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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
怪盗 王国ニ舞ウ
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第三十九話 ナイアールの逮捕 後編

もっと簡潔にまとめる筈だったのに前編中篇より明らかに長くなっちゃいました。

予告当日のペレンナ領、領主屋敷の周囲には怪盗の姿を一目見ようと野次馬が集まり始めていた。中には朝一で場所を取っている猛者までいる。この機会に屋台を出して一儲けしようと考える者達も大勢いたのでちょっとしたお祭り騒ぎである。


「怪盗飴に怪盗焼きって味は全部普通っスね~」


早速食べてきたと思われるリトに全員があきれながらも作戦会議を続ける一同、いまひとつ緊張感に欠けるのは狙われた物がモノだからかもしれない。


「ナイアールは何故【スービーズの首飾り】を狙わないのでしょうか?当家にはあれ以上の美術品は無いのですが」


そんな伯爵の問いにアイリーンはまるで当たり前の事の様に答えた。


「そんなの、前回と同じじゃツマラナイからですわ」

「はあ、そんなものですかね・・・(ダンの奴から今回の大まかな狙いは聞いているもののこんな大騒動を起こすとは派手好きにも程がある・・・オデットも苦労するだろうな。しかし、今は予定通り全力で“ナイアールを捕まえる事”に集中せねば・・・)」

「伯爵も何やら気合十分ですわね、ホラ貴方達ももっとやる気を出しなさいな!!」


漆黒の鎧に身を包んだオデットが自身の意見を述べる。


「捜査部隊の皆様を見て確信しました。私は今回捜査部隊の支援に全力を注ぎたいと考えています」


それは好戦的なオデットにしてみれば消極的な意見だったかもしれないが自分の正体を一目で見破ったアイリーンであっても何度も取り逃がす程の相手、自ら闘い肌まで重ねた男だからこそ自身の役割を理解し徹していなければ容易に出し抜かれてしまう、今回のオデットの申し出は勝ちに行くという決意の現われであった。


「具体的にはどのような?」

「まず屋敷周辺の野次馬を下がらせて下さい、その後屋敷周辺半径100mを風の結界で包み込んでしまいます。私は結界の維持のため一切行動出来ませんのでそれ以外の事は全て皆様にお任せします」

「オデット様のお世話は僭越ながら私ライアが勤めさせていただきます」

「なるほど、考えましたわね。これなら外部から進入しようとしても入れないし既に内部に侵入していたとしても外には出られない、単純ですが効果的な策ですわね」

「そうと決まれば野次馬を少し下がらせるっス、半分は自分についてくるっス」

「よろしくお願いしますわ。しかし結界で包むとやって来るナイアールの姿が見えなくなるのではありませんこと?野次馬の皆さんには少し可哀想ですわね」

「目には見えるよう調整しておきますから安心して下さい、声に関しても風の所為で指令が聞こえなかったら本末転倒なので聞こえるようにしておきます」

「至れり尽くせりですわね~、いつもこれだけ協力的な人ばかりなら仕事がやり易いのですが」


伯爵が渋い顔でアイリーンに尋ねた。


「やはり他では友好的な協力は得られないものなのですか?」

「友好的どころか厄介者扱いですわ。わたくしの行く先々で不正がバレているのですから当然ですわね。伯爵もそういった経験ありますわよね」


あまりにも無礼な物言いに協力を約束したオデットでさえも立ち上がろうとしたが伯爵は片手で制した。全てを見透かすようなアイリーンの瞳で見つめられ伯爵は訥々(とつとつ)と昔語りを始めた。


「妻と結婚する前の話です。伯爵位といっても所詮は田舎領ですから出世欲から血気に逸って過ちを犯した事位はあります。まあ、騙すつもりが逆に散々騙されて蹴っ飛ばされたんですがね。結婚して娘が産まれてからは権力闘争には関わらないようにしています、自分向きじゃありませんから。若気の至りってやつですな」

