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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
怪盗 王国ニ舞ウ
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第四十六話 パロット王子、ナイアールニ出会ウ 後編

相変わらず遅いですがお楽しみください。

「昨日伝えた通り城下町での授業じゃな」


黒いローブを着込み豊かな白髭を蓄えた賢者チックな老人は赤毛の王子をゆっくりと手招きした。


「まずはこれを飲みなされ」


そう言って取り出したのはいつもの万能ナノマシン、本当はヤローには使わない予定だったが中々面白い逸材なので渡してみる事にした。


「これは・・・まあ一種の万能薬とでも思ってくれ。これを飲めば毒や病に侵されなくなる、それだけではなく他国の文字や言葉を理解し自在に操れるようになる」


段蔵はパロット王子とシャーロットにそれぞれ薬を渡した。


「そんな嘘みたいな話があるんですか?これこそ毒薬なのでは・・・って王子」


シャーロットは訝しむがあっさり飲んだ王子に戸惑っている。


「俺達を殺すつもりなら昨日牢に入れた時点でやってるだろうさ」


そんな王子の意見にシャーロットも渋々ナノマシンを飲んだ。


「物は試しだ。王子、古代王国語は読めるか?」

「あまり得意ではないが解読されている部分までなら何とか・・・」

「では宝物庫にあったこの石版を読んでみなさい」


段蔵は懐から石の塊を取り出すとテーブルの上に置いた。


「またそんな貴重な物を勝手に・・・って、ええ!?」

「『我が友、紅き竜王は妃と共に月へと昇り新たな城とした。この世界に新たな道を示した我が友に平穏な日々が訪れん事を願う。そして、我が友から譲り受けた竜玉に誓い民を護り続けよう』すごい、学院の教授を集めても『赤蛇が月を目指したうんぬんかんぬん』としか解読できなかったのに」

「納得してくれたかな?シャーロットさん」

「ええ、王子様に害が無ければそれで結構です」


段蔵はパンパンと手を叩くと部屋に王国諜報部所属の女性が入ってきた。


「では当初の予定通り王子の留守を任せる」

「外出の手続きに関しては既に済ませてあります。護衛は私達“エンドー家”が受け持つ事となっておりますのでご安心ください」


そう言った彼女に段蔵は優しく口づけした。


「・・・・・新興貴族エンドー家、汚染されたフーディー領の浄化を行いダンドレジー家の御令嬢や極星オデル様の妹君と結婚したと聞いています。ははぁ~、なんとなく昨日のカラクリが見えてきましたよ」

「去年の創設から急速に発展し莫大な資金力と他を圧倒する技術力を持つ星の智慧スターリー・ウィズダム社の総帥、まさかその正体が先生ナイアールだったとは・・・」

「二人とも耳聡みみざといな、無論他言無用で頼むよ?それでは目立たない服に着替えて抜け道から出て行く事にしよう」


道すがらパロットは段蔵に色々質問する。


「何故昨日は天井裏をあまり歩かない様にと注意なされたのですか?」

「これはワシの世界の話じゃが、あるところに犯罪に興味のある男が小さな集合住宅に住んでおった。ある日男は自分の部屋の天井板を外し天井裏を伝って他の部屋の住人の生活を覗き見る事が出来ると気付いてしまった。住人達の様子を覗き見ていく内に男はかねてから興味のあった犯罪、即ち殺人を実行したいという衝動に駆られ遂に大口を開けて寝ている隣人に向かって覗き穴から毒薬を・・・」

「その後男はどうなったのです?」

「あっさりと警さ・・・兵士に捕まり精神を病み獄中で目をギラつかせながら残りの人生を送ったそうじゃ。そう、まるで覗き穴を見つめるようにのう」

こわ!!」

「まあ、見張り付きなら構わんじゃろ。見張りの役目はシャーロットさんに任せれば良い、それと天井裏からだけでなく必ず正面からも情報を集める事!一方向だけの情報だと大事な事を見落としてしまう可能性があるからのう」


