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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
怪盗 王国ニ舞ウ
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第五十話 ナイアールがいない日々

また遅くなりましたがお楽しみください。

朝、春先のまだ肌寒い時間、段蔵は今日も今日とて多くの女性を特大ベッドに引き入れ肌を重ねながら寝入っていると廊下の向こうから多数の気配が近づいてくるのが感じ取れた。

何れも見知った家族のものであり、人数の多さに多少の疑問は浮かんだものの急を要する足取りではなかった為、右隣の女の子を愛でながら扉が開かれるのを待った。

ノックの後、入室したのは第一夫人の守鶴前と第二夫人のクラリース、そしてその後ろに引き連れているのは何れも段蔵より年上の女性、もっと言えば育児経験のある女性達であった。中には今、愛し合っている真っ最中の女の子の母親や半裸で毛布に包まっている達の母親なんかもちらほら見られた。

夢うつつで段蔵に抱かれていた女の子は母親の姿を視界に納めると一気に眠気が吹き飛んだのか顔を赤く染めてベッドの中に潜り込もうとしたが段蔵にガッチリと抱かれている為逃げ出せなかった。見れば母親の方も恥かしそうに顔を伏せている。


「おはよう皆、今日は一体どうしたんだ?後ろの様子を見るに何か楽しそうな催しがあるみたいだけど?」


タヌキ姉さんとクラリース以外の女性は衣装の違いこそあれ皆白い衣服(一部下着姿や半裸に近い格好)で統一されていた。普段、段蔵を誘う煌びやかで場合によっては下品な過剰装飾もそれほど嫌いでは無いのだがこういった清潔な色も心地良い。

段蔵の問いにクラリースが一前に出て答える。


「段蔵様には今日から七日程休暇を取っていただこうと思いご用意いたしました」

「お主は幼い頃に家族と死別しておる。せめてもの慰めになるか分からぬが休暇中はこの者達に存分に甘えるが良い、気付いておるじゃろうが皆、育児経験があり母性的な者を妾達で選りすぐっておる」

「私達家族も随分大所帯になりましたから段蔵様のお仕事を分担するくらいは出来ます。安心してお休みください・・・段蔵様?」


二人の言葉を聞いた段蔵は驚いた表情のまま涙を流していた。感動していた。言葉が全く出てこなかった。その時抱かれていた女の子は暖かい涙だったと語っている。


「それでは皆さん、後はお任せしますね」


そう言ってベッドの中に居た女性達を引き連れて退室したクラリースとタヌキ姉さんと入れ替わるように朝食が運ばれてきた。給仕はオードリーが中心になってやってくれる様だ。

普段の精力ガッツリスタミナマシマシ料理では無く暖かい玉子スープに柔らかく小さなパンと果物が並べられた。


「あ~~、美女に囲まれ手を使わずに物を食べる。至福とはこの事だ」

「ご主人様、お食事の後は如何なさいますか?」


オードリーに問われる前から決めていたのか笑顔を浮かべ答えた。


「二度寝、たっぷりと惰眠を貪る。勿論添い寝に付き合ってもらうぞ」

「かしこまりました」


廊下を歩く二人、勿論話題は自分達の夫についてである。


「しかし本当なのかえ?段蔵があの二人の血縁であるというのは」

「段蔵様の夢に入った時に見た光景、私も最初は意味がわかりませんでしたが御前様のお話と照らし合わせると可能性は高いと思います」

「・・・あの時出会ったのは偶然では無かったか、長生きはしてみるものじゃな」


◇ ◇ ◇


【悪女の演じ方】


私ことイゾルデがアークド商会の間諜として星の智慧スターリー・ウィズダム社に送り込まれて半年、それなりに社内で信頼を得てきた私に、星の智慧社幹部である“十人会”から声が掛かったのは幸運だった。「幹部と接触すれば星の智慧社の機密情報を易々と入手できる」そう考えた私は幹部の一人が待っているという会議場へ、他にも声を掛けられていたというもう一人の褐色肌のエルフの女性と共に入った。

会議場内は薄暗く私達が前へ進むと警備兵に扉を閉められてしまった。

目の前は数段の段差になっていて一番高い段に薄暗くてよく見えないが誰か座っている。恐らく十人会の一人だろう。

私達が不審に思っていると段差の頂上部分に魔法で照明が灯った。豪華な装飾の椅子に腰掛けるのはレースがふんだんにあしらわれた白黒のドレスを着込む幼いエルフの少女だった。


