぐにメイドが駆けつけてくれる。実に興味深い。
それがアイリーンが大人しく声もあまり出さない理由である。自分の正体がバレれば・・・まあ、殺される事は無いだろうが追い出されるのは間違いないだろう、ならば今の内に可能な限り情報を集めておくのが最善だと考えたのだ。
「これは予想以上に素晴らしいですわね、何とかして部屋の外も見学したいですわ、何か手は・・・」
アイリーンがテーブルの紙とペンでさらさらと書き込む『見学させて』。
「いやいやいやいや、幾らなんでもこれで通るなんてありえませんわ・・・でも、もしかすると」
アイリーンが呼び鈴を鳴らすと昼食とは違うメイドがやってきた。来たメイドに紙を見せる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
数秒の沈黙の後メイドが晴れやかな笑顔を向ける。
「勿論、良いですよ~」
危うくズルっとズッコケそうになった。
(こんなにアッサリで良いのかしら?)
「丁度そろそろ会議なので覗いてみましょうか?貴女にも関係あるお話ですし」
(?)
ドアはすんなりと開けられ廊下に出る。部屋から見た時の予想通り何処かの地下道らしい、明かりが点在している薄暗い石造りの通路、アイリーンが閉じ込められていた部屋に比べ随分と陰気な空気が漂っている。
「ちょっと前まで蟲系の魔物の巣だったんで気持ちジメッっとしていますが、気にしないで下さい、事が終われば私達はここを引き払いますので貴女の隊長さんが掃除してくれますよ」
(何故私が掃除しなければならないんですの!?)
アイリーンはまさか自分が軟禁されている場所が自領内だとは露ほども思っていなかった。通路の突き当たりには格子の扉が付いた四角い小さな部屋があった。恐らく昇降機の類だろうか、規模の大きな建物では人力の物が時々見られるが、コレはどうやらもっと複雑な機構と魔法で動かしているらしい、人力の物より早くスムーズに目的の場所まで辿り着いた。
通された部屋は何処かの城内の会議室、円卓が中央に置かれその周囲を仮面を付けた女性達が囲んで資料らしきものを読んでいたが、入ってきたアイリーン達の方に一斉に目を向けた。
(バートン流気配探知!)
アイリーンは『エドガーの短剣窃盗事件』の後、武道家バートン師から気配を読む術を学んでいた。
どいつもこいつも強い力を感じる。実力者なのは明白、一対一ならばともかく囲まれればアイリーンとて勝ち目は無いだろう。
「あれ?連れて来ちゃったの?まあいっか」
(やっぱりいいのですか、機密とかどうなってますの?)
そこに安っぽいバケツヘルムとこりゃまた簡単にへこみそうな甲冑を身につけた人物が入室して来る。間抜けな出で立ちとは裏腹に相当の実力者である事が窺えた。
バケツヘルムが手を叩くと周囲はアイリーンから視線を外し会議を続行した。恐らくこいつがリーダーなのだろう。
「ナイアール様、全員集合しております」
(ナイアール?確かに実力はかなり高いみたいですが本物はもっと薄い霧みたいに掴みどころが無い気配を纏ってますわ。手下なのかナイアールを騙る紛い物なのか、もう少し観察しましょう)
「うむ、それでは会議を始めます。城の再建もほぼ終了し、今頃はショルメ嬢が王子と奪還作戦を練っている事でしょう。何度も言いますが我らの目的は三つ、一つ目は宿敵ショルメ嬢を城の仕掛けで散々に驚かす事、二つ目は銀の靴を奪う事、ですがこの二つはおまけみたいな物、失敗しても何ら問題はありません」
そこでバケツヘルムはちらりとリトに変装したアイリーンを見た。
「一番重要なのは三つ目、クライアントの要求に応える事です。これは我々のみならず今後の王国にも影響を与える重大な作戦です。全力で素敵にそして大胆に盛り上げねばならない、作戦名は『王子様素敵大作戦』」
(はぁ?何ですの?その作戦名は?それではまるで・・・)
王子を引き立てる為に用意された舞台、しかし疑問は残る。
(クライアントと言っていたわね、ならば計画を持ちかけた部外者が存在するハズ)
王子が活躍して得をしそうな人物はアイリーンの上司二人、しかし彼女達は捜査部隊の評判が落ちるのを良しとしない、よりによって副隊長が囚われたなどと管理責任が問われかねない。
(そもそも『素敵な王子様』を誰に魅せるつもりなのかしら?国民?ちょっと回りくどい気がしますわね)
「ここで一度死んだフリでショルメ嬢達をビビらせる」
暗号か、アイリーンにとって未知の言語で書かれた文字と図面を指し示しながら会議を進めている。
いつか役に立つかも知れないとアイリーンは文字と会話を可能な限り記憶した。
「ショルメ嬢の前では暗号文を見せてはいけませんよ、解読される恐れがありますから」
「「「はーい」」」
まさか本人が目の前に居るとは誰も思っていないのか、まるで悪戯の計画でも練るかのように楽しげに会議を進めている。
「しかし、ウッズさんって報告書よりも随分と大人しいですね。明るく饒舌な女性だと聞いていましたが?」
「それはアレだ、仮にもこの場は彼女にとって敵地、緊張もするだろうし警戒だってするだろう」
「恐らく情報を漏らさない為の訓練を受けているに違いありません、あのお方が相手をするのに相応しい恐るべき部隊ですね」
(情報を漏らさない為の訓練、そんなの考えた事もありませんでしたわ)