「誰にでも間違いはあるものですわ伯爵、貴方は信頼に足る方みたいですね」

「敵いませんな、この話は墓まで持っていくつもりだったのに」

「そういう貴女には何も後ろ暗い事は無いのですか?誰にでも間違いはあるのでしょう?」


意趣返しといわんばかりにオデットが質問を返すがアイリーンは大きく胸を張って自信満々に答えた。


「ありませんわ!わたくし高貴で完璧な人間ですもの、日陰の世界なんて似合いませんわ」


などと臆面も無く言ってのけた。

それを聞いた伯爵は少しだけ笑っているように見えたのだった。


「それで、ワインはどちらに?」

「地下の食品保管庫に入れてあります。デリシャの爺様みたいな立派なワインセラーは持ってませんからな」

「では入り口に隊員を二人配置しましょう、あまり多く人員を配置すると他の食品運搬に支障が出ますので」

「晩餐にはワインを出すっスけど、運搬はどうするっスか?」

「ウッズ副隊長殿と妻にお任せします」

「地下室から出る時は簡単にボディチェックをさせていただきますがご了承下さいませ、配置する隊員も女性隊員ですのでご安心を」


大まかな方針は決まった。後は全員配置に着いてナイアールを迎え撃つだけだ。

アイリーンが地下室担当の二人を呼び出し何やら打ち合わせをしている。


「ですから・が中に入った時だけ確実に・・・それ以外は出る時にワインを持っているかいないかの・・・」

「私も自室で結界の準備をしよう。ライア、何か簡単に食べられるお昼を用意してくれ」

「ふふふ、お任せ下さい」


ライアが食材を求めて地下食料保管庫に立ち入ると早速アイリーンの部下達が扉の前に立っていた。


「どういった御用でしょうか?」

「オデット様の為にチーズを少し分けていただこうかと、伯爵夫人の許可はいただいております」

「その瓶は?」

「ああ、これですか?」


ライアの手には酒瓶が握られていた。


「ダンドレジー家から持ち寄った果実酒ですよ。折角だから帰るまでここで保管させていただこうかと思いまして、飲みかけで良ければ皆さんも如何ですか?」

「いえ、仕事中なので結構です」


もっと厳しいかと思いきや意外とあっさり入れて、チーズ(ついでにハム)を持って出る時もワインを持っていないか簡単にチェックを受けただけで済んだ。


「持ち物はチーズとハム、お皿と切り分け用のナイフが一本・・・問題ありません、退室を許可します」

「後はパンがあれば良しですね。厨房かしら?」


夕方、突如としてそれは起こった。

ガシャンという何かが割れる音、そして・・・。


「キャ~~~~~~~ッ!!」


絹を裂く様な女の悲鳴、アイリーン達は声のする方へと急行した。

現場は二階の客間に近い廊下、窓ガラスが割られライアが尻餅をついていた。


「何がありましたの?」

「な・・な・・・ナイアールがガラスを割って中に・・・」

「ライアさん!腕から血が出てるじゃないっスか!」

「えっ?・・・・・あ・・・ホントだ・・・」

「傷は浅いみたいっスけど一応手当てをした方がいいっスね。ついて来るっス」

「お手数をお掛けします」


ライアの手当てをリトに任せ現場を検証するアイリーン、魔力の流れから風の結界は正常に作動している。


「一体どうやって中に侵入したのかしら・・・」


アイリーンはしばらく外に散乱するガラスの破片を眺めていた。

侵入したナイアールの足取りはつかめず方法も不明、怪我したライアも軽傷だったので簡単に治療して直ぐに仕事に戻った。無論、この程度では終わらない事は明白である。

次にバルコニーの方から男の声が響いた。


「屋根に誰かいるぞーーー!!」


その声に外に出て見れば夕焼けに照らされた屋根の上に巨大な牛の角が生えた漆黒の人影が立っていた。結界の外側にいる野次馬達も待ってましたと言わんばかりに盛り上がっている。

人影は大きく両手を横に広げマントをはためかせる。その姿はまるで伝承に語られる悪魔そのものであった。


『世は不公平に満ちている。何故、悪人が蔓延り善人が虐げられるのか?何故怠け者が得をし働き者が損をするのか?私は歪んだ平等を必要とはしない、世に必要なのは公平さである。信賞必罰、ペレンナ伯爵は賞するに値する大人物であるが悲しいかな見合った評価を受けていないのが現実である。故に私が伯爵殿にささやかながら贈り物をしようではないか。晩餐までに今夜出されるワインを最高級品と入れ替えて見せよう。それでは皆様引き続き祭りをお楽しみ下さい』