「ようこそおいで下さいました。私は星の智慧社十人会の一人、ユノ・ダンドレジーです」


隣の女性が不機嫌そうに少女を睨みつける。


「大幹部である十人会の一人がこんな餓鬼だったとはねぇ、それで?大幹部様が私達に何か御用ですか?ママゴトの相手なら勘弁ですよ?」

「待って下さい、ダンドレジーといえば領主家の・・・」


ユノと名乗る少女は優雅に微笑んで私の予想を肯定する。


「ええ、領主であるクラリースは私の義姉です。今はエンドー姓ですが、義姉妹の縁からこうして仕事を任されております」


子供特有の悪戯っぽい笑顔の中にその瞳だけが妖しく揺らめいていた。


「本日この場にお二人をお呼びしたのはお二人の仕事があまりにも見事でしたので特別なお仕事を依頼しようと思いまして・・・お二人でしたらきっと気に入っていただける内容ですよ・・・アークド商会の間諜であるお二人でしたらね」

「なっ!!」

「そんな・・・」


少女が冷めた瞳で私達を見つめる。隣の女性は今の情報から察するに私とは別口で商会から派遣されたのだろう、背筋に冷たいものが流れる。


「我々十人会が貴女達の暗躍に気付いていないとでも?お二人の動きは入社当初からしっかりと監視させていただきました」


その言葉に私は愕然としたが隣の女性は開き直って口汚く少女を罵る。


「はん!それで勝ったつもりかいクソ餓鬼が!この程度の警備兵で私を押えられると思ったら大間違いなんだよ!!」


彼女は隠し持っていたナイフを構え段差を駆け上がり少女にその刃を突き立てた・・・いや、突き立てようとした。


「テメェ・・・」


驚くべき事に刃は少女の胸の前で左の二本の指で摘む様にして止められていた。受け止めたナイフをつまらないといった表情で見ている。


「こんな切れ味の悪いナイフではオママゴトの小道具にもなりませんよ」


少女が空いた右手で彼女を押すと彼女は元の場所まで吹き飛ばされてしまった。恐らく風の魔法だろう、彼女が立ち上がり今一度少女を睨みつけた瞬間、少女はパチンと指を鳴らした。


「え?」


気付いた時には彼女の足元の床は無くなりそのまま声を出す事も無く暗黒の底へと落ちていった。どういった仕掛けかそのまま床の穴は元通りパタンと閉じられてしまった。

少女は奪い取ったナイフをもてあそびながらこちらを見ずに話しかけてくる。


「ぎゃあぎゃあと五月蝿い女でしたね?あれでは低級の魔物と何ら変わらない・・・貴女もそう思いませんか?」

「・・・・・」

「やはり愛玩動物ペットは素直で可愛げがある方が好ましいわ。貴女なら判ってくれるわよね?イゾルデ?」


チロリと舌をなめずりするその姿は少女とは掛け離れた妖艶な魔女そのものだった。


「貴女には仕事をお願いしたいの、こちらが用意したお土産を持って今まで通りアークド商会と連絡を取り合って後は・・・こちらの人間を定期的にアークド商会の中に入れて欲しいの」


少女ユノは手を叩いて警備兵に何かを持って来させるとソレを受け取り私の元までやってきた。


「これは私からのプレゼント」


私の首に青い宝石の付いた金細工のネックレスが掛けられた。


「これは・・・?」


私の疑問に答える様に警備兵の一人が人型の人形を近くに持ってきて同じネックレスを人形の首の部分に掛ける。そうしてユノが人形に向かって人差し指をした瞬間人形のネックレスが燃え上がった。瞬く間に炎は人形を焼き尽くし無残な炭へと変わり果てる。警備兵が魔法で火を消せば元がなんだったか判らない黒いカタマリだけがその場に残った。


「外せば燃えるわよ。逃げたら燃えるわよ。逆らえば燃えるわよ。分かってるわね?」


声も出せずただうなずくばかりの私が余程気に入ったのか愛おしい物でも見つけたかの様にトロンとした笑みを浮かべた。


「ホント、食べちゃいたいくらい可愛いわよ」


少女は私の首の後ろにゆっくりと腕を回し・・・私の唇をその幼い唇で塞いだ。口腔に少女の熱い舌が入り込み私の舌を滅茶苦茶にかき混ぜる。グチャグチャと脳髄に響く粘質的なメロディーが心に食い込み侵食し服従させた後ドロドロと甘い蜜を流し込んでくる。コクコクと喉を鳴らして飲み込んだ私に満足したのかゆっくりと少女は唇を離す。私達の唇の間に銀糸が一筋垂れ下がってふつりと名残惜しそうに途切れた。


「ん、悪くは無かったわよ。元が大人しいから愛玩動物ペットとしては扱いやすいけれども、コロコロと主人を変えるのはあまり関心しないわね。でも、もう首輪は着けちゃったから心配は無いかしら?」