そんな話をしていると街角から段蔵の見知った女性が現れた。


「段蔵さま~~~♪」

「お、クラリースか?どうかしたかのう?」


見れば彼女はボロボロの服を着たボサボサ髪の子供を連れているではないか、一瞬で状況を理解した段蔵は苦笑いする。


「・・・まあ、悪くない見立てじゃな」

「でしょ~、えへへ~」

「貴女は確かクラリース・・・今は女男爵様ですね、ダンドレジー家で働いていた時にお会いしましたシャーロットです」

「先生の奥様ですね、お会いするのは初めてですが・・・その汚い子は?」


わけも分からず連れてこられた子供は恐らくこの辺りで物乞いをしているストリートチルドレンだろうか?パロット王子は表情を曇らせた。


「レディーに向かって失礼ですよ王子、両親に捨てられたった一人で泥水を啜りながらもこの寒空の下力強く生きているのです。このような事態を解決しないのは王家の怠慢ではありませんか?」

「クラリース卿、王子の前で無礼ではありませんか!!」

「いや、奥様の意見ももっともです。ですが浮浪者はその娘だけでは無いでしょう?全員救うおつもりですか?」

「一人ずつサポートする必要はありません、いっその事全員を捕まえて全寮制の学校で一括で教育すれば良いのです。最初は赤字かもしれませんが王国が教育を施した子供達は将来有能な人材となることでしょう。それなりの施設を造るとなれば雇用も増えますからね」

「確かに理屈は通りますが、俺にはとてもこの娘が有能な人材になるとは思えません」


知らない女性に無理やり連れて来られて知らない人に囲まれた女の子は泣きそうになっていた。


「なるほど、人は見掛けで全てが決まる。何故なら自分の外見さえも整えられない人間の内面なんてロクなもんじゃないからのう、その考えはある意味で正しい・・・じゃがそれは自分の身を整えられるだけの富を持った人間の考え方じゃ。ならばワシ等が今、この娘にも輝く魂が存在する事を証明して見せよう」


段蔵が指差したのは一軒の服屋、店名は“黄金の朝焼け”無論、以前姐さんがダンドレジー領で開業したお店の支店である。

店に入れば美しい娘達が挨拶をした。


「いらっしゃいませ~、ってアラ?クラリース様、王都にいらしてたのですね」

「うふふ、貴女達の仕事ぶりが見たくなってね」

「後ろの方々は?」

「ああ、パロット王子と侍女のシャーロットさん、そしてワシは王子専属家庭教師のニャルシュタン教授じゃ。今、王都の視察中でな」

「ニャル・・・ああ、そういう事でしたか」


店員の娘達が家庭教師の名前から事情を察し、その様子を見てクラリースが嬉しそうに微笑んでいる。


「王子様と交友を結ぶとは流石旦那様です。それで今日はどういったご用件で?」

「まずはこの少女を風呂に入れてやってくれ。あと、彼女の為に服を何着か用意してもらおうかのう」


そう言うと段蔵は老人の姿から一瞬で道化師に変装した。風呂から出た少女にそこそこな服を着せるとその子を連れて店の表へと出た。


「さて御用とお急ぎで無い紳士淑女の皆様方、寄ってらっしゃい見てらっしゃい、ここに居ります一人の少女を私の魔法で愛らしき姫様に変えて見せましょう」


道行く人々が突然現れた道化師と少女に目を向ける。

道化師が少女に布を被せて引っ張ると青いドレスに身を包んだ少女が現れた。


(さあ、教えた通りにっこり微笑んで)


段蔵が小声で少女に呼びかけると、花のような笑顔を人々に向けた。


「おお!?」

「まあ!」

「なんと!!」


その様子にあまり興味が無かった人達も足を止め注目し始めた。パロットは体を洗って多少綺麗にはなったもののこの少女にここまで人を惹きつける力があるとは思っていなかった。

段蔵が次々布を被せると更に黄・赤・黒・紫・白とドレスが変化し髪形まで変わっていった。


「そこの貴族の旦那様、ご家族のお土産にこの“黄金の朝焼け”の服を一着いかがですか?そちらのご婦人でしたらオレンジのドレスが・・・おっとお兄さんにはこっちの刺繍が入ったコートなどは?」


