第四話 怪盗ト英雄ノ刃
相変わらずスローペースですがお楽しみいただけたら幸いです。
【飛べない白黒鳥の涙】事件から数日後、ヤベーゼ家当主アサデル・ヤベーゼは自領の観光地に数々の犯罪者を捕らえたとされる才女、アイリーン・ショルメ隊長が部下の一人と休暇に来ていると聞きつけ宿泊先の宿に自ら馬を走らせた。理由は勿論かの奇人“多面怪盗ナイアール”からの予告状が届いたからである。
宿に着いたアサデルは宿の主人に話を付けアイリーンの部屋まで通された。部屋は宿の中でも最上級で柔らかな寝具にテーブルには高価な葡萄酒と菓子が置かれていた。そんな部屋に美少女が二人これはまた柔らかそうなソファーで寛いでいた。少女の一人は美しい銀髪を腰まで伸ばし肌は褐色で黒い瞳が輝いていた。アサデルが聞いた話だとこちらがアイリーン・ショルメ隊長で間違いない様だ。もう一方の少女は長い金髪を馬の尾の様に後ろで結んで眼鏡をかけた緑の瞳の知的美人といった感じの少女だ。こちらは副隊長のリト・ウッズ女史であろうか?
銀髪の美女は不機嫌な表情でアサデルを迎えた。
「話は宿の主人から聞いてはいますが今は私は休暇中ですわ。あまり問題を持ち込まないで頂きたいものですわね」
金髪の美少女が銀髪の美女に寄り添いあからさまに不満の声をあげる。
「折角アイリーン様と久しぶりの休暇ですのに邪魔しないでもらいたいわ」
美しい外見とは裏腹に相当な実力者であろう二人の気迫に冷や汗をかいたアサデルだったがそれでも引き下がるわけにはいかなかった。
「待ってください、予告状の指定は明日の朝となっています。是非専門家であるショルメ隊長に協力していただきたいのです」
少女がなおも声を荒げる。
「ならば王都のマイクローナ司令に連絡されるとよろしいではないですか?なにも・・・」
言いかけた言葉を銀髪の美女は腕で遮る。
「リト、今から連絡したのでは片道で2日、朝までに援軍は間に合いませんわ。ここはやはり私たちが行くしかありませんわね」
「ありがとうございます」
「しかしよろしいのですか?わたし達は前回の一件で結局ナイアールに出し抜かれてしまっていますわ。それなのに頼って下さると?」
一瞬、アサデルがいやらしい笑みを浮かべたが二人は気づかないフリをした。
「それでも彼の怪盗に最も近づき研究してきたのは捜査部隊の皆様に他なりません。今、王国内にあなた方程ナイアールに詳しい者などおりますまい」
「そこまで信頼されてはこちらも応えるのが礼儀ですわね。予告状を拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「これです」
『明日の朝、アサデル・ヤベーゼ様の購入された【エドガーの短剣】いただきに参上、 多面怪盗ナイアール』
エドガーとはこの世界では有名な魔法剣士でモンスター退治の英雄とされる人物である。そんな人物が使用した武器ともなればさぞ歴史的価値の高い物だろう。
「“購入された”とありますが?」
「ええ、先日アークド商会から買った逸品です。伝説の品ですから商談は外部に漏れぬよう細心の注意を払い輸送も厳重に行った筈なのですが・・・」
「ナイアールに気づかれてしまった訳ですわね」
二人の女性はそれを聞くとソファーから立ち上がり出立の準備を始めた。
「ヤベーゼ殿は先にお戻りください、準備が整い次第お屋敷に向かいますわ」
「おおっ、それではお待ちしておりますぞ」
アサデルが立ち去った後に軍服に着替えながら今回の件についての意見交換を行った。
「一瞬見せたアサデルのあのいやらしい笑み、ホント気色が悪いわ。アレ絶対何か企んでいる顔よ」
「さしずめナイアールと捜査部隊中心のアイリーン・ショルメ リト・ウッズの両方を排除って考えているんですわ・・・それよりも【エドガーの短剣】が気になりますわね」
「“こちら”の調査ではアークド商会以前の足取りが全く掴めなかったというお話でしたね」
「お・・・私が思うにアサデルとアークド商会共通の“上”が考えた策ですわ」
「【エドガーの短剣】を囮に使ってまでですか?見立てでは商会に渡った物は本物だったんですよね?」
「ええ、あの短剣から発せられる歴史を持つ物のみに許された“魅力”は、単に宝石で飾ったいけ好かない武具などとは格が違いますわ」
「ダ・・・解説はいいですからそれよりも“お宝を使った罠”どう破るおつもりですか?」