腰砕けになった私を優しい瞳で見つめる少女・・・そう、優しい瞳だ。あれは人間に対して向けられる優しさでは無く、それこそお利口なペットに向ける類のものだ。もしも反発したら、その時は容赦無く消されるだろう。


「さあ、お戻りなさいな。私達はいつだって貴女を見守っていますからね」


イゾルデが居なくなった会議室で段差の途中の隠し扉から落下したはずの金髪褐色肌のエルフことアンリエットが顔を出した。


「演技とはいえ悪い顔してるわね、低級魔物扱いされてお姉ちゃん悲しい」

「アンリお姉ちゃんごめんなさい」

「謝りながらも顔は笑ってるわよ。そんなに楽しかった?」


アンリエットの指摘通りユノは晴々(はればれ)した顔で立っていた。


「以前ダンゾーに“変装していて一番楽しいのはどんな役か”聞いてみたの」


その時ユノは白馬の王子様や伝説の勇者なんて答えを想像していたが段蔵から出た答えは全くの逆だった。


「それは、“悪役”だったの。悪役こそ物語の全部だって言っていたの。悪役がいるから物語が始まって悪役がいるから英雄が活躍して悪役が倒されるから物語が終わるんだって言ってた。最初は意味不明だったけど、ここで悪役やってみて解かったの、この役は超楽しい!!」

「それでノリノリで台本に無いキスまでしちゃったんだ」


アンリエットの指摘通りあの口づけは予定には無いものだった。周囲の警備兵もとい【劇団ユノ】の団員達もさぞ焦った事だろう。


「一流の悪役は滅法強くて格好良くて常に余裕を見せるものなんだって」

「それで舌なめずり?」

「上等な獲物を前にして舌をなめずりするのは悪役の礼儀なんだって言ってた」


ユノは自分の人差し指をしゃぶる。幼児のそれと違い淫靡な水音を奏でるその行為は守鶴前直伝の妖術の一種、水音に魔力を織り交ぜて相手の思考能力を低下させる。仕組みを理解している遠藤家では子供でも解呪できる初歩の妖術だが、普通ならば初見で破れる人間は少ないだろう。加えて段蔵達に徹底的に鍛えられた舌技は乙女のモノとは思えない程に卓越している。素人を屈服させるなんて造作も無い。


「これで暫らく待てばアークド商会は私達の物」

「その時は新しい名前に変えなきゃね」


数十年後、ユノ・ダンドレジーがアケチ皇国で舞台に立った際、競演した皇国の人気俳優ヒエンマ氏はこう答えている。


「ユノ女史を舞台上で討ち取れる役者が居るならば、多分そいつは演劇の神様か何かだろう。一体どんな先生が指導すれば、あんな女優が生まれるのやら凡人の俺には見当もつかんね。世間ではナイアールの情婦などと噂されているらしいが俺は彼女こそナイアールだと思っている・・・・・え?年齢が合わないって?ははは、確かにそうだがナイアールは今でもこちらが思いもよらない手口を使うのだろう?だったら何があったって不思議じゃ無いさ」


ヒエンマ氏のこの発言は以前ユノ・ダンドレジーがアイリーン・ショルメ リト・ウッズ ナイアールをそれぞれ別の舞台で演じており、ナイアールを演じた舞台が一番人気だった事を考慮しての発言だろうが前述の通りナイアールが初めて世間に知られた頃、ユノ・ダンドレジーはまだダンドレジー家の養子となったばかりの子供だったので、これはヒエンマ氏なりのジョークだったのだろうが、それでも後の歴史・演劇マニアの中にはこの説を支持する人間はそれなりに存在している。


◇ ◇ ◇


【広がる愛情の大地で】


この日クラリースは政治能力の高い娘や、経済に明るい娘を招集した。理由は王家から届けられた一通の密書だった。


『ナイアールの活躍により不正貴族はその数を大きく減らしました。これにより滞っていた国内事業も大きく発展する事でしょう。お互い表沙汰に出来ない事情はありますが王家はその功績を高く評価し公爵領を含むダンドレジー領周辺の領地四領を新たにダンドレジー領として組み込みます』


「パロット王子とメアリ姫の連名の書状ですが要約すれば『管理する貴族が減ったから責任取って運営しろ!』といった内容ですね」

「クラリース様、ぶっちゃけ過ぎです」

「皆さんも知っての通り当家は秘密が多く拡大路線を好まない性質ですが、行政不在で民衆が混乱する事も避けなければなりません」


クラリースはグッと溜めを作ると派手に地図を広げその一箇所を指差した。


「そこで!この旧公爵領を表向きの主家としてこの場に集まってもらった皆さんに領地を分割し新たな運営体制を作ります」

「という事はクラリース様や旦那様は今後は旧公爵領を中心に活動するのですか?」


しかし、クラリースはその疑問を否定した。


「いえ、主家はあくまで対外的な代表であって緊急事態で無い限り指示は変わらずこの地で行います。それに伴い各領地と家名を正式に制定します。今までちぐはぐでしたからね」