“黄金の朝焼け”は大盛況、この様子なら少女用にもらった服の元は午前中に取れそうだ。

老人の姿に戻った段蔵はパロットに語りかける。


「確かに王子の言う通り、外見は重要な要素じゃ。しかし、今この店にこんなに人が集まったのはあの少女の笑顔があってこそじゃな、クラリースの見立ては正しかったのう」

御見逸おみそれしました。俺も彼女が微笑んだ瞬間心に響くものを感じました」


シャーロットが店のドレスを着てニヤリと笑った。


「勝手に持ち出してお店に迷惑かけるなよ?」

「心に響かないんですか!?」

「ところでクラリース卿、こちらの少女はこの後どうなさるのですか?身寄りが無いとのことでしたが」

「無論当家に迎え入れます。一度助けたからには最後まで一緒に暮らさなければ無責任ですからね」


そんな意見にパロットは感銘を受けたが店の娘や段蔵は「また悪い癖が出た」といった表情でその様子を見ていた。余談だがこの少女は後に“黄金の朝焼け”ブランドの専属モデルとなった。

クラリース達と別れレストラン“銀の星”王都支店で昼食を取ると段蔵はこれからの予定を語った。


「今から国立美術館へと向かうぞ」

「美術鑑賞ですか?ですがあそこへは子供の頃から何度も行っておりますので目新しい物は無いと思いますが・・・」

「今日でなければ見れない出し物があるんじゃよ」


そう言うと段蔵は懐から一枚の紙を取り出した。


『三日後夜の鐘が鳴る頃、国立美術館で【最も高価な美術品】を頂戴しに参上 ナイアールが多面の一つ“黒き森のイタクァ”より』


「なっ・・・ナイアールの予告状!?」

「既に美術館と調査部隊には送ってある。そして、今日がその決行日じゃ。王子には調査部隊と協力してワシの犯行を阻止してもらう、良いな?」

「待って下さい先生!!」

「昼までに学んだ事を忘れるなよ、一つ『一方向だけでは物事を見落とす』二つ『外見に惑わされるな』」


そう言い残し段蔵は煙のように消えてしまった。


「王子様、とりあえず美術館に向かいましょう」


~国立美術館~


「隊長、パロット王子様が視察にいらしたっス」

「王族というのはこの忙しい時に・・・・・暇人の集まりですのね」

「また王子様に対してそんな事言う」

「前にも言いましたが我々の目的はナイアールの逮捕、それ以外は瑣末事ですわ。それで件の道楽者はどちらに?」

「向こうで展示品を見ているみたいっス」


巨大な女性の描かれた絵画の前で若い男性とメイドが美術館の館長と会話をしているのが見えた。


「ほう、ではこの絵がこちらで一番高価なのですね?」

「はい、ハワードⅡ世の側室だった女性をモデルにしたそうでその価値250億と言われておりますが、価格などよりもこの色使いのバランスがとにかく美しい、とくにこの髪の艶やかな表現は並みの画家では到底表せません」

「館長さんも随分気に入ってらっしゃいますね?絵がお好きなのでしょうか?」

「ははは、若い頃はどちらかといえば粘土細工や彫刻の方を主に創作しておりました。まあ、評価は散々でしたがね」


アイリーンは館長とパロット達の前に出ると一礼をした。


「お初にお目にかかりますパロット殿下、私は今夜の警備隊長を任されましたアイリーン・ショルメです」

「副隊長のリト・ウッズっ・・・です」

「ああ、メアリから君の活躍は聞いているよ。なんでも王国始まって以来の才女だとか・・・まあ、一応お忍びだから堅苦しい挨拶は抜きにして、隊長殿は今回の手口はどう来ると思っている?」