(ダンの奴め、持ち上げすぎだろ。・・・だが、悪い気はしないな)


アイリーンが屋根に上り黒い人物の肩を掴んだがそれは真っ黒な人形だった。近寄って見れば案外形状がいい加減で途中で面倒になったのか黒い塗料も塗り方が雑で所々塗れてない部分がある。角部分もそこらの木の枝を束ねたものだが・・・。


「簡単に入手できる素材で軽く分解も組み立ても容易ですわね、・・・例えば商人が運び込んだ荷物に紛れ込ませる・・・あるいは旅人が土産と一緒に持ち込む、それももう直ぐはっきりしますわね」


そろそろ晩餐の時間だ。何かしらの動きがあるだろう、その前に一歩答えに近づいた人もいた。


「ライア、その腕・・・ナイアールが侵入する時に怪我したって言うけどさ、あの人は自分の妻をそんなに簡単に傷つけないと思うんだ。ちょっと激しい時もあるけどね、ライアお前本当は・・・」


オデットが言葉を紡ぐ前に結界は人知れず解除され、それ以上ライアを追及する者は居なかった。


「ごめんあそばせオデット、夕食は目が覚めたらご両親と一緒にお食べなさい」


お屋敷の大食堂に集められた一同の前には奮発したであろう料理の数々が並べられていた。


「今日は領内の牧場から牛の肉が沢山送られてきたので折角ですから捜査部隊の皆様にも味わっていただこうとご用意させていただきました」

「牛の肉って硬い安物ってイメージっスけどこのお肉・・・見た目からして別物っス」

「なるほど、伯爵はわたくし達を宣伝に使おうという考えですわね、おいしいお料理が食べられるならそれも悪くありませんわ」

「ところで結局何のイベントだったんだ?」

「そんな事も知らずに来たのか?って結婚記念日だっけ?」

「誕生日じゃないの?」


伯爵達やその家人、捜査部隊の面々の前に料理が並べられると伯爵のグラスに夫人がワインを注いだ。


「結局このタイミングでは現れませんでしたわね。リト、わたくし達も自前の酒を・・・」


伯爵がワインを一口実に美味しそうに味わっている。


「いや~美味い、なんと言うかこの牛の肉に実に良く合う。ダン氏はビーフステーキとか言っていたかな?ははは、安酒(・・)とはとても思えんな」


その言葉を聞いた瞬間のアイリーンの行動は早かった。

伯爵婦人の置いたワインボトルを引ったくりラベルを確認して一口分自分のグラスに注ぐと口に含んだ。


「舌触りは上質な織物ベルベットの如く繊細にして優美、この落ち着いた味わいは30年モノの【女神の恋】アジオ領主でも国王でも滅多に口にできない赤ワインの最高峰ですわ!!」

「へ?」

「貴女が犯人でしたのね。ライアさん・・・いえ、ナイアールの一面黒き雄牛(ブラック・オックス)!!」


指差され狼狽するライアに一同が視線を向ける。ライアは顔を青白くさせながら反論する。


「私がナイアールって一体何の冗談でしょう、私はただの・・・ただの使用人です。ワインなんて盗んでいません」

「地下室でワインのラベルを張替えましたわね、貴方が酒瓶を持って地下室に入るのを隊員が確認していますわ」

「それだけでは!!」

「あと、あの窓ガラスですわ。貴方、外部からナイアールが侵入したとおっしゃいましたが、だとすれば廊下側に破片が飛び散るハズですわ、なのにあの時はほとんどが外側に飛び散っていましたわ、怪我はその時に出来たもの。つまり中からガラスを割ったのですわね」

「ぐっ・・・」

「さあ、観念なさい」


ライアは完全にうつむいてしまったがやがてその肩をプルプルと振るわせ始め、大笑いした。


「くくく・・・・ふふふはははははあ~~~~ははははは、エクセレント!!実にエクセレント、それでこそ、それでこそ我が宿敵ディテクティブそれでこそ名刑事ディテクティブ!!」


ライア改めナイアールは懐から何かしらの玉を取り出すと床に叩きつけた。その瞬間部屋が閃光に包まれ気づけばナイアールの姿が消えていた。


「地下のワインを取りに向かったのですわ。けれども手は打ってあります。皆さん折角ですからお肉だけでも頂いてから向かいましょう。出された料理に手をつけないなんて失礼ですわよ」