新たに家名を制定するというのは少なからず動揺を与えた。


「王家と協議した結果、これまでダンドレジー男爵領だったこの土地はエンドー・ダンドレジー男爵領を正式な呼び名とします。なので私の領主としての名前はクラリース・エンドー・ダンドレジー男爵ですかね?」


この決定に周囲の動揺は更に大きなものとなった。ダンドレジー家を嫌っていたクラリースが対外的にとはいえ自らダンドレジーを名乗ったのだ。


「良いのかい?あんたにとってその名は・・・」

「構いません。旧ダンドレジーと決別する意味でも、私達が新たなダンドレジー家として出ます。旧家と区別する為、新たな紋章も登録しました」


その紋章は大きくタヌキの顔が描かれていた。


「御前様をモデルにしています。結構可愛いでしょ?」


こうして新たに決まったのは

・ヴァルメラース・ダンドレジー侯爵領

・ヴェルモン・ダンドレジー伯爵領

・バーネット・ダンドレジー子爵領



「最後に主家となるダンドレジー公爵家ですが、キミィに任せようと思います。旧ダンドレジー家の連中が言い寄って来ても全力で追い払って下さい、武力行使も許可します」


しかし、指名されたキンバニーは慌てて待ったをかける。


「お待ちください、それでは偽装とはいえ私がクラリース様とダンゾー様の主となってしまいます。そんな恐れ多い事・・・」

「キミィ、貴女がこの家と私達を愛している事は十分理解しています。だからこそ安心して任せられるのです。」

「いえ、遠く離れちゃうとその分、旦那様と夜を共にする機会が減るのではないかと思いまして」


どうやら他の娘も同じ考えだったらしく不満そうだ。


「テレポーターがあるんですから好きな時に戻って来なさい!というか運営報告の為に緊急の用事以外は毎日戻って来なさい!」

「「「「は~~~い」」」」

「定期的に段蔵様が視察に訪れる予定なのでその時は好きに“おもてなし”して構いませんよ。大抵の要求は通る事になっていますので」

「「「「やった~~~~」」」」


こうして新たに新体制が決定しました。


主家:ダンドレジー公爵家 実際はエンドー家の忠実な配下 当主はキンバニー

配下・ヴァルメラース侯爵家 当主は普段厳しいがベッドでは甘えるタイプ

  ・ヴェルモン伯爵家 脳筋女戦士と天才女秘書のカップルが統治

  ・バーネット子爵家 現役学院女生徒数名と経済学者が意見を出し合って統治

  ・エンドー男爵家 クラリースの領地 実際の司令塔

協力・エンドー・フーディー子爵家 段蔵の領地 オードリーを偽名で代官として置いている

  ・ペレンナ伯爵家 オデットの実家


「クラリース様、目立ちたくないって言ってもこの規模だともう無理ですよね?」

「言わないで下さい(涙)」


~その頃、王城~


わたくしが公爵ですの?」


メアリ姫から呼び出されたアイリーンは色々と長ったらしい文書を渡され困惑・・・もとい、あからさまに嫌そうな顔をしている。


「殿下、我が国は領地に対して爵位が与えられます。わたくしが領主となれば今後の活動に支障をきたしますわよ?」


目上相手でも物怖じしない彼女の事はメアリも理解しているのか、むしろその位の気概が好ましく思える程だった。


「この国の為、任務に忠実であろうとするアイリーン隊長の気持ちは十分理解しました。それでは領地運営には代官を派遣してはどうですか?この・・・何公領でしたっけ?まあ、逮捕・更迭・お取り潰しになった奴の名前なんてどうでもいいですね。もう、ショルメ公領と呼んじゃいましょう、この領地はあまり広くはありませんが北側にフーディー領、東側にアジオ領、西側にシントー領(南側は王都)とかなり面白・・・もとい優秀な方々が集まっています。頼めば人材を融通してくれるでしょう」

「はあ、ではその代官さんを公爵にした方が早いのではありませんこと?」

「これは兄様の推薦でもあります。公爵ともなれば不正貴族を逮捕し易くなる。面倒な手続きも合法的に省略できる・・・・・なんて言ってましたよ?随分と気に入られてますね」


