第五十六話 そこまで暇じゃないけど貴族達の遊び
ルミナスが屋敷を探検していたころ、エンドー・ダンドレジー領ベルナール街の昼下がり、最近流行りのカフェーで本を読みながらお茶を楽しむ未だ少女の面影を残した眼鏡の貴婦人・・・彼女を物陰から観察する二人の男がいた。
一人は金髪で長髪のエルフの優男。
「彼女が件の領主様かい?」
もう一人は頭の禿げ上がった人間の中年男性。
「ああ、我らを追い落とした忌々しい小娘だ」
「少し田舎っぽいけど悪くないね、寝取り甲斐がある」
優男はその筋ではマダムキラーとして有名な男だった。彼と一緒に居る中年男性は旧ダンドレジー家の男の一人である。彼がマダムキラー・ネトリーノを呼び出したのは他でもない、ダン子爵とクラリース女男爵の仲を引き裂き旧ダンドレジー家の復権を狙っての事であった
「あんな可愛いご婦人をほったらかして旦那さんは何をしているんだい?悪い男に食べられちゃったら大変じゃないか」
「ヤツなら自領で仕事をしているらしい」
「へぇ、じゃあご婦人は若い肉体を持て余しているってワケだ」
「必要な資金はいくらでもくれてやるから必ず成功させろよ。厄介な星の智慧社と縁が切れた小娘なんぞどうとでも出来るからな」
「お金を貰ってその上女を抱けるなんて願ってもない、丁度“前の財布”が壊れちゃって難儀していたんですよ」
ネトリーノは足取りも軽くターゲット、クラリース・エンドーの元へと向かった。
「やあ、お嬢さん。こちらの席にご一緒してもよろしいですか?」
「あら、うふふ。構いませんよ」
「何を読んでいらっしゃるんですか?」
「コレの事?学院教授が執筆した魔法研究の学術書ですの、父の書斎にあったので暇つぶしに持って来ちゃいました。貴方は魔法お得意ですか?」
「いえいえ、僕はどちらかといえば剣術の方が得意でして、この間、隣領の魔物退治にも参加してドラゴンを3匹仕留めましたよ」
「あらあら、勇敢でらっしゃるのね。素敵ですわ」
「あはは、ドラゴンと言っても小さいヤツなんですがね」
「そういえばお名前をまだ伺ってませんでしたね」
「僕の名前はネトリーノ、貴族の放蕩息子さ」
「私は・・・」
「ああ、貴女は有名ですから良く知ってますよクラリース卿、こんな素敵な街を造ったんですから知らない者なんて居ませんよ」
「ふふふ、お上手ですのね」
クラリースはパンと軽く手を叩いた。
「そうだわ、折角お近づきになれたのですからお茶でも如何ですか?このカフェーには他では味わえない珍しい風味のお茶もあるんですよ」
「へえ、それは楽しみですね」
クラリースが店員を呼び指示を出す。
「コレをお願いします」
「かしこまりました」
店員が持ってきたのは何の変哲もないティーセットだった。クラリース自らがカップにお茶を注ぐ・・・密かにネトリーノからは見えない様に粉末を混ぜながら。
「さあどうぞ、私このお茶大好きなんです」
「美人領主様からお茶を入れていただけるなんて僕は幸運だな」
そう言ってネトリーノがカップに口をつけた瞬間彼の舌と鼻に強烈な刺激が走った。
「ッッッ!?!?!?」
「どうかなさいましたか?」
見ればクラリースは同じお茶を美味しそうに飲んでいる。涙目になっているネトリーノにクラリースが不安げに問いかける。
「もしかしてお口に合わなかったかしら?」
「い・・・いえ、ゴホッ・・・決してそんな事はありまゲホッ」
「そう、それなら良かったわ・・・チッ」
「今、舌打ちしませんでした?」
「いいえ、何でも・・・そうだ!ココ最近主人が居なくて暇してたんです」
「(来た!)それでは一緒に遊びに行きませんか?」
「良いですね。丁度見たかったアクセサリーがあったんです。お付き合い願えますか?」
「ええ喜んで」
(多少トラブルはあったもののここまで順調に行くとは思っていなかった。チョロイもんだ)
二人で宝石店に入ると女性店員がにこやかに迎え入れてくれた。
「いらっしゃいませクラリース様、良い商品が入荷していますよ」
