第四十五話 パロット王子、ナイアールニ出会ウ 中編
怪盗の授業は一筋縄ではいかないようです。
赤髪のエルフ王子パロットは困っていた。
例の女が侍女として入ってきてからというもの俺の生活は乱されっぱなしだ。
「王子様、今日も新しい家庭教師を追い払ったんですか?」
「俺よりバカだったし、何より取り入って利益を得ようって下心が丸見えだ」
「私なら王子様の知らない事も教えてあげられますよ?」
そう言うとこのバカはスルスルと上着を脱ぎ始めた。
「バ・・・何やってんだ!」
「王子様に赤ちゃんの作り方を実践して差し上げようかと、知識として持っていても体験しなければ真に理解したとは言えません。遠慮なさらずドバドバ学んで下さいませ、心配なさらずとも私の赤ちゃんはお世継ぎには致しませんので権力争いに巻き込まれる事はありません」
「あ~もう、何故メアリはこんな奴を城に入れたんだよ!」
そうは言っても自分でも何故追い出さないのか不思議ではあった。国の重鎮ホムズ家の人間だから?将軍の妹だから?いや、きっと彼女が珍しい人間だからだろう、姉上達も家臣達も自分の周囲には本心を隠して腹の探り合いをする者達ばかりだ。しかし、シャーロットとか言うこのメイドはどうだろう?こうも自分に正直な人間は久しぶりに見た気がする。
「まあまあ、お茶でも飲んで落ち着きましょう」
「誰の所為だと思っているんだ」
まあ、茶の入れ方は今までの使用人の中で一番上手いからもうしばらく付き合ってやるか。
~次の日~
「メアリ、ダンが・・・ダンが普通に登城したぞ!!」
「ええ!?あのダン・エンドー子爵がですか?」
「ああ、それなりに豪華な馬車に乗って貴族服を着て礼儀正しく正規の手続きでメアリに謁見を求めている」
「信じられません・・・あの“他人をからかうのが生き甲斐”みたいな人間が・・・」
しばらくするとノックとともに見知った人物が部屋に入ってきた。
「メアリ、ダンが普通に登城した・・・ぞ?」
「・・・・・そんな事だろうと思ったわよ!!」
「姫様口調が怖いぜ」
けらけら笑うマイクローナ(の姿をした段蔵)を睨みつけながらメアリは席を勧める。
王国の礼儀作法に則り完璧に着席してみせる。
「何で礼儀作法完璧なんですか!!」
「お姫様相手に完璧にやらないと失礼だろう!!」
「ですから・・・ああ~もう、話が進まないので無視です。お呼びしたのは兄上についてなのですが」
「まさか追い出された家庭教師の代理でもやれってんじゃ無いだろうな?」
「そのまさかです・・・と、言ったら?」
段蔵は渋い顔をして天井を見つめ・・・たかと思えば視線を下に落とし暫く瞳を閉じてから頭をポリポリと掻いた。
「どいつもこいつも似たような話ばっかり俺ん所に持ってきやがる・・・良いぜ、その話引き受けた」
メアリとマイクローナは目を丸くしていた。
「何だよその顔」
「いえ、その・・・引き受けてくれるとは思わなかったので」
「お前らが頭を抱える難物の面を見てみたくなっただけだ。ただ、教育方針は俺の好きにさせてもらう」
言うが早いか段蔵は部屋から消えてしまった。
「パロット様は我等の要、本当に任せて良かったのですか?」
「姉様達や私は得手不得手がはっきりしていて専門分野には強いですがそれ以外には弱い、対して兄様は得意な専門分野こそありませんが非常に広い範囲での知識を持っています。王として国全体を動かせるのは広い視野を持つ兄様こそが相応しい」
「妙な事にならなければ良いが」
◇ ◇ ◇
廊下を歩くパロット王子の背後をまるでベテラン侍女の如く背後に着き従うシャーロット、見る人が見れば絵になる王族と従者の構図だが王子は疲労困憊だ。
「お疲れですか王子?お部屋に戻ってどっく~~んとしてぴゅぴゅのぴゅ~~ってしちゃえばスッキリしますよ?」
「誰の所為で疲れていると思ってるんだ!まったく、こんな時にまた新しい家庭教師か姉上達は一体何を考えて・・・いや、仕組んだのはメアリか?何にしろ迷惑な話だ」
パロットが自室の扉を開けると目を疑うような光景が広がっていた。
「んな!?」
「まあ♡」
そこに居たのは二人が良く知る人物、つまりパロット王子とシャーロットが抱き合って濃厚な口付けを交わしていた。
唖然とする本物の王子と羨ましそうに見ているシャーロットだったが直ぐに我に返る。
「おま・・・お前は一体・・・」