その質問にアイリーンは警戒の表情を隠そうともせず答えた。パロットが偽者である可能性を考慮しての事だがその意図を読み取ったパロットは苦笑した。


「そうですわね、この絵画は縦11m(注:王国は当然地球のメートル法を採用していないが分かりやすくする為今後メートル法で記載します)横7mもありますので以前の手口みたいに魔法でゴーレムを使役して来る事が予想されますわ。しかし、ナイアールは芸術を理解する男、他の展示物を傷つける真似は絶対にしませんわ。ですので自然とゴーレムの大きさも制限されてしまうのですわ」

「なるほど、下手に荒っぽい手に出られないという事か」


館長が縋るような目でアイリーンに懇願する。


「当美術館はナイアール出現以前からも幾度と無く賊の侵入を許し貴重な、あるいは価値を問う事すら恐れ多い美術品を多数奪われております。【女王の指輪】【神秘の宝玉】【神鉄の短剣】何れもこの絵画に劣らぬ逸品でした。その上この絵画まで奪われれば美術館は破滅です」

「必ずや、ナイアールの犯行を阻止してみせますわ」


しかしアイリーンは館長にも疑いの眼差しを密かに向けていた。


「アイリーン隊長殿、俺は侍女と一緒にしばらく館内を見て回って来るよ」

「ご自由に」


パロットを見送った後に二人は王子について話し合った。


「いや~~王子様格好良かったっスね。しかも気取らない感じで素敵っス」

「ふん、現場で好き勝手されたらいい迷惑ですわ」

「いつも好き勝手している隊長には言われたく無いと思うっスけどね」

「リト、今から酒屋で王子様を歓迎するお酒を用意しておきなさい、出来るだけ強い物がいいですわ」

「酔い潰しちゃうんっスか?」

「物事を円滑に進める為の一手ですわ」


~博物展示室~


「おお、この石版も読めるな」

「私も驚いています。あの男に対する認識を改める必要があるみたいですね」


暇つぶしに入った展示室で古代遺跡の資料を眺めている二人は一つの像の前で足を止めた。美しい像だったからではない、むしろその逆であまりにも不恰好だったからだ。


「うげ・・・何だこのズングリムックリなクッソ汚い粘土像は」

「一応古代の裸婦像みたいです・・・ですが無駄にデカイしボロボロですね。しかもまるで女性を穴としか見ていない様な下品な作りです」

「足元に古代王国文字が彫られているな、何々・・・『号・7・極・北』意味不明だな、文章どころか単語にすらなっていない」

「解説には初代エルキュリア王時代の物と書いてありますが芸術性は皆無ですね」


巡回兵士の一人が二人を見つけると、敬礼し歓迎の催しがあると貴賓室まで案内された。

部屋には夕食と酒が並べられ、捜査部隊の兵なのだろうが女性の給仕が接待してくれるようだ。


「これは・・・歓迎されているけど歓迎されていないな」

「私達をここから出したくないみたいですね」


二人は顔を見合わせると同時に席を立った。


「「ちょっとトイレに」」


~夕刻の王都 美術館周辺の町~


「だからって外に出る事は無かったのではありませんか?」

「あのまま居たってどうせ理由付けて近寄らせてはもらえないだろうさ、それなら時間が来るまで外で遊んでいた方がまだマシだ」


そんな時、町の人の声が聞こえてきた。


「酒場“アルジャーノ”だったか?」

「おう、メシも酒もべらぼーに美味くてな」

「給仕のネーちゃんも・・・」

「口髭を生やした客は・・・」

「ホントかよ」


そこへ恰幅の良い立派なカイゼル髭を生やした紳士が現れた。


「本当じゃよ、店のマダムはワシの髭を特に気に入ってくれてな・・・」


その話に妙に興味を持ったパロットは男達の話を聞く為近寄った。


「おう、兄ちゃん達、その話俺にも聞かせてくれよ」


男達の話はこうだ。つい最近開業した酒場が好評で連日満員御礼だそうだ。変わっているのはその店の特殊なサービスで口髭の生えた男性は半額にするといった内容だった。


「ワシなんか店主であるマダム・ウェンディーにこの立派な髭を気に入られてな、毎晩招かれては豪華な料理と美味い酒を無料タダで出してくれるんじゃ」


