第四十七話 異変の表面化
「王子、君の役割は理解しているな?納得は出来ないかもしれないが」
パロットは背筋を伸ばし段蔵の言葉を噛み締めている。
「覚悟はしています」
「その覚悟は本当に正しいのか?ただ単に俺の言葉を盲信しているだけではないのか?だとしたら・・・」
しかしパロットは、はっきりと否定した。
「先生は関係ありません。これは独自に調査して出した結論です」
「・・・・・わかった、君にとっては辛い出来事が続くだろうが今は雌伏の時だ」
「・・・・・」
それを語る段蔵の方がパロットには辛そうに見えた。
◇ ◇ ◇
その日、城内に緊張が走った。昼食を食べ終わったレモン姫が血を吐いて倒れたのだ。幸い光術師と医師の尽力により一命は取り留めたものの暫らく動く事は出来ないとの診断だった。
メイド(人間)のアンクが犯人なのは明白だった為、即時逮捕され尋問官(に変装した段蔵)が取調べを行う機会が設けられた。
そこそこ大きな部屋で手枷をされ椅子に固定されたメイドが尋問される様子をパロットは犯人からは見えない位置で見ていた。
「キサマは何故、レモン殿下の命を狙ったのか?」
「・・・憎かったからです」
そっと部屋の扉が開かれ二人の女性が入ってきたがパロットの予想通りの人物だった為特に驚きはしなかった。片方は相変わらず黒髪黒羽黒ドレスな彼の姉ジェーン姫、もう一人はベールで顔を隠した教会のシスター風の女性だった。二人はパロットより少し離れた席に座る。
「それはありえんな、そもそもたかがメイドが姫様に憎悪を抱く方が不自然だ。政治的意味があると考えるのが自然だろう?」
「・・・・・」
「言え!!キサマは誰の指示で動いた!!」
「わた・・・私一人で行った事です」
「このままでは死罪は確実だが真実を語れば少しは刑が軽くなるかも知れぬぞ?」
「覚悟は出来ております」
溜息をついた段蔵は一枚の黒い布を懐から取り出した。
「これを見れば強情なキサマの考えも変わるだろう」
「何をされても私の言葉は変わりません」
「どうかな?」
段蔵が布を広げパッと翻した瞬間一人の少女(犬獣人)が現れた。
これにはパロットもジェーンも顔は見えないがシスター風の女性も驚いた。
「お姉ちゃん」
「ペシャー!?」
「その通り、彼女は人質にされていた君の妹であるペシャーちゃんだな。王国諜報部が探し出して救出したんだ。・・・話してくれますかね?」
アンクは瞳に涙を浮かべながらとつとつと話し始めた。
「スポイル男爵様が・・・薬を入れなければ妹を殺すと・・・それがジェーン姫様の為にもなるからと・・・」
「・・・よくぞ語ってくれた。無罪はありえないだろうが極刑だけは回避できるよう進言しましょう」
段蔵がちらりとパロットに目配せするとパロットも肯き返した。パロットが姉の方を見れば顔に手を当て俯いている為表情は読めなかった。
抱き合い泣き崩れる姉妹を横目にジェーンもシスター風の女も退室してしまった。
不機嫌そうに廊下を歩くジェーンの目に件のスポイル男爵と他ジェーン派の貴族達が現れ跪いた。
「おめでとうございます。レモン殿下は倒れ最早ジェーン殿下を阻む者はおりますまい」
「・・・・・あのメイドを利用しレモンに毒を仕込んだのは貴様だそうだな」
スポイル男爵は一瞬狼狽するが直ぐに平静さを取り戻した。
「そのお話を誰から・・・いえ、全てはジェーン殿下の地位を不動の物とする為の・・・」
しかし、ジェーンは話の途中でいきなりスポイル男爵の胸倉を掴むと笑顔でその顔を覗き込んだ。
「あのメイドは私が眼を掛けてやっていたお気に入りだったのだぞ、それがこうなってしまっては側に置いておく事も出来なくなってしまった。貴様はこの責任をどう取るつもりだ?」
「そ・・・そんな!私は殿下の為に・・・」
その時スポイル男爵の体が物凄い力でジェーンに左手だけで持ち上げられた。右手は水平に手刀の形を作りそこから光魔法の輝きが妖しく揺らめいていた。