「ええ、それでは新作を見せてもらえるかしら?」
著名人御用達の高級店にしては価格は良心的・・・とはいえ簡単に手が出せる価格で無いのも確かだ。
「う~ん中々良いですが今は持ち合わせがありませんね。夫が戻ってからオネダリしてみようかしら?」
クラリースが悩んでいる素振りを見せるとネトリーノがチャンスと見て提案する。
「そのくらいなら僕のポケットマネーでいくらでも出せますよ」
その言葉を聞いた瞬間クラリースは花が咲いた様な笑顔になった。そして宝石店から外に飛び出すと大声で叫んだ。
「みんな~~~~買ってくれるって~~~~~」
その声に反応して一体どこに潜んでいたのか女性達が何人も何人も集まってきた。
「この方が好きな物を買ってくれるそうよ♪」
「わ~」と一斉に女性達が商品に群がっていく光景を見て危うくネトリーノは卒倒しそうになった。
「ちょ・・・ちょっと待ってくださいクラリースさん、流石に全員は・・・」
ネトリーノが言いかけた言葉を聞いてクラリースの表情が一気に沈んだ。
「夫でしたら笑顔で買ってくれますのに・・・残念です。もう帰ろうかしら?」
「そんな・・・いえ、少々驚いただけです。大丈夫ですよ。皆さん好きな物をお選びください」
「ホントに?それじゃあもっと楽しみましょう」
ネトリーノから乾いた笑いが漏れるがその事に気付かないのかクラリース達は遠慮無くアクセサリーを購入していく、念の為多めに活動資金を用意していたネトリーノのだったが、その八割程が失われた。
「ちょっと買いすぎちゃったかしら?」
「ン~ン、ゼンゼンソンナコトナイヨ」
クラリースが指をパチンと鳴らせば波が引く様に女性達は去っていった。
「そろそろお腹が空きましたね、銀の星で“軽く”お食事でもしましょうか?」
「(落ち着け俺、経費はいくらでも出るんだ)ええ、それじゃあ良い時間ですし夕食にでも」
勿論ただの夕食になる筈も無かった。
クラリースが店に入る直前に指をパチンと鳴らせば再びどこからか女性達が集まってくる。
「タダ飯が食えると聞いて」
「あれ?でもクラリース様って今朝、お風呂場で・・・」
「シッ!余計な事言わなくていいの」
「銀の星なら久々チリトテチンが食べれる~」
店に入るとクラリースが店員と挨拶を交わす。
「パーティー席を用意してください、それとメニューはステーキセットとデザートにチリトテチン、飲み物はジュースを人数分、お会計はこちらのネトリーノさんが“前払い”でお支払いします」
「え゛!?」
女性達が卓の方に案内されるがネトリーノの足は止まっている。
「ネトリーノさんどうかなさいましたか?」
「いや、僕はちょっとお手洗いに行ってきますね。アハハ」
そう言うとネトリーノはお店から飛び出してしまった。
クラリースに一人の女性が声を掛ける。
「よろしいのですか?逃がしてしまって」
「クライアントにお小遣いでも貰いに行ったのでしょ?ちゃんと見張りは付けてますし、直ぐに戻って来るわよ」
クラリースの言った通りネトリーノは戻ってきた。クラリースがその表情を見れば安心している様子が感じられる。金は十分用意出来たみたいだ。
「もう食事の準備は出来てますよネトリーノさん、貴方の為にお店で一番高いお酒も注文しましたの、このお酒はアジオ領のコンテストでも毎回上位に入賞する逸品なんですよ」
「美味しそうですね・・・ちなみにお値段は・・・?」
食べ物にそこまで金は取られないだろうとは思っていても、ついつい聞いてしまったのは彼の勘がそれなりに良かったからだろう。
「コ~ラ!食事の時にそんな無粋な話はしな~いの♪」
あっさりと断られてしまった。その事に少しずつ不安が湧き上がってきたネトリーノだが、それでも今後の成功報酬を考えれば些細な問題だった。
そう、またしても財布の中身が無くなりそうになってはいるが、堕としてさえしまえば何の問題も無い、依頼人も「必要な資金はいくらでもくれてやる」と言っていたではないか。