その言葉に他の男達は羨望の眼差しを向けた。


「妻も亡くし息子達も独立して寂しい思いをしていたが世の中まだまだ捨てたものでは無いな」

「うん?おっちゃん一人暮らしなのか?」

「ああ、そこの・・・今、台車が横に停まっている店で魔石を販売しながら暮らしておる」

「へ~、一人暮らしの男を招いて無料で・・・それって今夜も招かれているのか?」

「丁度今から向かうとこじゃ、マダムが言うには死んだ旦那さんにそっくりな髭らしい・・・これは今夜辺りひょっとすると」

「参考になったよ。ありがとな、おっちゃん」


別れたおっちゃんは意気揚々と歩いていった。顔を上げればそろそろ日が沈み、件の酒場から酒と料理の香りが漂って来る。


「何ですか?結局飲むんですか?」

「いや、近いなと思って」

「美術館からですか?」

「おっちゃんの店からもだよ」


美術館から酒場までの直線の丁度中間辺りにおっちゃんの店があった。


「おっちゃんが酔い潰される前に戻るぞ」

「何か解かったのですか?」

「ああ、半分はな、これであの生意気な隊長殿の鼻を明かせられる」


~国立美術館~


日が落ちると同時に館内の各所で不審な目撃証言が寄せられた。

小さな毛むくじゃらな何かが横切って行った・毛むくじゃらな塊が窓の外に素早く出て行った・毛むくじゃらな怪物を追いかけたが行き止まりで消えてしまった。


「毛むくじゃらって共通点以外は犬みたいな大きさだったり2mの人物だったり歩き方もネズミみたいに速かったり亀みたいにゆっくりだったりと一致しないっス」

「どうやらナイアールは既に館内に居るみたいですわね。そろそろ鐘が鳴りますわ」


と、絵画の展示されている通路の向こうから「フシューフシュー」と何やら不穏な音が聞こえ始めた。


「配置した警備兵は!?」

「解かりません、向こうの明かりが消されています」


そしてソイツは暗がりの向こうから白いもやまとって現れた。

5mの巨大な人型の顔にあたる部分には真っ赤に輝く二つの瞳、そして全身を覆う獣のような体毛、その異様な姿に一同は思考が停止した。

ずるずると這いずる様な足運びに「フシューフシュー」といううなり声らしき音、最も奇妙だったのは・・・。


「この巨体でどうやって中に・・・」


フッと絵画の近くの照明も消えてしまった。


「落ち着きなさい、想定の内ですわ。照明係はランプの準備を!」


パッとランプに照らされた怪物に館長は腰を抜かした。


「これが・・・イタクァ」


イタクァは足を引きずるような緩慢な動きで徐々に絵画に近寄っていく、それを阻止する為アイリーンも指示を飛ばす。


「魔法や飛び道具は他の展示物に当たる危険性がありますわ。接近武器で戦いなさい。絶対に展示物を傷つけてはいけませんわよ」


副隊長のリトが威勢良く飛び掛ろうとするがそれをさえぎるかのように二つの影が飛び出した。


「危ねぇ!!」


リトを抱きかかえイタクァから引き離したのはパロットだった。一番槍を逃したリトは憤慨したが別の兵士がイタクァに対し剣を突き立てた。

アイリーンは見た。イタクァに剣が吸い込まれた瞬間、兵士の顔に浮かんだ闇のような嘲笑の表情を。

その瞬間怪物から大量の靄が勢い良く豪快な音と共に放出された。

何とか白い靄の範囲外に逃れたパロットとシャーロット、そして抱きかかえられているリトはアイリーンと合流した。


「大丈夫かい?リト副隊長殿」

「は・・・はい、大丈夫・・・ス」

「アレはもしかして眠り薬ですの?」

「その様ですね、イタクァとかいう怪物を囲んでいた兵達はみんな眠ってしまったみたいです」


そんな時、通路の向こうへガサガサと這いずって逃げていく毛むくじゃらな物体が見えた。


「そうですか・・・そういうことでしたのね!!イタクァの正体は皮袋ですわ!!」

「皮袋っスか?」

「皮袋を縫い合わせ人型にして中に眠り薬と風の魔石を仕込む、それを糸や紐で引っ張って操っていたのですわ!風の魔法を止めれば中の空気が抜けて持ち運びも簡単、館内の照明を消していたのは操っている紐等を発見されにくくする為の処置でしたのね」