そう言われると中々魅力的な気もしてくる。学院始まって以来の才女と謳われ、平民の出だった自分も王城勤務となり自身の実力で貴族への道を目指せる。自分の才があれば可能である。事実本気を出せば可能だったろう。しかし本当の貴族はロクデナシばかりだった。貴族に幻滅した頃にこんな機会が巡って来るとはなんと皮肉な話だろうか、だがペレンナ卿やシントー卿みたいなまともな貴族もちゃんと存在しているのだ。認めたくは無いがナイアールとの闘いがその事実に気付かせてくれたのだった。


「わかりましたわ、謹んで勤めさせていただきます。しかし、領地の運営は王国から犯罪者を撲滅するまで代官に任せる事になりますのであしからず」

「一生行政は無理そうね」

「そうでしょうか?わたくしが本気を出すんですもの、直ぐに終わるに決まってますわ」


なんて事を真顔で言ってのけたのだった。


◇ ◇ ◇


【怪異に荒れる海】


「ここがその漁村かえ?陰気な場所よな」


守鶴前がオデット達とやって来た場所は王国の東側の海岸、灰色の雲が立ち込め潮風はどこか生温く、水棲の魔物が跋扈している。


「五年前、アケチ皇国の内乱で難民としてスマス島に流れ着いたと言う彼等ですが、当時その扱いについて意見が割れ、学院の教師陣にも意見を求められました。出された結論は人道的観点からの一時的保護、反対派は治安の悪化を懸念したジョゼフィーヌ教授を含めた少数、対して保護派はセバスチャン学院長を中心とした大多数、貴族達も保護を訴える者が多かった為、陛下は保護を採用」

「そして、このザマか」

「アケチ皇国からの難民というのはデタラメで本当は皇国から追われた海賊の残党が彼等の正体でした。そうとは知らない漁村の住民は歓迎しようと宴を開いたのですが・・・」

「胸糞の悪い話じゃな」

「その後、澱みの沼が発生した村を出た海賊達は未だあの島に居座っているんです。何故、彼等の正体に気付けなかった当時は不思議でしたが・・・」

「ジム・モロアッチなる犯罪組織かえ?そういえば幹部と目される男の名前は学院長と同じくセバスチャンじゃったのう」

「この騒動の直後セバスチャン学院長は失踪、そしてオードリーさんのお話からジム・モロアッチ幹部のセバスチャン・ボーマニャンなる男と身体的特徴が一致してます。連中は国内の情報網を操り海賊の残党を引き入れたのです」

「殲滅作戦はどうなっておるか?」

王国ウチ海軍弱いんですよ。海の向こうの皇国は建国当時からの友好国だし、歴史上敵性国家はヨグスを含め大陸内ばかりでしたから・・・」


守鶴前が呆れてしまう。


「いくら弱くても海賊の残党くらいは何とかせぬか!!」

「何故か海軍が消極的だったり、こちらの作戦が海賊に漏れてたりするんです」

「それも連中の仕業かえ?」

「間違い無く」


今日の守鶴前の装備はいつもの巫女服ではなく、仏僧の袈裟に手には独鈷を持っている。


「島は後回しじゃ、今は漁村の魔物を片すぞ」


彼女達と対するは猛毒の針を飛ばすクラゲ・硬い甲羅の巨大亀・人間を丸呑みにするカエル。


「アンデッド系が居ないという事は、ネティの時と違って村民は安らかに眠っておるのじゃろう、それだけが救いじゃな」

「しかし、海の魔物は陸の物と勝手が違うので注意した方がいいでしょう」


ヌメヌメと滑る表皮を持つ者や硬い甲羅や鱗を持つ者が多く中々倒し辛い、しかし守鶴前は腕を組んで不敵に笑う。


「心配無用じゃ」


手に持っていた独鈷を天に投げると両手を合わせ九字を唱える。


「臨ム兵ト闘ウ者ハ皆陣ヲ列ベテ前ニ在リ」


その真言マントラによって独鈷が無数に分裂し一斉に魔物達の方へ向かう。


「閻魔様直伝、【ずっと妾のターン】行けよや!ファ〇グ!!」


無数の独鈷が魔物達を射抜き塵へと還す。その力は圧倒的だった。


「私も負けてはいられません、風よ!!」


オデットが竜巻を起こし魔物達を巻き込んでミキサーみたいにかき混ぜる。そして上空高く打ち上げられた魔物は落下の衝撃で殆ど倒された。それでもまだ向かってくる魔物は他の娘達が相手をする。


「御前様、澱みの沼まで辿り着きました!」

「うむ、早速浄化を始める」


今回は勾玉を使わずに独鈷で浄化を行う、唱えるは真言マントラ、浄化方法を変更する事での影響を確認する為である。


「えーっと、いかん!最近唱えておらんかったからサンスクリット語を忘れかけておる・・・まあ、ごちゃ混ぜで良いかのう。『求道者、アリャーワーロキッティシュワラは修行中、この世に五つの要素が存在し、その総てが【空】であると見極めた』」

