第五十三話 悪夢再来
スマス島を奪還し、ルミナスの船団を笑顔で送り出した段蔵だったが、その内心は穏やかなものでは無かった。犯罪結社“ジム・モロアッチ”の生み出した魔物化薬・魔物制御薬・魔物増殖薬は確実に王国内に広まりつつある。対処が遅れれば生活水に薬品を流され村一つが、あるいは街一つが、最悪王都10万の民が敵になる可能性も出てきたのだ。
「中和剤や解毒剤の開発は急務だな」
「じゃが、ルーヴィエの人体実験は最早限界じゃ」
タヌキ姉さんの言うルーヴィエとはかつて屋敷の住人を害しようとして段蔵の怒りを買った女性である。
「流石にこれ以上彼女が罰を受ける謂れは無いな、彼女も今では俺の愛しい女性の一人だし、今更彼女を実験台にしたところで新たな発見があるとも思えない」
「然らば」
「俺達自身が実験台になるしか無ぇだろうな」
「それでは高額な給金付きで募集をしてみるかのぅ」
「勿論俺も参加するぜ」
そんな段蔵の意見を聞き焦るタヌキ姉さん。
「いかん!お主は妾達の要じゃぞ!万が一の事があれば・・・」
「俺達の身体にはナノマシンが流れているから大した影響は出ないさ・・・まあ、その所為で解毒剤の開発も遅れているんだがな、データは多様に有った方が良いだろう?」
段蔵の言う通り、彼等の体内で活動する万能ナノマシンの影響から実験を行っても短時間しか効果が続かない為、データが取り辛いのだ。
「いや・・・しかし・・・」
迷うタヌキ姉さんに、丁度研究室から出てきたゾンビ娘のネフティスが親友として後押しする。
「守鶴ちゃん、ワシ達の旦那様がやりたいと言っているんじゃ、支えてやるのがワシ等の役目じゃないか?大丈夫、段蔵様への実験はワシが直々に行うから任せてもらえんか?」
「ネティちゃんがそう言うならば・・・」
タヌキ姉さんは渋々ながら納得する。この親友の技術は確かなものだ。ならば大事にはならないだろう。
(我ながら心配し過ぎか、じゃが何か忘れているような・・・忘れる位ならば大した事では無いか)
タヌキ姉さんは気持ちを切り替えて人員の募集に勤しむのだった。
~実験当日~
集まった被験者は思ったよりも多くそれぞれ担当する医療班の下へと集められる。
万が一の暴走に備えクラリースも医療班として参加している。これは故コロジョン男爵の実験によってクラリースが魔物達の女王として指令権を持っている為である。狂気の研究から生まれた忌むべき能力としてクラリース自身はあまり好いていないが、仲間を護る為にと珍しく真剣に申し出てくれたのだ。
段蔵もまた当初の予定通りネフティスの研究室のベッドに座りそわそわしながら待っている。
「意外と緊張するモンだな・・・」
その心境は注射を待つ子供の如く、大抵の事ではビビらないと思っていた段蔵だったが、まだ自分にこんな人間らしい部分が残っていたのかと思うと新鮮だった。
「お待たせポヨ、早速お薬を飲むポヨ」
「ポ・・・ポヨ?(和ませようとしているんだろうか?)」
ネフティスは何やら黄金の粒々が大量に入った黒っぽい液体が入ったビーカーを差し出した。
「え?これ何?以前押収した連中の薬とは随分と違うように見え・・・ムグッ!?」
ネフティスが無理やりビーカーの中身を段蔵の口に突っ込んできた。
「ガボッモガガガガガ」
「おねーしゃんにお任せポヨ~」
段蔵の意識が落ちる寸前ネフティスの頭の上に座る妖精女王と目が合った。彼女は実に楽しそうに足をパタパタさせていたのだった。
「御前様、ネフティス先生は大丈夫でしょうか?」
「ネティちゃんは妾の盟友じゃぞ、安心せい」
「いえ、そうでは無くて、ネフティス先生はゾンビ娘なのでこのタイミングでアッパッパーになると不味いのでは?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「しまった~~~~っ!!」
そう、段蔵の妻であるアンデッド系娘達は取り憑いた妖精の蘇生魔法によってその身を維持している。その代償か、はたまた妖精の気まぐれ故か一日の内の何割かを思考力が低下した状態で過ごしている。
ネフティスはアンデッド系娘達のリーダー格なので他の者より長時間思考力を維持できるが、だからといって思考力が低下しないわけでは無い、そしてそういった宿主の能力が落ちたタイミングは取り憑いた妖精達の格好のイタズラ時間でもあるのだ。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