その瞬間、近所の教会の鐘がゴーンゴーンと鳴った。


「!!絵画は?」

「特に何も無いみたいっス」


館内の照明に灯を点すが特に変化は見られなかった。


「・・・そうだ・・・の方法で絵画を持ち運ぶのは無理・・・だったら目的は・・・」

「目的は絵画ではありませんわね」


その瞬間パロットとアイリーンは互いの顔を見合わせた。


「どうして気付かなかったのでしょう!予告状には絵画を盗むとは書かれていませんでしたわ!」

「・・・隊長さん、確証は無いが何が盗まれたか判った気がする」


パロットが向かったのは博物展示室、例の粘土像があった場所だった。


「やっぱり像が無くなっている」

「像ってあの下品極まりない発掘物の?」


像があった場所には何かを掘り返した様な形跡があった。恐らく土魔法で穴を掘ってそこから盗み出した後埋め直したのだろう、極星級の上級魔法使いならではの大技だ。

シャーロットが怪訝な顔で犯行現場を見つめている。


「ナイアールも地に堕ちたものですね、絵画を盗めないと思ってあんなガラクタを盗み出すなんて」

「そうとは限らんぞ、外見に惑わされたらダメだ」


アイリーンはくずおれた館長を睨みつけるように見ていたが、恐らくパロットと同じ事を考えているのだろう、パロットはアイリーンに声を掛けた。


「隊長さん、ちょっと俺達4人で夜の散歩に出掛けないか?高価な像でも拝みにさ」

「なるほど、今回は王子の方が一歩進んでいたという事ですのね。エスコートしていただけますかしら?」

「喜んで」


顔を青くしている館長を無事だった部下達全員に任せて4人は外に出た。


「俺があんたらの接待を蹴って町を見て周った時面白い話を聞いたんだ」


それは夕方に出会った髭のおっさんと不思議な割引をする酒場の話、パロットが一軒の店を指差す。


「あれがそのおっさんの店だ。夕方には店の横に台車が停まっていたが、予想通り移動したみたいだな」

「つまりあの酒場で髭の紳士が飲んでる留守中に床下に穴を開け美術館まで繋げたわけですのね?」

「だから王子はあの時半分解かったと言っていたのですか」

「ああ、だがこの方法だと絵画を運び出すのは難しい」

「持ち出しが困難だというのは私も思いましたわ。あのイタクァとやらの大きさでは持ち運びは出来ませんし、そもそもアレはハリボテ人形でしたから、リトは・・・リト?」


アイリーンが声を掛けるがリトはパロットの方を見てボーっとしていた。


「リト!どうしましたの?」

「ふえ?何がっスか?」

「リトは見ましたの?あの時イタクァに剣を突き刺した兵士を、アイツがナイアールでしたのね。まんまと兵の半分近くを眠らされてしまいましたわ」

「・・・そうっスね・・・」

(あらあら、王子様に早くも新たな側室候補ですか?これは楽しくなってきましたね)


そうして一行が辿り着いたのは酒場“アルジャーノ”、入り口から店内を覗いて見れば全員顔を赤くして宴会していた。テーブルには大量の料理とお酒、椅子や床には既に酔い潰れた人達が気持ち良さそうに眠っていた。