『舎利子よ、世の物質現象は【空】であり【空】こそが物質現象なのだ』

『色即是空 空即是色 ヤールーパンサーシュニヤタヤーシュンニヤータサールーパン』

『不生不滅不垢不淨不増不減・・・』

『心を妨げるものを払い無上の涅槃ニルヴァーナへと至る・・・』

大明の真言マハヴィディヤマントラ 無上の真言(ヌタラマントラ) 無等等の真言サマサマーティマントラえーっと』

『真言は苦しみを鎮める偽り無き真実の言葉、智慧の完成時に唱えられるその真言とは』

『ガテガテパラガテパラサンガーテーボージーソヴァーハー(彼岸に、涅槃に向かう者よ、悟りを啓く事を切に願う)』


そして澱みの沼は無数の光に分かれ、それぞれが人に近い容に変化する。

一人は透き通ったヒラヒラのドレスを着た少女、もう一人は重そうな亀の甲羅を背負った半裸の格闘家風の女性、肌がカラフルで指先に吸盤を持つ全身が粘液で覆われた全裸の女性が六人、最後の一人はこの世界の修道服に袈裟を身につけて錫杖を持った熟女だった。


「ケロ?」

「ケロケロリ」

「こやつ等はカエルの魔物娘らしいな、緑・赤・青・黄・黒・桃の六人じゃな、段蔵から預かったナノマシンを飲ませるぞ」


ナノマシンを飲んだカエル娘達はキョトンと守鶴前を見つめた。


「あ・・・」

「あ?」

「遊びたいケロ~~~~」

「ちょ・・・何で裸ケロ?」

「ヒーロータイムまでに帰りたいケロ」

「緊張感に欠ける方々ですね。皆さんをお屋敷で保護しますのでついて来てくださいね」

「ケロ?・・・飯は食えるケロ?」

「この世界で一番美味しいと思いますよ」


カエル娘達は円陣を組んで話し合う。


「何かよくわからんが日本とは違うみたいケロ・・・」

「私らの姿も人間じゃないみたいケロ・・・」

「あいつ等は人間だったりエルフっぽかったり獣人みたいケロ・・・」

「騎士っぽいのと魔法使いっぽいコスプレがいるケロ」

「もしかしてホンモノケロ?」

「養ってくれるならどーでも良いケロ」


意見がまとまったみたいだった。緑のカエル娘が一歩出てふんぞり返る。


「世話をさせてやるケロ、三食と昼寝とオヤツを要求するケロ」

「その程度で良いのか?ならばそれに(プラス)して嗜好品も月々決まった金額分なら用意してやるが?」

「ケ・・・ケロ!?」

「もしかして【完全稼動バタフライマンフィギュア】も買ってくれるケロ?」

「確かネットだと五千円そこそこじゃったな、構わんぞ、むしろ一万円分はくれてやるぞ」

「六人で一万円ケロか?」

「一人一万に決まっておろうが」

「ケロ~~~~!?」

「生活の面倒を見てくれて昼寝にオヤツにお小遣い・・・話が上手すぐるケロ・・・」


カエル娘が不審な目を向け守鶴前が苦笑する。


「ははは、察しが良いのう。こちらからは一つだけ要求させてもらうぞ」

「か・・・解剖以外なら・・・ケロ」

「心配するで無い、お主達には妾達の夫の新たな妻になってもらうぞ」

「ケロ?奥さんケロ?」

「妾達ってここに居る全員が誰かの奥さんケロ?とんだエロ親父ケロ!」

「待つケロ、逆に考えればこの人数を養えるだけのお金持ちケロ」

「・・・悪くない話かもしれないケロね」

「いくら金持ちでもガマガエルみたいな面の変態親父だったら勘弁ケロ」


女の子の一人がカエル娘の疑問に答える。


「少なくとも私は格好良いと思いますよ」

「それじゃあ、やっぱり世話になるケロ」


その話を聞いているのかいないのか、ヒラヒラスケスケドレスを着た少女がフラフラと近寄ってくる。


「美味しいものくれるならあたちも行く」


知らない人にホイホイ連れて行かれそうな奴だった。女性の一人がその娘を抱き上げると腕にピリッと刺激が走った。