あのお喋りで表情豊かなリトが泣きながら訓練を受ける様を想像して笑ってしまいそうになった。
(しかし、帰ったら試してみる価値はあるかもしれませんわね)
「丁度ウッズさんも居る事だしアレの確認もしてみましょうか」
場所移動を移すみたいだ。大きな建物だとは思っていたが、屋敷や館というよりも城、それも戦を経験している頑強な城砦である事が伺えた。
(先の地下道での発言から考えると、使われなくなってダンジョン化していた古城を改造したというところですわね)
連れてこられたのは演劇で使う様な舞台と客席、そしてその場に居たのは長い黒髪を馬の尾の様に後ろで結んだ活発そうなエルフの少女・・・即ち。
(リト!?いえ、纏っている気配が違う、これがナイアールの変装術ですのね)
やはり何度見ても本物そっくりである。その事実にアイリーンは若干悔しさを覚えたが当の彼女達の反応は意外な物だった。
「いやー、やっぱ本物と並べると違いがはっきりと出るね」
「これでも頑張ったつもりだったんだけど」
「いえ、遠目から見れば気付かれませんよ」
変装したアイリーンを本人と思い込んでいる彼女達は自分達の未熟さを嘆いていた。
その光景を見てアイリーンは以前ナイアールが自分と似ても似つかぬ姿でアイリーン・ショルメを名乗り悪徳貴族をまんまと手玉に取って見せたのを思い出した。
(似ているか似ていないかでは無く、どれだけ説得力を持たせられるかが重要なのですわね)
「それじゃあ例のヤツ、練習しとこうかウッズさんも客席で御覧になってください、本番はお見せ出来ませんので」
興味を引かれたアイリーンは案内に従い客席に移動した。
(逃げられるとは考えていないのかしら?それとも逃がさない自信があるのかしら?)
「あっ、ヤベ!戸締り忘れてた」
またしてもズルッとズッコケそうになる。
(この方々、何処まで本気なのかしら・・・)
準備が整ったのか舞台上が魔法で照らされる。そこにはナイアールを名乗るバケツヘルムとリトに変装(先程よりも手直しされている)した女性が立っていた。変装した方は拘束されているらしい。
「やってきたな我が宿敵達よ。だが、変な真似はするなよ?下手な動きをすればこちらの可愛らしい女性が三枚卸になってしまうかもしれないぞ」
「あ~れ~、隊長~、王子様~たすけて~・・・あっ、っス」
(取って付けたみたいに「っス」って言いましたわ!)
間抜けな声を上げるリトもどきは天井から降りてきた縦長の箱にすっぽりと収まり箱の蓋から顔だけ出している状態になった。
「強情な方々だ。ならばお嬢さんには3等分になってもらう」
そうバケツヘルムが宣言すると顔の部分の蓋も閉められ手に持ったサーベルを箱に突き刺した。
箱の中から聞こえる「ぐえぇぇぇぇぇ」という悲鳴にアイリーンは思わず息を呑む、そうして縦長だった箱は三つに分解された。
バケツヘルムが真ん中の箱を運んでいる途中で箱の穴から片腕がだらんと飛び出し驚くべき事に客席に向けて手を振ったのだ。次に乱雑に置かれた足の部分に相当する箱からは両足が飛び出しじたばたさせる。
最後に舞台中央の床に置かれた頭に相当する部分の箱、蓋が開けられると口端から血を流しぐったりするリトもどきの頭が納められていたが、急に目を見開き叫んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ~~~~」
そのまま舞台は暗転、アイリーンは何らかの仕掛けがしてあると見抜いていたとしても最後のには少々肝を冷やした。この時点でナイアール達の目的の一つであるアイリーンを驚かせるという目的は達成されてしまった・・・本人達の想定外の形で。
舞台に明かりが戻ると口端の血糊をぬぐうリトもどきとバケツヘルム他、何人かが集まっている。
「マ~ベラス、実に素晴らしいですが本番までにもっと腕を磨かなければなりません」
「それじゃあオープン状態でもう一回通してやってみよう」
バケツヘルムが合図を送ると仮面メイドの一人が舞台袖のレバーを操作すると「バコン」と舞台の下部分が蓋みたいに開き客席からは床下が見える形となった。天井からは今度はさっきと違って透明な箱が下りてくる。そしてリトもどきはサーベルで斬られる前に床下に移動、そのまま解体された箱から身体を出す。箱を動かしている途中で出てきた手はリトもどきのでは無くバケツヘルムがそれっぽく手を出して振っていたのだ。
(なるほど、分かってみれば単純な仕掛けですのね)
人体解体ネタは他にもあるのか横に真っ二つにするマジックや断頭台マジックなんかも披露して見せた。
その夜、部屋に戻されたアイリーンは出された食事を楽しみながら筆談で給仕と会話していた。
『相当な魔力を持っているみたいだけど、どうやって手に入れたの?』
「少し前に私が路地裏で死に掛けていた頃、ある方に身体・・・いえ、この言い方では語弊がありますね。言うなれば人生そのものを売り渡したんです。そして新たな人生を与えられました。こんな魔力は与えられた物の一つに過ぎません」
(まるで魔物化・・・いえ、この上品で理性的な立ち居振る舞いはその真逆、ある意味魔物化よりも厄介かもしれませんわね)
そんな日が何日か続いたある日、遂に捜査部隊がアイリーンを助けに現れた。
その日の闘いは開幕前から予想外の連続だった。
ゲームもプラモも積みまくり・・・バーサルいつ作ろう・・・。




