第三十三話 夢幻の怪盗紳士 記憶編
狸姉さんとオデット編です。
狸姉さんとオデット達が辿り着いたのは畳が敷かれた和風の広い部屋だった。
一緒に来たハズのクラリースの姿は無かったが、そこには細身で髪の長い女が立っていた。
「ようこそおいで下さいました。わたくしは段蔵の姉の“遠藤しおん”と申します・・・・・まあ、正確には段蔵の記憶を元にした夢魔の仮の姿ではありますが」
「ほう?貴様が夢魔か?ならば話が早い、とっととその首を置いて妾達の夫の夢から出て行け!」
しかし遠藤しおんと名乗った夢魔は落ち着いた様子で全員を見渡した。
「まあまあ落ち着いて、折角こんなところまで来たのですから昔語りでも少々如何ですか?これはわたくしと段蔵との最初の記憶」
しおんが手をかざすとそこには虚ろな表情の五歳くらいの男の子が現れた。
「この日わたくしはこの子に段蔵という名前を与えました。記念すべき日です。わたくしの一族皆で段蔵を歓迎しました」
(この日に名を与えた?名前を付けるにしては遅くないか?)
段蔵以外にも大人が何人か現れたが皆狐や火男やおたふくの面を被った怪しげな人物ばかり、しかしその中でも集団をまとめるリーダーらしき男は翁の面を被っていた。
「その翁の面・・・まさか貴様達は!?」
「御前様?どうされましたか?」
取り乱した様子の狸姉さんにオデット達が心配そうに声を掛ける。
「奴らは妾の怨敵、妾の最初の夫を殺し二番目の夫の近くでも暗躍しておった殺戮集団じゃ。完全に潰したと思たがこの時代にまで残っておったとは」
しおんがパンパンと手を叩くと場面が変わって段蔵と同じ年齢程の子供達が映し出された。
「これは一族の修行時代ね、ここからわたくしの思った通り段蔵は強くなっていった」
しおんが指差す修行時代とやらの場面を見せられる一同だったが次第にその顔が青ざめ始めた。
「これが・・・お前達の修行・・・?」
「ええ、今回は以前までよりもハードなメニューを組んでいたわね」
その光景に段蔵の妻達は震えが止まらなくなったり吐き気を堪えたり・・・数々の修羅場をくぐって来たという元傭兵の女性まで泣き出す寸前の顔をしている。
「この時点で随分人数が減っちゃったけど段蔵はまだ平気よ」
「これが修行じゃと?こんな物は修行では無く拷問と言うんじゃ!!」
「あっ、見て下さい、とうとう修行するのが段蔵だけになっちゃいましたよ。流石わたくしが選んだ強い男の子なだけはありますね」
無視して記憶の中の映像に勝手な解説を付けるしおんに「フンッ」と不機嫌そうに鼻を鳴らした狸姉さんは、しかし努めて冷静に語った。
「本当にいつの時代も貴様らは胸糞悪い!・・・じゃがこの後の展開は妾も段蔵から少し聞いておる」
「そう、一族の予測を遥かに超えて優秀だった段蔵はある日一族を裏切った」
そう語るしおんの左腕は何故か切り落とされたかの様に無くなっていた。
「自分が良いように利用される事に気づいた段蔵は利用される前に貴様達を偽の連絡で一箇所に集め残さず全員の首を斬り落とした」
その瞬間、記憶の中のお面を被った集団の首が一度に畳の上にゴトリと落ちた。
返り血を浴びる段蔵は最初と同じ様に虚ろな顔で佇んでいる。十三歳といったところだろう、首の無くなったしおんに狸姉さんが改めて語りかける。
「これで悪夢は終いじゃな?気が済んだのなら疾く去ね」
しかし、畳の上に落ちているしおんの首は嗤っていた。
「確かに、確かに一族は滅び段蔵は開放されました・・・ですがそれは“現実”でのお話でしょう?此処はわたくしの支配する悪夢なのです」
そう言った瞬間、落ちた首が全て元に戻った。そしてまだ少年である段蔵は囲まれてしまった。
「!?御前様!!周りを見て下さい!!」
狸姉さん達もいつの間にかお面を被った集団に囲まれていた。
「戦闘開始じゃな、遠慮せずに全員ぶっ飛ばせ!!」
悪夢の中で段蔵と狸姉さん達は戦ったが、斬っても殴っても潰しても直ぐに敵は再生してしまう、それでも狸姉さん達は問題無く対応出来ていたが、段蔵の方は徐々に押されていった。
やがて完全に囲まれてしまった時に段蔵は縦に真っ二つに裂けてしまった。
次回はアスタルト・ミーネ・イズン編です。
色々な人物の情報を記憶している段蔵の謎に迫ります。