「ッ!?痛くはな・・・・・あれ?身体が熱・・・この感覚はタルトちゃんの媚薬ガスと同じ・・・」

「いかん!解毒じゃ!」


守鶴前によって解毒を施されるが、この少女型の魔物娘の認識を改める必要が出てきた。


「やっぱ媚薬持ち系かしら?」

「今更驚く事も無いわよ、一部のゾンビ娘さんも・・・」

「そっちのカエル娘にもありそうじゃしな・・・」


守鶴前は改めて少女に向き直りその身を抱きしめた。


「怒らないの?」

「とんでもない、むしろ歓迎するぞ、妾達の姉妹として相応しい力を持っておるそなたはきっと我が夫も喜んで迎え入れるじゃろう」


相変わらずフラフラしている少女は分ってるのか分っていないのか微妙な表情をしているがついて来る事が決まったらしい、残りの二人だが・・・。


「貴女達について行くと戦えるのですか?」

「屋敷の周囲や地下に修練場を持っています。こちらの御前様も、私達の夫も、自慢ではありませんが私達自身も弱くは無いと考えています」

「戦えるのならば構いません、ついて行きましょう」


シンプルイズベスト、格闘家風の気迫を持つ亀(河童?)女はそれだけで納得したらしい、残り一人の尼僧は微笑みながらその様子を見ていた。


「お主も妾達と共に来るが良い」

「・・・拙僧は仏門に身を置く者です。おいそれと殿方に身を預けるマネはいたしません」

「この世界にとって魔物とは人食い猛獣という認識じゃぞ、お主は人型に変化できるらしいが何かの拍子にバレたら殺されてしまうかも知れぬぞ?」


しかし尼僧は瞑目し、それもまた運命と受け入れる覚悟の様だ。


「ではこうしましょう、守鶴御前様でしたか?今は名も無き拙僧の心を征服して下さい」


シャンと錫杖が鳴ったかと思えばいつの間にか錫杖は高枝切鋏たかえだきりバサミへと変じていた。


御仏ルブランの慈悲があらん事を」


尼僧は一気に数メートル飛翔すると砂煙を巻き上げながら着地した。その姿は飛翔前と大きく変わっている。修道服のスカートからゴツゴツとした装甲に覆われた魔物の半身らしきものとそこから赤黒い脚が八本生えていた。そして魔物の半身背面、尼僧のお尻より後ろの装甲部分は目を閉じた女性の顔が彫られていた。


「なんとなく理解はしていましたがやはり拙僧はアラクネか絡新婦じょろうぐもの類だったみたいですね」

「む・・・」


彼女を連れて帰りたいとはいえ傷つける事は避けたい守鶴前だが、中途半端な説得には応じる気配は無さそうだ。無理に連れ帰っても逃げ出すだけだろう。実力的には負ける事は無いが、さてどうしたものかと考える。

高枝切鋏の先端が守鶴前に迫ったが寸前で素手で方向を逸らした。しかし高枝切鋏は見た目の大きさとは裏腹に軽々と方向転換し連続突きを放った。


「ふふふ、まるで自分の腕の様に良く馴染んだ武器です」

「ええい、調子に乗るでないわ!」


守鶴前が独鈷を投げるが、尼僧は重々しい下半身からは想像もつかない程の素早いサイドステップで回避する。


「なぬ!?」

「喰らいなさい、糸攻撃!」

「しまった!!」


しかし、いつまで待っても糸は出なかった。代わりに下半身から何やらブクブクと泡が出てきている。


「そ・・・そうですか、拙僧は糸を出さないタイプの蜘蛛なのですね」

「隙あり!」


独鈷が脚の一本を叩き割ったが、その程度はあまり問題にならないのか尼僧は天を向き経文を唱えた。


「南無阿弥陀仏(女神ルブランに感謝の意を示さん)」


尼僧の全身が光に包まれると折れた脚は再生していた。


「なんと強力な再生能力・・・んん?」


何やら独特な魚介類の香りが守鶴前の鼻をくすぐった。香りの元を辿ると先程折れて地面に放置された脚から漂ってくる。決して不快な香りではなくむしろ茹でたら良い出汁が取れそうだった。