「うーん?高いお酒でも持って行ってご機嫌でも伺いますわ」
「?」
深夜、ヤベーゼ邸【エドガーの短剣】が飾られている部屋の中で腰からサーベルを下げた銀髪の美女とレイピアを下げた金髪美少女がアサデルや屋敷の警備兵達に大仰な演説をしていた。
「いいですか?前回、私が敗北した原因は奴の変装と目くらましにありますわ。多面怪盗・・・くやしいですが奴はその名に恥じぬ変装の名人、その気になれば老若男女種族すら問わず成りすます事ができますわ」
ざわざわとどよめく兵達に対し優しく微笑み話を続けた。
「しかし、対策はありますわ。兵士が下手に巡回するから隙が生まれ出し抜かれる。ならば策の一つとして屋敷外の八方向に固定の見張りを置き何かあれば笛で呼び出せる様にしましょう、策その二は屋敷内部の人員を少数にして魔法・剣術・武術の優れた者のみに絞りますわ。これは、内部での混乱を極力抑え変装や目くらましによる同士打ちを防ぐ狙いがありますわ」
「「おお~っ」」と兵達の中で歓声が上がる中、アサデル他数名は苦虫を噛み潰したような顔をした。
(アサデルの旦那いいんですかい?あんな小娘共に好き勝手されて)
(なに・・・構わんさ、隊長様達はこの部屋で見張りをするらしいからな、この部屋を儂たちで固めればあんな小娘如きに何が出来るものか)
(へっへっへっそれじゃあ旦那、事が終わればあいつら俺たちが貰っちゃっても構いませんね?)
(まあ、好きにするがいい)
アサデル達の下劣なやり取りとは裏腹に演説は佳境に入っていた。
「今夜景気づけに私とウッズ副隊長で最高級の葡萄酒とささやかながら夜食を外の馬車にご用意いたしましたわ。存分に食べて飲んでいつでも作戦通りに動けるようにしておいてください、頼りにしておりますわ」
こうして、屋敷の外では指示通り定位置で腹を満たした兵達が見張りを始めその一方で屋敷内でも酒が振舞われた。
「おっと、アサデル様は飲まれる前に二・三確認したいことがありますわ」
「どうされましたかな?」
「この【エドガーの短剣】についてですよ、アークド商会から買ったとの事ですが?」
「ええ、話を聞いた時には驚きました。まさか伝説の品が自分の物になるチャンスが巡ってくるなんて思いもしませんでしたからなぁ」
「さぞ、お高かったのでしょう?」
「世界の秘宝を手に入れるのに金額なんて大したものじゃありませんな」
「あっ資金の出処当ててみましょうか?」
銀髪美女は悪戯っぽく笑って言葉を続け、アサデルはその言葉に真っ青になった。
「【魔薬】(地球の麻薬に相当する魔法薬)の密売・・・ですわよね?この領地のあなた自身が建設に関わった建物の地下には精製工場がりますわ」
「なっなっ何を・・・」
「でも妙ですわね?伝説の秘宝を買ったにも関わらずお金が減るどころかむしろ増えているというのは?」
美女はピンと人差し指を立ててさらに話を進める。
「ならば、こういうのはどうでしょうか?貴方は“上”からの命令で【エドガーの短剣】を囮に使い例の怪盗と捜査隊中心人物の抹殺を支援金とともに受けた。そこに丁度奴の予告状が送られてきたうえに私達がたまたま旅行に来ているという情報を掴んだ。これはラッキーと思った貴方はこの状況をすぐに利用してやろうと考えた・・・ですがはっきりと申し上げますわ」
そう言ってアイリーンは・・・否、アイリーン=ショルメだと思われていた人物はバッと服を捲り上げその正体を表した。
真っ黒なタキシード上下に同じ色のシルクハット、首には真っ赤なリボンタイとそれを止める黄金のタイピン、目元を覆う真っ白な仮面にそしてその手には【エドガーの短剣】、彼こそ多面怪盗ナイアールだ。
「そんな急ごしらえの作戦で俺を嵌めようなんざ千年早い」
そうするとナイアールと同じ仮面を着けた金髪の少女が勢いよく部屋に入って来る。
「ナイアール様!不正の資料を沢山見つけました!!」
「おお~よくやった。これだけあれば十分だろ。おっと紹介が遅れたなアサデル、この娘は俺の第二婦人だ。まっ、もう会うことも無いだろうがな」
リト・ウッズのフリをしていた美少女はアサデルに優雅な会釈をした。
その光景を見て怒りで顔を真っ赤にしたアサデルが怒鳴り散らした。
「何をしている?!さっさとこの二人をコロ・・・ええっ!!」