もう一人のシャーロットから唇を離すもう一人のパロット王子、唇を離す瞬間もう一人のパロット王子は楽しそうに本物のパロット王子を見据えた。
「今日からお前の家庭教師になるパロット・エルキュリアだ。会って早々で悪いが・・・者共掛かれ!!この二人を捕らえろ!!!」
その声に呼応する様に周囲から女兵士が現れ本物のパロット王子とシャーロットを拘束する。
「何をする!止めろ!」
「この人数相手では流石にマズイです」
あれよあれよと言う間に二人は揃って地下牢に押し込められてしまった。
「出せ!おい、聞いているのか?」
「まあ、王子ここは落ち着いて囚人同士仲良く子作りでもしましょうよ」
「何でお前はそんなに落ち着いているんだよ」
「アレは王子そっくりに化け尚且つその連れも私そっくりの姿をしていました。今、王国内で・・・いえ、この世界でそんな事が可能な人物はたった一人」
「噂に聞く多面怪盗って奴か!?」
「私達を包囲した兵達も今まで城内では見た事の無い顔でした」
「兵の顔全員を覚えているのか?」
「侍女として当然です・・・それはそうと彼のナイアールの子飼が大量に城内に侵入しているとなれば落城したも同然、焦っても無駄ですね。ですが彼は自分の事を“家庭教師”だと言っていました」
「確かに今までの家庭教師よりは面白そうだがな!!っと」
パロットは腹立ち紛れに『ガン』と牢屋の出入り口を蹴っ飛ばすと意外な事にあっさりと開いた。
「何だ?鍵が掛かって無いのか?」
「見張りも居ないみたいですね?」
牢を出て直ぐのところに小さな机が設置されていてその上には一枚の紙が置かれていた。
『自分の部屋まで戻って来て見せろ。戻って来れば50点、途中で赤・白・黒・青・紫の美女の下着を一枚ずつ持ってきたら各色につき10点プラスしてやろう、見事満点で戻って来る事を期待している。 ナイアールが多面の一つ“幸福の王子 パロット・エルキュリア”より』
「ふざけやがって」
「遊んでいるのでしょう。途中で捕まれば私達の負け、条件を満たせば私達の勝ち、恐らく向こうの手回しは済んでいると思われますので城内の誰かに助力を求めるのは危険ですね」
「城内の隠し通路を使うか?」
物陰から隠し通路の入り口を覗き見たがぴったりと兵士が張り付いていた。
「動く気は無いみたいですね」
「この様子だと他も押さえられているな、抜け目無いヤローだぜ」
「ですが配置できる人員には限りがあると思われます」
「見張られていない部屋に入りながら移動するか」
「近くに衣裳部屋がありますのでまずそちらを目指しましょう」
衣裳部屋に入ったパロット王子は直ぐに後悔した。
「おい、何だこの格好は?」
「敵の目を欺く為に衣装を変える必要があるかと思いましたので」
「それは理解した。だが、何でメイド服なんだよ!!」
頭に白いメイドキャップを被り衣装は妙に丈の短いメイド服、その姿にシャーロットは必死に笑いをこらえている。
「とってもお似合いですよ~ぷぷ~~」
「はぁ~~~~~、もう良いや。んで?ここに下着は無いのか?」
「何ですか?相手の遊びに付き合う気になったんですか?条件に合うものはこの部屋には無いみたいですね」
「他に心当たりは?」
「う~~~ん、この時間ですと“あの”場所ですかね?」
シャーロットの変装も済ませ、たどり着いたのは大浴場の脱衣所だった。
「ふう、何とか気付かれずに入れましたね」
「恥ずかしくて死にそうだ・・・」
「私の初めてをもらってくれるまで死なないでくださいね」
「んで?ここに下着があるって?」
「無視ですか・・・。ええ、この時間ですと“あの”お二人が入っているハズですので」
「まあ、どんな奴が入ってるか知らんがこのまま失敬して・・・」
二人が赤のブラと青のパンティーを手に取ったそんな時、浴室への扉の向こうから声が聞こえてきた。
『最近ジェーンお姉様のところに行ってたみたいだけど、何か収穫はあったかしらン?』
『ええ、レモン様のお役に立つ情報を頂いて参りました。例の件に関しましても・・・』
『それは楽しみねン・・・それにしても・・・その胸どうしたらそんなに大きくなるのかしらン?』
『ただ単に私が年増なだけですよ』
そんな話を聞いた王子は青ざめた。
「おい、今入っているのって・・・」
「レモン姫様とネコ夫人ですね。この時間に入るのは日課みたいなものですから」