「・・・・・」

「確かに御前様は強い方の様ですが、それでも拙僧の意思を降す程の力は無いと見ました。拙僧はこれにて失礼させて頂きます」

「待った!!『大足二足小足八足右行左行眼天を指す』お主はアラクネでも絡新婦でも無い!その正体は【蟹】じゃ!!」

「んな!?」


その言葉に頭の中が真っ白になった尼僧は飛んできた独鈷を真正面から受けてしまった。


「そんな・・・拙僧は蜘蛛では無く蟹だったのですか・・・」


こうして自分を完全に理解し悟ったつもりだった彼女は、あっさりと自分が無知だった事を思い知らされた。


「うむ、何がショックだったか知らんが、名も無き尼僧よ、そなたはこれから【救蟹きゅうかい】と名乗るが良い」

「自身の未熟を知りました。なれば喜んでこの身を預けましょう」


こうして最後の一人も加わる事が決まった。問題はここからである。


「さて、漁村の浄化は済みましたが・・・」

「問題はあの島じゃな?」


海の向こうに見える妖しげな気配が漂ってくる島を一同睨みつける。


「船は無し、ならば飛べる者は妾達に続け、残りの者は周囲を警戒しながら待機、新入り達に事情を説明してやれ」


島までは3km程だろうか?飛び上がったオデットの右足を掴んで守鶴前も空を行く、島に近づくにつれ妖気は濃くなり肌にまとわりつく。


「一気に決めます。全員魔法攻撃開始!!」


オデットの号令と共に一斉に魔法が放たれる。


「妾は皆の魔法を補助してやろうぞ」


守鶴前の放った術は言葉通り全員の力を高め島は巨大な魔力の渦に飲み込まれた。「これで終わった」と誰もが・・・最も力の有る守鶴前ですらそう思った矢先、島から反撃が飛んできた。


「何・・・アレ・・・」


島はドス黒い巨大な宝石みたいなモノで覆われていた。そしてその内側から土・水・火・風の四大魔法が飛んでくる。


「バカな!この魔法は極星クラス!?」

「いや、そもそもアレは結界か?」


全員が退避した後、島から浜辺に向かって無数の波が向かっていく。


「あの波は・・・いけない!全部魔物の群れです!!漁村に居た連中よりも巨大で数が多い」

「そうか!!魔物化薬に制御薬と増加薬、ジム・モロアッチの連中が海賊に渡したんじゃな。このままでは待機組みが危険じゃ、一度撤退するぞ」


海を渡った屈強な半魚人達は漁村の残骸を蹂躙したが、守鶴前達の撤退は間に合い何とか屋敷まで無事に帰還した。しかし、彼女達には苦い敗北だった。


◇ ◇ ◇


「段蔵様、休暇が終わったとはいえ朝までゆっくりお休みになられてもよろしいのですよ?」


夜明けの直前、貴族の正装に着替える段蔵にクラリースは問うた。


「うん、そうなんだがな。新しい達にも挨拶したいし、海賊の対策も立てなきゃいけないからね」

「今回の企画はお楽しみいただけましたか?」


その問いに段蔵は少し悲しそうな顔を見せた。


「皆の気持ちはすごく嬉しかった。だからこれは俺の叶わぬ願いなんだが、やっぱりダメだ。彼女達は俺の愛する妻であっても母親としては愛せない」


彼女達は母親であろうとして段蔵は息子であろうとしたが、結局はお互いの肌を重ねてしまった。それで親子ごっこは初日の数時間でお終い、最初から分りきっていた事ではあったのだが。


「そんな顔するなよ。趣向は面白かったからまた何か企画してくれ」

「はい!」

「それで海賊の件だが」

「軍艦が必要ですね。しかし、今から建造したのでは時間が掛かりますし、海軍の中にも敵が紛れ込んでいるのでそちらの対処も先にしなければなりません」

「まあ、軍内の敵に関しては今、対処している真っ最中だが船にはアテがある」


段蔵は一枚の羊皮紙を取り出した。


『水の極星にしてアケチ皇国皇女の一人ルミナス・アケチ率いる大貿易船団が王国に寄港、著名人を招き旗艦にして豪華客船である【聖メアリの蜂蜜酒号】にて船上パーティーを兼ねたクルージングを催します』


「まさか次の獲物は【聖メアリの蜂蜜酒号】ですか!?」

「ぬふふふふふ、楽しみにしてなよ」


◇ ◇ ◇


~おまけ~


侍委員長ことモルガンは笑顔で彼女を迎えた。


「貴女が救蟹殿か?拙者はモルガン、仏僧が仲間になったのは心強い、共にこの屋敷の風紀を正していきましょう!」

「いえ、拙僧にそんな気はありませんから」

「は?」


メイド服のセドナが酒瓶を救蟹に手渡す。


「おい、それ白ワインじゃないのか?」

「これは般若湯はんにゃとうです。お酒ではありません。これから旦那様と褥を共にするのでその供にと思いまして」

「僧侶なのに男と寝るのか!?」

「この屋敷の主人は幼くして家族を亡くされたと聞きます。女性を抱くのはその悲しさを埋める行為なのでしょう。無論生涯満たされる事は無いと本人も理解されているでしょうが、せめて拙僧の肌で慰めとなるならば喜んで愛されましょう」


救蟹はウヒョルンと酒瓶を掴んで歩いて行く。


「旦那様に蟹はフンドシの下が美味しい事をたっぷり教えてさしあげねば」

「な・・・生臭坊主!」

「拙僧、魚介類ですから」

キャラ増えたし、また紹介回でもしようかな?

途中の般若心経はいい加減解釈なので間違ってても見逃してね。

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