「店員らしき人間が誰も居ない・・・逃げた後か」

「外側に二階に上がれる階段がありますね」


二階に上がると大きなテーブルに料理と酒が満載されていた。そして床には酒瓶を抱えたカイゼル髭のおっちゃんが寝転んでいた。


「う~~~ん、もう飲めんわい・・・」

「幸せそうな顔しちゃってまあ・・・っと、粘土像がまだ置いてあったか」


部屋の真ん中には大きな粘土像が鎮座していた。ナイアールは居ないみたいだ。

粘土像は乱暴に運ばれたらしくあっちこっちが壊れたりひび割れたりしていた。


「見れば見るほど下品な像ですね王子・・・王子?」

「美術館は過去数回賊の侵入を許している」

「【女王の指輪】【神秘の宝玉】【神鉄の短剣】はいずれもあの絵画に匹敵する宝物であり、何より絵画と比べて持ち運びが容易ですわ」

「そして館長は粘土加工の経験を持っている芸術家だった」


パロットは粘土像を数箇所拳でコンコン叩くと像の胸部を指差した。


「アイリーン隊長さん、コイツの心臓を派手にぶち抜いてくれ」

「よろしいんですの?」

「責任は俺が取る!!」

「それでは・・・バーティツ奥義【豪炎破心拳】」


アイリーンの拳は像の胸から上を完全に粉砕してしまった。そして残った腹部からは木箱が出てきた。


「これはもしかして過去に盗まれた美術品っスか?何故!?」

「つまり過去の窃盗事件は館長の自作自演だったのですね。だからアイリーン隊長は残りの兵で館長を見張らせた」

「隊長さんは最初から館長を疑っていたんだろ?」

「ええ、隠し場所の発見は難航しておりましたが・・・展示物の中に隠すなんて思いませんでしたわ」

「そんな事言って、本当は少しは思っていたんだろ?不細工な像とはいえ名目上は歴史的な展示物、だから調べたくても調べられなかった、自分にはその権限が無いから。もっと破天荒かと思ったけど案外真面目なんだな」

「・・・・・」

「今度ぶっ壊す時は俺の名前を出せ、そんで一切遠慮するな!メアリ達にも文句は言わせねえよ」

「ふふふ、確かに今回は私らしくありませんでしたわね、お言葉に甘えさせていただきますわパロット殿下」

「パロットで良いぜ、こっちもアイリーンって呼ぶからさ」

「パロット、次は私が勝ちますわよ」

「はっはっは、次は酔い潰そうとするのは無しだぜ」


こうして館長は逮捕され行方不明だった三つの美術品は再び展示される事となった。

美術館から出たパロットとシャーロットは野次馬の中に黒いローブを着込み豊かな白髭を蓄えた賢者チックな老人の姿を見つけた。


「先生」

「どうじゃったかな?今日の授業は」

「先生の言葉の意味が良く判りました」


段蔵は満足そうにうなずいた。


「うむ、犯行現場となる美術館内だけに拘らず広い視野で観察していたな、そしてあの像が紛い物であるとよくぞ気付いた」

「正直に言えば先生から頂いた薬のおかげです。他の展示物に書かれている古代文字は読めましたがあの粘土像の文字だけ意味不明でしたから」

「恐らくあの館長がわざと不細工に作ったのじゃろう、年代物に見えるように細工をしてそれなりに古代文字についても勉強したのじゃろうな、まったく手間の掛かる話じゃ」

「家を一軒留守にする為に酒場まで建てた先生には言われたくありませんよ」

「それで、今日の王子の採点はいかがでしたか?」


段蔵はニンマリと笑った。


「無論、文句無しの満点じゃ」


◇ ◇ ◇


初代ナイアールと呼ばれる人物は記録されている限りエルキュリア王国ではペレンナ伯爵のワイン事件も含めて7回逮捕されている。

内訳はアイリーンが2回パロットが2回リトが1回シャーロットが1回そして全員での逮捕が1回、後に王国ではこの四人をディテクティブの王族と呼ぶようになった。

大量にネタを仕込みました。

今回の変装?はクトゥルー神話のイタクァから、酒場のマダムの名前はウェンディー⇒ウェンディゴ(イタクァの別名)、店名はウェンディゴの作者アルジャーノン・ブラックウッド先生から。

次回は後継者争いのお話の予定です。

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