「こんなのんびりで良いっスかね~?」


~地下食料保管庫~


「おかしいですわ、ナイアールはこっちに逃げてきたハズなのに・・・貴女達、こっちにライア・・・極星の使用人だった女が逃げてこなかった?」

「いえ、私達はずっと見張っていましたが晩餐の準備以降は誰も入って来ませんでした」

「ナイアールがここに隠した本物のワインを盗りに来る筈、今の内に見つけ出してこちらで押さえておけばナイアールを捕まえられるかもしれません、中に入らせてもらいますわよ!」


二人の隊員に命じると地下の扉は開かれ内部を物色し始めるアイリーン、目的の物を持って地下を出ようとしたが問題が発生した。


「ちょっと!どうしましたの!?開けて下さいな!!このままじゃナイアールに逃げられてしまいますわよ!!」


そう、地下室の扉を完全に閉められてしまったのだ。

何度かアイリーンが扉を叩いたり蹴ったりしていると今度はいきなり扉が開いて・・・。


「まったく、開けるのが遅いですわよ。ナイアールに逃げられたらどうするんです・・・・・の」

「ええ、まったくですわねぇ~折角のチャンスですもの簡単に逃げられては困りますわ」


アイリーンの目の前には同じ姿のアイリーン リト その他の隊員達が待ち構えていた。


「あら~~~バレてたの?ですわ」

「絶対にわたくしの姿に変装して地下に入ると思ったので隊員にはあらかじめ私の姿をした者が部屋に入ったら閉じ込めて応援を呼ぶよう指示していたのですわ」


もう一人のアイリーンは冷や汗を流しながらじりじりと追い詰められていく。しかし、それでもまだ諦めてはいなかった。


「勝利への脱出!!ですのことよ~~~~!」


アイリーンに化けていたナイアールは隊員達を踏み台に大ジャンプ、一気に包囲の外へ抜け出した。だが、それも見越していたアイリーンがリトに指示を出す。


「うお~~~~~~~っ!!隊一の俊足リト・ウッズが相手っス~~~~~!!」


外に出たナイアールに驚異的な速度で追いつき行く手を塞いだ。


「うおっ!!こなくそ!!」


しかし、ナイアールは突進するリトの腕を絡め取ると勢いを利用して一本背負いで地面に叩きつけるがその隙はアイリーンが動くには十分だった。


「喰らいなさい、“豪炎拳”」

「へぶっ!?!?!?」


アイリーンの渾身の一撃をその身に受けたナイアールは遂に気を失ってしまった。


「確実に仕留めたと思いましたのに・・・それでも急所は奇麗にかわされましたわね。やはり侮れない相手ですわ」

「遂にやったっスね!隊長!!」


外での立ち回りを見ていた野次馬達から歓声が沸きあがった。


「すげーぞネーちゃん達!!」

「オデル様でも捕まえられなかったナイアールを捕まえただか?」

「酒とツマミの追加だ~~~~」

「何にでも化けるって聞いてたけどホントそっくりだな」

「こら~~~~!あんたが捕まえたから賭けに負けちまったじゃね~か!!」


拘束されたナイアールを馬車に乗せ領内の牢獄で一晩休んで王都まで護送すれば全てが終わる。

そう考えていた時期が彼女にもありました。


~ペレンナ領牢獄~


現在牢番達が噂の人物の投獄に上へ下への大騒ぎだった。中にはアイリーンやリトに握手を求める者までいる。


「全身引っぺがして見てみれば、鉄製の太い針にカツラが数点、こっちは危険な玉ね、未知の文字でそれぞれに印が付けられているけど恐らく用途が違うのですわ」


牢に入れられたナイアールは既に目を醒ましている。彼はニヤニヤと笑っているような気がした。“気がした”というのは彼の顔が見えないからであった。

彼のカツラを外すとカツラを被り易くする為かイガグリ頭に短く髪が切られていた。問題は変装用マスクを剥がした時に発生した。剥がしたマスクの下には顔が無かった・・・より正確に言えば顔が有る筈なのに頭がナイアールの顔を認識しないのである。