「目障りだから消えろ」
ジェーンが右手を横一線に軽く振るうとスポイル男爵の首が落ちた。血は一滴も流れていない。
ジェーンは床に落ちた首を拾い上げると背後に控えていたシスター風の女に差し出した。
「レモンへの見舞いの品だ。届けておいてくれ」
シスター風の女が恭しく首を受け取りその場を離れた後、ガタガタと震える貴族達を眺めると吐き捨てる様に言った。
「レモンは私の獲物だ!私以外が手を出す事は一切許さぬ!城に勤める従者達にもだ!こうなりたくなければな!!」
ジェーンの指差す先には首の無い男爵の体が横たわっていた。
貴族達を尻目にその場を立ち去るジェーンは密かに笑みを浮かべた。
(素晴らしい、これが“あの”薬の効果か!非力だった私が片手で大の男を軽々持ち上げ、擦り傷を治すのが精々だった光魔法も・・・これは連中よりも先に研究して発展させる必要があるな。楽しくなってきた)
~レモン姫の寝室~
テーブルの上に置かれた首を見ながらレモンとネコ婦人ことオルタンスが実に楽しそうに茶菓子を摘んでいる。
「これがお姉様から渡された男の首ねン、名前は確か・・・」
「スポイル男爵ですね。今回の暗殺騒動は彼が主導したと?」
「そんな事はど~でもイイのよン、そんなツマンナイ事よりコイツの断面を見なさい」
首の断面からは一滴の血も出ておらず、まるで元からそうだったかの様に肌で覆われていた。
「これは・・・まさか切断と同時に皮膚を再生させた?」
「そう見るのが妥当ねン」
レモンに凶暴な笑みが浮かぶ。
「コレに対抗する力・・・ドクターの完成品が楽しみねン」
「あの男を信用するのですか?」
「ドクターが私達を裏切るメリットが無い、それだけの事よン」
後日、アンクの裁判が行われ被害者であるレモン姫が発言を避けた為、段蔵 パロット メアリの尽力もあり極刑は避けられ、禁固200年の刑となった。
~メアリ姫の私室~
「メアリ!今回のダンの行為は王家に対する裏切りだ!聞けば、あのメイドは妹が人質に取られていたから暗殺を実行したという、尋問の時にダンは既に妹を救出していた。手際が良過ぎる!ならば今回の暗殺は事前に察知していたと考えるのが・・・」
しかし、テーブルで俯きながら聞いていたメアリは親友の話を遮った。
「当然です。私も事件の前日には彼から事情を聞いていましたから」
最初、マイクローナは何を言っているのか理解出来なかった。その言葉の意味を考えるのを無意識に拒否してしまっていた。
「あ・・・え?」
「彼はしつこい位何度も私に確認していましたからね。彼としては止めたかったのではないでしょうか?」
「なぜ・・・」
そう呟いたマイクローナに対してメアリは冷たい声で答えた。
「兄上が王位を継承するのに姉上達にはここで本格的に対立していただこうと思いました。よくある話でしょう?」
「そんな・・・だから暗殺も見逃したと?」
「見逃してはいません。今の段階でどちらか片方が亡き者となれば兄上も派閥争いで苦戦します。ですからもっと姉上達が消耗するようにレモン姉様の命は救っていただきました」
「やけに治療が早かったのはその為か、メアリは良いのか?このままだと・・・」
「・・・・・この話はここまでにして下さい」
それ以上メアリは口を開かなかった為マイクローナは退室する事にした。去り際、メアリの手が僅かに震えている様に見えたのはきっと見間違いではなかったのだろう。
大きく溜息をついたメアリは窓の外を見た。今日はあのメイドがダンドレジー領の牢獄へ護送される事になっている。だがそれは名目上の事で、利用されたあの姉妹に今後不自由が無いよう保護するのが本当の目的だった。
「何故こんな事になってしまったのでしょう・・・」
答える者は無く静かに時が過ぎて行くばかりだった。