俺はベッドの上で固定されていた。ネフティスの研究室では無く、しかし身に染みて覚えのある場所。
隣の部屋からは壁一枚隔てて少年の断末魔の悲鳴が聞こえる。俺がどれほど拘束の解除を試みようとしても決して叶わなかった。そんな俺を笑顔で見つめる一人の女性・・・遠藤しおんだ。
「気分はどうかしら?」
「最悪だ、以前の騒動以来、貴様の面は二度と見ないと思っていたんだがな」
「ああ、あの夢魔の時の?本当は分かってるんでしょ?あんな夢魔なんか居なくても段蔵が生きている限りお姉ちゃんと過ごした記憶は消えないって、お姉ちゃんはいつでも一緒なのよ」
ゾッとする笑みを浮かべるしおんの手には幼い頃の記憶と同じく注射器が握られている。
「それじゃあ今日もお注射しましょうね」
肉体を強化する薬だと連中は言っていた。この薬でケイタ君もジン君もミナミちゃんも死んでしまった。俺だけを残して。
しおんの言う通りだ。俺はこの夢を見なくなったんじゃ無い、見ないように魔法使い達が作ったドリームランドに逃げていただけだ。結局夢魔が居なくてもこの悪夢は終わらない、いつも通り注射を打たれて苦しみ悶えながら目を覚ますのだ。
「大丈夫大丈夫、怖くない怖くない」
そんな笑顔を向けるしおんを睨みつける・・・しかし、しおんの背後に俺の記憶には無い女性がいきなりヌッと現れた。純白のドレスを着て右手には先端に蝶の細工が付いたステッキを持ち頭にティアラを載せた柔和な笑みを湛えた輝く貴婦人、そんなこの場所にはおよそ似つかわしくない人物、しおんは背後の人物に気がつくとギョッとした表情を浮かべながらも隠し持っていたナイフで貴婦人に斬りかかる。
「え?」
しかし、貴婦人がステッキを向けると先端から金色の粉が噴出した。粉はナイフを持つしおんの腕に降りかかりそのまま彼女の腕を消し去った。
「え?え?なんで?」
疑問を浮かべるしおんだったが夢の主である俺は理解した。あれは完全に夢の世界から消えたのだ。いくら俺の記憶に残っていたとしても関係は無い、消えた部分が夢に出る事は永遠に無いだろう。
「ウソ・・・わた・・・私はまだ段蔵と一緒に・・・ウソだ。私が消える?こんな・・・そんな・・・」
貴婦人の背後から無数の妖精が飛び出してあの金色の粉を部屋全体に振り掛ける。俺の体を拘束していたベッドも陰気な部屋も遠藤しおんも、何もかもがフェアリーダストに飲み込まれていく、微笑む貴婦人は紛れも無く俺の妻の一人。
「妖精女王・・・」
「もう大丈夫ポヨ、あの女に昔投与された薬も消してあげるポヨ~」
その瞬間、俺は光の粒子に飲み込まれた。
~地球 日本 龍泉街~
一方遠く離れた地球でこの異常事態に気付いた人間も居た。
「遠藤氏のナノマシンが何かと結合しようとしてる?おい新堂、コレ何だかわかるか?」
モニターを見た魔法使い新堂英一はクッキーを頬張りながら素っ頓狂な声を上げる。
「これはフェアリーダスト!?御伽噺の妖精の粉っすよ!!」
「お前オリハルコンだのヒヒイロカネだの山ほど作れるのに妖精の粉が珍しいのか?」
「妖精は神様より気まぐれで悪戯好きっすからね~、中々調達できないんっすよ。良い機会だからデータをコピっちゃお」
新堂がキーボードに手を伸ばしてエンターを押すが警告音と共にエラーメッセージが表示された。
『勝手にコピーしたらダメダメポヨ 【OK】』
「あ゛!?これは妖精の悪戯?」
「おい新堂!逆にこっちのデータを幾つかコピーされてるぞ!」
「あわわわわ、マジックファイヤーウォールで・・・って神や悪魔の侵入さえ防ぐセキュリティが効果無しっすか!?」
「エーテル回線切っても侵入して来やがる。なんてデタラメな・・・っておい!KTA01!邪魔すんな!」
ドクター篁が作ったアンドロイドもまるで酒に酔ったかのようにフラフラとこちらの邪魔をしてくる。
結局、しっちゃかめっちゃかにされるばかりで妖精の悪戯を止める事は出来なかった。
「だ~~~、これだから妖精は、神や悪魔の理論すらすっ飛ばして無茶苦茶な魔法を使ってくるっす」
「お前にだけは絶対に言われたくないなソレ」
~再びネフティスの研究室~
「ワシはなんという事を~~~」
よよよと泣き崩れるネフティスを慰めながらタヌキ姉さんこと守鶴前は段蔵の様子を確認する。
「異常なほどの魔力が溢れ出ておるのぉ、この世界の極星以上・・・というより妾達に近い力を感じる・・・(しかし、これと似た気配を以前どこかで?)」