「知ってたんなら教えろよ!!」
「王子!そんな大声出したら・・・」
『そこに居るのは誰だ!!』
城の中を駆け回る下着を持った二人のメイドと追い掛け回す数人の衛兵。
「王子様のバカ~~~~」
「うるせえ!最初から説明してれば良かっただろうが!」
「そこの角曲がったら打って出ますよ」
「出来んのか?」
「お任せ!」
「「せ~~~の!!」」
二人は待ち構えると追ってきた衛兵に仕掛けた。
「バーティツ秘儀【体崩し】」
「オラオラ!水連拳」
二人は衛兵達の意識を次々と素早く刈り取った。
「この方々は一般兵みたいですね、件の怪盗とは無関係でしょう」
「ああ、俺も見たが連中追いかけるフリをして適当に引っ込んで行ったな。直接戦う気は無いらしい」
「この先に物干し場がありますからそちらで目的の物が手に入るかもしれませんよ?」
「こんな目に遭ってまでやってんだ。ぜってー満点で戻ってやる」
物干し台には色とりどりの下着が干してあった。物色する二人の姿は第三者から見るとメイドが洗濯物を干している様子に見えないでもなかったので怪しまれる事は無かった。
「おっ全色揃ったか?」
「長居は無用ですね、お部屋に戻りましょう」
戻る途中の廊下の様子をこそこそと伺っていると一瞬廊下に微風が流れた気がした。
(何だ?)
廊下の角からそっと様子を見てみると小さな白い翼を持ったボブカットの女性が背中を向けて立っていた。
「ヒソヒソ・・・あの方どこかで見たような・・・」
「ヒソヒソ・・・あの髪型に小さな翼・・・どっかの晩餐会で見たな・・・確か極星の妹の」
背後で様子を伺っているといきなり向こうから後ろを向いたまま話し掛けてきた。
「そんなところで隠れていないで出てきては如何ですか?」
様子を見るのを止め、二人は女性の背後に出てきた。それと同時に女性も二人に向き合った。
「ボフッッッ~~~~クップププ~~~~~」
(盛大に吹き出した!!)
「クフフ~~~ッ、いえ失れップフッ~~~、失礼・・・致しました。王子があまりにも・・・その・・・お似合いだったもので・・・」
その発言に改めてシャーロットも吹き出した。
「プフフ~~ぶれ・・・無礼者・・・私が成敗いたします・・・ぷす~~~」
「お前も笑ってんじゃね~か!」
「バーティツ【突風掌】」
シャーロットの掌打が女性にヒットし廊下の端まで吹き飛ばされるが、女性は何事も無かったかのように壁に激突する寸前にくるりと体勢を変え着地した。
「王子様・・・アレは少し不味いです。今の一撃は完全に受け流されてしまいました」
「悪くはありませんね、少し前の私でしたらそのまま壁に叩きつけられていた事でしょう」
女性は両手から小さな風魔法の玉を一つずつ作り出すと二人に向かって投げつけた。一方の玉は素早くもう一方はゆっくりと飛んでくる。
素早い方をやり過ごし女性に迫ろうとする二人だが回避した玉から突然暴風が発生した。二人が「不味い」と思った瞬間、正面から迫っていたもう一つの玉も弾けた。廊下には傷一つ付けず二人だけを暴風が襲う、白色の衣服の一部らしき物が細切れになったのを確認して謎の女性ことオデットは通路に流した微風の僅かな変化から人が近づいてくるのを感じた。
「ここまでですね」
そう言うと風の魔法を止めた。二人はその場で倒れ込んだがオデットは直ぐに立ち上がる様促す。
「もう直ぐこちらに・・・恐らくジェーン様と思われる女性がやって来ます。お二人はそちらの空き部屋から天井裏を通って部屋にお戻りなさい」
「何で助けてくれるんだ?」
「私の祖先は王国に御恩がありますので」
そう言うとオデットはジェーンの足止めの為通路の先へと向かった。
『む?貴女は確かペレンナ家の・・・今はエンドー子爵夫人だったか?こんな所で何をしている?』
『これはジェーン殿下、御久しゅうございます。夫が仕事で登城しておりますので私もご挨拶をと思いまして・・・』
家具の上に乗って天井裏まで上るとパロット王子はその光景に目を見張った。
暗い、どこまでも暗い景色の向こうに点々と光が漏れていた。華やかな王城の裏にこんな世界があったなどと彼は初めて知ったのだ。
「そうか・・・これこそが・・・」
ナイアールが見せたかった世界の裏側のほんの小さな一部分、その光の一つを覗き見てみた。
(メアリの部屋?)