これはナイアールが特異な手段を使ったわけではなく彼を育てた組織の施した暗示であった。

“敵対心を持つ人間には彼の顔を認識できない”それは組織が彼の顔に植え付けた呪いの一つである。


「貴方が言った通り信賞必罰、裁きが下る時が来ましたわね」

「俺が裁かれる?遊んだ分の対価はしっかりと支払っているハズだが?」

「何の事か分かりませんが・・・」

「例えばヤーブ医師、あの愚かなヤブ医者があのまま国内で活動を続けていたらどうなっていた?例えば殺人鬼トキシーは?そして君だ。俺がこの世界に現れなければ君は今の地位に就けたのかな?君も俺の遊びの対価を受け取っている一人ではないのかね?」

「頼んでもいない事を!!」

「いいや、君は願っただろう?“何か変わった事でも起きないかしら”とあの部屋で・・・しかし、君が才女であるのは事実だ。俺が現れなくともやがては何らかの活動を開始していた事だろう、ならばその時牢に入るのは君ではないかな?」

「奇妙な仮定の話ばかりでこれ以上は無意味ですわね。リト、部屋に戻りますわよ」

「はいっス」

「よく考えるんだなアイリーン・ショルメ嬢、君ならこの状況どうする?」


看守の事務所に戻ったアイリーンはパラパラと囚人記録帳を読みながらリトと話していた。


「リト、あのナイアールの言葉ですが」

「あんなの単なる負け惜しみっス、自分達を無駄に混乱させようとしてるだけっス」

「最初はわたくしもそう考えましたが、それにしても辻褄が合わない、何故ナイアールは魔法を使わなかった?私の見立てでは土魔法と風魔法を警戒していたのですが」

「土魔法はともかく風魔法って何の事っスか?」

「【スービーズの首飾り】が狙われた時の詳しい経緯は知りませんが必ず極星と対決しているハズです。それでも盗まれたという事は極星が敗北したと言う事、ならば以前と同じ様に風魔法も盗まれていると見て間違いありませんわ」

「な・・・なるほど」

「話を戻しますわね。少なくとも私があのペレンナ屋敷で勝つならば魔法は必須ですわ、ゴーレムを使って極星を止めてしまえば楽になりますもの、いくら遊び好きとはいえ緊急時の対策はしっかりと立てておくものですわ」