守鶴前は段蔵の身体をまさぐりながら額に玉の汗を浮かべた。
「うむ、妾達にとっては極上の魔力なのじゃが人間の段蔵にはちと毒じゃな、吸い出すとしよう」
「御前様、吸い出すとは?」
「毎日妾達がやってるアレじゃよアレ」
クラリースが瞳を輝かせながら超反応した。
「アレですか!!」
「そうじゃ、段蔵を寝室まで運んでおけ、妾は女子達に声を掛けるでな、生命力が不足気味のアンデッド系娘ならば効率良く吸い出してくれるじゃろう」
「いえ御前様、既に強大な魔力に引き寄せられて大部分が集結しているみたいです」
~数時間後~
「うへぇ~、お腹が重たい~、こってりし過ぎ」
「モウ、タベラレナイ」
「こ・・・腰が・・・」
そんな中、ネフティスを含む一部のアンデッド系娘が光り輝き変化が現れた。
名称:リッチ
最上級のアンデッド、知能が高く身体能力も生前以上とされる。他のアンデッドの司令官的役割を担う事もあり非常に強力な魔物。
「おおお?」
この変化により日常生活に一切支障が出ないリッチ娘が誕生した。彼女達は今まで弱点だった思考力の低下を克服し、更に他のアンデッド系娘を統率する能力を得た。
そして数日後。
「多少トラブルはあったものの無事、中和剤も完成したし妾達も極上の魔力を得られて満足じゃ」
「改めて段蔵様の愛を感じました。というか感じまくりました」
肝心の段蔵自身は夢うつつだったのが悔やまれるのだが、まあ些細な事だろう。
「しかし、この前は調子に乗ってヤリ過ぎたかの?腹の奥で何かが妾の魔力を食っておる様な変な感じがするしのう」
「お腹の中に何かいるんじゃないですか?」
「ははは、まっさか~・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「「まさか!!」」
念願叶い守鶴前とクラリースは段蔵との愛の結晶をその身に宿す。そして他の娘達にも徐々に・・・。
未だ不穏な空気が漂う王国の中にあっても彼と彼女達は困難を乗り越えて行く事だろう。
◇ ◇ ◇
~何処とも知れぬ一室~
暗がりの黒いヴェールの向こうで報告を受ける女伯爵は・・・女伯爵は何も変わらなかった。
「スマス島の海賊共は壊滅、海軍の中に潜ませた者とも連絡が取れなくなりましたので恐らくは・・・」
「極星二人が出てきたのです。それも当然でしょう。ナイアール・・・いえダン・エンドー氏は厄介ですね」
その声音には一切嫌悪感が含まれていなかった。本当に厄介だとおもっているのだろうかという疑問さえ湧いてくる。
「ダン・エンドーとナイアールは別人であると結論付けられた筈ですが?」
「ええ、ええ、そうでしたね。“そういう事になった”のでしたね。ふふふ、もう、今の王国は動き辛いですね」
「は?と言いますと?」
「ヨグスに動いていただきましょう、一度この国を真っ平らにしてから動けば良いのです」
セバスチャンは寒気を感じた。ヴェールの向こうで見えない顔が確実に嗤っていると感じ取れたが故に。
「期待していますよ。コロジョン男爵の番外検体にしてヨグスの姫、ラヴィニア」
◇ ◇ ◇
~おまけ~
オデット・遠藤
奥義
・風弾 ←タメ→弱or中P
・二連風弾 ←タメ→強P
・竜巻 ↓タメ↑K(弱・中・強で出現位置変化)
・飛行 空中で↓↙←K
大奥義
・(Lv1)ギガトルネード ↓↘→↓↘→弱K
・(Lv2)鎌鼬連撃 ↓↘→↓↘中P
・(Lv3)無銘秋水 ←タメ→←→強P
守鶴前(遠藤守鶴)
奥義
・鬼払い ↓↘→P
・天気雨 →↓↘P
・夜行 →↓↘K
・九十九髪 相手の近くで→↘↓↙←P
・独鈷展開 ←↓↙弱P(最大9個同時展開可)
・独鈷射出 独鈷展開中に強P(使用後独鈷消滅)
大奥義
・(Lv1)急急如律令 ↓↘→↓↘→弱P
・(Lv2)ずっと妾のターン 独鈷展開中に↓↙←↓↙←中P(独鈷の数で威力増加)
・(Lv3)九尾狸の大宴会 ↓↘→↓↘強K(独鈷展開中の場合、数で威力増加)
モルガン・遠藤
奥義
・魂魄掌 ↓↘→P(空中可)
・影刃 →↓↘P
・奈落放 相手の近くで→↘↓↙←P
・追い討ち 相手がダウン中↑強K
大奥義
・(Lv1)夢幻魂魄掌 ↓↘→↓↘→P
・(Lv1)夢幻影刃 ↓↘→↓↘K
・(Lv1)戦姫逆蹴 →↘↓↙←K・K(空中可)
・(Lv3)暗黒幻影舞踏 弱P弱P→弱K強P(空中可)
次回、ヨグス国と戦争かと思いきや少し日常回とか入ります。
モルガンの元ネタは・・・まあ、あえて言いません。