『ナイアールに任せて本当に大丈夫なのか?』
『心配無用です。彼ならばきっと兄様を立派な国王にしてくれます』
(メアリとマイクローナ・・・ナイアールと繋がっていたのか・・・)
(王子、こっちでは妙な話が・・・)
シャーロットに言われて見てみれば、中年の貴族二人が何やらこそこそ話している。
『レモン様に付けばワシ等も安泰よ』
『しかし邪魔なのはジェーン派の連中か・・・パロット王子やメアリ姫は・・・』
『放っておいてもあんな若造共には何も出来まいて』
『それもそうか・・・』
各部屋を巡って王子は様々な真実を目の当たりにした。闇に目が慣れた頃、ふと正面を見れば一人の女性が立っていた。
二人は警戒したが女性は優しい口調で二人を導いた。
「そろそろお部屋にお戻りください、“天井裏の散歩”の危険性を理解しない内に癖になれば毒ともなるでしょうから」
そう言うと足元の天井板を外し部屋の中へと降り立った。二人も後に続く、夕日に照らされた久しぶりの自室は眩しくつい目を細めてしまう。
「どうだったかな?今日の授業は」
太陽を背にしているその男は自分とあまり変わらない歳に見えるが影のように黒く、それでいて確かな存在感を持って立っていた。
「今まで受けたどの授業よりも最っ高ぉぉぉぉ~~~に楽しかった!!」
「それは良かった。では、採点の時間だ。部屋に辿り着いたので50点、加点を求めるのであれば指定した物を提出しなさい」
言われた通り持ってきた下着を差し出すが・・・。
「赤・黒・青・紫・・・・ん?白が足りないみたいだな」
「あっ!」
その瞬間王子の脳裏に先ほどのオデットとのやり取りが浮かんだ。
(あの時、風魔法で一枚細切れにされたんだ!!)
「90点、今日は残念だったが何、最初でこれなら中々・・・」
「お待ちください!!」
待ったを掛けたのはシャーロットだった。
「加点をお願いします」
そう言うとシャーロットは自身のスカートに手を入れ純白のパンティーを取り出しそれを差し出そうとした。
「待った!待った!待った!今回は90点で良いからシャーロットはそれを仕舞ってくれ」
王子は何故か・・・なんとなくだが【ソレ】を他人には渡したく無いような気がした。
「ほっ?良いのか?折角の満点を逃しても」
「国家の運営には時として満点とは言えぬ選択肢を選ばなければならぬ時もあります」
ナイアールは・・・段蔵はシャーロットの両手をしっかりと握るパロット王子を見てニヤリと笑みが零れた。
「ははは、他はともかくその女の下着だけは渡したく無いか、中々良い答えだ。気に入った!」
そう言うと段蔵は部屋の窓を開け放った。
「明日からは外での授業だ。俺が来るまでしっかりと準備しておけよ!」
「先生!!」
「それと・・・そろそろメイド服から着替えたらどうだ?」
言われて自分の姿を見ればまだ恥ずかしい格好をしている事を思い出した。
「先せ・・・」
その一瞬で先生は姿を消してしまった。残ったのはシャーロットと先生の助手をしていた女性だけだった。
「王国諜報部の者です。僭越ながら私がパロット殿下とナイアール様の繋ぎ役をさせていただきます」
そう言い残すと彼女も退室した。
残ったのはパロットとシャーロットの二人だけ。シャーロットはニヤニヤと笑っていた。
「そんなに私のパンティーが大切だったんですか~~~~?」
「ち・・・ちが」
「むふふ~、でしたら【コレ】は王子様に献上いたします♡あっ!!今日はもう自室に戻りますので存分にお使いくださいませ、それではまた明日」
とうとう一人になった部屋の中でパンティーを握りながら呆然とする王子の姿がそこにはあった。
余談だがお気に入りの下着を盗まれたジェーン レモン メアリ オルタンス マイクローナの五名は怒りと恥ずかしさで完全武装して城内を駆け回り、特にメアリとマイクローナはナイアールが犯人だと断定してパロットに詰め寄ったがまさか自分が犯人とも言えずに曖昧な返事を繰り返すばかりだった。
(まあ、先生が元凶なのは間違い無いし、ここは全部の罪を被ってもらおう・・・)
後編は予告通りアイリーン対ナイアールの対決です。それが王子の授業とどう関わるのか、お楽しみに~~~ 感想お待ちしております。