アサデルが部下をけしかけようと部屋を見渡すと皆ぐっすりと眠りこけていた。
「先ほど配ったお酒にちょっと強めの奴を混ぜておいたんですよ。そう簡単には起きません」
そう言うとナイアールは服の中から鎖を取り出しアサデルに投げつけた。鎖はあっという間にアサデルを縛り上げその勢いで足がもつれたアサデルは俯せに転んでしまった。
「んじゃ他の連中も縛り上げておきますか」
「はい、ナイアール様♪」
てきぱきと眠りこけている連中を縛り上げながら少女が問いかける。
「しかしこんな変装でよくバレませんでしたね」
「ここに来た時真っ先に“アイリーン・ショルメとリト・ウッズが来ている”って噂を流しておいたからな、王都から離れた土地じゃ二人の正確な容姿なんざ伝わっていないだろうし、欲望丸出しのアサデルは目の前の餌に面白いほど簡単に食いついてくれたよ。まあ、俺の世界の物語を参考にした手口で恐縮ではあるがね」
「成る程、既に読んだ物語から着想を得たわけですか?でも、物語の出来事を実行して成功させるなんてさすがです」
ナイアールは床に転がってもがいているアサデルに声を掛けた。
「そんじゃこいつは有難くもらって行くぜ、薬が切れる頃には本物のショルメ隊長殿も来るだろうしな」
「おい!片道で2日掛るんじゃぁなかったのか!?」
「ああ、だからすぐに到着してもらえるように捜査隊本部にも予告状を送っておいた。今頃血相変えて馬を走らせている頃だろうぜ」
「ダ・・・ナイアール様、この証拠資料はどうします?」
「半分は隊長殿の手柄にくれてやれ、頑張ってここまで来るんだし、景品ナシじゃ可哀想だろ?」
そう言ってナイアール一味は奪う物を奪って屋敷を出てしまった。当然見張り番も夢の中、誰にも邪魔をされずのんびりと屋敷を後にした二人を住民が見たとしても誰一人として泥棒だとは思わなかった事だろう。
数時間後、現場には数名の兵士を連れた二人の少女が乗り込んできた。一人は美しい“金髪”を腰まで伸ばし肌は“健康的に赤みがかり”“紅い”瞳が輝いていた。もう一人の少女は長い“黒髪”を馬の尾の様に後ろで結んだ体育会系美人といった感じのエルフの少女だ。アサデルは叫んだ。
「全然違うじゃねぇか!!」
「何かよくわからないけどナイアールはもう居ないみたいっス」
「むむむ、一足遅かったですわ。ですが此処の連中を放っては置けませんわね」
アイリーンは、大きく片手を上げて指示を出した。
「アサデル・ヤベーゼ並びにその側近どもを魔薬密造の容疑で逮捕しますわ!全員掛かりなさい」
「「オオッッ~~!!」」と掛け声と共に捜査隊員達が一斉に屋敷内の捜査に駆け出した。その光景を見ていたアサデルには最早口を開く気力すらなかった。
数日後、エルキュリア王城内のメアリ姫私室では二人のメアリ姫と護衛のマイクローナが密談していた。
「その格好で部屋に入るのは止めていただけないかしら?」
「この格好が一番この部屋に馴染むと思うのですが」
声真似までして段蔵は悪戯っぽく反論する。
「ふぅ、それで今回は魔薬密売組織の壊滅でしたわね?私達に報告する程の情報でもあったのかしら?」
「こちらの捜査隊でも大方の情報は掴んでいるが?」
その反応を見て段蔵は少し困った顔をした。
「実はこっちで手に入れた資料にヤバイ感じの手紙が入っていたのでそれを持ってきた。そっち側に渡した資料に入っていなかったとなるとこれが連中の“上”に関する唯一の情報みたいだな」
そう言って段蔵がテーブルに手紙を置くと二人は内容を吟味した。手紙には短くこう書かれていた。
『秘宝を餌に怪盗と捜査隊を消せ、手段は問わない。 女伯爵』
「この、“女伯爵”様が何者か知らんがどうも大きな犯罪組織が関わっているのは間違い無いようだな、実はダンドレジー領でも同じ差出人の手紙を見つけた。証拠を殆ど残さない厄介な相手だよ・・・だが部下は間抜けだったな」
「この国はまだまだ平和とは程遠いようですわね」
メアリ姫は少し頭を抱えたが直ぐに切り替え新しい話題を持ち出した。
「そういえば貴方、ヤベーゼ邸では第二夫人とやらを連れていたそうですがお話を聞かせていただけますかしら?」
段蔵は少し考えた後ダンドレジー領での冒険譚を語りだした。この世界で出会った“クラリース・ダンドレジー”との最初の物語を。
時系列がごちゃごちゃしますが次回はダンドレジー領での事件です。