食事の後、クラリースが軽く挨拶するとまたしても女性達は何処かへと去っていった。その鮮やかな去り様にネトリーノが関心しているとクラリースが小声で甘えた様な声音で囁いた。
「最近ずっと寂しい夜を過ごしてきたんです。この路地裏の奥に知り合いの宿屋がありますのでそこで・・・」
(来った~~~~~~~~!!随分と金は掛かったが時間は掛からなかったな、本当は数日掛かけるつもりだったけど、やっぱりチョロい)
ネトリーノは案内されるまま宿屋に足を踏み入れて、指定された3階の部屋へ、早速クラリースを押し倒す。そして、ドレスをゆっくりと脱がせ、ブラを外すと二つの果実がこぼれ落ちた・・・いや、何かの比喩では無く本当に果物がベッドに落ちたのだ。
「・・・・・へ?」
「いやん♡(男の裏声で)」
そうしてクラリース?が立ち上がるとスカートを自ら脱ぎ捨てる。下半身は水色ストライプの猿股で足はムカつくくらいスベスベたまご肌だった。
「ななななな!?!?!?」
あまりのショックにバランスを崩したネトリーノは咄嗟にクラリース?の猿股を掴みそのまま尻餅をついてしまった。
猿股がズレた事で偽クラリース・・・段蔵の股間が露になる。
「ボウヤったら大胆ね~、いきなりそんな事したらビンビンになっちゃうじゃな~い♡(男の裏声で)」
「物干し竿!!」
下着を穿き直した段蔵は、何処に隠していたのか男物の衣服に着替える。
「人の女を寝取って捨てるなんざ、とんでもない悪党だな」
「お・・・お前は誰だ!?」
「俺が誰かなんてどうでも良い話だ。それより良いのか?」
段蔵がニヤニヤとネトリーノに視線を送る。何の事を言われているのかと疑問が浮かんだ。
「どういう意味だ?」
「いやな、今日この宿は俺の貸切になっててな、各部屋には、お前さんに寝取られた男や騙された女が待機してるんだぜ・・・と言う訳で皆さんどうぞ~~~~~」
開け放たれたドアの奥から殺気立った男女が何人も入ってくる。魔法の杖を構えた女魔法使いにナイフを持った熟女、棍棒を持った青年にフル装備でロングソードを構える騎士なんかも皆同じ様にネトリーノを睨んでいる。
「そんじゃお待ちかねの去勢タ~~~~~イム♪」
『うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!』
段蔵の号令に一斉に飛び掛りネトリーノをボコボコにする。ネトリーノは殴られながらも渾身の力で逃亡を図った・・・・・しかし。
「あっ、ここ3階・・・」
窓を破って屋根をドタバタ転がり木箱の上に落下する様はまるでカンフー映画みたいだなと段蔵は思った。
『逃げたぞ!追え~~~~!』
皆はネトリーノを追いかける為に宿屋から出て行ってしまった。
「あ~~~~楽しかった」
宿屋を出ようとすると女主人に声を掛けられた。
「ダンゾー様、折角床の用意が出来てますのにそのまま帰られるおつもりですか?」
いつの間にかネトリーノを追いかけた連中と入れ替わりで段蔵の妻達が宿屋に入ってきた。
「あ~、やっぱそうなるか」
「ええ、今夜は“貸切”でございますので・・・」
一方逃げたネトリーノはボロボロになりながらも旧ダンドレジー家の中年ハゲ親父と合流していた。
「どうした?そんな姿になって、クラリースはちゃんと堕としたのか?」
ネトリーノはハゲ親父を睨みつける。
「何が世間知らずの小娘だ!ヤツには物干し竿が・・・物干し竿が・・・」
「おい、落ち着け!一体何が・・・」
ハゲ親父が言葉を続ける前に周辺から兵士達が集まってきた。
「おい貴様達!!通報にあった詐欺師のネトリーノ一味か?」
「ま・・・待てワシは違・・・」
「ええい、話は詰め所で聞いてやる。さっさと来い!!」
「アンタがこの仕事さえ持って来なけりゃこんな事にはならなかったんだ!」
「バ・・・ワシの関与がバレたら仲間だと思われるだろうが!」
この後も、お互いの罪を擦り付け合い、見事に二人とも詐欺罪で逮捕されてしまったとさ。
タイトルは某魔物原動機の持ちネタから。
次回は怪盗仕事の話。