「こっちを甘く見ていたって事じゃないっスか?」

「それだけは断じて有り得ませんわ、それに私だったら牢・・・」


そんな話をしている時乱暴にドアを開ける者が現れた。ダンドレジー領から急いで駆けつけたブラクラ将軍である。


「アイリーン・ショルメだな、聞いたぞ!貴様、ナイアールを捕まえたそうじゃないか、奴の身柄をこちらに渡してもらおうか」


狭い部屋に大勢の兵士達が押し寄せて来る。


「おわ!いきなり来て何勝手な事言ってるっスか!?うち等の手柄っスよ」

「貴様は誰に物を言っているんだ。私はジェーン第一王女殿下の直々の命を受けているオージャン・ブラクラであるぞ!!」


さして気にも留めずアイリーンは相変わらず囚人記録帳のページをめくっている。

しかし、それもとあるページでぴたりと手を止めブラクラに提案した。


「別に手柄を渡す事に異論はありませんわよ、お望みでしたら今回の事件の全権を譲渡いたしますわ」

「おお、隊長殿は話が分かるようだな」

「た・・・たいちょ~~~~」

「しかし、タダでとは流石にいきませんわね。それなりの対価をいただかないと、隊員達の宴会費用に100万程ですわね」

「なんだ?たったそれだけで良いのか?ふはははは、欲の無い女だが良かろう、今日の私は気分が良いからな」


簡易的な委任状にサインを入れてブラクラにさっさと渡す。ブラクラは実に上機嫌で金貨袋を置いてナイアールの牢に大股で向かった。


「良かったんっスか?手柄渡しちゃって」

「さっきの話の続きですが、私が牢の中に入るとするならばしっかりと準備を整えてから入りますわね」

「準備っスか?」

「例えば“コレ”ですわ」


アイリーンがリトに見せたのはさっきから眺めていた囚人記録帳だった。


「この記録によると二週間前から酔っ払いの投獄がやたらと増えていますわ、酔っ払い程度なら大した取調べも無く一晩程で釈放されるでしょう?」

「あっ!!まさか酔っ払いに変装して牢屋に細工をしたっスか?」


アイリーンは答える事無く金貨袋を掴むと部屋を出る準備を始めた。


「リト!隊員を召集しなさいな、今夜は町で飲みまくりますわよ~~~」

「飲む・・・飲む・・・あっそうだ!隊長はどうやってあの時ワインの銘柄を当てたっスか?実物を飲んだことが無いと当てられないハズっス」

「それはナ・イ・ショですわ~~~、秘密は女のアクセサリーですのよ」


ささっと今回の舞台から退場した捜査部隊の面々は早めの打ち上げを行う為夜の町に消えていった。残ったブラクラ達は満面の笑みを浮かべて牢の中を観察している。


「こやつがナイアールか?なんとも面妖な男だがこうなってしまえば大人しいものよな」

「・・・・・」


兵士の一人がブラクラへ報告を持ってきた。


「予定よりも随分と早いが今はありがたい、殿下をお迎えするぞ」


牢獄に現れたジェーン姫は護衛を伴って、こちらも上機嫌でブラクラに賞賛を送る。それはもう、うんと沢山胡散臭いくらいに褒めちぎった。


「聞いたぞ、将軍!貴殿がナイアールを捕まえたとか?」

「ええ、それはもちろんですとも。ここに証拠となる書状もございます」

「ほうほう、何々『此度のナイアール捕縛の指揮権は全てオージャン・ブラクラ将軍にアリ 立会人:アイリーン・ショルメ』ははは、かの才女からも認められるとは見事な手前であったな。それでくだんのナイアールは一体どこだ?」

「この先の牢でございます」

「では将軍、貴様はここで待て、褒美は期待してもいいぞ」


言われた通りジェーン姫が戻るのを妄想しながら待っていたブラクラであったがしばらくするとゆっくりと姫が姿を現した。その表情には先ほどまでの歓喜は無く凍りついた水面のように冷たい表情をしている。

姫がブラクラを指差した。


「この男を捕らえよ!!」


その言葉に姫の護衛が素早く動きブラクラを取り押さえる。何が起こったか判らないブラクラはそのまま牢の前まで連れて行かれた。


「この牢のどこにナイアールがいるというのか!?貴様、私をたばかったのか?」


ブラクラの顔を鉄格子に押し付ける。その向こうはもぬけの殻だった。その光景にブラクラは顔面蒼白になる。


「ひっ!!こ・・・これは何かの間違いで・・・そ・・・そうですアイリーン隊長が・・・あの女が!!」

「見苦しいぞブラクラ!!この書状には貴様が責任者であるとしっかり記載してあるではないか!!二度目は無いと言ったぞ将軍・・・いや元将軍」


姫の護衛に両脇を押さえられそのままいずこかへ連行されるブラクラを見送りながら誰にも聞こえないようにジェーンはぽつりと呟いた。


「しかし、逢いたかったのになぁ~」


◇ ◇ ◇


~???~


蝋燭の灯が揺らめく地下室でブラクラ元将軍が全身痣だらけで拘束されていた。その様子を見つめるのはジェーン第一王女、この光景を前にしても眉一つ動かすことは無かった。


「そろそろ喋る気になりましたかオージャンさん、殺さないように手加減するのも疲れるんですよ?」

「ひ・・・へぁ・・・」

「貴方が反王国勢力である“ジム・モロアッチ”の構成員である事は調べがついています。ですから例の薬の出所知ってるんなら早く教えて下さいよ。そうすれば楽になるんですから」


ブラクラに鞭を打つのは王国三将軍の一人で本来ならばレモン第二王女派である筈の大軍師ネコ夫人と(未婚なのに何故か)称されるベンガル風の耳と尻尾を持つオルタンス将軍であった。


「わかった・・・わかったからもうやめてくれ全て話す!!」


それは彼女達の計画がまた一歩進展した瞬間だった。

今回ナイアールの変装であるライアはモチロン英語の「嘘つき」から来てます。前半はクラリース(CVスプリング)の変装で後半は段蔵の変装です。黒き雄牛の方はクトゥルー神話のニャル様の化身の一つですが通常は“ブラック・ブル”と表記するところを“ブラック・オックス”に変更したのは完全に趣味です。電波攻撃で敵の動きを止めたりします。

忙しいですが年内にもう一本書けたらいいな~、あまり期待しないで待っていて下さい。

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